表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よわむしドラゴンとプリンセス  作者: 立川ありす
第2章 ブラックドラゴンのひみつ
10/19

百合の家で1

「クロウと出会ったのは、もう何年も前の話ですわ」

 ヒナギクのイスにこしかけて、ルー王女が言った。


 あたしたちは、ルー王女の友だちがブラックドラゴンだってうちあけられた。

 そして人間のすがたにもどったクロウといっしょに、クロウがすんでいる百合の家におじゃました。

 そこで、ルー王女とドラゴンのクロウが友だちになった時の話を聞いていた。


「ドラゴンはこの家を守ってたんじゃなくて、すんでたんだね」

 この家は、元はクロウを育ててくれたエルフィン人の魔法使いの家らしい。

 百合の家はつぼみのひとつひとつが部屋になっていて、あたしたちが案内されたのはリビングのつぼみだ。


「おしゃべりしないで、話を聞いてくださいませ!」

「あ、はい」

 ルー王女がおこたので、あたしとアリサは話を聞く。


「そのころのわたくしは、お母さまをなくして、とてもさみしい思いをしていましたの。お城には同じ年ごろの話し相手がいなかったんですもの」

 あたしは「うんうん」とうなずいた。

 お母さんもお友だちもいなかったら、さみしいよね。

「それに、お父さまがキライだからっていう理由で、お城にはお花もふしぎなものも、ぜんぜんありませんの」

 あたしは、またしてもうなずいた。

 お花も魔法もないくらしなんて、考えただけでゾッとする。

「ですから、わたくしはお城のくらしがいやになっていましたの」

 そう言って、ルー王女はローズティーを1口飲んだ。


 イスとおそろいのヒナギクのテーブルには、4つのカップがならんでいる。

 テーブルを囲んでいるのは、王女とあたしとアリサ、そして女の子のクロウだ。

 ふと気づくと、クロウがおびえたみたいな目で見ていた。

 そりゃそうだよね。あたしたちは飛行機でおそいかかって、ドラゴンのクロウをやっつけちゃったんだもんね……。


 あたしはクロウに安心してほしくて、ニッコリと笑って見せた。

 クロウがほっとした顔をしたので、あたしもほっとした。

 ブラックドラゴンがかけていると小さく見えるメガネも、ちょっとおどおどした女の子のクロウがかけていると大きく見える。

 クロウが着ている黒いマントは、ドラゴンにもどったときに、そのままスカーフにできるんだって。かわいいフリルがいっぱいついていて、すごくステキだ。


「……わたしのお話を聞いていますの?」

「も、もちろん聞いてるよ!」

 あたしがあわて答えると、ルー王女は話をつづけた。

「そんなある日、風にのって歌がながれてきましたの。歌は、夜になると、森のほうから聞こえてきましたの。森に人間なんていないはずなのに。どこかさみしそうで、でもとてもキレイな歌でしたわ」

