たたかう2
ドラゴンの口は目の前だ。
今からスティックを引きしぼっても、よけられない。
こうげきする魔法も、身を守る魔法も間に合わない!
あたしは思わず目をつむる。そのとき、
タタタタタタタッ!
何かがドラゴンの鼻先をうった。
ドラゴンはビックリして口をとじた。
『マギーったら、ぼんやりしないの!』
「アリサ!」
アリサが、たすけてくれたんだ!
タタタタタタタッ!
ヘッジホッグが持っているたいほうの下についたてっぽうが火をふく。
でもドラゴンは、今度はヘッジホッグを見やる。
そして呪文のような言葉をさけぶ。
すると小屋くらい大きな体が空気にとけるように消えた。そして、
「アリサ! 後ろ!」
ヘッジホッグの後ろに、にじみでるようにあらわれた。
テレポートだ!
アリサはよけようとする。
けど、まん丸なヘッジホッグは動きがおそい。
ドラゴンは空中でクルッと回る。
そして、大きなしっぽでヘッジホッグをひっぱたいた!
ヘッジホッグはボールみたいに飛んでいってしまった。
「アリサ!? だいじょうぶ!? へんじをして!」
ヘッジホッグにテレビ電話をかけるけど、つながらない。
「もう、ゆるさないんだから!」
あたしは運転席のボタンをおしてフタを開く。
中にはボタンと引き金が入っている。
入っていたボタンをおす。
スクワールⅡは、下側の前足みたいな小さなアームで鉄のクルミを持っている。
そのクルミが開いて、のびて、2つにわれて、2本の大きなてっぽうになった。
プラズマカノンの【クラウ・ソラス】だ。
『わたしはあきらめませんよ、ルー王女をたすけるまでは――!!』
ドラゴンのななめ後ろから、ピッピのスーリーがつっこんできた。
スーリーはからっぽになったゲイボルグをすてる。
キュイーン! キュイーン!
目からビームをうちながらドラゴンにつっこむ。
ドラゴンのかたいうろこはビクともしない。
でも、ドラゴンがピッピに気をとられているうちに、
「伝説の魔法使いイルダーナさま、あたしに力をかしてください!」
あたしは呪文をとなえる。
あたしたちの遠い遠いごせんぞ様のすがたをイメージする。
それは太陽の光のように明るくてステキな魔法使いだ。
そして呪文にねがいをこめる。
アリサはあたしの大事なパートナーなんだ!
アリサにヒドイことをするドラゴンなんて、ぜったいにゆるさない!
2つのてっぽうのまん中に、バチバチとカミナリが生みだされる。
「プラズマさん、カミナリに宿る魔力さん、もっと光って、もっともえて!」
そして引き金を引く。
熱い高温プラズマのカミナリが、あたしの魔法でもっと光る。
もっともっと熱くなる。
バチバチかがやく魔法のカミナリが、ドラゴンめがけてつきすすむ。
でも、ドラゴンがさけぶ。
すると大きな氷のカベがあらわれて、ドラゴンを守った。
カミナリは氷のカベをふっとばして、そして消えてしまった。
「そんな……!?」
プラズマカノンまでふせがれてしまって、どうすればいいの?
あたしはショックで目を丸くする。
目の前で、ドラゴンは大きく口を開ける。
そのとき、下から何か飛んできてドラゴンに当たった。
白いネバネバしたものが、ドラゴンの体じゅうにへばりつく。
トリモチだ。
ドラゴンはもがく。
トリモチは口にもへばりついている。
たからビームをはくことも魔法も使うこともできない。
そして羽にもへばりついたから飛べなくなって、地面に落ちた。
ドシィィィン!
トリモチまみれになったドラゴンは、ものすごい音をたてて地面にぶつかった。
ドラゴンの大きな体の下じきになった大岩が、粉々にくだけた。
そしてドラゴンと入れかわりに、ぐんじょう色のまん丸な飛行機がうかび上がってきた。ヘッジホッグだ!
