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アリエルの夢

最近、読んでくれる方が増えているようです。ブックマークと評価、ありがとうございます!

しばらく僕を抱きしめた後、お姉ちゃんは僕の体をペタペタと触り始めた。

「どこか怪我はない?」

「大丈夫、無傷だよ。でも、どちらかと言うとそれは私のセリフなんだけどな……」

僕は少し冗談まじりに答えたが、お姉ちゃんの顔がまだ冷たいものだったことに気づき、震撼する。

「私、って……なんで一人称変えてるの?」

「えっと、一応今の私は女の子だから……僕って言うのは変かなって思って」

僕がそう話すと、少し戸惑いを見せるお姉ちゃん。

あ、そっか。お姉ちゃんには逆転の腕時計の事とか、僕が本当に女の子になってる事を話してなかったんだっけ。

僕が説明をしようとした時、お姉ちゃんは呟いた。

「体を触った感じからも女の子としか思えないし……まさかティアの話が本当だったとはね」

お姉ちゃんは、相変わらず冷たい表情のまま僕を見下ろした。

その視線は、僕の腕につけた月の模様が描かれた時計に向けられている。

「それが逆転の腕時計ね?」

「う、うん。頼んだらおばあちゃんがくれたんだ」

あれ?もしかしてお姉ちゃん、ティアさんと話す過程で色々知ってるのかな?逆転の腕時計のことも知ってるみたいだし……

「どうやら、私の知らないところで色々話が進んでいるようね?」

が、その冷たい声を聞いて、僕は一瞬で何も考えられなくなった。

自分の事をお姉ちゃん、と言わないところから、問い詰められると言うよりも、責められるといった感覚になる。

背筋が寒くなる感覚に襲われつつ、目にたまりかけた涙を堪える。

そして僕は、乾いた喉から絞り出すように言った。

「…………ごめんなさい」

色々な事を、謝ったつもりだった。

しかし、お姉ちゃんの表情は、僕の震えた声程度では変わる事はなかった。

いつものお姉ちゃんなら、すぐに許してくれていただろうけど、今回はそうじゃない。それだけ、怒っていると言う事だ。

「私、反省を伴わない謝罪は嫌いなのよ。詳しい事はこれからじっくり聞くわ」

「……」

お姉ちゃんの言葉に何も答えられないまま、僕は俯く事しかできない。

息がつまった。

きっと、お姉ちゃんは僕が勇者になろうとしている事を許してくれない。一体、どうすれば良かったのかな。僕はただ、勇者になりたかっただけなのに。そのためだけに、8年間もの間毎日鍛錬を積んできたのに。

僕は誰かを、自分の大切な人を守る事ができる人になりたかっただけなのに。

一度始まってしまった悪いところ探しは、自分の悪い癖だとは思っていても止める事ができない。

生じてしまった卑屈な感情は留まるところを見せず、ただ僕の心を蝕んでいく。

そして、潤んでいた僕の目から雫が落ちそうになった、その時だった。

「おい、ちょっと待てよセレーナ!」

アークさんの声が、僕の耳に、そして魔物の森に反響した。

その声は、周りが見えなくなっていた僕の意識を、一気に外の世界へと引き戻す。

「お前達の間にどんな事情があるかはわかんないけどさ……その子は、絶対絶命だった俺たちの事を助けてくれたじゃないか!今は、その子に感謝するべきじゃないのか?」

……えっ?

髪が伸びたせいで僕がアリエルだと確証が持てるだけの自信がないのだろう、その子、と言っているアークさんの言葉を聞いて、僕は思わず顔を上げた。するとそこには、アークさんの方を見て目を丸くしているお姉ちゃんと、アークさんに同意して頷いている高等学院の生徒の人達がいた。

「セレーナ、一回落ち着きなよ。その子、アリエルちゃんなんでしょ?私達を助けてくれたアリエルちゃんをいきなり怒り始めるなんて、らしくないよ」

ハルさんも、僕とお姉ちゃんの方に向かって声をかけてきている。

まだ1、2回しか会ったことのない僕を庇護するハルさんとアークさんの声を聞いて、自分の胸が熱くなるのを感じた。

後で、お礼を言わなくちゃ……!!

