ナノの手料理
全然眠れなかった。
同じ部屋にナノがいるだけでこんなに緊張するとは思わなかった。
昔は同じベッドで寝たものだが、それは昔の話。
今はナノのことを女性として意識しているせいで無理だ。
俺も男の端くれ、何があるか分かったもんじゃない。
隣には幸せそうに眠るナノがいる。
どうしてこんなに熟睡できるのだろうか?
俺は異性として見られていないのではないかと心配になってしまう。
そろそろ朝食を食べに行かないといけないのでナノを起こすことにした。
ナノの両頬をつまんで横に引っ張りながら声を掛ける。
「ナノ、朝だぞ。起きろー。」
「ぐー。」
「朝食の時間が過ぎちゃうぞ。起きろー。」
「ぐー。」
「俺だけ食べに行っちゃうぞ。」
「ぐー。」
「ダメだこりゃ。」
このようにナノは朝が凄く弱い。
これは起きないなと思ってベッドから降りようとすると、ナノに服の裾を掴まれた。
凄い力だった。
思わず息が詰まった。
「リューくん、どこいくの~?」
寝ぼけ眼をこすりながらナノが起き上がった。
あれだけ起こして起きなかったのに、俺がベッドから降りようとするだけで起きるなんて。
そんなことより...
「く、苦しい、ナノ、手を離せ。」
「手ってな~に~?」
「し、死ぬ...」
力のない俺ではナノの手を振りほどくことが出来ず、寝ぼけたナノによって意識を失うのであった。
目を覚ますと太陽が真上に来ていた。
見渡しても、ナノの姿はなかった。
部屋の扉が開いた。
「リューくんやっと起きたね。もう、お寝坊さんなんだから。」
ナノの中では俺が寝坊したことになってるらしい。
恐らく自分が締め落としたことは覚えてないのだろう。
言う必要もないと思ったので、俺は黙ってることにした。
「はい、朝ご飯。」
ナノはプレートにパンとスープを乗せたものを俺に差し出した。
「これどうしたんだ?」
「朝食の時間が過ぎてもリューくんが起きないから、厨房を借りて作ってみました。」
えっへん、と自慢げにナノは言った。
ナ、ナノの手料理だと!?
10歳の時に村の祭りで作ったスープで村中の人をもう少しで昇天させるとこだった、あのナノの作った料理だと!?
見た目はとてもおいしそうなのが質が悪い。
本当に美味そうなのだ。
色鮮やかな野菜が選り取り見取り入っており、目で楽しませてくれる。
しかし、食べるとその評価は一変する。
色鮮やかであった野菜が口に入れるとゴリゴリと不協和音を奏で始めるのだ。
恐らく生であったから、色鮮やかであったのであろう。
おまけに泥水を啜った方がよっぽどマシだと思うスープが口いっぱいに広がり吐き気を催す。
そして一番厄介なのが、ナノである。
上目遣いで「どう、おいしい?」とキラキラした眼差しを向けてくる。
大人はそれで完食を余儀なくされる。
その時、子供は俺しかいなかったので逃げることは叶わなかった。
トテトテとスープを持って俺に近付いて来る姿は、死神が鎌を持って命を刈り取りに来ているようにしか見えなかった。
それだけのトラウマをナノの料理は俺に植え付けた。
そのナノが手料理を持ってきた。
とりあえず俺は既製品であろうパンを口にした。
美味い、美味過ぎる。
何故だろう涙が出そうだ。
こんなにパンが美味いと思うなんて初めてだ。
「リューくん、スープも飲まないとバランス悪いよ。」
パンを口に運ぶ手がピシッと止まる。
あの世からお呼びがかかった。
匙を持つ手が震える。
スープの入った椀も震えている。
というか全身が震えている。
「リューくん、体調悪いの?」
心配そうな目を向けてくるナノ。
チャンスだと思い、俺は切り出す。
「実はそうで、朝から体が重くて食欲ないんだ。」
「それは大変!しっかり食べて休まないとね。」
ダメだった。
死神さんは諦めてくれないようだ。
「リューくんは体調悪いみたいだから、私が食べさせてあげる、あーん。」
本来なら男として喜ぶ場面なのだろうが、俺には死神が鎌を首に突き付けているようにしか見えなかった。
覚悟を決めよう。
俺は口を開く。
そこに間髪入れずに匙が差し込まれる。
咀嚼する。
不協和音はしない。
死神さんも成長したようだ。
というか口の中には野菜の旨味が広がる。
美味い!
「リューくん、どうかな?」
あの頃と変わらない上目遣いで俺を見るナノ。
死神に見えていたナノが、急に羽の生えた天使に見えてきた。
神々しい光が差し込んでくるようにさえ見える。
神は俺を見捨てなかった。
俺はナノから匙を受け取り、次々とスープを口に運ぶ。
「美味い、美味いぞ、ナノ。」
「良かった~、どんどん食べてね。」
死神さんはいつの間にか天使さんにクラスチェンジしていたようだった。
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