たたかう1
ピッピのふとんでぐっすりねむった次の日。
あたしたち3人はドラゴンめざして飛行機を飛ばした。
『マギーさん、アリサさん、むこうに見えるのがドラゴンの住む山です』
飛行機のテレビ電話にうつったピッピが言った。
あたしは、風よけごしに前を見る。
くもがかかった青い空の下に、森の緑色が一面に広がっている。
森のまん中に、とても大きくて茶色い山がそびえ立っている。
お城の兵隊はみんなやっつけられちゃった。
だからドラゴンの山めざして飛んでいるのは3機だけだ。
『そういえば、マギーさんが乗っている飛行機はスクワールⅡですね』
ピッピが言った。
「うん。よく知ってるね!」
『はい。大きなエンジンで、すごく速く飛べる飛行機です。そんな飛行機に乗ってるなんて、さすが【なんでも屋】です』
そう言われて、あたしは「えへへ」と笑う。
アリサがメンテナンスしてくれている愛機をほめられて、うれしい。
あたしの愛機【スクワールⅡ】は、ピンク色のリスの形をした飛行機だ。
しっぽみたいな大きなエンジンと、足みたいな小さなエンジンで空を飛ぶ。
ガラスの風よけがついた運転席は、せなかにある。
そして、前にはリスの頭みたいな形のコンピューターがついている。
『アリサさんが乗っているのは、作業用のヘッジホッグですね。古い飛行機だけど力が強いです』
『ええ、そのとおりよ』
アリサもニコニコ笑顔で答えた。
機械いじりが大好きなアリサは、飛行機のお話をするのも大好きだ。
スクワールⅡのとなりを飛んでいるのは【ヘッジホッグ】。
まん丸で、大きな2本のアームを生やした、ぐんじょう色の飛行機だ。
反重力でフワフワ飛ぶからおそいけど、すごく力持ちなんだよ。
今日は力持ちのアームに大きなたいほうをかまえている。
もちろん、ドラゴンとたたかうためだ。
『ピッピちゃんが乗っているのはスーリーね。すばしっこくてメンテナンスのしやすい、ステキな飛行機よ』
『ありがとうございます』
アリサに言われて、テレビ電話の中のピッピもうれしそうに笑う。
銀色のネズミの形をした【スーリー】は、足のエンジンだけで飛んでいる。
だからスクワールⅡほどスピードはでない。
けど、ほそいしっぽでバランスをとって、ネズミみたいにすばしっこく飛ぶことができる。それに、
『ピッピちゃんは飛行機の運転が上手なのね。マギーより運転がていねいだわ』
アリサがそんなことを言った。
「どうせ、あたしの運転はらんぼうですよーだ」
あたしは口をとがらせる。
でも、ピッピの運転が上手なのは本当だ。
足みたいなエンジンをふかして空を飛ぶネズミの飛行機が、ピッピの手にかかると、まるで空をのびのびとおよいでいるみたいだ。
それに、ピッピは小さいのになんでもできて、とてもしっかりしている。
「あ、わかった! ピッピはパイロット学校のエリートとかでしょ!」
でもピッピは『いえ』と首をふる。
『わたしの家はお金がなくて、わたしがまだちっちゃいころに、パパもママも病気でいなくなってしまって、わたしはとほうにくれていたんです』
そんなことを言ったので、あたしはビックリした。でも、
『そんなとき、ルー王女が王さまに「身よりのない子どもをたすけてあげて」ってたのんでくれたので、わたしはお城に引き取られたんです』
そう言って、ピッピはニッコリ笑った。
『すごくさむい雪の日に、ひとりぼっちでないていたわたしを、ルー王女と王さまが、むかえに来てくれたんです。あの日のことは、今でもわすれません』
ピッピはニコニコ笑っている。
王女さまとはじめて会った日のことを思い出しているのかな。
『お城の人たちは、わたしに勉強を教えてくれました。王さまはわたしを使用人にしてくれました。工場の人は飛行機の運転を教えてくれました。みんなはわたしの運転が上手だってほめてくれたので、わたしは飛行機が大好きになったんです』
話しながら、ピッピは楽しそうに笑っている。
そんなピッピの笑顔がかわいかったから、あたしもニッコリ笑った。
「そっか、それで運転が上手になったんだね」
『それほどでも』
あたしが言うと、ピッピは照れた。
『だから、わたしはずっとルー王女にあこがれていたんです。お城の兵隊たちはみんなやられちゃったけど、わたしはドラゴンをやっつけてルー王女をたすけたいです。アリサさん、マギーさん、よろしくおねがいします』
ピッピはモニターの中で、ちょこんと頭を下げる。
「まかせて」
そう言って、あたしはウィンクした。
そして茶色い火山を見やりながら、思う。
魔法を使っちゃダメなキャロット王国にも、ピッピみたい子だっている。
そして、そんな人たちが、さらわれたルー王女のことを心配してる。
だから、最初はやめようとしていた仕事だけど、がんばってドラゴンをやっつけて、王女様をたすけださなきゃ!
そんなことを考えた、そのとき、
『……あなたたちも、ルー王女をつれもどしに来たのですね』
テレビ電話に知らない人がうつった。
ううん、人じゃない。まっ黒で、トカゲみたいな顔をした――
「ドラゴン!?」
『気をつけて! テレビ電話にわりこんできているわ!』
アリサがあせった声で言った。
あたしはビックリした。
「【エレメントを作る魔法】で電波を作って、わりこんでるんだ!」
ドラゴンが電話をかけてきたことにもビックリした。
それよりも、魔法でテレビ電話にわりこむなんて!