 王女がそう言うと、クロウはちょっと赤くなって下を向いた。


「わたくしは、どなたが歌っているのかが気になって、こっそりお城をぬけだして森に向かいましたの」

「こっそりって……ひとりで行ったんですか?」

「はい。お父さまや兵隊に話すと、ぜったいに止められると思いましたの」

 でも夜だよ? まっ暗なのに、【動物と植物の魔法】なんて使えないから動物とお話しだってできないのに、ひとりで森に行くなんて。

 ルー王女って、けっこうワンパクな子どもだったんだね。


「でも、お城の外なんてほとんど出歩いたことのなかったわたくしは、森でまよってしまいましたの」

 それはそうだよね。

 あたしもアリサも「うんうん」とうなずく。

「暗くなって、帰り道もわからなくなって泣いていたとき、目の前にドラゴンがあらわれましたの。わたくしはビックリしましたわ。でも」

 そう言って、王女はクロウを見やってニッコリ笑う。

「そのドラゴンは、やさしい声で『だいじょうぶ?』って言ってくれたんですの」

「わかった! そのドラゴンが、クロウだったんだね!」

「……はい」

 クロウははずかしそうに、でもうれしそうにとうなずいた。


「……あの、わたしの先生は、エルフィン人の魔法使いだったんです」

 今度はクロウが話しはじめた。

「……この国では魔法を使っちゃダメだから、先生は街の人たちに見つからないように、山のふもとでひっそりとくらしていました」

 クロウはすごく気が弱い子みたいで、本当は大きなドラゴンだなんて思えないくらい小さな声で、ぽつりぽつりと話す。

 だから、あたしもクロウの話を聞きもらさないように、じっと耳をかたむける。


「……でも、先生はいなくなってしまって、それから、わたしは先生がのこしてくれたこの家でネットを見たり、木の実をとったりしながらくらしていました」

 クロウがさみしそうな顔をしたので、あたしたちもかなしくなった。

 クロウはいつもおどおどしているから、見ているとしんぱいになってしまう。


「……でも、ある日、さんぽのとちゅうで人間の街を見たんです」

 クロウが少し明るい声になったので、ほっとした。

「……とてもたくさんの、先生や変身したわたしにそっくりな形をした小さな人間たちが、家や城を作って、歌ったり笑ったりしていました。ネットで見たタカマガハラのお人形の家みたいで、とってもかわいいって思ったんです」

 クロウが笑ったから、あたしもうれしくなった。

 そっか、大きなドラゴンから見ると、人間や人間の家はちっちゃいお人形みたいに見えるんだね。


「……だから、わたしは人間とお友だちになりたくて、先生の言いつけをやぶって街に近づいたんです。でもうっかり変身の魔法がとけてしまって、街の人たちはドラゴンのわたしにカタナや弓でおそいかかってきました」

 その時のことを思い出したのか、クロウはつらそうな顔をした。

「……わたしは、こわくなって、にげました。そして、この国の人たちは魔法使いもドラゴンもキライだって知ったんです」

 クロウはとてもかなしい顔をした。

 あたしの耳もしゅんとたれる。

 そうだよね。あたしだって、この国で魔法を使っちゃダメだって知ったとき、かなしい気持ちになったもん。


「……わたしは、もう2度と人間の街には近づかないって決めました。でも、遠くから見る人間の街は楽しそうでした」

 クロウのさみしそうな声に、王女もつらそうな顔をした。

 そうだよね。街の人たちが友だちにひどいことして、そのせいで友人がさみしい思いをしていたんだもん。

「……だから、わたしは夜になると、人間にギリギリ見つからないくらい近くで、人間の街を見ながら、街から聞こえてくる音楽をまねて歌っていたんです」

 クロウはそう言って、でも少し楽しそうに話をつづけた。


「……そんなある日、ルーが森にまよいこんできました。そのときのルーはまだ小さな子どもで、道にまよって泣いていたから、わたしは思わずドラゴンのまま、ルーの前にすがたをあらわしてしまったんです」

 そう言って、ルー王女にニコッと笑いかける。

「……でも、ルーはほかの人間とはちがっていました。わたしを見てビックリしたけど、にげたり、弓やカタナでおそってきたりせずに、『なんてきれいな生き物かしら!』って、笑ってくれたんです」

 王女もクロウを見てニコニコ笑う。

 そっか。2人はそうやって友だちになったんだ。

 そう思ってアリサのほうを見たら、アリサはこっちを見て笑っていた。


「それから、わたくしはお城をぬけだして、クロウと遊ぶようになりましたの」

「……森の入り口で待ち合わせて、お話をしたり、木の実を食べたり、ルーが持ってきてくれた本をいっしょに読んだりしたんです」

「そうですのよ! クロウはとても頭がよくて、わたくしが持ってきた本を全部読んで、わたくしより物知りになりましたの」

 ルー王女がじまんげに言うと、クロウははずかしそうにうつむいた。


「それに魔法も上手なんですの。いっしょに遊ぶときは、クロウはいつも街はずれでまっていてくれて、街からここまでテレポートで送りむかえしてくれますのよ」

「クロウはスゴイよね。あんなに強力な魔法を何度も使えるなんて」

 あたしは思わず言った。

 テレポートだけじゃない。

 何もないところから火の玉や氷のカベを出したり、本当にスゴかった。


「テレポートなんて、あたしだって使えない魔法だもん」

「あれは……その、運動があまり得意じゃなくて、こうげきをよけたりとかができないから、戦う時はテレポートすることにしてるんです」

「マギーもしっかり勉強すれば、あんな魔法が使えるようになるのかしら」

「もー! アリサったら、すぐそういうこと言う!」

 あたしはぷぅと口をとがらせる。


「……でもマギーさんもスゴいです。飛行機を運転しながら魔法を使えるなんて」

 クロウにほめられて「えへへ」と笑う。

 アリサもこのくらいやさしかったらいいのにな!


