エリリィ魔道具店
いやぁ〜〜、大分間が空いてしまいましたね。すいません、普通に書くのサボってました。これからは気をつけます。
僕は満面の笑みを浮かべていた。
「アリエル君凄いじゃないか、首席なんて。実技が得点化不能レベルなのは当然としても、筆記が満点とは思わなかったよ」
「ありがとうレンド君!お姉ちゃんには実技だけでも合格できるって言われてたけど。まさか首席だとはね」
僕は一刻も早くお姉ちゃんにこの事を報告したかったため、少しそわそわてしまう。
そんな僕の心境をくみ取ってなのか、彼も同じような気持ちだったのかはわからないけど、レンド君は笑って言った。
「お互い家族に合格を報告したいと思うし、今日はこの辺で別れようか。また明日も会える事だしね」
「それじゃあ、また明日ねっ」
「うん、また明日会おう」
レンド君と別れた後、軽くスキップをしながらお姉ちゃんに報告しに行く。
お姉ちゃんは寮にいると思ったので寮に向かおうとしたのだけど、その途中で、人混みの後ろからキョロキョロあたりを見渡しているお姉ちゃんを見つけた。
見たところ、僕の報告を待っているって感じ。
お姉ちゃんを見つけた僕は、目一杯の笑顔を浮かべながら一気に人混みを掻き分けた。
「お姉ちゃあーーん!!」
お姉ちゃんは僕に気がつくと、両手を広げる。
僕は迷う事なくお姉ちゃんに抱きついた。
「その様子じゃ、聞くまでもないと思うけど……アリエル、試験どうだった?」
「合格したよ!」
お姉ちゃんの体をあんまり締め過ぎないように気をつけつつ、顔を見上げて話を続ける。
「それでね!僕、首席だったんだよ!!」
僕は上がりきった気持のままに話した。
が、お姉ちゃんはあまり驚いたそぶりは見せない。分かりきっていたかのような表情だ。
「凄いじゃない!まぁ、そうだと思ってはいたけど。具体的に、点数はどうだったの?」
「えーっと、筆記試験が満点、実技は人形の完全破壊だから得点化不能だって」
僕の言葉を聞いた瞬間、片手を目に当てて、やってしまったと言わんばかりの空気を作るお姉ちゃん。
「えげつないくらい最高の成績ね。手加減を教えるべきだったかな……まぁいいわ、悪い事じゃないし。首席なのはお姉ちゃんと一緒だから、これでお揃いね!」
「うん!」
全ての報告をし終えてから、お姉ちゃんと一緒に寮部屋へと戻った。
僕もお姉ちゃんも上機嫌でソファに並んで座っている。
「さて、アリエル。あなたは王立中等学院に入学できる事になったわけだけど」
「うん」
「お姉ちゃん、合格祝いにアリエルにプレゼントをしようと思ってるの」
「えっ?いいよ、プレゼントなんて」
お姉ちゃんにはすでに色々お世話になってるし、それだけで十分だもんね。
「ほら、今まで誕生日プレゼントあげられなかったでしょ?」
「僕だってお姉ちゃんに何も渡せてないよ?」
すると、お姉ちゃんは首を振って真面目な顔をした。
「いい?アリエルは弟で、私はお姉ちゃんなの。わかる?私の方が、プレゼントをあげるべきなの」
「いや、わけわかんないんだけど……」
まったく理由になってない気がするんだけど。
「えっと、お姉ちゃんの方が年上だからって事?」
「まぁ、平たく言えばそう言うことね」
うーん、よくわかんないけど、まぁいいや。
あ、そうだ。今度お姉ちゃんにプレゼント渡そうっと。
「それで、何か欲しいものある?」
お姉ちゃんに尋ねられてから、僕はしばらく、うーん、と唸った。
でも、欲しい物って言われてもね。勇者の称号とか、友達以外には何も浮かばないし……
