嘘
彼には様々なものが見えた。
本音、霊、現象、それらが情報を含んでいる限り彼に見通せないものなどなかった。
彼は嘘が嫌いだった。
齢14にして思春期真っ盛りだった彼は、その年頃特有の潔癖を発揮し、嘘や偽善がこの世からなくなって仕舞えばいいとさえ思った。
彼は自分の能力を占領しようとはしなかった。その溢れる正義感に身を任せ、お尋ね者に探し物、果ては殺人事件まで、依頼という依頼を全てこなした。
そんなある日、ある老人が依頼を持って来た。
行方不明の息子を探して欲しいとの依頼だった。
男手一つで育てて来たその一人息子は、昔大ゲンカをした後、家を飛び出したっきり帰って来ず、それから何十年も街を転々として探しているが見つからない、そんな時彼の噂を聞き、ここにやって来たとのことだった。
彼はわかっていた。
この老人が来ることも、そして、その息子はとうに死んでいるということも。
しかし、彼はその事を言えなかった。
彼に依頼し、息子の身体的特徴や性格を、懐かしむように話している老人の楽しげな顔を見ていると、真実を告げることができなかった。
彼は、嘘をついた。
それは優しく残酷な嘘だった。
「息子さんは外国を転々としていますよ。ですが、どこにいるかは詳しくわかりません。しかし元気でやってる事は確かです。」
老人は、嬉しいような、悲しいような顔をして、しかし元気そうに言った。
「そうですか、通りで見つからないわけです。明日、海外に息子を探しに行くことにします。一緒にご飯を食べる日が楽しみです。」
彼は今も分からないでいる。あの時どう言えば良かったのかを。
しかし、その答えを知っている者は誰もいない。