「アリサ! ぶじだったんだね!」
『もちろん! ヘッジホッグは力が強いだけじゃなくて、がんじょうなのよ』
テレビ電話の中で、アリサは笑った。
『だから、わたしをたたき落としてほっとしていたドラゴンを、たいほうにつめたトリモチミサイルでねらっていたの』
「もー! 心配したんだからね!」
あたしはぷぅっと口をとがらせる。
『だって、そういう作戦だったじゃないの』
アリサはと笑う。
あたしが魔法をふせいで、ピッピがビームを引きつけているうちに、アリサがたいほうでやっつける作戦だったのだ。
『それに、マギーより強い魔法使いなんだったら、このくらいしなきゃ、やっつけられないじゃない』
そう言ってニヤリと笑った。
だから、あたしもほっとして笑った。
あたしはガラスの風よけごしにドラゴンを見やる。
みんなで力をあわせてやっつけたドラゴンだ。
黒い大きなドラゴンは、体じゅうをトリモチだらけにしてもがいていた。
でも、せっかくやっつけたのに、思ったよりうれしくなかった。
それどころか、ちょっとかなしくなった。
ドラゴンは、本当はとても人なつこい生き物だ。
子どものころからきちんと育てれば、家をどろぼうから守ってくれる。
それに、魔法を使うドラゴンは、人間と同じくらい頭がいい。
それなのに、どうしてルー王女をさらったりしたんだろう……?
なにか理由があるのかな?
ちゃんとお話ができたら、戦わなくてもよかったのかな?
さっきはアリサをひっぱたかれて、ゆるせないって思った。
けどヘッジホッグはじょうぶな飛行機だから、アリサはなんともない。
それに、兵隊たちと戦ったときと同じように、ドラゴンは運転席をこわさないようにこうげきしていた。
そんなことを考えていると、
『そこの飛行機! 聞こえますか!? あなたたちは【なんでも屋】ですわね? お城から仕事をたのまれてきたのですか!?』
テレビ電話に女の子がうつった。
まっ赤なバラのつぼみのドレスを着た、とてもきれいな女の子だ。
ウェーブのかかったゴージャスな金髪をこしまでのばしている。
『ルー王女、ご無事だったんですね! ……よかった』
『その声は、お父様の使用人のピッピですわね! まあ! お父さまったら、お城の兵隊がみんなやっつけられたから、ピッピに代りをやらせたのですのね!』
『はい!』
ピッピがかんげきして、おどりだしそうな声でさけんだ。
あたしも笑った。王女を無事にお城に連れもどせば、お仕事は大成功だ。
『ルー王女。こちらのピッピちゃんからたのまれて、あなたをたすけに来ました。今、どちらにいらっしゃるんですか?』
アリサもニコニコ笑って言った。
『わたくしは、すぐそこにある百合の家にいま……つかまっていますわ!』
見やると、少しはなれたところに、大きな百合がさいていた。
とっても大きな、飛行機より大きな百合だ。
アヴァロンのほかの国でよく見る、【動物と植物の魔法】で作ったお花の家だ。
『はやくみんなでたすけに来てくださいませ!』
『わかりました、王女。でも、このドラゴンはどうしましょう? トリモチでつかまえただけだから、このままだとにげちゃいますよ』
『ほおっておきなさい! わたくしは今すぐたすけに来てほしいのですわ!!』
王女様はものすごい大声でどなった。
『そのドラゴンにそれ以上何かしたら「あなたたちはわたくしを真面目にたすけなかった」って、お父様に言いつけますわよ!』
ピッピから聞いていたのと、なんかちがう感じだ……。
『なんというか、あの王さまの子どもって感じね。王さまに言いつけられちゃかなわないから、さっさとむかえに行くわよ』
ヘッジホッグは百合の家に向かう。
『いつもはあんなじゃないのに。よほどドラゴンがおそろしかったんですね……』
ピッピのスーリーもつづく。
「はーい」
あたしもボタンをおしてクラウ・ソラスをしまう。
そして足のエンジンを使ってスクワールⅡを百合の家に向ける。
風よけのはしからちらりと後ろを見やる。
トリモチまみれのドラゴンが、悲しそうにあたしたちを見ていた。
「こーこーでーすーわー!!」
妖精の魔力が地上の声をとどけてくれた。
だから、ドラゴンから目をそらして、声のしたほうを見やる。
ドレスを着たルー王女が手をふりながら走ってきていた。
あたしはスクワールⅡを下ろしながら、風よけを開ける。
「つかまってたんじゃ、なかたったのー!!」
王女に向かってさけぶ。
「にーげーてーきーたーのーでーすーわー!!」
ルー王女も叫び返す。
ドラゴンにつかまっていたとは思えないほど元気そうだ。
『よかったです』
テレビ電話の中のピッピは、ほっとして笑った。
『ま、手間がはぶけてよかったじゃない。これでお城からお金がもらえるわね』
「もー。アリサったら、本当にお金が大好きなんだから」
アリサが目をお金みたいにキラキラさせて笑った。
だから、あたしもニッコリ笑った。