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よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第1章 ドラゴンたいじに来たけれど……?
4/19

魔法を使っちゃダメな国

 あたしとアリサはお仕事を引き受けるのをやめて、カフェを出た。

 道のすみっこでノラネコがねている。


「こんにちは、ネコさん」

 あたしはあいさつする。

「ナァー」

 ネコはひとなきすると、またねてしまった。

 お日さまがポカポカしてるから、ネコもねむたいのかな。


 レンガのやねがならんだ街の、むこうを見やる。

 石でできた大きなお城が見える。

 さっき話してたお城だ。


 なんだ、けっこう近くにあるんだ。

 歩いて行けるかな?

 でも、そうすると空のおさんぽはおあずけになっちゃうね。どうしよう?


 そんなことを考えていると、ふと、だれかがこっちを見ているのに気づいた。

 プランターのかげから、ちっちゃい女の子が2人、あたしたちを見ていた。


「あなたたち、どうしたの?」

「あ、あのね……」

 ちっちゃな女の子は、あたしの耳をめずらしそうに見つめていた。

「おねえちゃんは、エルフなの?」

「エルフじゃなくて、エルフィン人だよ」

 ちっちゃな妖精のエルフは、あたしたちエルフィン人とよくまちがわれる。

 名前がにてるからだ。


「マギーったら、人間に変身とかできないの?」

「だって、耳以外は人間と同じだから、だれにもわからないと思ったんだもん」

 でも、子どもたちから見ると、すごく気になったんだろうな。

「とかいって、ほんとうは人間に変身する魔法なんて使えないんでしょ」

「うう、それは……」

 あたしは冷やあせをたらす。


「魔法を使えるの?」

 子どもたちはとちょっと不安そうな、でもワクワクした顔であたしを見ている。

「あなたたち、魔法が好きなの?」

「うん! だって絵本で見たもん。魔法使いはエルフや動物となかよしなんだよ」

「でも、パパやママは、魔法を見たいって言うとおこるの」

 そう言って、2人はちょっとしょんぼりした顔をした。


 その気持ちは、あたしにもわかる。

 魔法はエルフや動物や植物、地水風火の魔法の力とお話しするステキな力だ。

 なのに、それを使っちゃダメなんておかしいよ!


「それじゃ、こっそり魔法を見せてあげる。あなたとあたしだけのヒミツだよ」

 そう言って、ウィンクする。

「ホントに!?」

 子どもたちは目をキラキラさせて笑った。

「ちょっと、マギー!?」

 アリサがビックリするけど、知らんぷり。

 だって、アリサだって、お金を見るとキラキラの目になるじゃない!


 あたしは、ほかの人に見られないように子どもたちを連れて、わき道に入る。

 そんなあたしたちを、丸くなったノラネコだけが見ていた。


 あたしは【〇】と【十】を重ね合わせた形のケルト十字のペンダントをにぎりしめる。子どもたちはキラキラの目であたしを見つめる。

 ノラネコの近くに水たまりがあった。よし!


「水たまりさん、水に宿る魔力さん、ダンスして」

 あたしは呪文をとなえる。

 すると、水たまりの水から水しぶきがあがって、ダンスをはじめた。


「わあ! 魔法だ!」

 子どもたちは大よろこびだ。

「シー!」

 アリサがと口に指をあてる。

 ノラネコは目を丸くして水のダンスを見やる。


 宇宙は魔法の力で満ちている。

 魔法の力のことを魔力って言って、空気にも、水にも、大地にも、何もないところにも宿っている。あたしたちエルフィン人の魔法使いは、そんな魔力におねがいするケルト魔法を使うんだ。


