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よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第3章 勇気の魔法
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勇気の魔法

 あたしはブルッとふるえた。

 雪がふりつづいているせいで、あたりが寒くなってきたのだ。

 見やると、あたり一面にピンク色の雪がつもっている。

 ピッピも王さまも、ちょっと寒そうにしている。

 クロウの大きな顔にも、キズだらけのせなかにも、雪がつもっている。


「クロウは寒くないの?」

 あたしはクロウの大きなウロコをなでる。

 クロウは体じゅうにケガをして、ウロコがはがれて、とてもいたそうだ。

「後で、クロウもおいしゃさんに見てもらいましょう」

「そうだね」

 アリサとそんな話をしながらクロウのうろこをなでる。でも、


「……クロウ?」

 クロウはぜんぜん動かない。

 それにクロウの体は、さっきより冷たくなっている。

 ちょっと前まではあたたかかったウロコが、今は石みたいに冷たい。

「クロウ!? だいじょうぶ!?」

 よびかけるけど、クロウは答えない。

 ドラゴンの口を笑うようにゆがめて、まぶたをつむったまま、じっとしている。


 アリサはクロウの顔やのどをペタペタさわった。

 そして、まっ青になった。


「まさか、クロウ……!?」

 こんなにキズだらなのに【時間と空間の魔法】でルー王女の時間を止めつづけたから、クロウは力をつかいはたしてしまった。

 アリサの目は、そう言っていた。

「そんな!? クロウ! ねえ、クロウ!!」

 まさか、さっきのピンク色の雪は、おわかれの魔法のつもりだったの?

 あたしがまっ青になって、ピッピと王さまもクロウのことに気づいたみたい。


「クロウさん? クロウさん!? 目を開けてください!!」

「ドラゴンよ、おまえは、そこまでしてルーをたすけてくれたのか……!?」

 クロウによびかけながら、大きな鼻先にすがりつく。

 でもクロウは動かない。


「そんなのダメだよ!」

 せっかく、王さまとだって仲良くなれたのに!

 これじゃ、ルー王女がたすかったって、意味ないよ!


「……そうだわ。マギー、【動物と植物の魔法】で薬を作れる?」

「そっか! うん、やってみる!」

 アリサに言われて、ペンダントをにぎりしめて呪文をとなえる。

「薬草さん、植物に宿る魔力さん、お薬をわけて!」

 すると、まわりの草が雪をはねのけて、光った。

 はっぱの上に魔法の薬ができたのだ。


「【命の魔法】ほどじゃないけど、この薬で目をさますかも!」

 あたしが言うがはやいか、ピッピと王さまはしゃがみこんで、手に薬をつけた。

「クロウさん、今度はわたしたちが、クロウさんをたすける番です!」

 そして、ウロコがはがれたキズのところにぬりつける。


 クロウは体じゅうキズだらけで、血だらけだ。

 だから王さまは走り回って、薬をぬった。

 小さくて身が軽いピッピはクロウの体をよじのぼって、つもった雪をはらい落として、大きなせなかに薬をぬった。

 あたしとアリサもいっしょにぬる。

 薬やクロウの血で服がベタベタになっちゃうけど、そんなことは気にしない。


 でも、クロウは動かない。

 王さまは、走るのにじゃまなよろいをぬぎすてた。


 そうするうちに兵隊たちもやって来た。

 兵隊たちは、おたがいに顔を見合わせる。

 ドラゴンがキライだった王さまが、ドラゴンをたすけようとしていたからだ。


 でも兵隊たちは、カタナをすてて、よろいもぬぎすてて、王さまといっしょにクロウに薬をぬりはじめた。

 王さまもピッピもがむしゃらに薬をぬっていたし、兵隊たちだってクロウが魔法でルー王女をたすけていたことに気づいていたからだ。


 あたしと、アリサと、王さまと、ピッピと、兵隊たちと、みんなで薬をぬる。


 でも、クロウは動かない。

 クロウの大きな体は、雪みたいに冷たくなっていく。


「クロウ! クロウ! 目を開けてよ!」

「しっかりして! ルー王女がなおったら、すぐにお医者さんがくるわ!」

「クロウさん! わたしはもっとクロウさんの話が聞きたいです!」

「ドラゴンよ! わがはいは、あやまる! そなたの言うことを何でも聞こう! 魔法も、ドラゴンも、ほかの星の人々も、好きになる! だから、ルーとわがはいの前からいなくならないでくれ!」

 みんなが、クロウによびかける。


 でも、クロウは動かない。

 そのかわりに、クロウがつけていたペンダントがまばゆく光った。


 みんなは気づいていない。

 これが魔法使いにしか見えない魔法の光だからだ。


 クロウに勇気の魔法をかけているの?

