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大人気ない女神騎士様

だいぶ久々ですいません。ストックがなくなってしまったので遅くなってしまいました。

女神騎士様に対する第一印象を聞かれたら、僕は迷わずに答えるだろう。そんなの、決まってる。

「て、ててて……ティアさん?!」

驚・愕、の2文字だ。

いや、知ってはいたんだよ?状況証拠ではあったけど、ティアさんが女神騎士様だということはおよそおそらくわかっていた。

とはいえ、だよ。

やはり驚いてしまうだろう。偶然とはいえ、自分が助けたの人物が女神騎士様だったのだから。

「あら?私の名前、知ってるの?公式には知らせてないからこれから自己紹介をしようと思ってたのに」

何やらイタズラっぽい笑みを浮かべるティアさん。

本人が認めた?!ということは……やっぱりティアさんが女神騎士様だったんだっ!?

と、いうことは、もしかして、僕が男である事を知っている……?

冷や汗が流れた。

「ひ、人違いです!!し、失礼しました女神騎士様」

「そう?まぁいいわ。私の名前はティア・ラベンダー。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」

今回、僕は目覚ましい活躍をしていたから呼ばれている。でも、女神騎士様の公開されていない実名を知っているとなれば、噂の少年と同一人物と思われてもおかしくない。

い、いや、そんなはずはない。だって、今の僕は女の子なんだから。

手を組むようにして震えを隠した。

「緊張しないでいいから。そこに座ってもらえるかしら?」

すると僕は、女神騎士様と対面する形で置かれた椅子に座るように促された。

「は、はい……」

「どうしたの?暗い顔して」

「いえ、なんでもありません」

「そう、ならいいのだけど」

僕は心の中で、少しでも判断を間違えれば、自分がティアさんを救った人物だとバレてしまうのではないか、という不安を抱えていた。

ミスはできない……慎重に行こう。

「あ、あの。それで、今回はなぜ私を呼んだんですか?」

なるべく女の子を意識した行動をとりながら話す。

椅子と面している両足はピタッとくっつけ、内股にする。

すると、女神騎士様、もといティアさんはクスリと笑ってから口を開いた。

「そうね、まずはそこから話しましょうか。あなた、最近活躍が目覚ましいそうね。ダークウルフを素手で倒したんですって?」

「ええ、まあ。何といいますか、その

、武器は触ったことなくて」

女神騎士様に褒められてちょっと嬉しくなるが、油断は禁物だよね。緩む心に鞭を打ち、少し上がりかけた口角を元に戻して引き締める。

「それがあなたをここに呼んだ理由の1つよ。今言った強さよ」

「え?」

唐突に、鋭い口調で言われる。そこに、僕は何か違和感を感じた。

「強さが、理由、ですか?」

「ええ。あと2つあるわ」

「ふ、2つ、ですか?」

え、えっ?

何か、おかしい。

先程から、ティアさんの口調が僕を追い詰めるような、攻め立てるような厳しいものになってきている。

僕はてっきり、自分が活躍をしているから、勇者に選ばれるのかと思っていた。

だが、僕を呼んだ理由はあと2つもあるという。

この高圧的な感じ……勇者候補を見つけたから呼んだ、という感じではない。

ここで僕は、なぜ自分がここに呼ばれたのか、気付き始めた。

「私は知っているけど、間違いがないか、一応聞くわね。あなた、名前は?」

「ア、アリエル・ナーキシード、です……」

おそろ遅る答えると、ぱぁっと明るい表情をするティアさん。

「やっぱり!ふふっ、実はね?私が婿に欲しがっている人と、あなたの名前が同じなの」

両手を合わせて楽しそうに笑うティアさん。一見すると何かを喜んでいるようだが、その目はしっかりと僕を見つめていて、決して逃しはしない、という強い意志を感じた。

そして、ここで僕は自分が重大なミスをしていた事に気づいた。

「ーーっ!!」

し、しまった!!外見が大幅に変わってたし、女の子になれば、女神騎士様の目は欺けるとばかり思ってた……偽名を使うんだった!!

