2話 大厄災が村を襲う
また月日は流れ、ロイドが七歳になって、少し月日が経過した頃。
村は崩壊した。
村の人々は何も出来ずにゴブリンの進化系であるハイゴブリンに剣で斬られ、ダークウルフの進化系であるブラッドウルフに血を吸われ、唯の食物に成り下がる。
それでも必死に抵抗する村人達。だが、その抵抗は虚しくも無駄に終わった。
ロイドやルミエラは、エミリやルミエラの両親が元冒険者だからこそ、生存しているものの、いつ殺されるかは分からない。
というのも、エミリ達が本領を発揮出来ていない事や、ロイドやルミエラに気を取られ、魔物の攻撃に対する反応が遅れている事が、生き残れると確信出来ない原因となっている。
本領発揮出来ていたなら、元とはいえ、かなりの凄腕冒険者だったエミリ達なら、中級魔物ぐらいササっと片付けるぐらい造作も無い。
だがエミリ達は、二年前の村近辺を襲った大厄災の時、体を損傷したのだ。
エミリは右目を失い、ルミエラの父は右腕を失い、ルミエラの母は左腕を失った。
ルミエラがロイドの家に来た日から、エミリ達が帰って来るまで、一緒に暮らしていた。
だがしばらくして、エミリ達がボロボロの状態で帰って来た時、ルミエラが号泣したのを今でも鮮明に覚えている。
その時のロイドは、目頭が熱くなっていたが、涙を流すという行為はしなかった。
もし、あそこで泣いていたら、ロイドは自分が嫌いになっていただろう。
自分は何も出来ないでいたのに、ボロボロになっているエミリ達を見て涙だけは一丁前に流す。
そんな事があっては、ただでさえ村の中で最弱なロイドが、更に弱くなってしまう。
能力的には最弱だけど、心持ちだけは強くありたかったから。
異世界転生者なのに、能力的には最弱。
なんと笑えない冗談だろうか。確かにこれが冗談ならいい。
だけど、これは紛れもない事実だ。
五歳になる誕生日に、この世界の人々には必ず異能と呼ばれる能力が授けられる。
異能というのは、この世界の人々に与えられている役割にあった能力の事。
例えば役割が勇者の場合、【身体強化】が勇者の大半に授けられる。
【身体強化】は、筋力、防御、敏捷のステータスを五倍上昇させるチート異能。
それで、ロイドに与えられている役割は、商人だ。
もう一度言う。
商人だ。
商人なんて、異世界転生者には、似合わない役割。
商人は道具を売ったりするぐらいの事しか出来ない。
それだけで恵まれていないのに、更にロイドには異能が授けられていない。
この事から、現在のロイドは、先ほども言ったが、この世界で最も弱いという事になる。
そんな最弱なロイドは現在、恐怖で足が竦み、動けない。
隣に居るルミエラも、ロイドと同様の恐怖を感じ取っているのか、大粒の涙を流し、大泣きしている。
そんなロイド達を背にして守っているのが、親であるエミリ達だ。
エミリ達は、魔物の返り血を浴びながらも、唯ひたすら斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って──斬りまくって、魔物を絶命させている。
だがしばらくすると、今まで保っていた均衡が崩れ始める。
悪い方向にではなく、良い方向に。
その均衡を崩したのは、ロイドだ。
ロイドの取る行動が、ルミエラを、エミリ達を、そしてロイド自分自身を生存させると言っても過言ではない。
(ん? 何だこれ?)
ロイドは、自分の心臓がある部分から、とても細い光の糸が前方の方へ伸びていた。
だが、勿論それが何なのかは一切分からない。
だけどロイドには、何故かその光の糸の先に希望があるような気がして──
「──何してるの、ロイちゃん!」
エミリの怒鳴り声が聞こえる。
生まれて初めて聞いた怒鳴り声。
その怒鳴り声から、自分は愛されているんだと確認出来る。
だからこそ、止まれない。
未だにプルプルと震えている足を、一歩、一歩確実に前に出し、歩く。
今でも怖い。
怖いけど、ここで何も出来ずに、家族が幼馴染が死ぬぐらいなら、ここで動いて、これからもずっと一緒に暮らしたいと思う気持ちの方が、強い。
「ロイちゃん! 流石の私も怒るわよ!」
止まらない。
「止まりなさい! ロイド!」
止まってはダメだ。
「……ロイちゃん、私を一人にしないでよ」
(母親が息子に何言ってんだか)
生き残れるのかすら危うい状況なのに、口元が緩んでしまった。
(これは、家に帰ったら叱られるパターンかな)
そんな事を思いながら、エミリに、母さんに、『大丈夫だよ』と言うように、ロイドは右手を上げる。
エミリの表情は分からない。
泣いているかもしれない。
だけどこれは、ロイドが、いや拓人が生まれて初めてのワガママ何だから、最後まで貫き通させてくれ。
* * * * *
場面が、一人の女性冒険者に移り変わる。
「あら、何かしら。この光の糸……」
彼女は、翠色の枝毛一つない、サラサラで長い髪を揺らす。
そんな綺麗な翠色の髪は、魔物の返り血で赤黒く染まっていた。
「この剣は、一〇〇年以上前から使っていたけど、光の糸を見るなんて初めてね」
剣撃と、彼女が属しているエルフ族が最も得意としている風魔法で、いとも簡単に魔物を絶命させる。
彼女の魔物を殺す動きは、とても美しく、ずっと見ていたくなりそうになるが、やってる事は残酷だ。
剣や風魔法で、魔物の頭と胴体を切り離したり、魔物の腹を切り裂いて、内臓を撒き散らかす。
そんな事を繰り返して、僅か数十秒。
美しい彼女は、魔物の死骸と血液と内臓に囲まれていた。
「──さて、ここら一帯の魔物は全て殺した。
けど、この光の糸は消えてない。一体なんなのかしら。
……この光の糸の先に何かある? ……うーん、考えても分からないわね。
行ってみるだけ行って、何もなかったら、なかったでいいか」
彼女は光の糸が続く方へ歩みを進める。
彼女とロイドが出会うのは、今から数分後の事である。
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