僕の頭は徐々に俯いていく。
そして、意味もなく足元を見つめた時。
「ああっ?!」
僕の目に、血まみれのブーツが映った。
「お姉ちゃん!僕、新しい靴が欲しい!!」
お姉ちゃんは、僕の靴を見つめた後、察したように笑った。
「うん、わかった。それじゃ、買いに行きましょうか」
「えっ、今から?」
別に、今すぐ買いに行く必要はないんじゃないかな。
「いや、アリエル。あなたその靴しか持ってなかったでしょ?これからも血まみれの靴で学院を歩くの?」
そう言われてから、ハッとした。
「あ、そう言えばだったね」
試験に合格したのが嬉しくて忘れてたけど……僕、試験が終わったら靴を買いに行くつもりだったんだった。
「それじゃあ、暗くならないうちに行きましょうか」
「うん!」
僕とお姉ちゃんは靴を買いに、再び外へ出た。
学院の校舎前にはまだたくさんの人がいる。僕とお姉ちゃんは人と人の間を潜り抜けるように、一般解放されている門へ向かって歩いていく。
そして、人混みを抜けて開かれた門が目の前になる。
「お〜い、アリエルちゃーん!セレーナ〜!!」
ふと、そこで呼び声が聞こえた。
「お姉ちゃん、今誰かが僕たちの事読んでなかった?」
「気のせいよ。さ、行こう?アリエル」
それだけ言ったお姉ちゃんは、僕の手を少し強く引いて歩いて行く。
大きな門を通り抜けて、王都の通りへと出る。
「さてと。アリエル、どんな靴が欲しいの?それによってお店を変えるから、教えて頂戴?」
「あ、うん。えっとね、魔物と戦っても壊れないような強さで、血がついても丸洗いできて、できればブーツがいいかな。ブーツなら履き慣れてるから」
確かに、誰かが僕を呼んでた気がするんだけど。
少し心残りがあるものの、僕はお姉ちゃんに答える。
「だったら、エリリィ魔道具店ね。道はこっちだから、行こっか」
再びお姉ちゃんに手を引かれそうになった時、後ろからさっきの声がした。
「ちょっとセレーナ!!無視はないんじゃないの?」
「そうね。無視はないわ、無視は」
僕が振り向くと、そこには二人の女の人が立っていた。
「あ。ハルさんにティアさん、こんにちは」
「こんにちは、アリエルちゃん。試験、ダントツの1位で受かってたね。私なんてギリギリ合格だったのに。凄いよ!おめでとう」
「ありがとうございます、ハルさん」
ニコニコ顔で話すハルさんに、僕も笑顔で返す。
「試験合格おめでとう、アリエルちゃん。まぁ私はアリエルちゃんが首席になる事はわかってたけど。凄いわね!」
「ティアさんも、ありがとうございます」
この二人は、お姉ちゃんと同じくらい僕の事を応援してくれていた人だ。
アークさんも応援してくれてはいたんだけど、普段はチャラい性格だから、表立って僕に会いに来れない。多分、今日の夜にお風呂で話すことになると思う。
「ねぇ、セレーナ。なんで私達を無視したのかしら?」
ティアさんが、お姉ちゃんに向かって睨みをきかせる。
が、お姉ちゃんは悪びれずに、素知らぬ顔で答えた。
「アリエルとのデートを邪魔されたくなかったからだけど、何か?」
「「……」」
お姉ちゃんの言葉を聞いて黙ってしまう二人。
もう、二人は僕にお祝いの言葉を言いに来てくれただけなのに。邪険にする事ないじゃない。
「いやいや、お姉ちゃん?何言ってるのさ」
僕はお姉ちゃんの代わりに、二人に謝るつもりだったのだけれど。
「なら、仕方ないわね。まぁ気持ちはわかるから」
「そうだね〜。仕方ないかな」
「えええっ?!」
なんで二人とも納得してるの?!