「わたくしたちは、いつもこの家で遊んでいましたわ。でも、クロウのことをお父さまに知られてしまったんですの」

 ルー王女が話をつづける。

「わたくしは、お父さまと話し合いました。でも、お父さまは、魔法を使うドラゴンと友だちになることを、みとめてはくれませんでしたの」

 そう言って、王女はプリプリおこった。

 クロウはかなしそうな顔をした。


「ですから、わたくしは家出をしたのですわ! お城の飛行機がわたくしを連れもどしに来たのですが、クロウにかなうわけがありませんでしたわ! でも……」

 王女がじろりとあたしたちをにらむ。

 クロウも、ちょっと上目づかいにあたしたちを見た。


 兵隊たちはクロウがやっつけたけれど、ドラゴンがルー王女をさらったって信じているピッピは【なんでも屋】にドラゴンをやっつける仕事をたのんだ。

 そして、あたしたちはルー王女をまもっていたクロウをやっつけてしまった。

 ルー王女がわがままを言って急いでお城にもどったのは、クロウをかばうためだったんだ。


「ヒドイことをしてごめんね」

 あたしはアリサといっしょに、クロウにあやまった。

「……い、いえ、気にしないで」

 クロウは気にしていない様子でと笑った

「マギーさんとアリサさんは、ルーを連れて来てくれました。あんなことがあって、もう、ルーとは会えないって思っていたんです……」

 そう言って、ルー王女と見つめあった。

 2人はすごく仲良しなんだ。


「でも、これからどうするんですか? わたしたちも、これからずっと王女をここまで送りむかえするわけにはいきませんよ」

「それは、そうですけど……」

「ちょっとアリサ!」

 そりゃ、アリサの言ってることは正しいけど。

 でも2人はやっと会えてよろこんでるのに、そんなこと言うことないじゃない!

 あたしはぷぅっと口をとがらせて、アリサをにらんだ。

 でも、アリサはすずしい顔でルー王女とクロウを見やる。


「もし、よろしければ、わたしたち【なんでも屋】が2人のお手伝いをしますよ。もちろん、仕事をしたぶんのお金はいただきますが」

 そう言ってウィンクした。

 もー。アリサったら、本当にお金が大好きなんだから。


 アリサはニッコリ笑っていた。あたしも思わず笑った。

 ルー王女とクロウも、ほっとした顔で笑った。

 アリサだって、本当はお金だけじゃなくて、ルー王女とクロウのお手伝いをしたいんだよね。まったく、すなおじゃないんだから。


「まず、2人はこれから、どうしたいんですか?」

 アリサは真面目な顔で、2人に問いかける。

「わたくしは、ほかの国に行きたいですわ。魔法がダメだなんて言う人のいない国で、クロウとくらすのですの! お父さまなんて知りませんわ!」

 そりゃまー、ルー王女は行動力があるし、クロウはスゴイ魔法を使えるから、ほかの国でもやっていけそうだ。


 でも、ふと、なにも知らないピッピの顔が頭にうかんだ。

 ピッピはルー王女のことがあんなに大好きなのに、その王女がとつぜん国を出ていったら、とてもかなしむだろう。だから、


「でも、王女さまがかってに出て行ったら、国のみんなは大さわぎだと思うな」

「マギーってば、めずらしくまともなことを言っちゃって」

 もー。アリサはすぐにそういうこと言う!

「でも王女、大さわぎになるのは本当ですよ。王さまは兵隊を引き連れて王女をつれもどそうとするでしょうし、ヘタをしたら戦争になってしまうかもしれません」

 そう言われて、ルー王女は考えこむ。


「では、どうすればいいんですの?」

「そうね。クロウは人間のすがたになれるから、人間になって街でくらすっていうのはどうでしょうか?」

 あ、そっか。街でこっそり魔法を使っても見やぶれる人はいないから、魔法で人間のすがたになって、人間としてくらせばいいんだ。でも、


「ま、街でですか……」

 クロウは少しおびえた顔をした。

 それもそうか。

 クロウは人間の兵隊にカタナや弓でおそわれたんだもん。

 人間の街でくらすのはこわいよね。

「……あの、わたし、がんばってみます!」

 それでも、クロウは ぐっとこぶしをにぎってみせる。


 そして、その日はおそくならないうちに、ルー王女を連れて街にもどった。

 おそくなると、兵隊たちがクロウの家をさがしに来るかもしれないからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