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0話 プロローグ

 処女作です。

 「よっしゃぁ! これでやっと僕はあの人に稽古をつけてもらえる」

 

 心の中でそう思ったつもりが口に出てしまっていたのは、実年齢は七歳だが、精神年齢はそれ以上の男の子、ロイド=グディアルだ。


 ロイドの実年齢と精神年齢が噛み合っていない理由を簡単に説明すると、ロイドは転生者だからだ。


 だが、ロイドは転生者だからといって、特別強いわけではない。というか弱い。


 ロイドに起きた異世界転生というのは、チート能力を貰うという工程をすっ飛ばしたものだった。


 その為、ロイドには転生前から備わっていた運と知力しかない。

 それを除くと、唯の男の子だ。


 で、ロイドが何故異世界に転生、いや天野あまの 拓人たくとは何故死ななければならなかったのか。


 それを説明するのは、とても簡単だ。

 拓人は知らない男性にナイフで刺されて殺された。ただそれだけのこと。


 今まで何不自由なく生きてきた拓人にとっては、その出来事が最初の不幸だ。


 刺された事には、何の恨みもない。何不自由なく生きている。それこそが、拓人の苦しみだったから。


 何でも出来てしまう。


 出来ない事に精一杯取り組んで、そして出来た時の喜びを感じる事が出来ない。

 何でも出来る事を気持ち悪がられ、ロクに友達も作れず、ずっとひとりぼっち。


 それが拓人は嫌だった。



 殺してくれてありがとう。


 そんな事言うのは、頭がイかれてんじゃないかと思われても仕方がない言葉だが、拓人は心の底から思っている。


 唯、何故知らない男性に殺されなければならなかったのか。

 それだけが心残りだ。


 それでは、知らない男性にナイフで刺されて死んでしまうところを、回想しようか。


 あの日は、というかあの日も特にいつもと何も変わらなかったが、一応拓人の二十歳の誕生日だった。


* * * * *


 「今日は、もう帰るか」


 ある大手の電子企業に就職していた、拓人はいつもより早めに帰る事にした。

 何故なら今日は、隕石が落ちた日から丁度二〇年だからだ。


 そんな事で帰宅時間を早めるのはおかしいと思った人が必ずいると思う。

 それを説明するには、その隕石の話をしなければならない。


 その隕石は、最初は一つだった。

 だが、その隕石は二つに分かれて、別々の方向へ落下した。


 一つは、拓人が産まれた産婦人科に、もう一つは、山に落ちた。が、怪我人は無し。


 産婦人科に落ちたのだから、産婦人科の一部分は必ず隕石によって崩壊する筈なのだが、しなかった。


 唯、産婦人科は光に包まれただけ。


 次に山に落ちた隕石だが、そこにも隕石は落ちていなかった。

 だが、隕石の代わりに一人の男性が転がっていたそうだ。


 これらの事が起きたのは、拓人が産まれた日と同じで、十一月 二三日。勤労感謝の日だ。


 だから、拓人にはそれが真実なのか嘘なのかは分からないし、どうでもいい。

 唯一気になるのは、隕石の代わりに転がっていた一人の男性の行方だ。


 その人には、様々な噂が飛び交っている。


 この世界の人間ではない。

 特殊な力を持っている。

 角が生えている。


 それらは、ほんの一部だが、これも真実なのか嘘なのかは分からない。


 で、最初の話に戻る。

 隕石と言っていいのかは分からないが、世間一般的に隕石で通っているので、隕石として話を進めよう。


 隕石の話はした。

 後は、それが何故帰宅時間を早める事に繋がるのかを簡単に説明しよう。


 隕石が落ちたはずなのに、どこにもその名残は無い。

 それが不思議だったから、祭りが開かれる事になった。


 祭りがあると、人混みが出来る。拓人は、人混みが苦手だから、帰宅時間を早める事に繋がるのだ。


 祭りなんて、生まれてから二〇年経つが、一度も行った事がない。

 だって、一緒に行く友達や、家族がいないから。

 

 家族は皆、両親の都合で拓人を置いて海外に行っているし、友達は出来た事がない。

 だから、祭りなんて行った事がないのだ。


 帰宅時間を早めているのに、祭りのせいで人が多い。

 人が多いからこそ、その異変に皆気付けないでいる。


 拓人もその一人だ。

 その異変とは、ある一人の男性の周りに(気のせいかもしれないけど)、黒い靄がかかり、右手にはナイフが握られている。


 そして何より、その男性の頭には、黒い角が生えている。

 いつもならすぐに気付けるはずなのに、誰もその事に気付けない。


 グサっ。


 その肉を断ち切る音が聞こえた時に、ようやく異変に気付くが、もう遅い。


 お腹に刺されたナイフを抜かれ、そこから血液がドクドクと溢れ、無様に命を散らしていく。


 祭りに来ていた人は皆、キャーという悲鳴を上げ、逃げる。

 先ほどまで人混みがあったはずの場所には、拓人と彼だけとなった。


 彼はフードを深く被り、顔を見せないようにしていたが、黒い角だけは隠せていない。


 だが今はそんな事どうでもいい。

 切られたところが、痛みだけではなく、何故か熱くなって来た。


 それもどうでもいい。

 今は、意識を彼だけに向ける。


 聴覚、嗅覚、味覚、触覚、その四つの感覚神経がやられ、残っている視覚で今の状況を探る為、彼の口と表情を凝視する。


 口の動かし方と、表情で何を言っているのかを考えた。


 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考え抜いた。


 その頃には、身体中に血液が巡らなくなってしまったせいで、体が冷たくなり、意識が朦朧とし始めて来ていた。


 意識を手放さないようにするのが、精一杯だったが、何とか間に合った。


 彼は、こう言っていたのだ。


 『お前に恨みはないが、お前の中にあるモノに恨みがある。だから殺す。

 だが、お前は死ねない。新たな人生を、ここではないどこかで送る事になる。

 そこで、また俺たちは出会う事になるだろう。

 兄弟、幼馴染、ライバル、そんな関係になっているかもしれない。

 しかし、俺たちは殺し合わなければならない。

 それこそが、俺たちに課せられた使命だから』と。


 

 次の瞬間、拓人は──命を落とした。






 

 


 

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