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よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第3章 勇気の魔法
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ルーのママの思い出

 あたしはスクワールⅡで街にもどってきた。でも、


「ええっと、病院はどこだろう……?」

 たくさんの家がならんでいる街を見ながら、あたしはこまった。

 こんなことなら、病院の場所を聞いておけばよかった。

 そう思ったその時、


『きみは【なんでも屋】のマギーくんだね? ルー王女が大ケガをしたっていうのは本当かね?』

 テレビ電話に、白ヒゲのおじいちゃんがうつった。


「うん、そう! でも、あなたはだれ?」

『ワシはお城のおかかえ医者じゃ。さっき、王さまから「ルー王女が山で大ケガをした」と電話があったんじゃ。だから山に行くしたくをしておったんじゃよ』

 見やると、街のはしっこにあるビルから、6本足のネコの形をした白い飛行機が飛んでくるところだった。

 王さまがお城に電話して、話をしておいてくれたんだ。


「こっちです! ついて来てください!」

 あたしはスティックをかたむけてスクワールⅡを反対に向ける。

 そして、今来たばかりの山に向かって飛ぶ。


「風さん、空気に宿る魔力さん、おいさしゃんの飛行機にも力をかして!」

『おお!? 飛行機が速くなった!』

「あたしの魔法です! あ……」

 しまった。魔法を使ったなんて言ったら、大人の人はビックリするかな?

 そう思ったけれど、


『ケガ人のところにはやくつけるなら、何でもいい! ワシも飛ばすぞ!』

 テレビ電話の中で、お医者は言ってくれた。


 だから、あたしとお医者さんは、すごいスピードで山のてっぺんにもどった。


 さっきと同じように、クロウはしゃがみこんでいる。

 クロウの前にねているルー王女が、時間が止まって白黒になっている。

 兵隊たちは、クロウとルー王女のまわりにぐるっとならんで見はりをしている。

 その中のひとりが、あたしたちに気がついて手をふった。


『なんと!? ドラゴンがおるわい!』

 おいしゃさんが、クロウを見やって目を丸くした。

「安心して! あの子はルー王女の友だちなの」

『そうか。なら、いいドラゴンなんじゃろうな』

 おいしゃさんは、そう言ってくれた。

 でも、ずっと魔法で時間を止めていたクロウは、ものすごく苦しそうな顔で、今にもたおれそうだ。


 あたしとおいしゃさんは飛行機をおろす。


「おお、来てくれたか! たのむ、わがはいのむすめをたすけてくれ!」

 王さまは、おろおろとおいしゃさんにすがりつく。

「わかっております! すぐにケガの具合を調べますぞ!」

 おいしゃさんは時間が止まっているルー王女にビックリしながらも、飛行機の中からコンピューターのついたタンカを運び出した。


 あたしたち【なんでも屋】が引き受けた仕事を全力でやりとげるみたいに、お医者さんはケガ人をなおすために全力だ。

 6本足の大きな飛行機の中は、とっても広くて、おいしゃさんが使う道具がたくさんあって、ケガや病気をなおしたりすることもできる。

 おいしゃさんはコンピューターで、ルー王女のケガの具合を調べる。そして、


「このままじゃ、王女はたすからん。ワシにはどうすることもできん……」

「そんな!? どうして!?」

「運よくホネはおれてないが、血が足りないんじゃ。足りないとき用の血を持ってきたが、それでもぜんぜん足りないんじゃ」

「そんな! それでは、ルーは……」

 王さまは、まっ青な顔になって、へなへなとすわりこむ。でも、


「それなら、だいじょうぶです」

 アリサが言った。

 そのとき、たつまきにのって、金色のラパンが飛んできた。

「アリサさん、おまたせしました!」

 ラパンの運転席からピッピが転がり出た。

 その後ろの席から、茶色のはだをしたおねえさんが下りてきた。

 カフェで手品をしていたマジシャンだ。


「お医者さんでは手に負えないケガ人っていうのは、どちらなの?」

「むむ。きみはだれかね?」

「わたしは、ほかの星の魔法使いよ」

 そういって呪文を唱えると、おねえさんはネコの顔をした人になった。

 アーク人の魔法使いだ。


「ええっ? どういうこと……?」

「カフェで手品を見ているときに、マギーが言ったんじゃない。アーク人の魔法使いは【命の魔法】が使えるって」

 そっか、アリサはあたしが言ったことをおぼえていてくれたんだ!