僕が二人にに対して視線を送ると、二人とも優しげな微笑みを返してくれた。

お姉ちゃんはそれを見た後、少しばかり顔に手を当てて、はぁ、とため息をつく。

そして、呟いた。

「………そうね、私が間違っていたわ。アリエルが心配なばっかりに取り乱してた」

そしてお姉ちゃんは僕の方に体を向けると、僕の目をじっと見つめてきた。

対する僕は、一瞬ひるみそうになったけど、お姉ちゃんの表情を見て平静を取り戻す。

「いきなり怒ってごめんなさい、アリエル。色々聞きたい事はあるけど、それは後回しね。とりあえず、今はーー」

そこでためを入れるように、一息吸うお姉ちゃん。

「私達を助けてくれて、ありがとう」

そう言ったお姉ちゃんの顔は、冷徹なものではなくなっていて、いつもの優しげな表情をしている。

僕は、胸の奥から湧き上がってくる嬉しい気持ちを堪える事なく、表情に出す。

「どういたしまして!」

人を救ったという実感を感じながら、僕は満面の笑みで答えるのだった。

それから、僕はお姉ちゃんと同じクラスの人達にたくさんお礼を言われた。

話を聞くと、なんでも今日は、お姉ちゃんの学年ではクラス別で弱い魔物での魔物狩りの実習が行われていたんだとか。

その中には先生も二人同伴していたらしいけど、ダークウルフ相手では、ティアさんの使った魔法障壁のサポートくらいしかできず、防御に徹する事が精一杯だったんだとか。

もう魔力も尽きかけてしまい、絶対絶命のピンチのところに僕が駆けつけて来たから、二人の先生からは凄く感謝された。

その後はすぐに魔物狩りの実習に来ている他のクラスと合流しながら魔物の森から王都へと向かい始めた。

なんでも、他のクラスもダークウルフに襲われている可能性があるので、確認する必要があるらしい。

現時点で、ダークウルフに対抗できる手段を持つのは僕しかいないので、高等学院の人達を守るという観点から、当然僕もついて行った。

ちなみに、お姉ちゃんはどうしているかというと、少し前からずーっとティアさんを問い詰めて事情を聴き出している。

現在はその道中、なんだけど……ちょっと問題があったりする。

「アリエルちゃんって、何歳なの?」

「じゅ、13歳です」

「セレーナさんの弟さんだって聞いてたんだけど、どう見ても女の子だよね?」

「えっと……今は、おばあちゃんからもらった、この逆転の腕時計の効果で一時的に性別を変えてるんです」

「でも、普段のアリエルちゃんと違うのは少しの体つきと、髪の長さくらいだから、あんまり変わらないよね」

「えっ、ハルルカはアリエルちゃんの男の子バージョンみたことあるの?!いいなぁー。男の子モードでもこんな感じなら、セレーナが夢中になるのもわかるなぁ」

僕を取り囲むようにして歩く女の人たち。

みんなお姉ちゃんのクラスメイトの人達なんだけど、ハルさん以外は初対面だから、ちょっぴり怖かったりする。

でも、この人達は僕に優しく話しかけてくれるから、すぐに慣れる事ができそうだ。

「好きな食べ物は何?」

「どうしてそんなに強いの〜?」

「世界で1番好きな人って誰?」

ただ、一度にたくさんの質問をされすぎて少し困っているのだ。

「え、えっとぉ……」

うぅ、どうしよう。

どこから答えていいのやら、僕が少し萎縮しながら口ごもると、後ろからアークさんの声が聞こえて来た。

「なぁお前ら、少しは自重しようぜ?質問攻めでアリエルが困ってるだろ」

あっ、アークさん!

