たたかう1
そして次の日。
「よくにげなかったな! ドラゴンめ! だが、おまえなんかをルーの友だちとはみとめん! やっつけてやる!」
王さまはクロウをどなりつけた。
「クロウさんごめんなさい。わたしは王さまの使用人なので、全力で戦います」
ピッピは真面目な顔で言った。
最初に会ったときみたいにニコリともしない。
あたしはかなしくなった。
クロウと王さまたちのまわりを、兵隊とスーリーたちがかこんでいる。
あたしたちとルー王女も、兵隊たちといっしょに2人の勝負を見守っている。
「クロウも本気で戦ってくださいませ! ピッピはかしこい子ですもの、後でちゃんとお話すれば、わかってくれますわ!」
「あんなに練習したんだもん、だいじょうぶだよ!」
ルー王女とあたしはクロウをはげます。
「チャンスになったら、昨日教えた作戦でやっつけられるはずよ」
アリサはクロウにウィンクする。
「……み、みなさん、ありがとうございます」」
そう言うと、クロウの体がまぶしく光った。
光になったクロウは大きくなって、しっぽと羽が生えて、大きなブラックドラゴンになった。
王さまと兵隊たちは、ドラゴンを見てビックリした。
あとずさる王さまたちを見て、クロウはちょっとかなしそうな顔をした。
それでも羽をはばたかせて、空に飛びあがる。
「ピッピよ、こんなヤツにルーをわたしてはならぬ!」
王さまはラパンの後ろの席に飛び乗った。
「がんばります」
ラパンの運転席がしまると、ラパンはウサギみたいなしっぽをフリフリと動かして、足のエンジンを使って空を飛んだ。
全力で戦うっていうのはウソじゃなさそうだ。
あんなに飛行機で飛ぶのが上手なピッピに、クロウは勝てるかのかな?
「クロウ、がんばってくださいませ……!!」
ルー王女はハラハラした様子でクロウを見ている。
あたしもアリサも、兵隊たちも、2人の戦いを見守る。
そして、ひとりの兵隊がてっぽうをうって、けっとうの始まりの合図をした。
キュイーン! キュイーン!
いきなりラパンの目からビームがはなたれた。
ビームはクロウは足と体にあたる。
「きゃあっ……!?」
昨日はスクワールⅡと追いかけっこをして飛ぶ練習をしたけれど、今まで運動が苦手だったクロウがいきなりビームをよけられるようになるわけない。
それに魔法を使えないルールだから、テレポートでよけることも、氷のカベで身を守ることもできない。
キュイーン! キュイーン!
ラパンはクロウのまわりを飛び回りながら、ビームをうちまくる。
クロウは体じゅうをビームでうたれて、あっという間にキズだらけになってしまう。黒いうろこがこげて、はがれて、とてもいたそうだ。
『クロウさん、こうさんしてください!』
ラパンのスピーカーからピッピの声がした。
「……できません」
クロウはくるしそうに答える。
「……ルーはわたしを友だちだって言ってくれたから、わたしだってルーが大好きだから、ルーといっしょにくらせるチャンスをあきらめたくないんです!」
そう言って、クロウは口からむらさき色のビームを何本もうつ。
でもラパンは足のエンジンをふかせて横向きに飛んで、クルクル回って、ぜんぶかわす。
『わたしだって、ルー王女が大好きです! わたしは王さまの使用人だけど、ルー王女ともっとお話ししたいです!』
ラパンはピッピの声でさけぶ。
クロウにつっこみながら、ビームをうちまくる。
クロウは身をかがめてビームにたえる。
『それなのに、クロウさんはずっと、ずっと、小さいころからルー王女と仲良くしたり、遊んだりしていたなんて、ずるいです!』
ラパンがうちまくるビームを、クロウはウロコでうけとめながら、たえる。
「……で、でも!」
クロウはラパンをつかまえようと手をのばしながら、さけぶ。