僕は、後悔の念から下唇を軽く噛む。

額から、頰を伝って冷や汗がこぼれ落ちた。

「今話したのが2つ目の理由。そして、最後の理由は……」

ティアさんはニヤリと笑って、僕の腕時計を指差した。

「ひっ?!」

慌てて左腕につけた時計を隠すが、もう遅かった。

「その、逆転の腕輪。裏返すことで性別を変えられるっていう魔法の道具で間違いないわよね?」

「えっ?!い、いや。あの、ちが……」

僕はとっさに否定しようとしたが、もう遅かった。尻すぼみになっていった僕の声を遮るようにティアさんが大きな声で僕の声を遮ったからだ。

「私が小さい頃、私の前の代の女神騎士様に見せてもらっていたの。間違うはずがないわ!部下に聞いたときは耳を疑ったけど……ええ、本物のようね。見間違えるはずがないわ!!」

こう言われた瞬間、僕は理解した。

自分がアリエル・ナーキシードという少年だとバレていた事を悟った。

僕がここに呼ばれたのは、勇者候補としてじゃない。女神騎士様の婿候補として呼ばれていたのだ。

彼女は、最初から僕を勇者にする気なんてなかったのだ。

それがわかると、すぐに自己嫌悪が始まる。悪い癖だと思ってはいても、一度卑屈になるともう止まれない。

偽名を使っていれば、もうちょっと上手くいったの、かな?

もっと会話の仕方とかも変えてれば。あぁ、もうだめだ。全部後の祭りなのか。バレてしまったんだ……もう、勇者には、なれないのか……

「それで、私思ったんだけど、もしかしてあなた私の探してる婿候補なんじゃ…ってええっ?!」

「グスッ。えぐっ、うっううっ」

自然と、涙が出てきていた。

勇者に、なりたかったなぁ。頑張って来たのになぁ。あぁ、せっかく僕の頑張りが功を奏して来たことがわかって来たのに……

「な、なんで泣いてるの?」

「うっ、ううっ。勇者、に、えぐっ、なりたかったのにぃ……」

一度流れ出した涙は、止まる事なくポロポロと溢れ出る。

「え?勇者……あ、も、もしかしてあなた、私と結婚したら勇者になれないかもって思って、る?のよね、他にないわよね」

すごく気まずそうな顔をするティアさん。

でも、その顔は歪んでよく見えない。

「ううっ、5年間、頑張って来たのにぃ、頑張って、来たの、に……うわぁああああん!!」

僕は、大きな声を上げて泣いた。その時が女の子モードだった、というのもあるけど。男でも泣いただろう。 365日、毎日欠かさずに、勇者になるために頑張って修行して来たのだ。それが、一瞬で、たった一瞬で勇者になれる可能性を断たれたとなれば、誰でも傷つく。

「ええっ?!な、泣かないで!お願い!ごめん、ごめんなさいね、私が、私が悪かったわ!」

オロオロするティアさんだが、もう彼女の事なんて頭になかった。

ただ、勇者にはなれない、という事実だけが頭に反響する。

「うわあああああぁぁぁん!!」

「あぁ、どうしよう、小さい子泣かせちゃった……これじゃ女神騎士として失格よね?!ねえお願い、泣かないで、なんでもするから、ね?」

「うっ、うっ、え?なんでも、ですか??」

「そう、なんでもよ!!」

瞬間、僕の口から言葉が綴られる。

「私を……いえ。僕を勇者にして下さい!!」

腕輪を裏返しなが、そう言った。

直後、光に包まれて、僕の体が少年のそれに戻る。

「その姿!!やっぱり、あなただったのね!」

僕の目からは、もう涙はでていなかった。

それを見て驚いた顔をするティアさんだったが、顎に手を当てて顔を少し顔を傾げた後、苦笑いした。

「でも、それはちょっとできないかな……贔屓はできない決まりだから……」

「ううっ、なんでもっていったのにぃ!……」

再び目から涙が溢れてくる。

「ああっ、泣かないで!勇者は無理でも、それに近い勇者候補とかならできるわよ!王様に推薦文書いてあげるわ!」

「ううっ、え?女神騎士様が決めるんじゃないんですか?」

「それは、最後の話ね!私が決めるのは勇者決戦で勝ち抜いた人が勇者にふさわしいかどうか。あなたはまだ勝ち抜いていないどころか、戦いにも参加していないから。でも、あなたなら勝てるわ!きっと!」

