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よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第2章 ブラックドラゴンのひみつ
9/19

ルー王女のおねがい

「いろいろあったけど、ルー王女をたすけられてよかったね」

「いろいろピンチだったけどね」

 アリサはケータイを見ながら言った。

 こはく色のリンゴジュースが入ったグラスで、氷が楽しげにカランとなった。

 あたしも自分のイチゴパフェを見てニッコリ笑う。


 あたしたちはドラゴンをやっつけてルー王女をたすける仕事を終わらせた。

 なので王さまからたくさんのお金をもらって、ほめてもらった。

 あたしたちが魔法を使ってつかまったことなんて、わすれちゃったみたいだ。


 だから今、あたしたちはカフェでくつろいでいる。


「これから、みなさんお待ちかねのマジックショーがはじまります!」

 元気なおねえさんの声がした。

 思わず見やる。


 店のおくにしつらえたステージで、おねえさんがあいさつをしていた。

 茶色いはだをしたおねえさんだ。

 トンガリぼうしをかぶって、先に動物の顔がついたウアス杖を持っている。

 足元にはヒエログリフが書かれたツボがたくさんおいてある。


「ねえ、みてみてアリサ! 魔法使いがいるよ!」

 あたしはビックリした。

 キャロット王国では魔法を使っちゃダメなはずなのに。

 でも、アリサはどうでもよさそうに、


「あの人は魔法使いじゃないわよ。手品をするマジシャンじゃないかしら」

 そんなことを言いながら、ケータイをじっと見つめてニコニコしている。

 さっきからずっと、王さまにもらったお金をたしかめてるのだ。

「もー。アリサったら。お金のことばっかり」

 あたしはぷぅっと口をとがらせながら、マジシャンのステージを見やる。


 あたしはドキドキ、ほかのお客さんはワクワクしながらマジシャンを見ている。


 マジシャンは杖をふって、うなりはじめた。

 すると、となりにおいてあった大きな石が、うかび上がった!


