アリエルとセレーナ
今回は見直しをしてないので手抜きです。
女神騎士城を出た後、僕とお姉ちゃんは2人で王都を歩いていた。
「そう言えば、アリエルはなんで王都に来たの?」
「え、えーと……お姉ちゃんに会いたくて!」
僕は勇者になるため、とは答えられないから、それっぽい理由を答える。まぁ、実際お姉ちゃんに会いたかったのもあるんだけどね。最近はドタバタして会えなかったけど、いずれ会うつもりではいたし。
「あと、王都がどんな場所かを見るため、まぁ社会勉強のため、かなぁ?」
これもあながち嘘ではない。
「そっかそっか。お姉ちゃんに会いたかったのね~。そうよね、4年は長いもんね。お姉ちゃんも、とってもアリエルに会いたかったわ」
僕の返答に、嬉しそうに答えるお姉ちゃん。
「それで、どのくらいの期間王都にいるつもりなの?」
「えっ?えっと」
もちろん、勇者になれるまで、というのが本当の答えなんだけど……
「せっかく久しぶりにお姉ちゃん会えた事だし、しばらくはここにいようかなって思ってるよ」
お姉ちゃんには申し訳ないんだけど、ここは誤魔化させてもらう。具体的な事さえ言わなければ平気だろうから。
「ここにはいつ来たの?」
「2週間前。バタバタして、お姉ちゃんに会いに行く機会がなかったんだよね」
「そっか。ていう事は、じゃあ今までは宿で寝泊まりしてたの?」
「うん。お金はお父さんとお母さんがくれたから、それを使ってるんだ」
僕は、事実を微妙に捻じ曲げて話した。
確かに、お父さんとお母さんに貰ったお金はあるけど、馬車代以外では手をつけていない。
ギルドでダークウルフ討伐の依頼を受けているとかなり稼げるので、僕は自分で稼いだお金だけを使うようにしているのだ。
ダークウルフは、一体倒すと1週間は暮らしていける程の報酬が出る。僕は大量に狩るために、そこから値引きするが、それでもかなりの値段になる。
そのため普段使わないお金は、ギルドに登録した人なら誰でも使える、ギルドバンク、つまり銀行に貯金している。
これは、魔法で個人を認証する事で、様々な地域に点在するギルドの中にあるギルドバンクからなら、どこからでもお金を引き出せるという便利なものだ。
ちなみに、僕は手持ち金だけでもかなり持っているので、最近は報酬をギルドバンクに入れてもらうようにした。
「っていうことは、アリエル今収入がないでしょ?お姉ちゃん、魔物を討伐しててお金たくさん持ってるから、アリエルに分けてあげる」
「ええっ?!そんなの悪いよ。それに、お父さんとお母さん、結構お金くれたんだ。だから大丈夫だし、お金が足りなくなれば、帰るよ」
お金を無条件でくれるというお姉ちゃんを制する。
お姉ちゃんにお金をもらう気は無い。
というか、もらう必要がないもんね。
すると、怪訝そうな目を僕に向けて来るお姉ちゃん。
「……お父さんとお母さん、そんなにお金くれたの?」
「う、うん」
「…………」
僕の言葉にしばらく沈黙するお姉ちゃん。
なんとなくお姉ちゃんが考えている事はわかる。
そもそも実家は裕福じゃない。あくまでも一般家庭だ。それを考えれば、姉に会いに行くのと社会勉強という理由だけで、2週間以上もの宿賃を僕に持たせられるとは思えないだろう。お姉ちゃんも家を出た時はそこまでのお金は渡されていなかったはずだ。
実際僕にも、そこまでのお金は渡されていない。
お金は自分で稼ぐと言って、あまり貰ってはいないのだ。
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
僕はあくまでもそれに気づいていないフリをした。
すると、突然お姉ちゃんの目が鋭くなる。
「アリエル、具体的にいくら貰ったの?」
それは、僕に対して睨むような目だった。
しかし、それは自身が家を出た時よりもお金をもらっていると言っている僕に対しての嫉妬とかではない。
「えっ?!お、覚えてないよ……」
そう言うと、はぁ、とため息をつかれた。
「アリエル、お姉ちゃんに嘘をつくのは良くないわね。私はアリエルがお金の価値を知っていて、それでいて管理もしっかりとできる事くらいわかるわよ?」
あくまでも、お金に関して何もわかっていない人間を演じようとしたのに、お姉ちゃんには通じなかった。
僕がお姉ちゃんの鋭い目から視線をそらそうとしたら、頰を掴まれて無理やり目を見させられた。
「本当の事を話して」