 そしてピッピに呼びに行ってもらったんだ!

 さすがはアリサ!


「きみも魔法が使えるのか。ならば、このふくろの中の血をふやせるかね?」

「できますよ」

 おねえさんは【○】の下に【T】がくっついた形のペンダントをにぎりしめる。

「わたしの、ごせんぞさま、魔法のお医者さまトートよ。血をふやしたまえ」

 すると、血の入ったふくろがかがやきはじめた。


「よし、これでルー王女のケガをなおせるぞ」

「クロウ、王女の時間を元にもどして」

 クロウは呪文をやめて、ぐったりとたおれこむ。


 おいしゃさんは、すばやくルー王女のせなかを止血する。

 そして、かんごふさんといっしょに王女をタンカにのせて、うでにふくろからのびたチューブをちゅうしゃする。

 そして王女をつれて、飛行機の中に入って行った。


 おねえさんは魔法をつづけるために、いっしょに飛行機に入った。

 兵隊たちは、ちょっとはなれた場所で見はりをしている。


 だから、お医者さんの飛行機の外には、あたしとアリサ、ピッピ、王さまと、ドラゴンのすがたのままぐったりしているクロウがのこされた。


「クロウさん、ルー王女をたすけてくれてありがとうございます。それから、ビームでたくさんうってごめんなさい」

 ピッピがペコリとおじぎすると、クロウはドラゴンの口をゆがめて少し笑った。

 王さまも、心配しすぎてぐったりした顔で、

「やっぱり魔法はスゴイな。ドラゴンよ、おまえがルーの時間を止めてくれなかったら、ルーはいなくなってしまった。サクラの――ルーの母親と同じように」

 クロウは笑顔だけど、つかれているのか何も言わないまま、王さまを見ている。


「サクラはタカマガハラの魔法使いだったのだ。アヴァロンの花や生き物が好きになって、わがはいとけっこんしてくれたんだ」

 王さまは、ぽつり、ぽつりと言葉をつづける。

「でも、キャロット王国は魔法を使っちゃダメな国だ。サクラはこの国が魔法を自由に使える国になるよう、何度もわがはいにおねがいした。わがはいも、サクラが使うようなステキな魔法なら使ってもいいんじゃないかと思うようになった」

