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よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第2章 ブラックドラゴンのひみつ
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百合の家で2

『クロウは、わたし以外の人間に会うのが、ものすごくこわいんですわ』

 街にもどりながら、飛行機のテレビ電話の中のルー王女がぽつりと言った。

 来るときと同じように、あたしはスクワールⅡで、アリサとルー王女はヘッジホッグに乗って、テレビ電話でお話をしている。


『やっぱり、人間にカタナや弓で追われた時のことを思い出すのね』

 アリサもうなずく。

 そうだよね。魔法で人間のすがたになってルー王女といっしょに人間の街でくらしても、人間がこわかったら楽しくないよね……。


「クロウが人間をこわくなくなる方法があればいいのにね」

『こわくなくなる魔法というものは、ありませんの?』

 ルー王女がたずねた。


 魔法使いは魔力を使っていろいろなことができる。

 あたしたちエルフィン人は、宇宙に満ちている魔力をかりて魔法を使う。

 クロウが使うドラゴンの魔法は、自分の心を使って魔力を作る。

 むかしのスゴイ魔法使いのことを考えて、そんけいする気持ちをかためて魔法の力にするのだ。

 つまり、ドラゴンの魔法は心でできている。けど、


「ごめんね、そういう魔法はないの」

 魔法が心でできていても、心は魔法じゃ変わらない。

 ムリヤリに変えようとしても、すぐにとけてしまう。

 イチゴを使ってイチゴのタルトを作ることはできても、タルトでイチゴを作ることはできないのと同じだ。


 でも、それなら、クロウがルー王女といっしょに楽しくくらすには、どうすればいいんだろう?

 あたしが考えていると、ルー王女が言った。


『お城の図書館で、人間がこわくなくなる方法がないか、調べてみますわ』

『それは良い考えですね』

 アリサは言った。


「そういえばルー王女。クロウのこと、ピッピに話さなくていいの?」

 あたしは、ふと思って、言った。

『ピッピはお父さまの使用人ですわ。こんなときにクロウの話をしても、わたくしとお父さまのどっちの味方をしたらいいのかわからなくて、こまると思いますの』

 ルー王女は『それに』と、かなしそうな顔をした。

『ほかの星やほかの国を知ってるマギーさんたちとちがって、ピッピはこの国の子ですもの、お父さまや街の人みたいに、ドラゴンをこわがるかも知れませんわ。ですから、クロウが街になれてから、様子を見て話しますわ』

 そんなことを言った。


 あたしは、ちょっとかなしくなった。

 ピッピは王さまの使用人だから、ルー王女はピッピのことをよく知らないんだ。

 あたしが、ピッピはそんな子じゃないって言い返そうとした、そのとき、


『……あら、クロウからメールが来ましたわ。マギーさんとアリサさんがホテルを決めていないなら、クロウの家にとまっていかないかですって』

『あら、それはたすかります』

『じゃあ、返事をしておきますわ。でも、くれぐれもクロウにこわい思いをさせたり、いじめたりしないでくださいませ!』

「わかってるってば。クロウが良い子だってわかったのにケンカなんてしないよ」

『ならいいんですけど……。あ、そうですわ。それなら、マギーさんたちにお使いをたのんでもよろしいでしょうか?』

 そんな話をしながら、あたしたちは町にもどった。


 そして、


「また来ておくれよ!」

 ルー王女をお城まで送った後、あたしたちは街のパン屋さんに来ていた。

 王女から、パン屋さんでパンとタルトを買ってクロウに持っていってあげてってたのまれたからだ。


「あ。マギーさん、アリサさん、こんばんわ。またお仕事をしてるんですか?」

 声をかけられた。

 見やると、パンを買いに来たピッピだった。


「うん。ルー王女から仕事をたのまれてるんだ」

「王女さまのお仕事ですか? すごいです、マギーさん!」

 ピッピはキラキラした目であたしたちを見る。

 あたしはちょっとこまった顔で見やる。

 そのお仕事が、ピッピにないしょの友だちのためにパンを買っていくことだなんて、とてもじゃないけど言えないからだ。

 そんなあたしの気持ちには気づかず、ピッピはニコニコ笑顔で話を続ける。


「わたしも王さまの飛行機の運転手になったんです。ラパンって知ってますか?」

「スーリーより強くてすばやい飛行機ね。すごいじゃない、あの飛行機って――」

 そうやってアリサと飛行機の話でもりあがてくれた。

 だから、あたしは内心ほっとした。


 そうやってピッピとお話してから、あたしたちはこっそり百合の家にもどった。

 そのころには、すっかり夜もふけていた。


「マギーさん、アリサさん、おかえりなさい」

 クロウは夕食を作って待ってくれていた。


「わーい、スープのいいにおいがする!」

「ルー王女にたのまれて、パンとタルトを買ってきましたよ」

「……ルーから? あの、ありがとうございます」

 夕食は、とうもろこしのスープに、キュウリとレタスが入ったポテトサラダ。

 それに、ルー王女にたのまれて街のパン屋さんで買ってきたパン。

 時間がおそかったから、やきたては買えなかった。

 だけどクロウはすごくよろこんでくれた。

 そして、クロウがとってきた木の実のジャムをつけて、みんなで食べた。


 食後には、イチゴのタルトを食べた。

 ルー王女が言うには、クロウもこのタルトが大好きなんだって。


 あまくてサクサクしたタルトを食べながら、クロウはニコッて笑った。

 クロウはいつもおどおどしているから、笑ってくれるとほっとする。

 いつもクロウの心配をしているルー王女の気持ちが、ちょっとわかる気がした。


「……ルーは、小さいころ、ママといっしょにこの店のタルトを食べていたんですって。その話をするとき、ルーはすごくうれしそうな顔をしていたわ」

 そっか。ルー王女にとって、このタルトはママとの思い出のおかしなんだね。

 だから、ピッピやクロウにも食べてもらいたかったのかな。


 そう言えば、ルー王女のパパは王さまだけど、ママとは会っていない。

 ルー王女のママは、今はどこで何をしているんだろう?