「……………いい働き口を見つけたんだ」
僕はだんまりを決め込もうとしたが、お姉ちゃんの気迫には勝てなかった。
「はぁぁ、どうせそんなところだろうと思ったわ。なんでお姉ちゃんに嘘ついたの?その上、お金の価値がわからないフリまでして」
「どこで仕事をしているのかバレたくなかったんだ……ごめんなさい」
僕が謝ると、お姉ちゃんは抑えていた頰を話してくれた。
あぁ、やっぱりお姉ちゃんは怒ると怖いな………
僕は少しだけ涙目になりながら俯いた。
多分、このままどんな仕事をしているのか聞かれちゃう。そしたら、勇者になろうとしている事もバレて……
昔、勇者になると言った際、アリエルにそんな危険な事はさせられない!!と、物凄く怒られた事を思い出した。
多分このまま全部バレちゃうんだろうなぁ、と思いながら目に涙が溜まっていくのを感じた。
「……いいわ、どんな場所で仕事してるかは聞かないでおいてあげる。お姉ちゃんに嘘ついてまで隠したいんでしょ?アリエルの事だから、危ないところじゃないんだろうし」
その言葉に驚きながらも、僕は無言で頷いた。
そして、お姉ちゃんが自分を信用してくれている事を知って嬉しくなり、久々に触れたお姉ちゃんの優しさに口元が緩んだ。
「お姉ちゃんありがとう、大好き!!」
そう言って、僕は思いっきりお姉ちゃんに抱きついた。
抱きついたまま、お姉ちゃんを見上げると、お姉ちゃんは笑って僕の頭を撫でてくれた。
「あんな涙目をされたら、問い詰められるわけないじゃない……」
その時、お姉ちゃんは小声で何かを言ったが、僕には聞き取れなかった。
「今、なんて言ったの?」
「なんでもないわ。お姉ちゃんも、アリエルの事大好きよ」
僕とお姉ちゃんはしばらくそうしているのだった。
その後、しばらくは王都でお姉ちゃんと楽しく雑談しながら道を歩いていると、やがて僕の泊まっている宿にたどり着く。
「あ、お姉ちゃん。僕の宿はここなんだ」
「えっ?!」
僕が立ち止まって僕がここで生活している事を伝えると、目を見開いて驚くお姉ちゃん。
「どうしたの?そんなに驚いた顔して」
「いや、確かここって結構なお値段する宿だった気がするんだけど……」
「そうなの?評判が良かったからここ選んだんだけど」
エフィーさんにおすすめの宿を聞いたら答えてくれたのがここだったんだけど。そんなに高いところだったんだ。
「そんなに易々と……アリエル?あなた、一体いくら稼いでるのよ」
「稼いだお金の全額は確認してないからわかんないけど、手持ちのお金だけでも、ここで3週間くらいは生活できるかな?」
「手持ちだけで3週間?!」
「う、うん。それがどうかしたの?」
お姉ちゃんがワナワナと震えている。もしかして、そんなに高い宿だったのだろうか。
「アリエル、あなたがやっている仕事って、本当に安全なんでしょうね?」
「うん。僕なら安全だよ」
う、嘘は言ってないよね?
ダークウルフに傷つけられる事なんてまずないし、安全だよ、うん。
「そんなに自信があるならいいですが……これは前言撤回しなくちゃいけないわね。さっきはお金の価値がわかっているって言ったけど。アリエル、あなたはお金の正しい価値観がわかっていないみたい」
「そうなの?」
「ええ。これは問題ね。手持ち金ってどこに置いてあるの?ちゃんといつも持ち歩いてる?」
「ほとんどは部屋に置いてあるよ」
「なっ?!盗まれでもしたら大変じゃない!!アリエル、急いで部屋に向かって」
「ぅえっ?!わ、わかったよ」
突然焦り始めたお姉ちゃんが僕の手を引いて宿の中へ入っていく。
「どこの部屋?」
「2階の1番奥だよ」
僕がそう言った直後、階段を登り始めたお姉ちゃん。
そして、あっという間に部屋の前にたどり着く。
僕はポケットから鍵を出して部屋の扉を開けた。
瞬間、まるで我先にとでも言うかのように部屋の中へ入るお姉ちゃん。
そして、僕の部屋を簡単に調べ、その後目の下をひくつかせながら僕を見てきた。
「部屋はリビングと寝室の2部屋。その上ベッドは最高級のものを使用。極め付きは、魔法道具による全自動温水シャワーと、トイレの完備……………」
「それがどうかしたの?お姉ちゃん」
「ア、アリエル?本当に何をしたらこんな超高級宿に泊まれるのかしら?教えて欲しいくらいなのだけど」
お姉ちゃんは部屋の真ん中で突っ立っていた状態から、徐々に僕の方へ詰め寄ってくる。