「まぁそういうわけだから。今日は二人には帰ってもらえると嬉しいんだけど」
「まぁ、そういう事なら。今度アリエルちゃん貸してもらえるならいいわ」
「うん、そうだね。アリエルちゃんを私に貸してくれるならいいかな」
「まぁ、少し貸すくらいならいいわ」
三人は顔を見合わせてサムズアップしてから、頷いた。
「それじゃあね、アリエルちゃん」
「また明日、会えると良いわね」
僕とお姉ちゃんに背を向けるようにして去って行く二人。
「え?あ、はい。さようなら」
僕はかるく慌てた後に挨拶をする。そして、軽くお姉ちゃんを睨んだ。
「お姉ちゃん?僕を貸すとか言ってたけど、僕の意思は?」
「……まぁいいでしょ?アリエルだってあの二人の事嫌いじゃないなら、いいじゃない」
それだけ言うとお姉ちゃんは僕の追求から逃れるように、歩き始めた。
「あ、ちょっと?!…………まぁいいけどさ」
お姉ちゃんの開き直りっぷりを見て追求する気も失せた僕は、軽くため息をついてから、予定通りお姉ちゃんについて行くことにした。
見慣れ始めた王都の街並み。日は傾き始めているけれど、活気は溢れ出てくるようだ。
しばらく歩いていると、お姉ちゃんの足が止まる。
「ここがお目当のお店。さ、入ろっか」
「うん」
こじんまりとした感じのお店の前には、エリリィ魔道具店とかかれた看板が立てかけてある。
お店の中に入ってみると、そこには所狭しと様々なものが置かれていた。
身長の低い僕から見ても低く感じる天井からは、3つの板がぶら下がっている。
衣類・日用品・杖等の三つだ。
お姉ちゃんは迷わず衣類の看板がぶら下がっているコーナーへ向かう。
「靴は……ここね。ブーツもいろいろ種類があるみたいだし、さ、好きな物を選んで見て」
お姉ちゃんが指で示す方を見れば、そこには値段だけが取り付けられた靴が、上蓋の取れた箱に入って棚に並べられている。ヒールのついた女性ものの靴から、男性ものと思われる黒く光る革靴まで、様々な種類が乱雑に並べられている。
正直、選んで、と言われても反応に困る。
「う〜ん」
100種類はありそうな靴の中、どうやってお目当のものを見つければいいのだろうか。
「お困りかな?」
僕が悩んでいると、若い男性の声がした。
「え?」
振り返ってみるとそこには、いたるところに癖っ毛をつけた男性がいる。レンズ以外黒一色の眼鏡をかけた、少しタレ目のおっとりした人。
「ここにくるのは初めての方かな。わざわざ連れてきてもらえるとは……どうやら、うちの店を贔屓にしていただけているようだね。ありがとう」
「いえいえ。ここはとても良いものばかり置いてありますから」
男の人と会話するお姉ちゃんは、慣れた様子。
「えっと……」
この人、誰かな?
突然現れた男の人に戸惑っていると、その人は礼儀正しくお辞儀をした。
「これは失礼。まだ名乗っていなかったね。僕の名前は、ネイル・エリリィ。この、エリリィ魔道具店の店長をしているよ」
「あ、店長さんでしたか!エリリィ魔道具店というから、てっきり女の人かと……」
「あはは、よく言われるよ」
ニコニコと笑う男の人からは、よく見る営業スマイルとは違う、暖かさが感じられた。
なんだか、随分と和やかな感じの人だなぁ。
「僕は、アリエル・ナーキシードです。アリエルと呼んでください」
「アリエルさんて言うんだね。よろしくね。僕の事も、ネイルで良いよ」
「よろしくお願いします」
ネイルさんと握手する。
僕も人の事は言えないけど、随分と細い人だなぁ。手も随分と細いし。
手を離した後、ネイルさんは僕とお姉ちゃんをしばし見比べた。
それから、もしかして、と呟く。
「ええ。この子は私の弟です。今日は、この子が王立中等学院の編入試験に合格したので、そのお祝いに靴を買いに来ました」
お姉ちゃんが説明すると、ネイルさんは少し目を見開く。
「セレーナさんの、弟君だったんだね……ふむ、なるほど。これは失礼したね。アリエルさんではなく、アリエル君、だったね」
「いえ、気にしないでください。大体の人が間違いますから」
僕の言葉を聞いてから少し考えるようなそぶりを見せたネイルさんは話を続ける。
「それで、どのような靴をご所望かな?」
「ええっと……魔物と戦っても平気なくらい丈夫で、丸洗いできて、できれば、ブーツがいいです」
ネイルさんは小さく唸ると、参考までに、と呟いてから僕の足元を見る。
そして、少し引きつった笑みを浮かべる。
「少なくとも、なんでお祝いに靴を選んだのかはわかったよ」
「アリエルが試験ではっちゃけちゃったみたいで……」
お姉ちゃんの顔も引きつる。
あれ?僕試験で何かしたかな?