このドラゴンは、魔法がすごく得意なんだ。
『ドラゴンがしゃべってる……!?』
ピッピも目を丸くしている。
ドラゴンは、テレビ電話ごしに、あたしたちをにらんだ。
よく見ると、首にはフリルのついたスカーフをまいている。
それにちっちゃなメガネをかけていて、とても頭がよさそうだ。
きっと強力な魔法をいくつも知っているんだろう。
ゴクリとつばをのみこむあたしを、テレビ電話の中のドラゴンがにらみつける。
『……ルーはだれにもわたさない。大人しく帰らないと、お城の兵隊みたいにヒドイ目にあわせますよ!』
「そんなおどしなんて、こわくないもん! あなたなんて、あたしの魔法でやっつけちゃうんだから!」
魔法を使うドラゴンは、魔法使いと同じくらい頭がいい。
それなら、人間の言葉を話すのなんてかんたんだろう。
それに、作戦をたてておそってくる。
だから、ふつうのドラゴンとはくらべ物にならないほど強い。
でも、あたしは【なんでも屋】として、ピッピのために、キャロット王国のみんなのために、ルー王女をたすけるって決めたんだ。
そのために、あたしたちだってドラゴンのことを調べて、作戦もたてた。
だから、ぜったいに、負けたりなんかしない!
『そうです。そして、ルー王女を返してもらいます!』
ピッピも力強く言った。
ピッピはルー王女にあこがれているのだ。
『この仕事をやりとげれば、すごくたくさんのお金がもらえるんですもの!』
アリサはそんなことを言った。
もー、アリサはあいかわらずなんだから。
でも、ぜんぜんこわがらないあたしたちに、ドラゴンはイライラしたようだ。
『……それならば、仕方がありませんね』
テレビ電話の中のドラゴンの目が、あやしく光る。
とたんに、まわりが暗くなる。
え? と思って風よけの外を見やる。
あたしたちの目の前に、小屋くらい大きな黒い何かがいた。
それは黒いトカゲみたいなすがたで、大きな羽を生やしていた。
「ドラゴンだ!」
『いつの間に――!?』
さっきまではいなかったのに!
ビックリするあたしたちの目の前で、ドラゴンが口を大きく開ける。
『マギーよけて!』
アリサがさけぶ。
あたしはスティックをかたむける。
スクワールⅡは足のエンジンをふかして横に飛ぶ。
そのしっぽのはしを、何かがかすめた。
むらさき色のビームだ!
ドラゴンがはいたはんぶっしつが、空気をばくはつさせながら飛んできたのだ。
とっさによけていなかったら、まともに当たってばくはつしていた。
でも、アリサが教えてくれたおかげで、みんなよけられた。
『ドラゴンがいきなり目の前にあらわれて、ビームをうってきました!?』
「【時間と空間の魔法】でテレポートしたんだ!」
これが、お城の飛行機をやっつけた、カメラにうつらないこうげきの正体だ。
『ルー王女を、返してもらいます――!!』
いきなりのこうげきでビックリしたけど、ピッピはそんなことでくじけない。
スーリーは足のエンジンから光のこなをふきながら、ドラゴンにつっこむ。
スーリーは下側にある小さなアームでバスケットを持っている。
シュボボボボッ!
バスケットから、お花のつぼみの形をしたミサイルがいっぱい飛び出した。
たくさんミサイルの【ゲイボルグ】だ。
ミサイルたちは7色のけむりをふきながらドラゴンにぶつかる。
バババババーン!!
でも、ドラゴンのかたいウロコはビクともしない。
ドラゴンはスーリーをにらむ。
ギザギザの歯が生えた大きな口を開いて、息をすう。
そして口のおくから、むらさき色のビームをはなった。
キュイーン!
でも、ピッピのスーリーはヒョイッとよける。
ネズミのしっぽがフリフリゆれる。
ピッピのすばしっこい動きの前に、ビームなんて当たらない。
そんなスーリーに向かって、ドラゴンはさけぶ。今度は魔法を使うつもりだ!
「風さん、空気に宿る魔力さん、ピッピのスーリーを守って!」
あたしはすぐに呪文をとなえる。
スーリーの前に空気のカベを作る魔法だ。
そして、ドラゴンの魔法も完成した。【エレメントを作る魔法】で作った、たくさんの火の玉がはなたれる。
ドドドドカーン!
火の玉は、あたしが作った空気のカベに当たって、ばくはつする。
その中からスーリーが飛びだしてくる。
あたしはほっとした。
思ったより火の玉が弱かったからだ。
だから空気のカベでふせぐことができた。
(よし、これならいける)
あたしは3人でたてた作戦を思い出す。
ドラゴンは強くて魔法を使う。だから、ピッピが目の前を飛び回ってビームをよけて、あたしが魔法をふせぐのだ。
ドラゴンは、魔法をじゃましたあたしのスクワールⅡを見やって、さけぶ。
目の前に、またしてもたくさんの火の玉があらわれた。
火の玉たちは、今度はあたしめがけて飛んでくる。
「火の玉さん、ほのおに宿る魔力さん、あたしにぶつからないようによけて!」
する火の玉は、まるでスクワールⅡをさけるように飛ぶ向きを変えた。
エヘヘ!
あたしの【エレメントをあやつる魔法】を使えば、こうやって身をまもることだってできるんだよ。
でも、そんなあたしの目の前で、ドラゴンが大きな口を開けていた。
ドラゴンは、スス――――ッと、息をすいこむ。
しまった!
魔法をふせいでほっとしたあたしを、ビームでふっとばすつもりだったんだ!