 ……でも、よく見ると、石は上から、ほそいヒモでつるされていた。

 つるされた石は、風にふかれてユラユラゆれている。

 ちっとも重くなさそうだ。

 ぎゅうにゅうパックでできた作り物の石だ。


 思わずヒモを目で追う。

 屋根にあいたあなの中から、だれかが引っぱっていた。

 引っぱっている人をじっと見ていると、こっちに気がついて手をふった。


 あたしはビックリした。

 宇宙にはいろいろなショーがあるけど、こんなにやる気のない手品は初めてだ。


「……なんで、みんなはこんなのを楽しそうに見てるんだろう?」

 あたしは「??」と首をかしげる。

 すると、マジシャンは呪文をとなえた。


「わたしの、ごせんぞさま、水をつかさどるネイトよ、セベクよ、ヘケトよ。わたしのまわりに海を作りたまえ」

 すると、足元のツボからたくさんの水が出てきた。

 たくさんの水は、海みたいにジャブジャブとダンスする。


「わたしのごせんぞさま、風をつかさどるシュウよ、たつまきをつかわせたまえ」

 次の呪文で海はツボにもどり、かわりに小さなたつまきがあらわれた。

 たつまきはテーブルのまわりを飛び回る。

 ショーを見ていたお客さんたちは、手をたたいてよろこんでいる。

 あたしは、またまたビックリした。


「これ、手品じゃないよ!? 本物の魔法だ」

 そんなあたしの前にも、子どもくらいの高さのたつまきがやってきた。

 たつまきはペコリとおじぎする。

 これは手品じゃない。

 呪文だって本物だし、魔法の光だって見えた。


「アリサ。あの人、本物の魔法使いだよ! アーク人の魔法使い」

「アーク人って、乗り合い飛行機でマギーがぶつかったおばあちゃんと同じ?」

「……う、うん。そうだよ」

 もー、アリサったら人がしっぱいたことをいつまでも。

 あたしは口をとがらせる。

 でも、それより、


「アーク人は、ウアブっていう魔法を使うの」

 話をつづける。

「ウアブ魔法は【エレメントをあやつる魔法】と【命の魔法】が得意なんだよ」

「あら、そうなの」

「うん。あの人も【命の魔法】で人間に変身して、【エレメントをあやつる魔法】で海やたつまきを作ってる」

「マギーったら、めずらしく物知りね」

「もうっ、アリサったらすぐそういうこと言う」

 あたしはぷぅっと口をとがらせる。


「でも、だいじょうぶかな? 兵隊に見つかったら、つかまっちゃうんじゃ……」

「兵隊に見つかったら、手品だって言うつもりなのよ」

 アリサがめんどうくさそうに言った。

 それもそうか。


 魔法の光は魔法使いにしか見えないし、この国にはおかかえ魔法使いがいない。

 魔法かどうかわかる人がいないから、魔法と手品の区別もつかない。

 だから、魔法使いのみんなには本物の魔法を見せて、兵隊たちにはやる気のない手品のタネを見せるのだ。


 仕事でキャロット王国に来たほかの国やほかの星の人たちは、マジシャンのふりをした魔法使いの魔法を楽しそうに見ている。


 この国では魔法を使っちゃダメな国だ。

 だから、みんな、こんなふうに魔法を見るのが楽しみなのだ。

 あたしもかわいいドレスを着てカフェで魔法を見せる仕事をやってみたいなって思いながら、マジシャンのステージを見ていた。そのとき、


「マギーさんと、アリサさんですわね?」

 声をかけられた。

「「そうですよ?」」

 あたしはアリサといっしょにふり返って、今度は2人いっしょにビックリした。

 声をかけてきたのは、ぼうしを深くかぶって、サングラスをかけて、コートを着た……ルー王女だった。


 カフェのみんなもビックリした。

 マジシャンは魔法をやめて、うなりはじめた。

 魔法を使っているところを王女さまに見られたら、たいへんだ!

 兵隊をよばれちゃうかもしれない。

 ヒモでつられたぎゅうにゅうパックの石が、あわててユラユラおどった。


 ルー王女はサングラスをちょっとずらして、声をひそめて言った。


「わたくしがルーであることは、ナイミツにおねがいしますわ」

 ナイミツっていうのは、ナイショっていうことだ。

 むずかしい言葉を使ったりして、ちょっと大人っぽい。

 だけど、ねえ……。

 あたしはアリサと顔を見合わせる。


 ナイショにしたほうがいいよね。

 カフェのみんながルー王女のことに気づいてるって。


「ところで、わたしたちに何のご用ですか?」

「じつは、あなたたち【なんでも屋】に仕事をたのみたいんですの」

「仕事って?」

「わたくしを、あるところへ連れて行ってほしいんですの」

 ちょっとこまった顔でたずねたアリサに、ルー王女は真面目な顔で答えた。


 そして、あたしたちは飛行機で出発した。

 ルー王女は運転席が広いヘッジホッグに、アリサと2人で乗ってもらった。

 あたしのスクワールⅡはひとり乗りだからだ。


 ルー王女に言われるままに街を出る。

 そして街からはなれたところでぐるーっと大回りして、森に向かう。

 なんでそんな、めんどうくさいことをするんだろう?

 あたしは「??」と首をかしげる。

 そして、ふと、火山が見えるこの森に見覚えがあることに気がついた。


「ここって、前のお仕事でドラゴンと戦った山のある森だよね?」

『そうですわよ』

「それなら、最初からそう言ってくれれば、まよわずにあんないしたのに」

『まよったのではありませんわ! お父さまに気づかれないように、わざと別の方向から街を出たのですわ!』

 王女さまはそんなことを言った。

 なので、あたしとアリサはテレビ電話ごしに顔を見合わせた。


 そうやって、しばらく空を飛んだ。


『つきましたわ、ここが目的の場所ですわ』

 そこは山のてっぺんの、王女がつかまっていた百合の家だった。

 太くて長い柱みたいなくきが立っていて、上のほうにはラッパみたいな百合の花がさいていて、下のほうには長細いつぼみがついている。

 百合の花はベランダで、つぼみはそれぞれが部屋になっている。


 百合の家は、エルフィン人の魔法使いが魔法の百合から【動物と植物の魔法】を使って作る。昔はここにも魔法の百合がさいてたのかな?

 それに、この家を作った魔法使いはどこにいっちゃったんだろう?