 今のはケルト魔法使いが得意な魔法のひとつ、【エレメントをあやつる魔法】。

 火や水や風や大地の魔力にお願いして、いろいろなことをしてもらう、楽しい魔法だ。そしてお次は、


「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、水しぶきを持ち上げて」

 水しぶきがうかびあがって、空中でダンスをつづける。


 世界のどこにでもある妖精の魔力にお願いする【ものを動かす魔法】。

 妖精の魔力は空気すらない宇宙にだってあるから、この魔法はほんとうにどこででも使える、便利な魔法だ。そして、


「タンポポさん、お花に宿る魔力さん、あたしに答えて」

 すると、道のはしっこにさいていたタンポポがピョンってジャンプした。

 お花や木や動物とお友だちになる【動物や植物の魔法】だ。

 タンポポは、水がダンスする水たまりのまわりをさんぽする。

「ナー?」

 ねていたノラネコがとび起きて、ふしぎそうにないた。


 本当は、魔法の百合がさいているともっとよかったんだけどね。

 お花と魔法の星アヴァロンでさく魔法の百合は、1りんごとにひとつの魔法を持っている。それを使って道行く人に魔法であいさつしてくれるんだよ。

 いっしょにさいているたくさんの百合が、小さなカミナリや雪の魔法であいさつしてくれるので、とても楽しい。

 でも、この街には魔法の百合はさいてないみたい。

 王さまが魔法をキライだからかな? それでも、


「おねえちゃん、スゴイ!」

 子どもたちは目をキラキラさせながら、タンポポと水のダンスを見つめていた。

 魔法をほめられて、あたしは「エヘヘ」と笑った。


 よかった。魔法を使っちゃダメだなんて言ってるのは、お城の人だけなんだ。

 街の人たちが魔法をキライなわけじゃないんだ。

 あたしの耳がヒョコヒョコゆれた。けど、そのとき、


「ほう、これはスゴイ魔法だな」

 後ろから声がした。


 ギクリとしてふり返ると、たくさんの男たちが、あたしたちをにらんでいた。

 お城の兵隊だ。兵隊たちは銀色のよろいを着て、こしにカタナをさげている。

 そしてハゲた馬に乗っている。馬は重たそうに顔をしかめている。


「街の中で魔法を使ったおまえを、つかまえてやる!」

 兵隊はカタナをぬいた。

 子どもたちはビックリして泣きだした。

 ダンスしていた水はポチャンと水たまりに落ちた。

 タンポポは道のはしっこに帰って、ノラネコはにげていった。


「……だから言ったのに」

 アリサが小言を言った。

 あたしの長い耳が、しゅんとたれた。


 あたしとアリサが兵隊たちに連れていかれたのは、お城だった。


「ねえ、アリサ、さっき言ってたお城に来られたね」

「……兵隊につかまってなければ、きっと楽しかったんでしょうね」

 アリサは面白くなさそうに言った。

 あたしの耳もたれている。


「こら! しゃべっていないでさっさと歩け!」

 兵隊のひとりに、カタナのつかで後ろ頭をこづかれた。もー!


 兵隊は3人。持っているのはカタナだけ。

 重くて動きにくそうな鉄のよろいを着て、馬に乗っている(馬が重たそうにしていて、かわいそう)。


 あたしは魔法を使える。

 アリサはビームをうってしびれさせるグラムっていう道具を持っている。


 だから、にげるのはかんたんだ。

 でも、そんなことをしたら、おたずね者だ。

 だから、あたしたちは兵隊につれられてお城までやって来た。


 石を積み上げて作ったお城は、パンフレットよりずっと大きくてカッコイイ。

 でも、高いカベに囲まれたお城の庭には、お花も、プランターもない。

 すごく広のに、がらんとしていて、なんだかさみしい感じがする。


 そんな庭を横切って、あたしたちは兵隊につれられてお城に入った。

 兵隊は馬からおりると、よろいをガチャガチャいわせながらゆっくりすすむ。

 あたしたちも兵隊につれられて、赤いカーペットをすすむ。


「ねえ、アリサ。どこまでつれて行かれるのかな? 王さまのところかな?」

「王さまは、兵隊がつかまえた人にいちいち会うほどヒマじゃないわよ」

「じゃ、どこに行くのよ?」

「知らないわよ。ろうやじゃないといいけど」

「だから! だまって歩け!」

 イタッ! もー! なんであたしだけこづくの!?


 そして兵隊たちは、あたしたちを大きなドアの前まで連れてていった。


「ウーサー王! 街で魔法を使った魔女を連れて来ました!」

 兵隊が大声でさけぶと、両開きの大きなドアがギィーっと開く。


 そこは王さまのいる大広間だった。

 赤いカーペットがひかれた台の上に、大きなイスがのっている。

 イスには、ハデなよろいを着こんだドジョウヒゲのおじさんがすわっていた。

 パンフレットで見たことがある。

 この国の王さまの、ウーサー王だ。


「ほら、王さまのところだったじゃない」

 あたしはアリサを見やって得意げに笑う。すると、

「王さまの前でおしゃべりをするな」

 兵隊にこずかれた。もー! もー!!

 あたしがぷぅっと口をとがらせていると、王さまが立ちあがった。


「おまえたちが悪い魔女か!? なぜ街で魔法なんか使ったんだ!」

 王さまは大きな声でどなる。

 どうしよう。子どもに魔法を見せるためだなんて言ったら、あの子たちまでつかまっちゃう。あたしがあせっていると、


「お言葉ですが、王さま」

 アリサが前に出て、言った。

「みんなが宇宙に出かけて、ほかの星にも、ほかの国にも魔法使いがたくさんいるのに、この国でだけ魔法を使っただけでつかまえるなんて、おかしいのでは?」

 アリサはあたしをかばってくれたのかな?

 あたしの長い耳がヒョコヒョコゆれる。


 でも、アリサの言葉に、王さまはまっ赤になっておこった。


「ええい! ここはわがはいの国だ! わがはいが魔法を使うなと言ったら、使うことはゆるさん! 口答えすると、ろうやに入れてしまうぞ!」

 大声でさけんだ。

 なんなのよ! これじゃ、まるで大きなだだっ子みたいじゃない!

 でも、このままじゃ、あたしたちはろうやに入れられちゃう……。その時、


「お待ちください、王さま」

 大きなドアから、ちっちゃな女の子が入ってきた。

 とってもかわいい女の子だ。

 髪の毛は長くてキレイな銀色。

 仕立てのいいチュニックをきて、動きやすそうなキュロットをはいている。


「はじめまして。わたしは王さまの使用人をしているピッピと言います」

 女の子はちょこんとおじぎした。

 あたしはビックリした。こんなにちっちゃな女の子が使用人をしているなんて!


「まあ、れいぎただしいおじょうちゃんね。マギーも見習ったらどう?」

「もー、アリサったら。すぐそういうこと言う」

 あたしは口をとがらせる。

 そんなあたたちに向かって、ピッピが問いかけた。


「ひょっとして、あなたたちは【なんでも屋】ですか?」

「え? うん、そうだけど……」

 思わず答える。すると、

「それはよかったです」

 ピッピはほっとした顔で言った。


「王さま、この人たちは悪い魔女じゃありません」

「なんじゃと?」

 王さまはピッピをにらんだ。

「わたしが仕事をたのんだんです」

 なんじゃと?

 あたしも「?」と首をかしげた。


 今のあたしたちは仕事なんてたのまれてない。

 それも、お城の使用人からなんて。


 だけど、ピッピはあたしたちにウィンクする。


「この人たちが、悪いドラゴンからルー王女をたすけてくれる勇者なんです」

「ドラゴンって、まさか……」

 あたしとアリサはビックリした。

 あたしたちが引き受けるのをやめた、あのお仕事は、お城のお仕事だったんだ!


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