僕は聞こえて来た声の主を探そうとした。

しかし、女の人達に囲まれて壁が作られているためにアークさんが見えない。

これでは、話す事は愚か、先ほどのお礼すらも言えない。

「何なの?いきなり軽々しく名前を呼び捨てにして……!」

「アーク、あなたまさかアリエルちゃんにまで手を出す気?」

「高等学院では自由にさせても、アリエルちゃんだけは私達で絶対に守るわよ?!」

すると、女子陣からアークさんへの集中攻撃が始まった。

どうやら、僕に手を出そうとしたと思われているようだった。

うーん、僕の呼び名はアリエルちゃん(・・)で定着しそうだよね……まぁ今に始まったことじゃないし、いいんだけどさ。

「はあっ?!何言ってるんだよ、アリエルは男だぞ?いくら俺にしたって、手を出すわけないだろ!それに、アリエルとは昨日大浴場で会って話をしグハァッ?!」

それから、アークさんの声は途絶えた。

何があったのかはわからないけど、僕を助けようとしてくれたアークさんの優しさと、女子からの嫌われ度合いの一旦を垣間見た気がする。

アークさん、ごめんなさい!僕には何もできません……!

女子陣に嫌われることの恐ろしさを感じて、いつかアークさんを助けようと心に決めた僕だった。

それからは質問攻めに会い続けながらも、何とか他のクラスの人達とも無事合流でき、事なきを得る。

ダークウルフと遭遇したのが、たまたま僕が近くにいたクラス1つだけだったのは、不幸中の幸いだった。

腕時計が12時頃を指し示し、お腹が空いて来た頃。僕達は無事、王立学院に戻ってこれたのだった。

「それじゃあ、アリエル。大食堂へ行きましょうか」

「うん」

僕はお姉ちゃんと共に、一緒に寮から大食堂へと向かう。

なんでも、本当なら午後いっぱいまで魔物狩りの実習をする予定だったののに、ダークウルフという凶悪な魔物と対峙したために、避難する形で学院に戻って来たから、午後の授業はないのだそう。

僕はお姉ちゃんと共に大食堂へ入ると、食事を貰う列に並んだ。

今日の昼はハンバーグ定食にするつもりだったから、メニューに関して悩む事はない。

ただ並ぶだけだと、やる事がないのもあり、僕はふと尋ねてみた。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「何?」

「もう、怒ってないの?」

僕がお姉ちゃんの様子を伺うように聞くと、お姉ちゃんは少し黙ってから口を開く。

「まだ、凄く怒ってるわよ」

「えっ?!」

いつも通りの、優しそうな表情で言われたので少し不気味に思う。

「とは言っても、事情は大体ティアに聞いてるから。私にも悪いところがあったのはわかってるの。アリエルがなんで私に、女神騎士に人違いで呼ばれた、なんて嘘ついたのかも大体想像つくから。だから、怒ってるけど滅茶苦茶に叱ったりはしないわよ」

そう言って、僕の頭を軽く撫でるお姉ちゃん。

ふぅ、よかった。ハルさんを抜いて、二人だけでの食事をするなんて言われた時はどう怒られるのかと思ったけど……この感じならそこまで酷くはない、よね?

自分で自分に確かめるようにしてから、列の先頭でハンバーグ定食を頼むのだった。

やがて、僕はお姉ちゃんと共に出来立ての料理が乗ったトレイを持って、近くのテーブルに移動する。

そして、向かい合うように座ると、お姉ちゃんは言う。

「それじゃあ、食べながらでいいから、どうしてこんな事になったのか、ゆっくり話してもらえる?」

「うん、わかった」

僕は軽く頷く。

僕は一口だけハンバーグを味わい、しっかりと飲み込んでから、話を始めた。

5歳の時からずっと、お姉ちゃんには隠して勇者になるために森で鍛錬をしていた事、たまたまティアさんをダークウルフから助けた事、そこから求婚され、そしておばあちゃんに頼んで性別を変えたりもしながら誤魔化し抜いた事まで。今に至るまでの経緯を全て、僕は話した。

