プロローグ
あたしは飛行機の運転席から、ぼんやり外をながめる。
ガラスの風よけの外は、宇宙だ。
まっ暗な空で、たくさんの星たちが、ビーズをちらしたみたいに光ってる。
そんな宇宙と運転席を、ぶあついガラスの風よけが区切っている。
そこに、あたしのすがたがうつりこんでいる。
なんとなく、髪型をチェックする。
あたしのピンク色の髪は、かわいらしい小さなツインテールになっている。
パートナーのアリサがゆってくれたんだ。
器用なアリサがゆってくれた髪は、今日もバッチリきまっている。
だから、うれしくなって、横向きに長くのびた耳がヒョコヒョコゆれる。
『ねえ、マギー』
運転席の電話が、あたしの名前をよんだ。
そう。あたしの名前はマギー。
好きなものは、あまいものとかわいいもの。苦手なものはお勉強。
宇宙にはいろいろな星があって、そこには地球人とはちょっとちがった、いろいろな人がいる。
その中で、あたしは長い耳をした【エルフィン人】だ。
『マギー、マギー? 聞いてるの?』
運転席のテレビ電話にアリサがうつった。
ぐんじょう色のワンピースを着た、長い黒髪の女の子だ。
地球人のアリサは真面目で器用で頭もよくて、料理と機械いじりが得意だ。
それに、あたしよりお姉さんだから、せが高くてすらりとしている。
『さっきからよんでたのに、なんで電話に出ないのよ。ドラゴンは見つかった?』
「う、ううん、ちゃんと見てたけど見つからないよ。いん石ばっかり」
あたしはアリサに答えてから、あわてて風よけの外をキョロキョロ見回す。
まっ暗で星がいっぱいの宇宙には、グレーの石がうかんでいる。
いん石だ。
大きないん石や、小さないん石が、いっぱい、いっぱいうかんでいる。
あたしの飛行機は、宇宙にある天の川の中を飛んでいるのだ。
遠くから見るとキラキラ光ってきれいな天の川も、中に入ると石ばっかりだ。
そして、あたしの飛行機のとなりにも、飛行機が飛んでいる。
ぐんじょう色で、まん丸で、大きなアームをはやしている。
アリサの飛行機だ。
でも、見えるのはいん石と、まん丸な飛行機だけだ。
ドラゴンなんていない。
「ドラゴンの子どもなんて、本当にいるのかな?」
『この天の川のどこかにいるはずよ。あたしたちにこの仕事をたのんだおじいちゃんが、この近くでいなくなったって言ってたでしょ?』
「そうだけど」
アリサに言われて、あたしは首をかしげる。
あたしとアリサは、お仕事で、天の川の中でまいごになったドラゴンの子どもをさがしているのだ。
『いん石のかげにかくれてるはずよ。マギーもぼんやりしてないで、ちゃんとさがしてね』
「もー! ぼんやりなんてしてないもん!」
あたしは、ぷぅっと口をとがらせる。
アリサは真面目で頭もいいけど、すぐ小言を言う。
よーし、アリサより先にドラゴンを見つけて、ビックリさせてやろうっと!
運転席のボタンをおして、ドラゴンの立体写真をうつしだす。
おじいちゃんにかりたのだ。
ドラゴンの子どもは、緑色のトカゲみたなすがたをしている。
大きさは牛くらい。
目がクリクリして、口から小さな火をチョロチョロはいている。
やんちゃそうな子だ。
それと同じドラゴンをさがして、グレーのいん石のかげを、じっくり見やる。
でも、緑色のドラゴンは見つからない。
天の川の外ににげちゃったのかな?
そんなことを思ったそのとき、緑色のものがちらっと見えた。
「あー! ドラゴン!」
『マギー、いたわよ! 右ななめ下の、いん石のかげ!』
あたしとアリサは同時にさけんだ。
大きないん石のかげから、牛くらい大きな緑色のドラゴンが顔を出している。
ドラゴンは口から小さな火をはくと、あたしとアリサの飛行機を見やる。
そして……
にげだした!
