何が起こった?
しばらく馬車に揺られながら、ナノと他愛もない話をしているとザックさんが切羽詰まった表情で話しかけてきた。
「不味い、フォレストウルフに囲まれてる。坊主たちは戦えるか?」
「僕は魔物も見たことがありません。ナノは?」
「私も見たことないよ。」
「嬢ちゃんは魔物を見たことないってだけで戦えるのか?」
「一応、お父さんとお母さんに色々教えてもらってたけど、自信ないです...」
「Sランク冒険者に教えてもらっていたなら十分だ。
俺が右半分をやるから嬢ちゃんは左半分を頼む。」
そう言ってザックさんは飛び出していった。
「リューくんはここで待っててね。」
ナノもそう言って飛び出していった。
俺は一人馬車の中で膝を抱えて震えていた。
情けない。
男のザックさんならともかく、女の子のナノにまで守られている自分が。
何より自分が危険を冒さずにいられて安堵している自分に怒りを覚える。
自分が行ったって足手纏いになるだけだと勝手に自分に言い訳をしている。
気持ち悪い。
初めての命の危機に震えているだけの自分が。
先ほど手紙を読んで決心したばかりなのにこの様だ。
何が悪い?
ナノを危険に向かわせた原因は何だ?
フォレストウルフとかいう魔物だ。
憎い。
いっそのこと死んでしまえ。
ザックside
俺は今、森の中を駆けている。
なぜかというと、ブルクの町に向かう途中でフォレストウルフの群れに囲まれちまったからだ。
奴らは狡猾で、決して単独行動せず群れで行動する。
頭が良いから自分たちが弱いことを分かってやがる。
冒険者をやってた頃にも何度か討伐依頼を受けたが、とても面倒だった記憶しかねぇ。
馬車から少し離れた所で足を止め、迎え撃つことにした。
馬車から離れたのは中に同行者がいるからだ。
そいつは戦えないらしく、フォレストウルフに囲まれていることを伝えた時、青い顔をしていた。
おそらくこういう経験が無いのだろう。
仕方がないと思う。
俺も初めて魔物と対峙した時は、怖くて足が震えた。
誰もが通る道だ。
しかし、例外もいる。
あの嬢ちゃんだ。
流石、英雄の子供と言うべきなのか、震えている坊主とは違って堂々としていた。
あれは物が違うと思ってしまった。
そんな事を考えているとフォレストウルフの一匹が襲い掛かってきた。
腰に下げていた剣で受けようと思ったら、フォレストウルフたちがバタバタと倒れていく。
警戒を怠らずに近付いて観察してみると、15匹のどれもが泡を吹いて死んでいる。
俺は何が起こったか分からなかったが、死んでいるならと討伐証明となるフォレストウルフの牙を取り、穴を掘ってフォレストウルフを埋めた。
こうしないとアンデッドになったり、病原菌の温床になったりするそうで討伐した者の義務となっている。
馬車に戻ると嬢ちゃんが坊主を膝に抱えて酷く取り乱していた。
「ザックさん、リューくんの様子が変なの!どうすればいいの!?」
「まずどういう状況か説明してくれ。」
「私はザックさんに言われた通りに、左にいた魔物を全部倒して、お父さんとお母さんに倒した魔物は埋めるか焼くかするって教えられてたから魔法で焼いたの。
終わって戻ってきたらリューくんが倒れていたの。」
「ちょっと診せてくれ。」
坊主を診てみると気絶しているだけのようだった。
しかもこの症状は...
「ザックさん、リューくんは大丈夫ですか!?」
「嬢ちゃん、安心してくれ。坊主は気絶しているだけだ。この症状もしばらくすれば収まるだろう。」
「良かった~。」
嬢ちゃんは、ほっとした様子で力を抜いた。
余程、坊主のことが心配だったのだろう。
それにしても嬢ちゃんはやっぱり凄かった。
嬢ちゃんの方にも、俺の方にいたのと同じ位の数いたはずなのにこの短時間で全部倒しちまうとは。
それはともかく一番驚いてるのは坊主の方だ。
あの気絶の仕方は、以前一度だけ見たことがある。
Lv.アップ酔いと言われている症状で気絶したものだ。
Lv.アップ酔いは、Lv.が低い者が大きくLv.を上げた時に起こるものだ。
なんでも急激な肉体の変化に酔っちまうそうだ。
普通は眩暈がする程度なのだが、Lv.の上がり幅があまりに大きいと気絶しちまうらしい。
俺が見たのもファイアードラゴンと呼ばれる化け物を討伐してきたSランク冒険者が担ぎ込まれてきたのをチラッと見ただけだった。
その時見た冒険者の症状と坊主の今の症状は酷似している。
体中に蚯蚓腫れのようなものが薄く現れたり消えたりするのだ。
しかし、おかしい。
坊主は馬車の中にいたはずだ。
それなのにLv.アップすること自体がおかしい。
ましてや気絶するほどLv.アップなどするはずがない。
俺たちが目を離してる隙に坊主に何が起こった?
いくら考えても答えが出そうになかったので、馬車を進めることにした。
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