旅立ち
「釈迦の掌~クラス転移で才能開花~」も読んでいただけると嬉しいです。
http://ncode.syosetu.com/n8090du/
目を覚ますと自宅の天井が目に入った。
自分のベッドに寝ていた。
上半身だけ起こして横を見るとナノが気持ちよさそうに眠っていた。
寝顔だけは昔から変わらず、無邪気なものでとても癒される。
俺を看病しているうちに寝てしまったようだった。
これからのことを考えた。
ナノのことをどうするか。
連れて行ってもいいのだろうか?
危ないから連れて行かない方がいいのか?
そもそもナノはどうしたいのだろうか?
そんな事をうんうん唸りながら考えているとナノが目を覚ました。
「ふぁ~。おはよ~、リューくん。」
眠た気な瞳ををこすりながらナノは挨拶してきた。
「おはよ。ごめんな、看病してくれたんだろ?」
「ううん。私こそごめんね。お母さんに教えてもらったことをリューくんに試したら、リューくん倒れちゃった。」
てへっとナノははにかんだ。
「あれはおばさんの入れ知恵だったのか。」
「うん。お母さんが「男なんてこれでイチコロよ。私もお父さんをこれで落としたんだから。」って言ってた。」
「言いそうだな...」
「でも、リューくんに言ったことは私の本心だからね。」
「うん、分かってる。」
「ありがとう。リューくん大好き!」
そう言ってナノは抱きついてきた。
ナノは柔らかくてとてもいい匂いがした。
「ナノ。話しておきたいことがあるんだけど...」
「村を出るってことでしょ?おっきな荷物もあったし、お家も片付いてるしね。」
「よく分かったな。そんなに賢かったっけ?」
「私だって成長してるの。馬鹿にしないでよね!」
ポカポカと叩いてきたが全然痛くなかった。
「ナノはどうしたい?」
「えっ、付いていくに決まってるよ?」
当たり前のことを何故聞くの?と言いたげに、ナノは首をコテンと傾けた。
「危ないだろ?」
「そんなのどこに居たって同じだよ。だったらリューくんに付いていった方が全然いい。むしろリューくんに付いていく以外に私には選択肢がないよ?」
「本当にいいのか?」
「うん。二度と戻ってこれないわけじゃないしね。お母さんにも「リュウくんを完璧にあなたのものにしてきなさい。でないと二度と家に入れないからね。」って言われて追い出されちゃった。」
「言いそうだな...おじさんは?」
「お父さんは大反対してたけど、お母さんにボコボコにされちゃった。」
「おじさんに同情するよ...」
「そういうわけで私はリューくんをメロメロにしなければならないのです!」
そう言ってナノは胸の前で、両手で握りこぶしを作り、気合を入れた。
「もう十分にメロメロだと思うんだけど...」
「だったらもっとメロメロにしてみせます!」
えへへーとナノは笑った。
やっぱり笑ったナノはとてもかわいいと改めて思った。
「それじゃ、付いてきてくれるか?」
「喜んでリューくんに付いていくよ!」
ナノの同行が決まり、旅立ちの日を迎えた。
乗せてくれるという行商人のザックさんに挨拶をしてナノが来るのを待っていると俺を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとナノがいた。
普段とは違い、冒険者風の格好をしていた。
「ごめんね。待った?」
「いや、全然。それよりその格好は?」
「うちのお父さんとお母さんが冒険者してたのは知ってるでしょ?防具はお母さん、この剣はお父さんに貰ったんだ。どう?似合ってる?」
そう言ってナノはくるりと全身を見せるように回った。
ナノの姿はお世辞抜きで様になっていた。
その様子を見ていたザックさんが話しかけてきた。
「嬢ちゃん。その装備、どれも最高級の品ばかりだぞ。嬢ちゃんの両親って何者だ?」
「へっ?普通の夫婦だと思いますが?」
「こんな辺鄙な村に住む夫婦がそんな高価な装備持ってるわけねぇだろ。」
「と言われても何も教えてもらってないし...」
「両親の名前は?」
「父がルーク、母がシルフィアです。」
「まさか《光速の神剣》と《鮮血の魔女》か!両方とも元Sランク冒険者だぞ。引退したとは聞いていたがこんなとこにいたのか。」
「光速?魔女?」
「知らねぇのか!?数居る冒険者の中で最高ランクのSランク冒険者、その中で際立っていたのが《ブルースカイ》ってパーティだ。6人全員がSランク冒険者で構成されていて輝かしい功績を数多く残してる。15年位前に解散したって聞いていたんだが、メンバーは全員雲隠れしちまってな、その所在が誰にも分からなかったんだ。嬢ちゃんの両親はその《ブルースカイ》のパーティメンバーだよ。俺も憧れてたんだぜ。」
「全然知らなかった。」
「自分たちの子供に教えなかったのか。教えなかったってことは何か考えがあってのことだろうな。深くは聞かねぇことにするよ。任せてくれ、ちゃんとブルクの町まで送り届けるぜ。」
ザックさんは鼻歌交じりで馬車の御者台に歩いて行った。
その背中を呆然と見送りながら、口を開いた。
「おじさんとおばさんってすごい人だったんだな...」
「そうみたいだね...そうだ!お父さんがこれをリューくんに渡すようにって。」
「さっきの話を聞いてからじゃ不安しかないんだけど...」
手渡されたのは綺麗な刃渡りの剣と二枚の手紙だった。
”
拝啓、親愛なる僕から宝物を奪った娘泥棒のリュウ。
ナノが君についていくと聞いた時、僕は君を殺しに行こうとしました。
残念ながらシルフィアにボコボコにされてしまってそれは出来ませんでした。
決してシルフィアが怖かったわけではありません。ええ、本当に。
それはいいとして、君に一つ謝らなければならない。
君の父親ガランを助けられなくてすまない。
僕が駆け付けた時には手遅れだった。
最後に笑いながら「リュウのことを頼む。あいつはできるやつだ。」と言われました。
君は父親を誇っていい。
彼は素晴らしかった。
他人のために命を賭けられる人間はそういない。
彼の言葉に恥じない生き方を心掛けなさい。
”
最初に怖いことが書かれていたが後半の文面を見て涙が止まらなかった。
しばらく泣いて二枚目を読み始めた。
”
彼に君のことを頼まれましたが、ナノのことは別です。
最終的にはナノが君に付いていくことを了承しましたが納得はしていません。
僕の可愛い娘に傷一つつけてみてください。
君を地の果てまで追い回して頭と胴を永遠にさよならさせてあげます。
覚悟していてください。
そうなりたくなかったら死ぬ気でナノを守りなさい。
そのために力を、知恵をつけなさい。
その手助けとしてその剣を君にあげます。
その剣は武器としても一流ですが、目印ともなってます。
僕やシルフィアの昔の仲間に見せればきっと君たちの力になってくれるでしょう。
僕からは以上です。
もう一度書きますが、ナノのことを死ぬ気で守りなさい。
”
先ほどの涙が一瞬で引くほどに怖い文面だった。
でも、おじさんの言葉通りにナノを死ぬ気で守ろうと思った。
例え、俺の命を犠牲にしてでも...
そう俺は決心し、ナノと共に馬車の荷台に乗り込んだ。
長く暮らした村が遠ざかっていく光景を眺めながら馬車に揺られた。
感想等お待ちしてます。