 でも、もうそんな必要はない。だって、クロウはもう……。

 そんなことを思ったあたしは、ふと気づいた。


「勇気をあたえる魔法じゃない。勇気を魔力にしてペンダントにためてる……?」

 よく考えれば、魔法で勇気が出るペンダントなんておかしい。

 魔法で心を変えたって、すぐに元にもどっちゃうから意味がない。

 スゴイ魔法使いは、意味のないものを作ったりしない。

 これは【勇気が出るペンダント】なんかじゃない。【勇気を集めるペンダント】なんだ。


 魔法を使わずに王さまの飛行機と戦った、クロウの勇気。

 友だちをかばったルー王女の勇気。

 クロウを守るために王さまにさからった、ピッピの勇気。

 王女がケガをしてパニックになる中、冷静にみんなをまとめたアリサの勇気。

 カタナもよろいもすてて、ドラゴンをたすけようとした兵隊たちの勇気。

 そして、ずっとドラゴンなんてキライだと自分に言い聞かせてきたのに、考えを変えてドラゴンをたすけようとした、王さまの勇気。


 みんなの勇気が魔法の力になって、ペンダントに集まっている。

 あたしの耳がヒョコヒョコゆれる。

 こんなに魔力があれば、クロウをたすけられるようなスゴイ魔法が使えるかも!


 でも、すぐにしゅんとなる。

 あたしは、この魔力をどうしたらいいのかわからない。


 あたしがサボらずに勉強して、いろいろな魔法のことを知っていたら、この魔力を使ってクロウをたすけられたのかな?

 その時、アリサが首をかしげた。


「そういえば、このペンダント、どうしてサクラの花の形をしてるのかしら? サクラはタカマガハラの花なのに……」

 アリサにつられて、あたしもペンダントをじっと見る。

 本物そっくりの、というか、まるで本物の花から作られたみたいに見える。

 タカマガハラの魔法で作ったのかな?


 でも、これはエルフィン人の魔法使いがダンジョンにかくしたんだよね?

 それに、あたしはタカマガハラの魔法のことなんて知らないよ……。


 ううん、まって!


「ペンダントさん、植物に宿る魔力さん、あなたのことを教えて!」

 あたしは【動物と植物の魔法】の魔法で、ペンダントそのものにたずねる。

 今度はダンジョンのときみたいにミスせずに、最初からアイテムに聞くことを思いつくことができた。アリサのおかげだ!


『わたしには、タカマガハラの魔法とドラゴンの魔法を組み合わせて作られた、すごくたくさんの魔法がかかっています。でも、わたしの魔法は、サクラ王女のむすめのルー王女をまもるためにしか動きません』

「なんでもできるの?」

『魔力が足りるかぎり、なんでもできます』

 ペンダントは、まぶしいくらいにかがやいている。

 みんなの勇気を魔力にかえて、たくわえたからだ。

 これだけの魔力があれば、クロウをたすけることだってカンタンだ。


 でも……。


 あたしはゴクリとつばをのみこむ。

 こんな強力な魔力、あたしに使いこなせるのかな?