が、その途中で大きな袋のようなものがお姉ちゃんの足に当たった。
ジャラッという音が室内に響く。
「アリエル………念のために聞くけど、この巨大な袋の中に手持ち金があるとか言ったりしないわよね?」
「ううん。それが手持ち金だよ」
「……袋の中、見ていいかしら」
お姉ちゃんは恐る恐る僕を見つめてきた。
「何言ってるの?お姉ちゃん。ダメなわけないでしょ?お姉ちゃんは僕の家族なんだよ?」
「そ、それもそうね。なら、見させてもらうわ」
そう言って、お姉ちゃんは紐で閉じられた簡素な袋を開ける。
そして、固まった。
「…………」
「どうしたの?お姉ちゃん」
僕は固まったお姉ちゃんが心配になってお姉ちゃんの近くに寄った。
すると、お姉ちゃんはしばらく黙り込んだ後に、話し始めた。
「いい、アリエル?よく聞いて。この国の平均所得は、月に金貨8枚と言われているわ。一応言っておくと、この袋に入っているのは、全部金貨よ。この国で最も価値の高い硬貨。それが、袋いっぱいに入っている。私の言いたいこと、賢いアリエルならわかるわね?」
「……」
始めは、お姉ちゃんの言っていることが頭に入ってこなかった。でも、それは始めだけで、お姉ちゃんの言いたいことはすぐに理解できた。
瞬間、自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
「ど、どどどどどうしよう、お姉ちゃん!!!!僕、最初から金色ばっかり渡されてたから、てっきり最低の価値のものなのかとばかり……!!」
「落ち着いてアリエル、それはいい事よ?決して顔を青くするような悪い事じゃないわ」
「そ、そっか。うん、そうだよね」
そう言えば、初めての報酬でも、エフィーさんは一千万メキアって言ってた……あの時は桁の数にびっくりしただけで、価値がいまいちわかってなかったけど、今ならわかる。これは、とんでもない大金だ。
「でも、そうは言ってもいささか異常ね。こんな大金を手持ちって言うなんて。アリエルが総額でいくら稼いだのか、考えるだけで怖いわ」
「うん。なんだか僕も怖くなってきちゃったよ」
僕がそう言うと、お姉ちゃんは大金の入った袋の紐を締めた。
そして、ふぅ、と一息ついてから部屋をぐるりと見渡して言った。
「それじゃあアリエル、荷物をまとめてくれる?と言っても、あんまり荷物はないみたいだけど」
「なんで荷物をまとめるの?」
僕が不思議そうに聞くと、お姉ちゃんはさも当たり前かのように言った。
「なんでって、これから一緒に暮らすじゃない」
「一緒に暮らすって、それは無理じゃない?」
「…………えっ?」
しばらくの間沈黙が場を包みこんだ。
「ア、アリエル?まさかとは思うけど、あなた、お姉ちゃんと同じ部屋で生活するのが、嫌なの?」
すると突然、お姉ちゃんが僕の肩を掴んで目を覗き込んでくる。
「いや、そう言うわけじゃないけどさ。お姉ちゃん寮生活でしょ。僕を連れ込んだらダメなんじゃないかな?」
「あっ………」
「ね、無理でしょ?」
僕は確認するようにお姉ちゃんを見た。
お姉ちゃんはしばらくうなだれてから諦めの悪そうな笑みを浮かべた。
「……そこは、まぁなんとかするわ」
「ええっ?!いや、ダメだよね?そこは諦めようよ。お姉ちゃん」
「お姉ちゃんね?学校では結構優秀な方なの。首席を争ったりとかしてるのよ?」
「凄いとは思うけど、それがどうかしたの?」
「多少のワガママくらいは、学院長が許してくれるかもしれないわ」
「駄目だよ、そんな事しちゃ。僕は学院の部外者なんだからさ?」
「私の弟なんだから、部外者なんてことないわよ」
それはそうかもしれないけど……
「いいから。大丈夫よ、学院の近くにも宿はあるから。最悪そこに泊まればいいわ」
「そんな、滅茶苦茶だよぉ、お姉ちゃん!」
「ごめんね、アリエル。でも、お姉ちゃん、どうしてもアリエルと暮らしたいの。それに、私と一緒の方がアリエルだって楽しいでしょ?」
「それは、もちろんそうだけどさ……」
「というわけで、お姉ちゃん命令です。荷物をまとめなさいっ!」
結構無理矢理な命令を受けて、僕はそのまま超高級宿を出るのだった。
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とっくにできてたのに投稿するの忘れてました……まだまだストック作ってます。