それを聞いて、一瞬明るい気持ちになるが、すぐに俯いた。

「でも、それまでに結婚したら、僕、お城に閉じ込められて勇者になれなくなっちゃう……」

「と、閉じ込めるって……まぁ確かに形はそうなるかもしれないけど、私はそんなことしないわよ!」

「本当ですか?」

「本当に!」

少し、落ち着いて来た。閉じ込められないなら、仮に女神騎士様と結婚しても、勇者になれるかもしれない。

「なんなら、結婚はまだいいからしばらく私と生活してよ!」

「え?嫌です」

「ええっ?!傷つく?!」

「だって、修行しないといけないですし」

「私が手伝ってあげるわ!これでも女神騎士だから強いのよ!」

そう言って胸を叩くティアさん。

「でも、この前は狼に手も足も出てなかったじゃないですか」

「うっ……そ、それは!杖がなかったからよ!」

「杖?」

「そう、杖!今はあるから試しに戦ってみようか?それなら私の強さを証明できるわよ?」

そう言って、椅子に立てかけてあった杖のようなものを取り出すティアさん。

「それじゃあ、お願いします。」

「じゃあ、重力魔法かけるから、一歩でもあなたが動けたらあなたの勝ち、止められたら私の勝ちね!」

「わかりました」

話し合いもなく、唐突にルールを決められて、大人気ない人だな、と思わなくもないけど、今回はティアさんがどれだけ強いか知るためのものだから気にしない。

すると、彼女は杖を手にとってから、軽く唸る。そして、僕に魔法をかけるそぶりを見せた。すると、体が少し重くなった。

「悪いけどこっちも必死なの!死なない程度に行かせてもらうわよ!」

下を見ると、僕の足が沈んで、ビシビシビシッと地面にヒビが入る。

僕の重みが増しているんだろう。

「あの、もう少し強くても平気ですよ?」

「えっ?!そ、そう?なら最大出力!」

今度は僕の足元に杖を振りかざしてくるティアさん。杖からは紫色の光が出ていた。

と、僕が思った瞬間のことだった。足がさらに重くなる。

「はあっ、はあっ、ど、どう?身体中が骨折しててもおかしくないレベルの魔法よ?正直この魔法をかけたくはなかったんだけど、さっきも言った通り、私も必死だからね……」

「は、はぁ……」

息切れした様子のティアさんを見て、僕は少しだけ不思議に思った。だって……

僕は余裕で片方の足を前に出した。

普通に歩いたつもりが、僕が踏んだ床が、ぐしゃっという音を立てながら、小さいクレーターを作る。

僕は全然辛くないが、どうやら魔法はかかっているようだった。

「ええっ?!う、うそ、でしょ?!」

「僕の勝ちですね。では、これにて帰らせていただきます」

僕は、ズシャンッズシャンッと、クレーターを作りながらティアさんの元から離れようとした。

「ちょ、ちょっと待ってぇ!!私なら、け、剣とか教えられる人が周りにいるわよ!」

「え?剣ですか?いいですよ、素手でやります」

目の前に走って先回りして、このバルコニー(?)に入ってきたドアを塞がれる。

「武術も教えられるわよ?!」

「独学でやって来たので」

僕が淡々と返事を返すたびにガクガクとうなだれていくティアさん。すると、いきなりガバッとこっちに顔を上げた。

「こうなったら、仕方ない、わよね?本当は私用には使っちゃいけないんだけど……」

「え?どうかしたんですか?ティアさん……?」

僕が不思議そうに言った時だった。彼女は杖を上に振りかざして、叫んだ。

「女神騎士命令よ!みんな!ここにいるアリエル・ナーキシードちゃんを捕まえてっ!!!あ、でも対応は最上級でね!」

彼女が突然大声を出すものだから驚いて、二、三歩下がった。

「えっ?!ティ、ティアさん?一体何を?」

「ごめんね、アリエルちゃん。仕方ない事なの。抵抗しなければ良くされるはずだから」

恐る恐る聞いた僕は、彼女の表情を見て血の気が引いた。

必ず僕が捕まえられると、そう思っているような表情だった。

「ひっ?!」

身に危険が迫っていると、直感で感じ取った僕は、すぐさまバルコニーの柵の方へと駆け出した。

ここは4階くらいの高さだ。これくらいなら、多分落ちても平気だろう。

ティアさんによって塞がれた扉を開けるよりも、飛び降りたほうが手っ取り早いと思ったのだ。

が、しかし。僕が柵に手を当てて体を越えようとしたその時、地面から筋骨隆々な人達が、一斉に僕の方へ飛び上がってくるのが見えた。