 けど、今はそんなことより、


「ここはルー王女がつかまってたドラゴンの家だよ? ほんとにここでいいの?」

 あたしはテレビ電話のルー王女にたずねた。


『さっきから話を聞いていて、ひょっとしたらとは思ってたけど……』

 ヘッジホッグをゆっくりおろしながら、アリサはつかれた顔で言う。なぜなら、

『もう1度言っておきますけど。ドラゴンに会っても、ぜったいにこうげきしたりしないでくださいませ!』

『わかってますよ。もう何度も聞きましたから……』

 王女はここに来る間じゅう、同じことを言っていたのだ。

 アリサったら、いつもあたしに言ってるみたいな小言をルー王女から何度も言われて、こまってるみたい。


『マギーったら、何ニヤニヤ笑ってるのよ』

 プリプリおこってやつあたりするアリサを見て笑いながら、あたしもスティックをかたむけてスクワールⅡをゆっくりおろす。


 王女はあんなことを言ってるけど、ドラゴンに会うことはなさそうだ。

 あのときトリモチにからまっていたドラゴンは、今はもういない。

 たぶん、あたしたちにやっつけられたから、どこかににげちゃったんだろう。


 ひょっとして、あのドラゴンは、魔法使いが連れているドラゴンがそうするみたいに、この家を守っていたのかな?


 あたしは百合の家を見やる。

 つぼみの部屋をたくさんつけた百合の家は、とってもかわいらしい。

 家のすみには魔法の百合がさいていて、小さなカミナリをパチパチさせたり、雪をキラキラさせたりしてあいさつしてくれる。

 こんなステキでかわいい家を守っていたドラゴンを、本当にやっつけちゃってよかったのかな?


 そのとき、いちばん下のつぼみが開いて、だれかが出てきた。女の子だ。

 ルー王女と同じくらいの年ごろの女の子だ。

 黒い髪をみつあみおさげにしていて、ちょっと大きめなメガネをかけている。

 着ているのは、かわいいフリルのついた、髪と同じ色の黒いマント。


 女の子ははっぱのかいだんを下りてくる。

 あたしたちを見上げてビックリした顔をする。

 そして、かいだんのかげにかくれてしまった。

 人見知りな子なのかな?


「あの子はルー王女の友だちなの?」

『ええ、そうよ! あたしの大親友のクロウですわ!』

『まさか、あの子もドラゴンにさらわれたんですか?』

『しつれいな!』

 アリサが聞いたとたん、ルー王女は顔をまっ赤にしておこった。

『あなたがたも、お父さまみたいにドラゴンを悪者にするんですの!?』

『ええっ!? そこまでおこるようなこと言いましたか!?』

 アリサはこまる。


 ヘッジホッグとスクワールⅡは、家の前にゆっくりとおりていく。

 でもルー王女はヘッジホッグがおりるのが待ちきれなかったらしい。

 運転席を無理やり開けて飛び出した。


「ちょっと王女ー! あぶないですよ!?」

「ドラゴンは、あぶなくなんかありませんわ!」

「そうじゃなくて、まだうかんでる飛行機から飛び下りたら……!?」

 そんなアリサをむしして、ルー王女はみつあみの子のところに走っていった。


「クロウ! 無事だったのですね!」

「……ルーなの? よかった、来てくれたのね」

 クロウとよばれたみつあみの子は、かいだんのかげから顔を出す。

 おとなしくて気が弱そうな女の子だ。

 そのせいか、あたしたちの飛行機を見やると、まっ青になって、またはっぱのかげにかくれてしまった。


「安心してくださいませ。この人たちは、もうあなたをいじめたりしませんわ」

 王女はやさしく言った。

「……ほんとうに?」

 クロウは安心した顔をして、はっぱのかげから出てきた。でも、


「まって、王女! 『もう』って、あたしたちは女の子をいじめたりしないよ!」

「それに、わたしたちがこの子と会うのははじめてのはずですが」

 あたしとアリサは、あらぬことを言われてもんくを言う。

 でも、王女はあたしたちをギロリとにらんだ。

 もしもカタナを持っていたら、王さまみたいにふりまわしそう顔だ。


「そんなことはありませんわ!」

「だって……!!」

「だってじゃありませんわ! クロウ、見せてあげなさい!」

「……で、でも」

「平気ですわ。この方たちは、あなたと戦わないって約束してくれましたもの」

「ルーがそう言うなら……」

 クロウはおずおずと言うと、サンダルをぬいではだしになった。


 そして、クロウの体がまぶしく光った。

 光になったクロウは大きくなって、小屋くらいに大きくなって、形も変わる。

 そして光がおさまった。


「これは!?」

 あたしとアリサはビックリして目を丸くした。

 さっきまでクロウがいた場所には、大きな黒いドラゴンがいた。

 小さなメガネをかけていて、首にはスカーフをまいている。


 ルー王女の大親友のクロウは、ブラックドラゴンだったのだ。


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