 王さまのこと、魔法のこと、それにルー王女がドラゴンのクロウと友だちだってことを、どう思ってるんだろう?


 あたしたちは夕食を食べた後、後かたづけを手伝ってから、おふろを借りた。

 おふろのつぼみには、むらさき色でつるがのびるアサガオのシャワーがある。

 ゆぶねは大きなアサガオのはっぱでできている。

 そこでアリサとあらいっこしたり、トリモチでベタベタにしちゃったおわびにヘチマのタワシでクロウのせなかをゴシゴシあらったりした。


 その後、ベッドの部屋にあんないされた。

 エルフィン人の魔法使いが魔法で作るお花の家は、つぼみがひとつづつ別の部屋になっていて、クキのろうかを通って行き来する。

 ろうかはたてに長くのびている。

 だけどクキの中は魔法で重力を消してあるから、宇宙みたいにフワフワうかんですすむことができる。


「……あ、あの、ここがベッドの部屋です。お客様をとめるのは始めただから、ちらかってるけど」

 クロウはそんなことを言った。

 けど、かわいい小物がきれいにかざってある、ステキな部屋だった。

 まどにはヒナギクのもようのカーテンがかかっている。


「あら、このカーテンはタカマガハラのお店のがらね」

「はい、ネットで買ったんです」

 子どもの国タカマガハラの人たちは、とても手先が器用で、かわいいものをたくさん作って売っている。


「ひとりぐらしなのに、大きなベッドでねているのね」

「あ、わかった! ルー王女がおとまりする時のためだね!」

「い、いえ、その、これはルーと出会う前から……」

 ベッドには、パパとママといっしょにねれるシーツがかかっていた。


 よくみると、部屋のすみには友だちができるびょうぶも立っている。

 つくえには、ガールフレンドとごはんを食べられるついたてがのっている。

 みんな、パパやママや友だちやガールフレンドの絵がかいてあるおもちゃだ。

 わかいドラゴンが遊ぶ車のおもちゃもある。


 そっか。

 クロウはルー王女と出会う前は、ずっとひとりぼっちだったんだ。

 だから、さみしくて、さみしくて、こんなのをいっぱい買ってたんだね……。

 あたしは、クロウがかわいそうになった。クロウがルー王女といっしょにくらせるように、あたしたちにできることがあればいいんだけど。


 そして、まどのとなりには天体望遠鏡が置いてあった。


「これも、友だちが見える望遠鏡?」

「……いえ、あの、ルーは星を見るのが好きなんです。星空のどこかに、きっとママがいるからって言ってました」

「ルー王女のママ?」

 あたしが首をかしげると、アリサがケータイを見せてくれた。


「ルー王女のお母さんのサクラ王女は、行方不明になっているの。宇宙船でほかの星に出かけるとちゅうに、宇宙サルガッソーにまよいこんでしまったんですって」

 ケータイの画面には、ずっと昔のニュースがうつっている。

「それで宇宙サルガッソーがキケンだってわかったから、今は宇宙船で近づかないようにしているの。でも、サクラ王女ののった宇宙船は、見つかっていないわ」

「そんな……」

 いつもあんなに元気そうなルー王女に、そんなヒミツがあったなんて。

 ルー王女も本当はさみしいのかな。

 だから、ピッピやみよりのない子たちにやさしくしたり、クロウと友だちになったのかな。


「サクラ王女は、この国が魔法を使ってもいい国になるよう、王さまに働きかけていたらしいわね。でも、サクラ王女がいなくなってからは、この国はずっと、魔法を使っちゃダメな国のままよ」

 それを聞いて、あたしはかなしい気持ちになった。

 ルー王女のママがいなくなって、みんながかなしい気持ちになっている。

 クロウも、ルー王女も、そして魔法が好きな人たちも。


「……ルーのお母さんは、ほかの星から来た人だから、魔法や、この星のふしぎな生き物たちが大好きだったそうです。ねる前に魔法使いやドラゴンの絵本を読んでくれたり、ふるさとの星の話をしてくれたって、楽しそうに話していました」

 そう言って、クロウは望遠鏡をそっとなでた。


「……ルーはわたしがさみしかったときに友だちになってくれたから、わたしもルーのために何かしたかったんです。でも、ルーは夜になる前にお城にもどらないといけないから、結局、1度もこの望遠鏡で夜空を見たことはないんです」

 さみしそうに笑う。そして、


「……【時間と空間の魔法】で夜まで時間を止めたら、2人で星を見れるかと思ったことがあるんです」

 ぽつりと言った。


「時間を止める? クロウはそんな魔法まで使えるんだ」

「……はい。でも、ためしてみたら、わたしたちの時間だけが止まって、まわりの時間はふつうに夜になって、遊ぶ時間がなくなっただけでした」

「人間の街でくらせるようになったら、いつでもいっしょに見れるよ」

「……うん、そうなるといいな」

 そう言って、クロウは笑った。


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