「ダークウルフ殺しのアリエルの名は、伊達じゃないって事だね」
ゆっくりと僕を見て、腰に手を当てるネイルさん。
「あれ?なんで知ってるんですか?」
「噂と特徴が一致しているからだよ。名前さえ言えば、王都の人なら、大体わかると思うよ?」
うーん……今日、それがわからない人にあったんだけどなぁ。まぁいいや。
心の中で苦笑していると、ネイルさんが話を続けた。
「アリエル君、すまないが参考までに君の靴を見せてもらえないかな?」
「はい。いいですよ」
僕は片方のブーツを脱ぎ、ネイルさんに渡す。
その血まみれのブーツをいろんな方向から眺めるネイルさん。しばらくすると彼は、表情を変えた。
「こ、これは!」
どうやら、靴の素材や加工に驚いているようだ。
「アリエル君、この靴は誰が作ったんだい?!」
「うーん、誰が作ったかはわからないですね。おばあちゃんに貰ったものですから」
「この魔物の素材、そしてこの加工、魔法まで付与されている……なんて技術なんだ!」
ネイルさん曰く、このブーツはとても良いもので、強度と耐久性が凄まじいものらしい。
どうやら、僕の靴は普通じゃなかったようだ。
「まぁ、言われてみれば当たり前よね。ダークウルフを蹴散らしてきた靴なんだもの、普通の靴だったらすぐ壊れるわね」
お姉ちゃんは一人、納得したようだ。
僕の靴を返してくれたネイルさんは、靴が並んだ棚とにらめっこしている。
「このくらい出来の良い靴は…………やはり、あれしかないな、うん」
が、少ししてから諦めたように店の奥へと消える。
そして、5分ほどしてから戻ってきた彼の手には、真っ白なブーツが握られていた。
「この靴は、そこに並んでいる物とは一味違ってね。前女神騎士様が学生時代だった時に、譲ってくださった物なんだよ。なんでも、私の祖父が彼女の靴を褒めちぎったら、後日譲ってくれたらしい。前女神騎士様は、優秀な魔道具職人でもあったからね」
そう言って、大事そうに靴を眺めるネイルさん。
前女神騎士様が学生の頃って、少なくとも30年は前の話じゃ……?
その歴史とは裏腹に、新品のように光るブーツ。大切に磨かれてきたのだろう。
「ええっ?!そんな大切な靴売っちゃダメですよ!」
「いや、いいんだ。ここにこうしていても意味はないよ。靴は、履くものだ。飾るものじゃないだろう?前女神騎士様だって、この靴が必要な人が使うべきだと思うはずさ」
そう言って、ネイルさんは僕に笑顔を見せてくれた。
僕とお姉ちゃんは、少し躊躇ったけど、ネイルさんの言う事ももっともだと思ったから、その靴を買うことにした。
値段は、ネイルさんの好意で普通のブーツと同じ価格。
新しい靴があるのに血まみれの靴を履くのも嫌なので、買って貰った靴を履いてみると、不思議とサイズはピッタリで、僕の足に馴染んだ。
「わあ、凄くいい感じです!ネイルさん、ありがとうございます!!」
僕は満面の笑みでネイルさんにお礼を言った。
「いや、いいんだよ。今後とも、エリリィ魔道具店をよろしくね」
「はいっ!何かあれば、また来ます!」
こうして、僕はネイルさんのお店から出て寮へと帰った。
「プレゼント、ありがとうね!お姉ちゃん」
「いいのよ、気にしなくて」
ソファの上に座り、隣り合う。
この日、僕とお姉ちゃんは笑いながら、とても楽しい1日を過ごすのだった。
話し進みませんね〜〜。なんとかしてあと1、2話以内には学院で無双を始めようと思ってますが。
最近気づいたんですが、アリエルの周りって女の子ばっかですよね。そういうつもりはないんですけど……ちなみに、ネイルさんは最初女の人の予定でした。しかし、それだと登場した男性がレンド君のみという事態に陥るので無理やり男の人にしました。