たたかう2
「そうはさせんぞ!」
ひっくり返ったラパンの運転席が開いて、王さまが飛び出した。
王さまはルー王女をつかまえて、クロウから引きはがす。
「何をなさいますの!? クロウはお父さまに勝ったではありませんか!」
「まだわがはいは負けておらん! おまえたち、ドラゴンをやっつけろ!!」
王さまがさけぶと、兵隊たちのスーリーがいっせいに飛びたった。
「そんな!? なんてことを!」
「でも、てっぽうやミサイルは全部こわれちゃって、まだ使えないんじゃ……?」
あたしは首をかしげる。
そのとき、スーリーたちの下側から何かがのびた。
スーリーたちのアームは、鉄のカタナをささえていた。
「ええっ!? あれって!?」
「てっぽうのかわりに、こわれたパーツをくっつけて、けずりだして、カタナにしたのだ!」
カタナを持ったスーリーたちは、うずくまったまま動かないクロウめがけておそいかかる。カタナがクロウの体を切りつけて、クロウはひめいをあげる。
「お父さま、あんまりですわ!? やめさせてくださいませ!」
「ええい! ドラゴンなんかに! ドラゴンなんかにルーはわたさん!」
「クロウ! 魔法で身を守ってくださいませ! かまいません! 先にやくそくをやぶったのはお父さまですわ!」
でも、クロウは魔法を使わない。
つかれはてて、身をまもる魔法すら使えないの?
それとも、こんなことになっても、王さまとの約束をやぶりたくないの……?
「王女さま! わたしたちのこともおわすれなく!」
そう言いながら、アリサが自分の飛行機に走っていく。
そうだよね!
こんなのはヒドイもん、あたしたちだってクロウをまもらなきゃ!
「アリサさん! マギーさん! おねがいしますわ!!」
「うん、わかってる! まかせて!」
「あとで、お金をいっぱいいただきますよ!」
もー、アリサったら!
あたしは魔法のペンダントを取り出す。
「風さん、空気に宿る魔力さん、クロウを守って!」
あたしの魔法で、クロウのまわりに風のバリアができる。
でも、大きなドラゴンのクロウを守るには、バリアを大きく広げなくちゃいけない。飛行機の大きなカタナで切られて、バリアははじけて消えてしまった。
でも、そのすきに、アリサのヘッジホッグが空にうかび上がる。
けれども、こんなことになるとは思ってなかったので、ヘッジホッグはたいほうを持っていない。
だから大きなアームをふりまわしてスーリーをつかまえようとする。
でもやっぱり、動きがおそいヘッジホッグはすばやいスーリーをつかまえられない。スーリーたちはバカにするようにアームをよけて、クロウをカタナで切る。
あたしも、いそいでスクワールⅡのところまで走る。
ピンク色のボディをよじ登って運転席にのりこむ。
ガラスの風よけをしめて、スティックを引きしぼる。
スクワールⅡは足のエンジンをふかして飛び上がる。
タタタタタタタッ!
引き金を引いて、スーリーたちをてっぽうでふっとばす。
スクワールⅡのてっぽうは頭のコンピューターにくっついているから、いつでも使える。でもクラウ・ソラスは持ってきていない。
それにスーリーたちはいっぱいいて、あたしが1機をふっとばす間に、別のスーリーたちがクロウをカタナで切っている。
ゆだんしたスーリーのカタナをヘッジホッグがアームでつかんで、へし折る。
でも、ほかのスーリーはヘッジホッグのこうげきをかわして、次々にクロウに切りかかる。クロウは体を丸めて、ひっしでたえる。
黒いウロコがはがれて、切れて、クロウの全身から赤い血が流れる。
「そんな! どうすればいいの!?」
あたしがこまっていると、
『王さま。もう、こんなことはやめてください!』
ピッピのラパンが飛んできた。
キュイーン! キュイーン!