「……でも、わたしと友だちになってくれたのはルーだけなんです! わたしは、人間たちみんなと仲良しになりたいのに、わたしをこわがらないで、お話してくれたのはルーだけなんです!」
『……!?』
クロウのカギヅメの先が、ラパンをかすめた。
クロウはさらに手をのばす。
でもラパンは、大きなクロウの手をヒラリとかわす。
そのままクロウの足の間をくぐりぬける。
それをつかまえようとしたクロウはバランスをくずして、空中でくるくる回って地面に落ちて、岩にぶつかった。
『ピッピ! このままドラゴンをやっつけてしまうのだ!』
王さまがどなる。でも、ラパンはビームをうつのをやめてしまった。そして、
『……クロウさん』
ピッピはスピーカーごしに、ぽつりと言った。
『クロウさんは、人間と仲良くなりたいんですか?』
「……はい!」
『わたしとも、仲良くなりたいんですか?』
「……もちろんです。だって、ピッピさんもルーの友だちだから」
『ピッピ! なにをしているのだ! はやくドラゴンをやっつけるのだ! おまえならカンタンだろう!』
王さまがどなる。
でも、ラパンはビームをうたない。
『……王さま。もう、やめましょう。こんなのは意味ないです』
『わがはいにさからうのか!? わがはいは、この国の王さま、ウーサー王だぞ!』
『そういうわけではありませんが……』
スピーカーから、王さまとピッピの声が聞こえてきた。
2人はラパンの運転席で口ゲンカをはじめたみたいだ。
『わがはいがあいつに負けたら、あいつにルーをとられてしまうんだぞ!』
『ドラゴンはみんなと友だちになりたいだけです。ドラゴンはルー王女をとったりしないです』
『とられるのだ! ドラゴンなんかと友だちになったら、サクラのように、ルーのママのように、いなくなってしまうのだ!』
王さまは、だだっ子みたいに泣きわめいた。
ピッピはこまって、運転どころではなくなる。
チャンスだ!
クロウは目をつむると、キズだらけの羽で大きくはばたいて、高く飛んだ。
ラパンはクロウを追いかけようとする。でも、
『うわっ、まぶしいです!』
『なんだ!? どうなっておる!?』
運転しているピッピの目がくらんで、フラフラする。
クロウは空のてっぺんで明るく光っているお日さまに向かって飛んだのだ。
ピッピはクロウを追いかけようとして、お日さまをまともに見てしまった。
お日さまをまともに見ると、まぶしくて何もみえなくなっちゃう。
だから、ぜったいに見てはいけない!
そんなピッピのラパンに、空の上からクロウがおそいかかる。
ドラゴンのクロウは大きくて重たい。
だから高いところで飛ぶのをやめるだけで、ものすごいスピードで落ちていく。
その先にはラパンがいる。
けど、目がくらんだピッピはクロウをよけるどころじゃない。
そう。
これがアリサがクロウに教えた作戦だ。
「王さま、ピッピさん、ごめんなさい……!!」
クロウは、大きなしっぽでラパンをひっぱたいた。
ラパンはボールみたいにふっとんで、地面にたたきつけられて、3回バウンドしてゴロゴロ転がって、上下さかさまになって止まった。
足のエンジンをバタバタ動かすけど、動けない。
それでも、ラパンはどこもこわれていない。
クロウは、こんなときでも、のっている王さまやピッピがケガをしないように手かげんしたんだ。
「やりましたわ! クロウ!」
ルー王女が飛び上がってよろこんだ。
クロウはよろよろと地面におりて来ると、そのまましゃがみこんで丸くなる。
キズだらけになって、ラパンを追いかけて、つかれはててしまったからだ。
クロウは人間になる魔法を使えないくらいつかれているけど、そんなクロウの顔のウロコを、ルー王女がやさしくなでる。クロウは口をゆがめて、笑った。
「ルー。わたし……」
「よくやってくれましたわ、クロウ! これで、わたくしたちは、だれもがみとめる友だちですわ!」