 ピッピは目を丸くしてビックリしていた。

 だって、魔法を使っちゃダメな国の、魔法が大キライな王さまとけっこんしたのが、ほかの星の魔法使いだったんだから。

 でも王さまは、さみしそうに笑っただけだった。


「そして、わがはいとサクラの間に女の子が生まれた。それがルーだ」

 そう言って、王さまはお医者さんの飛行機を見た。


「ルーが小さいころ、サクラは、まぼろしの魔法を使って、タカマガハラにさいている花を見せてくれた。それは自分と同じ、サクラという名前の花だった」

 あたしはじっとして動かないクロウを見た。

 クロウのつけているペンダントも、サクラという花の形をしている。

「サクラは小さなピンク色の花がたくさんさくのだけれど、すぐにちってしまうんだ。でもピンク色の花びらが雪のようにふりそそぐさまは、とてもきれいだった」

 王さまは昔を思い出したのか、さみしそうに笑った。


「わたしとルーがまぼろしを楽しそうに見ていたら、サクラは言ったんだ。『ふるさとの星から本物のサクラの木を持ってきて、お城に植えましょう』とな」

 そう言って、王さまはかなしそうな顔をした。

「木をもらってすぐに帰ると行って、宇宙船でタカマガハラに向かった。でも宇宙船は宇宙サルガッソーにまよいこんで、サクラはもどってこなかった」

 そして王さまは、しばらくだまりこんだ。

 あたしもアリサも、そしてクロウも、何も言わなかった。


 ふと、あたしは、お城の庭に何もなくて、がらんとしていたことを思いだした。

 王さまは、きっと、あそこにサクラ王女が持ってきたサクラの木をうえるつもりだったんだろう。


「それから、わがはいは、花も、魔法も、宇宙も、ほかの星の人たちやドラゴンたちも、みんなキライになってしまったんだ」

(そっか……)

 あたしは、なんとなく、わかった。


 ママがいくなったルー王女がさみしかったみたいに。

 身よりのないピッピが、同じ年ごろの友だちをほしがってたみたいに。

 ずっとひとりぼっちだったクロウが人間と友だちになりたいと思ったみたいに。


 大好きなサクラ王女がいなくなってしまった王さまも、さみしかったんだ。


「クロウさんは、どうしてルー王女と友だちになろうって思ったんですか?」

 ピッピが問いかけると、クロウはニッコリ笑って答えた。

「……人間がみんなで街を作ってみんなでくらしているのがうらやましくて……わたしも仲間に入りたかったんです。……でも、ドラゴンのわたしと友だちになってくれたのは……ルーだけだった」

「そうだったんですか」

 ピッピはクロウを見つめた。


 ピッピがルー王女を好きになった理由も、ルー王女が身よりのないピッピをお城で働けるようにしてくれたからだ。


「そうか。そういうところは、きっと母親ににたんだろうな」

 王さまも口元に笑みをうかべて言った。

「サクラも、ドラゴンは悪い生き物じゃないと言っていたよ。知っているかね? タカマガハラにもドラゴンがいるのだそうな。でも、タカマガハラのドラゴンは君のようなすがたではなくて、ヘビみたいに長いらしい」

 そう言って、またさみしそうに笑った。

 きっと、サクラ王女のことを思いだしているのだろう。


「あ、そっか。クロウは、ルー王女のママがタカマガハラから来たって知ってたんだね。だから、タカマガハラのびょうぶやシーツを買ってたんだね」

「いえ、あれは……友だちがいる気持ちになれるって……ネットで見たから……」

 クロウがはずかしそうな小さな声で言ったので、思わずみんなで笑った。


 でも王さまは、さみしそうに空を見上げた。

 ひょっとして、宇宙のどこかでいなくなったサクラ王女をさがしているのかな。

 望遠鏡で宇宙を見ようとしていたルー王女みたいに。


 クロウは、そんな王さまをじっと見ていた。

 そしてドラゴンの大きな口を、弱々しく動かした。


 すると、空から雪がふってきた。

 でも、ふつうの雪じゃない。ピンク色の雪だ。【エレメントを作る魔法】で、ピンク色の雪を作ったのだ。


 アヴァロンの星から出たことがないクロウは、サクラの花を知らない。

 だから、よくにたものを作ったんだろう。


 ピッピはピンク色の雪を見ながら、目をキラキラさせていた。

 きっと、ルー王女と王さまがピッピをむかえに来た、雪の日のことを思いだしてるんだ。


「これはサクラじゃない。……サクラは花なんだ」

 王さまは、そんなことを言った。

 それでも、空からふってくるピンク色の雪を見て、笑った。

 手を広げて雪を受け止める。

 そして手の中の雪がとけてしまうのを、じっと見つめていた。


 たぶん、今、クロウは、ピッピとも王さまとも友だちになった。


 クロウはどんなにさみしくても、つらくても、だれもキライにならなかった。

 だから、すなおなピッピはもちろん、さみしさに負けてドラゴンをキライになっていた王さまですら、クロウのことが好きになったんだ。


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