エピローグ
王さまとクロウがけっとうして、仲直りして、何日かたった。
でも、あたしたちはまだキャロット王国にいた。
あれから、ずっと、王さまたちは、ほかの国の魔法使いたちをまねいて、国の中で魔法を使う時のルールを話し合っている。
おかかえ魔法使いになったクロウといっしょに、あたしやアリサもそうだんにのっていた。
「1日じゅうお話をしているだけっていうのも、つかれるわね」
街をぶらぶらさんぽしながら、アリサが言った。
そんなことを言ってるけど、アリサの顔はニコニコ笑顔だ。
あたしたちは、国のルールを決める話し合いに、お仕事として協力している。
だから、たくさんのお金がもらえるのだ。
アリサったら、あいかわらず、お金が大好きなんだから。
そんなことを思っていると、
「マギーさん、アリサさん、こんにちは」
カフェの前を通りがかったところで、声をかけられた。
お城の兵隊だ。
でも、こしにさげていたカタナはない。
それに、鉄のよろいじゃなくて赤いかっこいい服を着て、黒くてたてに長いステキなぼうしをかぶっている。馬にも乗っていない。
けっとうで、あたしたちやピッピにかなわなかったから、カタナじゃなくて飛行機の練習をするようになって、動きやすいかっこうにしたのだ。
「王さまを見かけませんでしたか? もうすぐ会議の時間なのに、いないんです」
「うーん、見てないなあ……」
「見かけたら伝えておきますね」
「すいません、よろしくおねがいします」
そう言って、兵隊はペコリとおじぎして、歩いていった。
クロウと友だちになった兵隊は、いろいろな人に親切になった。カタナをさげてえばっていたころより、ずっとステキだ。
あたしたちは、王さまをさがしながらしばらく歩く。
「おねえちゃーん!」
「みてみてー」
2人のちっちゃい女の子が走ってきた。
「あなたたち、また魔法が見たいの?」
あたしが言うと、2人は首をふった。
「ちがうの! こんどはあたしたちが見せるばん!」
「え!? 魔法を!?」
あたしとアリサはビックリする。
「うん! 魔法のお友だちができたの! 宝石のエルフ!」
「エルフじゃなくて、アートマンだよ!」
2人の後ろから宝石が飛んできて、女の子のすがたになった。
宝石でできたロボット人間のアートマンだ。
「もう魔法を使ってもおこられないけど、人にぶつかったらダメだよ」
「「「はーい!」」」
元気に笑いながら、3人の女の子は走っていった。
「ナァー」
道のすみっこでねていたノラネコがないた。
「あら、マギーさん、アリサさん、ごきげんよう」
「きみたちも、さんぽかね?」
今度は、ルー王女と王さまと会った。
チューリップのドレスを着たルー王女は、白い馬にのっている。
かっこいい服を着た王さまは歩いている。
この前までケンカしていた2人だけど、今はとっても仲良しだ。
「ねてなくてだいじょうぶなの?」
あたしはたずねた。
ルー王女のドレスの下からはグルグルまきのほうたいが見えている。
王さまの手もぐるぐるまきだ。
お医者さんも【命の魔法】も、なんでもできるわけじゃない。
ひどいケガをすぐになおすことはできないから、なおるまでほうたいをまいて、静かにしていなくちゃいけない。
それに魔法で作った血はいつか消えてしまうから、それまでにたくさん食べて、たくさんねて、自分の力で元気にならなくちゃいけない。でも、
「こんなに天気がいいんですもの。お城でずーっとねているより、この子とさんぽしていたほうが体にいいですわ」
ルー王女はニコニコ笑った。
「それに、この子もそのほうがよろこびますし」
馬の頭をよしよしとなでた。
この馬は、以前は兵隊が乗っていたハゲ馬だ。
でも、今はハゲてない。
それどころか、ハゲだったところに小さなツノが生えている。
「まさか、この馬がユニコーンだったとは思わなかった。このことを教えてくれたクロウにかんしゃしないと」
そう。この馬は最初はユニコーンだったんだけど、重たいよろいを着た兵隊がのっているうちに、ストレスでハゲて、ツノもとれちゃったんだって。
でもユニコーンはかわいい女の子が大好きだ。
だからルー王女がのるようになったらハゲもなおって、ツノが生えてきた。
ユニコーンのツノには命の魔法がかかっていて、のっていたり、ツノにさわったりすると、ケガもはやくなおる。
それを知っているのか、ユニコーンは王さまの後ろ頭をツノでつつく。
すごく楽しそうだ。
ひょっとしたら、ひさしぶりにはえてきたツノが気になるだけなのかも。