『マギー、おいかけるわよ!』
「オーケー、アリサ!」
あたしはスロットルを引きしぼる。
あたしの飛行機【スクワールⅡ】は、ピンク色のリスの形をした飛行機だ。
そのしっぽみたいな大きなエンジンと、足みたいな小さなエンジンから光の粉をふいてスピードをあげる。
ぐんじょう色でまん丸なアリサの飛行機【ヘッジホッグ】もつづく。
でもドラゴンは、どんどんにげる。
ドラゴンは牛くらい大きいけど、あたしたちの飛行機はその何倍も大きい。
そんなのに、いきなりおいかけられたら、そりゃにげるよね。
でも、あたしたちがつかまえて、おじいちゃんのところに帰してあげないと、ドラゴンは、ずっとずっと、まいごのままだ。
ドラゴンは、せなかについた小さな羽をパタパタ動かして、にげる。
あたしとアリサはおいかける。
「ヘッジホッグじゃムリじゃない?」
まん丸なヘッジホッグは、力は強いけどスピードはおそい。
でも、あたしのスクワールⅡはその反対だ。
大きなエンジンをふかして速く飛べる。
『まかせたわ、マギー』
「オーケー、アリサ!」
あたしはアリサにウィンクする。
運転席のスロットルを思いっきり引きしぼる。
しっぽのエンジンから、まぶしい光がふき出す。
さっきとはくらべものにならない。
スクワールⅡは、ものすごいスピードでドラゴンを追いかける。
するとドラゴンも、もっと羽をパタパタさせてスピードをあげた。
『引きはなされてるじゃない!』
「だいじょうぶだってば! これからが本番なの!」
モニターの中のアリサにそう言う。
あたしには、すごいスピードのスクワールⅡの他にも、得意なことがあるのだ。
それを使うために、首からさげたペンダントをにぎりしめる。
そして 呪文を唱える。
「いん石さん、大地に宿る魔力さん! ドラゴンをつかまえて!」
すると、ドラゴンが横を通りすぎようとしたいん石から、グレーの手がのびた。
あたしたちエルフィン人は、宇宙にあふれる魔法の力とお話しできる。
だから、あたしは飛行機でかっとばせるだけじゃなくて、魔法の力におねがいして魔法を使うことだってできるのだ。
今の魔法は、いん石に宿る大地の魔力にお願いして、つかまえてもらう魔法だ。
でもドラゴンは、いん石のうでをヒラリとかわして、飛んでいく。
『よけられたわよ!』
テレビ電話のなかで、アリサがにらんだ。
「だ、だいじょうぶだよ!」
あたしはあわててペンダントをにぎりなおす。
エルフィン人の魔法使いは、ほかにもたくさんの魔法が使えるのだ。
「妖精さん、宇宙に満ちる魔力さん、ドラゴンをつかまえて!」
あたしが次の呪文をとなえると、ペンダントがピンク色に光った。
光はペンダントからあふれて、前に向かってほとばしる。
魔法の光は風よけをすりぬけてドラゴンめがけて飛んでいく。
そして、しっぽをつかんで引っぱる。
ドラゴンは羽をパタパタさせるけど、ぜんぜん前に進まない。
『やったわ、マギー!』
テレビ電話の中のアリサがニッコリ笑った。
あたしもつられて笑う。
エルフィン人のあかしの長い耳が、ヒョコヒョコゆれる。
そしてヘッジホッグが追いついてきた。
大きな2本のアームでドラゴンをつかまえる。
ドラゴンはあばれるけど、力の強いヘッジホッグはびくともしない。
それから2人で子守歌を歌ったり、おやつをあげたりしているうちに、ドラゴンは大人しくなった。
そして、思いっきり飛んでつかれたのか、気持ちよさそうにねてしまった。
あたしたちはドラゴンをつれて、宇宙港にもどった。
「おお! ワシのドラゴン! よくもどってきてくれた!!」
「ギャオー!!」
宇宙港のロビーで、おじいちゃんはドラゴンの首にだきついた。
頭にのっていたトンガリぼうしが落ちたけど、おかまいなしだ。
ドラゴンはうれしそうにひとなきする。
「マギーちゃん、アリサちゃん、この子をさがしてくれて、本当にありがとう」
おじいちゃんはドラゴンをはなすと、あたしたちを見てニッコリ笑った。
ドラゴンは落ちたぼうしをくわえて、おじいちゃんの頭の上にのせる。
