クロウの決意
「お城の兵隊たちのスーリーと、お父さまのラパンですわ」
飛んでくるたくさんの飛行機を見ながら、ルー王女が言った。
銀色のネズミみたいなスーリーたちの先頭を、金色のウサギが飛んでいる。
あれがラパンだ。
「兵隊たちの飛行機、なおったんだね」
「この前ピッピちゃんから聞いた話だと、エンジンはぜんぶなおったから、とりあえず飛べるようになったんですって。てっぽうやミサイルはまだみたいだけど」
あたしとアリサがそんな話をしていると、飛行機たちは家の前におりてきた。
ラパンの運転席が開く。
中は2人乗りで、後ろの席には王さまがすわっていた。
王さまは運転席から下りて、走ってくる。
スーリーからも兵隊たちが下りて、あたしたちを取り囲む。
「ルー! やっぱりドラゴンなんかといっしょにいたのか!」
王さまはカンカンにおこって、大声でどなった。
「あれほど言ったのに! なぜ、わがはいの言うことが聞けんのだ!」
「それはこっちのセリフですわ! クロウは何も悪いことなんてしてないのに、どうして、ひとりぼっちでいなくちゃいけませんの!?」
ルー王女も、同じくらい大声でどなり返す。
こういうところは親子だよね。
「ルー王女!」
ラパンの前の席にすわっていたピッピが、王さまをおいかけてきた。
「ルー王女、またしてもドラゴンにさらわれたんですか? どうしてマギーさんやアリサさんといっしょにいるんですか?」
ピッピはこまった顔で、ルー王女を見やる。
ドラゴンの家に、あたしたちとルー王女がいっしょにいてビックリしてるんだ。
だって、ピッピはルー王女がクロウと友だちだってことを知らなかったから。
ルー王女はしゃがみこんで、ピッピと目の高さをあわせる。
そして、やさしくほほえみながら、言った。
「ピッピ。ブラックドラゴンのクロウは、わたくしの友だちなんですの」
「ドラゴンが、王女さまの友だち……!?」
ルー王女の言葉に、ピッピは目を丸くしてビックリする。
「クロウはピッピとおなじくらい、かしこくて、やさしくて、魔法で人間のすがたになることもできるんですのよ。それなのに、ドラゴンだからというだけで、さみしい思いをしていたのです。だから、わたくしはクロウと友だちになったんです」
王女は言った。
クロウはおどおどしながら、それでも勇気を出して、ニコッと笑った。
でも、ピッピはルー王女を見て、クロウを見て、ちょっとかなしそうな顔で、うつむいた。
ピッピはドラゴンをこわがったりしない。
でも、自分が知らないところで、大好きだったルー王女とドラゴンが仲良しになっていて、なかまはずれにされたみたいな気持ちになったんだ……。
そんなのはちがうよって、あたしはピッピに言おうとした。でも、
「ドラゴンなんかが、わがはいのむすめと友だちになるなんて、ゆるさんぞ!」
王さまはカタナをぬいた。
クロウはおびえて後ずさる。
王さまはカンカンにおこってカタナをふりまわす。
「お父さま! なんてわからず屋なの!」
「むすめをたぶらかしたドラゴンめ! おまえに、けっとうをもうしこむ!」
「クロウ! こんなわからず屋の言うことなんか、聞かなくてもいいですわ!」
ルー王女はクロウをかばうように、王さまの前にたちふさがる。でも、
「……わかりました」
クロウはルーのせなかから出てきて、王さまの顔をしっかり見た。
王さまはものすごい目でクロウをにらむ。
それでもクロウはにげない。
マントの上にさげられた、サクラの花のペンダントがキラリと光った。
「……わたしが勝ったら、ルーといっしょにいることをゆるしてくれますか?」
「いいだろう! ただし、けっとうに魔法を使ったらダメだ!」
王さまは言った。
ルー王女は何か言おうとしたけど、クロウが何も言わなかったのでだまった。
「明日の同じ時間に、もう1度ここに来てやる。その時にしょうぶだ!」
そう言って、王さまは兵隊たちを連れて帰って行った。
あたしはピッピと話したかったけど、王さまはピッピも連れて行ってしまった。
ピッピがラパンの運転手だからだ。
だから、あたしとアリサ、クロウとルー王女は、つぼみの部屋でこまっていた。
「クロウ、ほんとうにごめんなさい。お父さまったら、とんでもないことを……」
ルー王女がこまった顔で言った。
お友だちになろうとしたクロウに、一方的にけっとうしようだなんて、王さまのしていることはムチャクチャだ。でも、
「……ううん、いいの」
クロウはルー王女を安心させるみたいに笑ってみせた。
「いつかは、王さまとちゃんとお話をしないといけないって思ってたから」
「でも、自信はあるの? 魔法を使わずに王さまと戦うなんて」
そう言って、アリサはクロウを見やる。
すると、クロウはちょっとこまったみたいにうつむいてしまった。
もー、アリサったら!
「きっと、だいじょうぶだよ! クロウは強いブラックドラゴンなんだから!」
あたしはクロウをはげます。
「そうですわ! クロウ! お父さまに勝てるように、魔法を使わずに飛行機をつかまえる練習をしましょう」
「……う、うん」
「マギーさん、練習につきあってあげてくださいませんか?」
「うん! いいよ!」
そして、クロウたちはクキのろうかを通って、百合の花のベランダに出た。
クロウの体が光ると、そこにブラックドラゴンがあらわれた。
「がんばってくださいませー!!」
ルー王女のおうえんに答えるように、ブラックドラゴンは大きな羽をはばたかせて、大空に飛び上がる。
あたしも、家の外にとめてたスクワールⅡに乗りこむ。
ガラスの風よけをしめて、運転席のスティックを引く。
スクワールⅡは足のエンジンをふかして、飛び上がった。
ガラスの風よけごしにドラゴンのクロウを見ながら、お話しできるようにスピーカーとマイクのスイッチをいれる。
「クロウ、聞こえる?」
『……はい、よく聞こえます』
「それじゃ、スクワールⅡをつかまえてみて!」
『や、やってみます……!!』
ドラゴンは、ギザギザの歯がついた口を大きく開けて、カギヅメのはえた手をのばして、おそいかかってきた。
でも、魔法を使わないクロウの動きはすごくおそい。
あたしがスティックをちょっとかたむけただけで、スクワールⅡはクロウの手をヒョイとかわす。
スクワールⅡをつかみそこなったクロウは、飛びながら転びそうになった。
「もっと、相手をよく見て! 魔法でねらうみたいに!」
『……は、はい!!』
それから何度かチャレンジしてみた。
けど、魔法を使わないクロウは、ぜんぜんあたしをつかまえられなかった。
運動が苦手だとは聞いていたし、ダンジョンでもそうだった。
けど、まさかここまでとは思わなかった。
クロウはスクワールⅡをつかまえようと、カギヅメのついた手をいっしょうけんめいにのばす。
でも、何回つかまえようとしても、とどかなくて転んでしまう。
そしてクルクル回りながら地面に落ちて、近くの岩にぶつかってしまう。
「イタタ……」
ちょっと泣きそうな顔になった。
「クロウ! しっかり!」
おうえんするルー王女も、だんだん心配そうな顔になっていった。
「だいじょうぶかしらね……」
ベランダで、アリサがため息をついた。