「イタタ、もうちょっとやさしくつついてくれ」
王さまがユニコーンと遊んでいると、
「あ、王さま! こんなところにいたんですか!」
さっきの兵隊がやってきた。
「もうすぐ会議の時間です! ほかの国の魔法使いたちが待っています!」
「おお、そうだった。……しまった、このままでは会議におくれてしてしまう」
王さまがこまっていたので、あたしは呪文をとなえる。
「風さん、空気に宿る魔力さん、王さまをたすけてあげて!」
「おお、体がかるくなったぞ! ありがとう、マギーくん!」
そして、王さまは兵隊をつれて、風みたいなスピードで走っていった。
近くの家のすみっこから小さなエルフが出てきて、王さまを追いかけていく。
ふと見やると、すみっこに魔法の百合がさいていた。
あたしとアリサが見ていると、百合たちはダンスしたり、小さな花火をうちあげたり、カミナリをパチパチ、雪をキラキラさせてあいさつしてくれた。
「……あ。ルー、それにマギーさんとアリサさんも」
「みなさん、こんにちは」
ユニコーンに乗ったクロウとピッピがやってきた。
クロウのマントの下は、ほうたいでグルグルまきだ。
魔法で時間をまきもどしてカタナのケガはなくなったけど、その前にビームでうたれたキズはなおらなかったからだ。
でも、クロウはケガをする前より元気に見える。
「クロウさん、さっきの話のつづきを教えてください」
「うん、あれはね……」
クロウはピッピと楽しそうに話す。
レンガのやねがならんだ街のむこうには、石でできたお城が見える。
その横では、大きな百合の家がゆれている。
おかかえ魔法使いになったクロウは、百合の家ごとお城の庭に引っこしてきた。
そして今は、ピッピやお城の兵隊たちと仲良く楽しくくらしている。
「……そういえば、ルー。お昼からはお勉強の時間よ。おくれないでね」
「楽しみです」
ピッピはニコニコ笑顔になる。
いつも真面目な顔をしていたピッピだけど、ルー王女やクロウと話すようになってからは、笑っていることのほうが多い。
でも、ルー王女はむずかしい顔で、
「クロウったら、わたくしにお勉強をさせすぎですわ」
そんなことを言った。
あたしも勉強は苦手だから、その気持ちはちょっとわかる。
そんなことを言うとアリサにバカにされるから、言わないけど。
「……でもねルー。この前だって、ママの日記をちゃんと読めてなかったよね?」
クロウは小さな声で、でもきっぱりと言った。
「……あのペンダントは、勇気が出るペンダントじゃなかったわ。勇気を魔法にしてためておいて、スゴイ魔法を使うものだったの。小さいころのルーがあまりにもやんちゃだから、心配したママが作ってくれたんですって」
「それは、そうですけど。でも……」
勉強をしたくないルー王女は、言いわけをさがして空を見る。
「クロウさんは、いろいろなことを知っていてスゴイです。お話も面白いし、わたしはクロウさんに勉強を教えてもらうのが大好きです。ですよね、ルー王女!」
明るくなっても真面目なピッピが、キラキラした目で王女を見つめる。
ルー王女はますますこまる。
そして、たすけをもとめるみたいに、あたしたちを見た。
「マギーさんとアリサさんは、やっぱり宇宙に帰ってしまうんですのね」
「うん。さみしいけど、あたしたちは宇宙を旅する【なんでも屋】だから」
あたしは答える。でもルー王女はニッコリ笑って、
「では、お仕事の合間にでも遊びに来てくださいませ。その時には、魔法使いたちがのびのびすごせる、魔法の国になっていますわ」
「うん、もちろんだよ!」
「この国にも宇宙港を作る予定ですのよ。ですから、来るのもずっとかんたんになっているはずですわ」
ルー王女は、そう言って笑った。
そして、青い空を見上げる。
「宇宙っていうのは、どんなところなんですの?」
ルー王女にたずねられて、あたしは答える。
「すっごーく広くて、いろんな星がたくさんあって、それぞれの星にいろんな国があって、いろんな人が、たくさん、たくさんいるんだよ」
「まあ、ステキ。わたくしも、行ってみたいですわ」
「まさか、王女……」
アリサがビックリした顔で、ルー王女を見た。
「ルー王女、まさか、こっそり宇宙に行ったりしないですよね?」
「……ルー、せめてケガがなおってからにしない?」
ピッピとクロウがルー王女にしがみついた。
「ちょっと! あなたがた! わたくしを何だと思ってますの!!」
ルー王女はプンプンおこった。
その様子があんまりおかしかったので、思わずみんなで笑ってしまった。