ドラゴンは、たくさんごはんを食べるから育てるのは大変だ。
でも、とてもかしこくて、人なつこい。
ちゃんと育てると小屋くらい大きくなって、家をどろぼうから守ってくれる。
だから魔法使いはドラゴンを大切に育てる。
ドラゴンを連れていると、ほかの魔法使いからそんけいされるんだよ。
「マギーちゃんは、すごい魔法が使えるんじゃなあ。さすがはエルフィン人じゃ」
おじいちゃんにほめられて、あたしの長い耳がヒョコヒョコゆれる。
「それにアリサちゃんは地球人じゃったか。2人とも、いい飛行機を使っておる」
「どういたしまして」
アリサもニッコリ笑った。
地球人のアリサは魔法は使えない。
でも機械いじりが得意で、飛行機のメンテナンスがとても上手だ。
そんなアリサはケータイを取りだす。
「ところで、おじいちゃん。わたしたちは仕事をちゃんとしましたので……」
「もちろん、わかっておるとも」
おじいちゃんもケータイを取りだして、ピピッとする。
すると、アリサのケータイに『お金がもらえたよ』というメッセージと、ゼロがいっぱいの数字が出た。
あたしとアリサは【なんでも屋】をしている。
この広い宇宙のいろいろなところで、こまっている人をたすけたり、トラブルをかたづけたりしてお金をかせぐ仕事だ。
「たしかにお金をいただきました。ありがとうございます」
「もー。アリサったら、お金が大好きなんだから」
アリサはニコニコ笑った。
アリサの目は、お金みたいにキラキラ光っていた。
そうして、あたしたちはおじいちゃんとドラゴンとわかれた。
それから自分体の宇宙船にもどって宇宙港を出発した。
あたしとアリサは【なんでも屋】をしながら、宇宙船【カピバラ号】で宇宙を旅してるんだ。
そして、あたしは宇宙船のろうかをすすんでいた。
宇宙には重力がないから、上も下もなくて、フワフワうかぶ。
あたしはろうかをフワフワうかびながら、空を飛ぶみたいにすすんでいた。
「ねえねえ、アリサー」
アリサのいるブリッジの前までやってくると、自動ドアが開いた。
中に入る。
フワフワうかばなくなって、カーペットに足がつく。
部屋の中には重力を作るカーペットがひいてあるのだ。
「マギーったら、どうしたのよ。そんな大声をだしたりして」
「さっきの仕事で、おじいちゃんからお金がたくさんもらえたでしょ? だから、どこかの星に遊びに行こうよ」
「遊びに行くって、どこによ?」
アリサはめんどうくさそうに言った。
「子どもの国【タカマガハラ】なんてどう? ヘンなものがいっぱいあるんだよ」
あたしは部屋で見ていたケータイの画面を見せながら、アリサに言った。
「みてみて【友だちができるびょうぶ】だって。びょうぶに友だちの絵が書いてあって、部屋に立てておくと友だちがいっぱいいる気持ちになれるんだって」
「知ってるわ。タカマガハラの人は、昔からずっとヘンなものを作っているもの」
「それに【パパとママといっしょにねれるシーツ】なんてのもあるよ。シーツにパパとママの絵がかいてあるんだって」
「……そんなもの買わなくても、さみしかったら、わたしの部屋でいっしょにねてもいいわよ」
「わーい。アリサやさしー」
「そのかわり、これからひと仕事してみない?」
「もー。アリサったら、この前、ドラゴンの子どもをさがしたばかりじゃない」
アリサが仕事のことばかり言うので、あたしはぷぅっと口をとがらせる。
せっかく仕事が終わったんだから、アリサと遊びたかったのに。
でも アリサはあたしの気持ちなんてぜんぜん気にしないで、ニッコリ笑う。
「それなら、ちょうどいいわ。今度の仕事は、悪いドラゴンをやっつける仕事よ」
そう言って、目をお金みたいにキラキラさせた。
「アヴァロンにある小さな国で、ドラゴンがおひめさまをさらったそうなの。仕事をたのみたい人の名前はわからないけど、すごくたくさんのお金がもらえるわ」
「もう、しょうがないなー」
お花の星【アヴァロン】は、あたしたちエルフィン人のふるさとだ。
ふるさとの星でこまってる人がいるんだ。
だから、遊びに行っている場合じゃないよね。