お仕事をする1
「先日、ウーサー王のひとりむすめのルー王女がドラゴンにさらわれたんです」
テーブルの反対側で、ピッピが言った。
ピッピのおかげで、あたしたちは悪い魔女から勇者になった。
だから、大広間よりずっとせまいけどゴージャスな部屋に案内された。
そして今は、ドラゴンをやっつけるお仕事のことを聞いていた。
ピッピはちっちゃいのに、とてもれいぎ正しい女の子だ。
王さまとは大ちがいだ。
でも、ずっと真面目な顔で、あんまり笑わない。
きんちょうしているのかな?
「お城の兵隊たちは、どうしたの? いくら相手がドラゴンでも、たくさんの飛行機でおそいかかれば、やっつけられるんじゃないかしら?」
アリサがピッピにたずねた。
するとピッピはちょっとこまった顔になった。
「この国の兵隊たちはカタナの練習ばかりしているから、飛行機で戦うのは苦手なんです。それにドラゴンは魔法を使うから、反対に兵隊たちがやっつけられて、にげ帰ってきました」
「そのドラゴンの魔法って、おかかえ魔法使いの魔法じゃかなわないの?」
今度はあたしがたずねた。
アヴァロンのたいていの国のお城には、お城の仕事をするおかかえ魔法使いがいる。でもピッピは、もっとこまった顔になった。
「この国は魔法を使ったらダメだから、おかかえ魔法使いもいないんです……」
しょんぼりした声で言った。
「おかかえ魔法使いがいないから、魔法のトラブルがおきないように『魔法を使ったらダメ』なんて言って、魔法を使ったらダメだから、おかかえ魔法使いが来てくれないんです。だから、魔法のトラブルがおきると手も足も出ないんです……」
そっか。
それで自分の名前をないしょにして【なんでも屋】に仕事をたのんだんだね。
ピッピも苦労してるんだなあ……。
「でも、いくらわたしたちでも、魔法を使わずにドラゴンやっつけるのはムリよ」
アリサがむずかしい顔で、そんなことを言った。
もー。アリサったら。ピッピはこんなにがんばってるのに。
でも、アリサの言うことだって正しい。
いくら仕事でも、できないことはできないってはっきり言わなきゃ。
あたしはアリサといっしょにむずかしい顔をする。けど、
「それなら、だいじょうぶです」
ピッピは何でもない顔で言った。
「兵隊たちは全員ドラゴンにやっつけられて、飛行機もこわれてしまったんです」
声をひそめて、そう言う。
「だから、マギーさんが魔法を使っているかどうか見はる人はいません」
「そうなんだ……」
あたしとアリサは、びみょうな顔でうなずく。
それって、王さまにナイショで魔法を使って、王さまからたのまれた仕事をするってことだよね? なんだかモヤモヤする。
けど、だからって魔法を使わずにドラゴンと戦うよりはマシだ。
「では、さっそくドラゴンをやっつけてルー王女をたすける作戦をたてましょう」
アリサが言った。
「そういえば、ドラゴンはどうやって王女さまをさらったの?」
「それが、わたしにもわからないんです。王さまがとつぜん兵隊を集めて、ドラゴンをやっつけに行くと言って出ていったんです」
「そして、みんなやっつけられて帰ってきたのね。たよりになる兵隊だわ」
アリサはイヤミを言った。
そして、あたしが兵隊にこづかれた後ろ頭をちらりと見やる。
アリサったら、こずかれた心配してくれるのはうれしいけど、そんなイヤミをピッピに言ったって、しかたがないじゃない。だから、
「それじゃ、ドラゴンがどうやって王女さまをさらったのか、ドラゴンがどうやって兵隊たちをやっつけたのか、王さまに行こう!」
あたしはしゅんとなったピッピの手をにぎった。
そうしたらアリサがにらんできた。なんで!?