ビームをうつ。
スーリーがふっとぶ。
『わたしは王さまとルー王女のおかげで、お城で働けて、飛行機にのれるようになりました。お2人とも、すばらしい人だって思います!!』
ピッピはスピーカーでさけぶ。
いつもの真面目なピッピとは思えないくらい、はげしい声だ
『そんな王さまが、みんなと友だちになりたいって言っているドラゴンを、こんなひきょうな方法でやっつけるなんて、まちがってます!!』
スーリーたちはピッピのラパンにおそいかかる。
でも、ピッピが運転するラパンにカタナなんか当たらない。
金色のウサギはヒラリ、ヒラリとこうげきをかわして、おそってきたスーリーをビームでふっとばす。
ピッピはクロウみたいに運転席にあてないようにうった。
それどころか、こわれても直しやすいところをねらっている。
「ピッピ!? わがはいにさからうのか!?」
王さまはビックリした。
そのスキをついて、ルー王女は王さまのうでにかみついた。
「イタッ」
王さまは思わずさけんで手をはなす。
ルー王女はクロウに走りよる。
「ええい! はやくドラゴンをやっつけるのだ!」
そのとき、スーリーが持っていたカタナが、根元からポッキリおれた。
こわれたパーツを無理やりくっつけたから、もろくなってたんだ。
「……ルー!? あぶない!」
クロウがビックリする。
カタナはクルクル回りながら、ルー王女めがけて飛んでいく。
ピッピのラパンはカタナをうちおとそうとするけれど、できない。
ラパンのいるところからカタナをうつと、ルー王女にもあたってしまうからだ。
「風さん、空気に宿る魔力さん、ルー王女を守って!」
あたしは呪文をとなえてバリアをはる。
でも風のバリアはそんなに強くない。
手かげんした火の玉はふせげても、大きな鉄のカタナなんてふせげない。
てっぽうをもっていないヘッジホッグも、どうすることもできない。
「……で……伝説の魔女ダーナよ! ……わたしに力をかしてください!」
クロウもとうとう魔法を使おうとする。
でも、つかれはてて、いたみにうめきながらとなえた呪文はとぎれとぎれで、せっかく作った氷のカベも、間にあわない。
カタナは風のバリアをやぶって、ルー王女のせなかに当たった。
ルー王女はふっとばされて、地面をごろごろ転がった。
「……ルー!?」
クロウがキズだらけの体で、立ち上がろうとする。
バリアのおかげで少し弱くなっていたけど、大きなカタナがぶつかって、ぶじなわけがない。
「なんということだ!?」
王さまは、まっ青な顔でさけんだ。スーリーたちも戦うのをやめる。
うつぶせにたおれたルー王女のせなかから、血が出ていた。
「ルー!! ルー!?」
王さまはさけびながら、ルー王女にしがみつこうとする。
そんな王さまを、アリサがはがいじめにする。
「ええい! はなせ!? ルーが! わがはいのむすめが!!」
「今、ムリに動かしたら、よけいにたすからなくなりますよ!」
アリサがピシャリと言うと、王さまはしゅんと大人しくなった。
でも、王さまは顔をくしゃくしゃにして、なみだをボロボロながす。
あんなにえばっていた王さまとは思えないほど、うろたえて、子どもみたいに泣いていた。
「なら、どうすればいいんだ!? たのむ、ルーをたすけてくれ! ああ、わがはいは、なんということをしてしまったんだ!」
「ねえ、アリサ!? どうしよう!?」
「マギーも、おちついて」
アリサが冷静な顔であたしを見た。だから、
「うん」
あたしも冷静になってうなずく。
あたしたち【なんでも屋】はキケンなこともいっぱいある。
だからアリサは、どんなピンチになっても、なんとかする方法を考えてくれる。
「マギー。街にもどって、お医者さんをよんできて。ルー王女が大変だって言ったら、ぜったいに来てくれるわ」
「でもアリサ。それじゃ間に合わないよ?」
ルー王女のせなからは、赤い血がダラダラ流れ出している。
「だいじょうぶ」
それでも、アリサはあたしを安心させるようにうなずく。
「クロウ、【時間と空間の魔法】でルー王女の時間を止められる? 小さいころに星を見ようとした時にしたみたいに」
そっか!
おいしゃさんがくるまで時間を止めておけば、間に合わなくなることはない。
でも、クロウはキズだらけで、つかれはてている。
そんなスゴイ魔法を使ってだいじょうぶなのかな?
あたしは心配する。だけど、
「……は、はい、だいじょうぶです!」
「ムリはしないでね」
クロウはものすごく苦しそうな顔で、それでも呪文をとなえる。
「……伝説の魔法使いタリエシンよ、ルーの時間を止めてください」
するとルー王女のまわりが白と黒になって、血が流れるのも止まった。
それを見ていた兵隊たちは、おこってカタナをぬいた。
「ドラゴンが王女さまに悪い魔法をかけたぞ!」
「えっ!? よく見てよ! クロウはルー王女をたすけようとしてるんだよ!」
でも、兵隊たちは、あたしの言うことを聞こうともしない。そんなとき、
「おまえたち、さがれ! この魔法は良い魔法だ! わがはいにはわかる!」
「しかし、王さま……」
「ええい! わがはいの言うことを聞かなければ、おまえたち全員、ろうやに入れてしまうぞ!!」
王さまがカタナをふりまわしておこったから、兵隊たちは大人しくなった。
あたしはビックリした。
王さまが、クロウをかばってくれるなんて思ってもいなかった。
「マギー、今のうちに!」
「オーケー、アリサ!」
そして、あたしはスクワールⅡに飛び乗ると、ガラスの風よけをしめる。
運転席のスティックを引く。
スクワールⅡは足のエンジンを下向きにふかして、うかび上がる。
スロットルを引きしぼる。大きなしっぽのエンジンから、光の粉がはげしくふき出て、スクワールⅡはフルスロットルで飛び出した。
アリサはあたしの運転がらんぼうだなんて言う。
でもアリサは、あたしがどんなにらんぼうに運転しても最高のスピードで飛べるように、いつもエンジンノズルをピカピカにそうじしてくれる。
だから、そんなアリサに答えるように、あたしはスロットルを思いっきり引きしぼる。そして、
「風さん、空気に宿る魔力さん、力をかして!」
呪文をとなえる。
まわりで風がふいた。
前にある空気はどいて、後ろの空気はスクワールⅡのおしりをおしてくれる。
そうやって、あたしはたつまきみたいなスピードで飛んだ。