「ひいいっ?!」

逃げようとしたのに、逃げられない。

僕は咄嗟に柵から手を離して、テーブルと椅子がある、バルコニーの中心に戻った。

出口は、相変わらずティアさんが塞いでいる。

柵からは、筋骨隆々のコワモテの人達が続々とよじ登って来る。

そして、僕は一瞬で囲まれてしまう。

とくん、とくん、と、心臓の音が聞こえた。周りを見渡しても、男の人達がずらっと後ろで腕を組んで僕を囲んでいる。十数人はいるだろうか。

その迫力に気圧され、僕はズテッと、その場に膝から崩れ落ちた。怖くて体が震えてきた。

これから、僕はどうなってしまうんだろうという不安が頭をよぎる。

「さぁ、その子を捕まえてちょうだい」

冷酷にも聞こえるその声の主は、ティアさんのものだった。

そして、彼女の命を受け、男の人達がジリジリと僕に迫ってくる。

僕は怖くて震える体を抑えるため、自分で自分を抱きしめるような体制をとった。

男の人達の表情は無表情だが、それがさらに僕の中の恐怖を煽った。

怖い怖い怖い怖い怖い!!誰か、誰か助けて!!

心の中で助けを呼ぶが、誰もこないのは分かっている。声に出さなくては。誰か来てくれる可能性は低いけど、助けを呼ばなくては。

「だ、誰か……」

でも、僕の口から出た言葉はかすれたものだった。

僕は唾を飲み込んで、乾いた喉を少しでも湿らせるようにする。

そして、今度はありったけの力を込めて叫んだ。

「助けてえええええっ!!」

その声は、まるでか弱い少女の叫び声のようだと、他人事のように思った。

その声に、一瞬うろたえた様子を見せた男の人達だったが、すぐに僕の方へと距離を詰めてくる。

怖い。単純に、筋骨隆々ガタイのいい人達が、僕を囲んでつめよってくるのだ。とてつもなく怖いに決まっている。

助けを呼んだけど、もうダメだ。多分誰も来てはくれない。僕の味方なんて、この場にはいなかったんだ。

僕がそう思って、また泣きそうになった、その瞬間だった。

ビュウウウウッという音がして、強風が発生した。

その風は、僕を中心にして吹いて、男の人達を勢いよく吹き飛ばした。でも、それだけの威力を持つ風なのに、僕にだけは全く当たっていなかった。

広いバルコニーの中で、全員の男の人達が壁や柵にぶつかるところまで端に吹き飛ばされて、僕から遠ざけられる。

「こっ、この魔法は……!!」

ティアさんは、杖を前に出して、壁のようなものを作って風を防いでいた。

そして、しばらくしてから風が止むと、僕の目の前には、長い髪をたなびかせた1人の女性がいた。

その人は、ティアさんの方を向いていて、後ろ姿しか見えないために、一体どんな顔をしているのかはわからない。

「やっぱり、あなただったのね……」

ティアさんは、ため息をつきながら呟く。

「ティア……あなたは、決してやってはいけない事をしたわ」

ティアさんの呟きに答えたその声に、僕は目を丸くした。

「何の事、かしら?」

引きつった笑みを浮かべて、ティアさんはその女性に問いかける。

「その子に……アリエルに……!!私の、可愛い可愛い()に手を出したわね?」

目の前にいる人は、突然大声で、バルコニーに怒声を響かせた。

少しの間、この人が何を言っているのかわからなかった。が、すぐに頭の中で情報処理が行われる。

え?弟?というか、この声って、まさか……。

より一層、目を丸くした時、その人は僕の方に振り向いた。

「アリエル、お待たせ。ごめんね、助けにくるのが遅くなっちゃって」

その人は、僕の方を見て微笑んだ。二重の目、ほんのりと桃色の頰、艶やかな唇。とても優しい気な表情をしていて、眉に少しかかるくらいの前髪は、綺麗に整えられていて、腰ほどまである髪は、風で軽く揺れている。

あぁ、間違いない。僕は確信した。こんなに素晴らしい人は、この世にそうはいないだろう。

彼女誰なのか分かった瞬間、僕の体の震えは止まった。どうしようもない不安は消え去って、嬉しさだけがこみ上げてくる。

僕はすぐに立ち上がって、その人の顔を見て笑った。

「ううん、いいんだ。だって、お姉ちゃん(・・・・・)が来てくれたから!!」

これから、何話分かストックを作りたいので、ちょっと間が空くかもしれません。

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