そして、あたしたちは王さまの部屋にやってきた。だけど、
「そんなことを、おまえたちに話す必要はない!」
「うわっ! あぶないなー」
王さまはカタナをふりまわしておこった。
かんしゃくをおこした子どもみたいだ。
「ドラゴンは、森のおくの、人がよりつくこともできない山のてっぺんに住んでおる! ピッピ! そいつらを連れて、はやく行ってくるんだ! そして、はやくドラゴンをやっつけて、ルーをつれもどすのだ!」
王さまはどなりちらす。
あたしたちは部屋からにげるように飛びだした。
「しかたがないわね。王さまといっしょにドラゴンたいじに行った兵隊たちに聞いてみましょうか」
アリサはやれやれとかたをすくめた。
今度は、お城のろうかに立っていた兵隊に聞いてみた。でも、
「みんなでドラゴンに戦いをいどんだとたん、いきなりふっとばされてしまったんだ。ドラゴンの悪い魔法にちがいない!」
「もう少し、具体的にお願いします。ドラゴンはどんな魔法を使ったんですか?」
「そんなことを聞いてどうするつもりだ!? お城の兵隊をバカにすると、つかまえて、ろうやにいれてしまうぞ!」
「そんなことを言われても……」
アリサがイヤそうな顔をする。
あたしの耳も、しゅんとたれる。
これじゃ、ドラゴンとどうやって戦えばいいのかわからない。
「ごめんなさい、ドラゴンにまけたのが、ものすごくくやしいんだと思います」
ピッピはこまった顔で言った。
ドラゴンのことをくわしく聞きたいだけなのに、兵隊も王さまみたいにおこりだしそう。だからアリサはひとまず話題を変えようとする。
「ところで、なんでいつも重そうなよろいを着てるんですか?」
「鉄のよろいで魔法から身を守っているんだ! 魔法は鉄がきらいだからな!」
「そうなの?」
アリサとピッピはあたしを見る。
あたしはプルプルと首をふる。
あたしはいつも魔法を使ってるけど、鉄がジャマで魔法を使えなかったことなんて1度もない。鉄でできた飛行機の中でだって、ふつうに魔法を使える。
でも兵隊は自分の言ってることが正しいって信じている。
「飛行機なんかに乗ってよろいを着ないから、ドラゴンなんかにまけたんだ!」
「飛行機も鉄でできてますが……」
「飛行機に乗ってなかったら、にげる間もなくペロッと食べられてたのでは……」
こまった顔のアリサとピッピが、ボソリと言った。
「ドラゴンは人間を食べたりしないよ」
あたしはピッピに言った。
「それに、鉄で魔法をふせげるなんてウソッパチだよ」
すると兵隊の顔がまっ青になって、それからまっ赤になった。
「バ、バカなことを言うな! 鉄で魔法をふせげなかったら、なにで魔法をふせぐんだ!? そんなおそろしいことを言っていると、ろうやにいれてしまうぞ!」
兵隊は、王さまみたいにカタナをふりまわしておこった。
「もう! マギーったらよけいなことを言って!」
「ええっ!? わたしのせい!?」
あたしたちはお城からにげだした。
そして今度は、手分けをして調べることにした。
「わたしは工場で、兵隊たちの飛行機のカメラにドラゴンがうつってないか調べてみるわ。マギーはピッピちゃんと、街の人にドラゴンのことを聞いてみて」
アリサはそう言って、飛行機の工場に行った。
だから、あたしはピッピといっしょに街でドラゴンのうわさを聞くことにした。
「魔法が鉄をキライっていうはウソだったんですね」
「……ひょっとして、ピッピも魔法をふせげないと不安?」
あたしの耳がしゅんとたれる。
「いえ、そうじゃないです。わたしは鉄でできた飛行機に乗っているから、魔法使いにきらわれるとかなしいです」
ピッピはあわてて言った。
あたしの耳がヒョコヒョコゆれる。
「それならだいじょうぶだよ。あたしだって飛行機に乗るし」
「マギーさんも飛行機に乗るんですか!? なにに乗ってるんですか?」
ピッピはこうふんした声で言った。
ピッピは飛行機が好きなのかな?
クールでまじめだと思ってたピッピだけど、こんなに楽しそうな顔もするんだ。
笑っているピッピも、とてもかわいい。
「えへへ、明日、アリサの飛行機といっしょに見せてあげる」
「楽しみです」
ピッピが笑顔になったので、あたしも「えへへ」と笑った。
あたしも、あたしのスクワールⅡが大好きだ。
スクワールⅡはとっても速くて、機械いじりの好きなアリサがいつもピカピカにしてくれているからだ。
「そうだ、この近くのパン屋さんで、おいしいタルトを売ってます。買って帰ってみんなで食べましょう」
「わーい!」
そしてピッピといっしょにパン屋さんに行った。
「おや、ピッピちゃん、いらっしゃい。今日は友だちといっしょかい?」
「こちらは、お仕事を手伝ってくれている【なんでも屋】さんです」
「マギーです、よろしくね!」
「よろしく、マギーちゃん。ピッピちゃんをよろしくたのむよ」
おばさんはニコニコ笑った。ピッピはパン屋のおばさんと仲良しなんだ。
「今日はなにを買っていくんだい?」
「イチゴのタルトを3つください」
「ちょうどいいね。さっき、やきあがったところだよ」
おばさんは、イチゴがいっぱいのったタルトをトングでつかんで、ふくろにつめてくれた。
お花と魔法の星アヴァロンは植物にやさしい星だ。
だから、お花だけじゃなく、野菜やフルーツも元気に育つ。
元気に育った小麦でできた生地はおいしそうな小麦色にやけていて、生地の上には大きくてつやつやしたイチゴがたくさんのっている。
イチゴのあまいにおいがして、食べるのが待ち遠しい。
「そう言えば、ひとつ聞いていいですか?」
「なんだい? マギーちゃん」
「最近、この近くでドラゴンを見かけたりしてないですか? 何か知っていたら教えてほしいの」
すると、おばさんはまっ青な顔になった。
「ドラゴンだって!? そんなおそろしいもの、見たことなんてないよ!」
「いえ、なんでもないです。ヘンなこと聞いてごめんね」
「そうかい? また来ておくれよ。ピッピちゃんも気をつけるんだよ!」
おばさんに見送られながら、話を聞けそうな人をさがして街を歩く。
でも街の人は、ドラゴンの話をすると、すっごくこわがってしまう。
それもそっか、お城の兵隊が魔法をあんなにこわがるくらいだもんね。
あたしの耳がしゅんとたれる。
でも、すぐにもとにもどってヒョコヒョコゆれる。なぜなら、
「ふくろの中からでも、イチゴいいにおいがするね」
「マギーさん、さっきからパンのふくろばかり気にしていますね」
「そ、そんなことないよ……?」
ピッピに言われて、あわててキョロキョロ街を見わたす。
そうやって歩いていると、ちっちゃい女の子が2人、走ってきた。
さっき魔法を見せてあげた子だ。