僕の話を聞き終えたお姉ちゃんは、大きなため息をつくと吐き捨てるように呟いた。

「はあぁ。嘘をついたり、鍛錬してたのを隠したりしたのはアリエルも悪いけど、元を辿れば悪いのは完全に私とティアじゃない……」

その肩を落とした様子があまりにも落ち込んで見えたので、僕は少し戸惑った。

僕が怒られるんじゃなかったのかな?なんでお姉ちゃんが落ち込むんだろう……

「えっと、お姉ちゃん?」

そんな僕を見たお姉ちゃんは、申し訳なさそうな顔をした。

「アリエル……今まであなたのやりたい事をわかってあげられなくて、ごめんなさい!!」

そう言うお姉ちゃんに少し驚きながらも、僕はニコリと笑って返した。

「いいよ、そんな事言わなくても。僕を心配してくれてたんでしょ?」

「それは、そうだけど……」

「なら、もういいよ。それに、僕にとって大事なのは、これからお姉ちゃんが僕の夢を認めてくれるかどうかって事なんだし」

そう言ってから、僕は再びハンバーグを味わった。

「それもそう、ね」

そして、僕の言葉を聞いたお姉ちゃんは、少し考えてから、ゆっくりと話し出した。

「お姉ちゃんはね。アリエルの事が大好きなの」

「うん、知ってる。僕も大好きだよ?」

たった一人のお姉ちゃんなんだもん、好きに決まってる。

「ふふ、ありがとう」

お姉ちゃんは嬉しそうに笑うと、話を続けた。

「昔に、アリエルが勇者になりたいって言った時は憧れとかで言ってるんだと思ってたの。弱い意思だって思ってたから、下手に鍛えたりしてアリエルが傷ついたりしたら嫌だったし、仮にアリエルが強くなれたとしても、命を懸けてまで勇者みたいに魔物なんかと戦って欲しくなかったの」

その表情からは、心底僕を心配してくれている事がよく見て取れた。

僕は、静かにお姉ちゃんの話を聞く事で続きを話してもらうように促した。

「だから、アリエルがダークウルフを蹂躙していた時は目を疑ったわね。8年間も、毎日欠かさず1人で鍛錬していたって聞いた時はもっと驚いたわ。姉として情けない話だけど、そこで初めて、アリエルが本気で勇者になりたいって思っていた事を知ったの。凄いって思ったわ。でもね、私に黙って危ない事をしていたのは怒ってるし、それに関しては後でちゃんと反省してもらうつもりだけど……ところでアリエル、お姉ちゃんが1番怒ってるのはどんな事だと思う?」

「えっ、お姉ちゃんが1番怒ってる事?」

急に投げかけられた質問に、僕は首を傾げた。

お姉ちゃんに黙って危ない事をしていたって事じゃないの?他に、思いつかないんだけど……

「その様子じゃまったくわかってないみたいね。いいわ、教えてあげる。お姉ちゃんが1番怒ってるのはね……」

「うん」

怒っていると言っているのに、穏やかな顔をしているお姉ちゃん。その様子を少し不思議に思う。

「アリエルが、本気で追いかけている夢を、お姉ちゃんが認めないと思っている事よ」

「えっ?」

その言葉を聞いた時、頭を鈍器で殴られたかのような錯覚を覚えた。

それって、それって、それって!!

「それっ、て……!!」

心の底から嬉しさがこみ上げてくるのを抑えて、僕はお姉ちゃんの反応を待った。

「お姉ちゃんが、大好きな弟である、アリエルのやりたい事を否定するわけないでしょ?」

「僕、勇者になっても、いい、の?」

震えてしまって、うまく声が出せない。

お姉ちゃんは、そんな僕を見てクスリと笑った。

「勇者になるのは、とっても大変よ。お姉ちゃんに隠れながら鍛錬してなれるほど、甘くはないと思うけど?」

この瞬間、僕は自分の中から大きな重りが外されたような気がした。

ふっと、心が軽くなって、なんでもできる、そんな気がする。勇者にだって、きっとなれる。そう思える。

「お姉ちゃん……ありがとうっ!!」

溢れてきた涙を堪える事はせず、僕は泣きながら、満面の笑みを浮かべるのだった。

この辺りまではプロローグのつもりです。あと、伏線は入れておいたつもりなので察している方も多いと思いますが、次回から色々変わると思います。それが何かはお楽しみという事で……

文を書くのは下手ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです!

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