 あたしが失敗したら、クロウはたすからない。

 それなのに、あたしはクロウや、ペンダントを作った魔法使いみたいに魔法が上手じゃないし、知らないことだっていっぱいある。

 思わず、すがりつくようにアリサを見る。

 アリサは魔法使いじゃないから、魔法のことを聞いたってわかるはずないのに。


 でも、アリサはあたしの目をじっと見て、そしてニッコリ笑って、うなずいた。

 まるで「だいじょうぶ」って言ってくれているみたいに。

 すると、なぜだか、なんでもできる気がした。

 まるで、あたしも勇気の魔法にかかったみたいだ。


「ねえ、どうすれば、あなたの魔法を使えるの?」

 あたしはあたしの魔法を使ってペンダントに問いかける。

『ルー王女をまもるためにやりたいことを、口で言ってください』

 ペンダントは、そう言った。

「うん! わかった!」

 あたしは、うなずく。

 アリサがくれた勇気を、みんなの勇気といっしょにペンダントに集める。

 そして魔法を使うときみたいに、ペンダントにお願いする。


「ルー王女をまもるために、ルー王女の友だちで、いつもルー王女をまもってくれるブラックドラゴンのクロウをたすけてください!」

『かしこまりました!』

 ペンダントがはげしく光る。

 みんなの勇気でできた魔法の力が、ペンダントからあふれ出してクロウの体をつつみこむ。兵隊たちはビックリしてクロウから飛びのいた。


 クロウ体が7色に光った。

 クロウの魔法で時間が止まったルー王女が白黒になったみたいに。


 でも、これはもっと強力な魔法。


「この魔法、時間をまきもどす魔法だ!?」

 あたしはビックリして、さけぶ。


 流れていたクロウの血がキズの中にもどる。

 カタナで切られたキズがふさがる。

 はがれたウロコが元にもどっていく。

 せなかにのこっていた雪も、空にのぼって消える。

 雪がふる前にもどったのだ。


 そして光が消えた。

 クロウのウロコはところどころこげてるけど、カタナのキズはなくなっていた。


 そして、ペンダントの魔法の光が消えた。

 集まっていた勇気の魔力をぜんぶ使って、おやすみしたのだ。


 そのかわり、クロウのまぶたがゆっくりと開いた。


「おお、ドラゴンよ!」

 王さまは、なみだをながしながら笑った。

 兵隊たちも笑顔になった。


 みんなが見つめているのを見て、クロウははずかしそうに笑った。

 そんなみんなを見て、あたしとアリサも笑った。


 クロウはルー王女だけじゃなくて、王さまや兵隊たちとも友だちになっていた。

 みんなと友だちになったから、もう人間だって人間の街だってこわくない。


 あたり一面に、きいろい、なの花がさいていた。

 急に雪がふって、やんだから、大地の魔力が春が来たとかんちがいしたのだ。


「そういえば、王さま。さっき、クロウに、『そなたの言うことを、なんでも聞こう』って言ってた気がするのですが」

 アリサがニヤニヤしながら言った。

 王さまはコホンとせきばらいをした。


「そのことで、わがはいから、お願いがあるのだ」

 王さまはクロウの目をじっと見つめて、言った。

「ドラゴンよ。もし、まだ、わがはいのことをキライになっていないのなら、キャロット王国のおかかえ魔法使いになってほしい。わがはいのわがままのせいで、キャロット王国にはおかかえ魔法使いがいないのだ」

「……は、はい、よろこんで!」

 クロウは、ドラゴンの大きな口を広げて笑った。

 街で人間たちとくらすっていう、クロウの願いもかなった。


「そうか、ありがとう」

 王さまは、兵隊のひとりからクリスタルがついた杖を受け取る。

 そして地面にさした。

 杖の上に手を置いて、おごそかに言う。


「ウーサー王の名において、ブラックドラゴンのクロウを、キャロット王国のおかかえ魔法使いに命ずる」

 クロウもおごそかにうなずいた。

 本をたくさん読んでいたクロウは、これが、王さまが大事なことを決める時の正式なやり方だっていうことを知っているからだ。


 だからクロウも大きな手を持ち上げて、王さまの手の上にちょこんとのせた。

 杖についていたクリスタルが、ピカッと光った。


 兵隊たちが、パチパチとはくしゅをする。

 ピッピも、あたしたちも、いっしょにはくしゅをする。

 これで、クロウはおかかえ魔法使いだ。

 いつでもお城に行って、ルー王女といつでもいっしょにいられる。

 あたしとアリサはニッコリ笑った。そのとき、


「お父さま! これ以上クロウをいじめたら、ただじゃおきませんわ!」

 おいしゃさんの飛行機の中からルー王女が飛び出してきた。

 ほうたいでグルグルまきになってミイラみたいなのに、すごく元気だ。


「ルー王女!? まだ動いちゃいけませんぞ!」

 飛行機の中からおいしゃさんのあせった声がする。

 でもルー王女には聞こえてないみたいだ。

 むしろケガする前より元気になったみたいに見える。

 血をふやしすぎたのかもしれない。


「ルー王女!」

 ピッピは飛び上がってよろこんだ。

「ルー!? よかった! よかった……」

 王さまはよろこびのあまり、泣きだした。


「ルー! なおったのね……!!」

 クロウも、うれしそうに笑った。

 だから、王さまの手の上に手をおいていたことをすっかりわすれて、


 グキッ!


「イタタッ! わがはいの手が!?」


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