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アーク・ストリビア

これからはストックの出し惜しみはせず、ストックがあれば一日一話ずつ更新していくつもりです。

ちょっとびっくりした。どうやら人が入ってきたようだ。

「………なんで、美少女が男湯にいるんだ?」

巻いたタオルに手を当てて、僕の方をジロリと見てきた。

金髪のその人は、とても顔が整っていて、美少年という感じがする。

年齢はお姉ちゃんやハルさんと同じくらいかな?ていうか、美少女って……この場には僕とこの人しかいないし、美少女って僕の事だよね?うん。

「あの……」

「いやいやいや、わかるよ、もしかして、俺を待ち伏せてた?」

女の子である事を否定しようとした僕の声を遮って、ニヤリと笑う男の人。

「えっ?」

「いやっ、あっはははー!モテすぎるのも困りもんだなぁ、あっはははは~」

なんだか凄く楽しそうに笑う男の人。

えーと、なんかこの人、チャラい?

あれなのかな?女たらしとか、女の敵って言われる部類の人なのかな。

思わず、今まで見た事ない部類の人に、少し戸惑ってしまう。

が、否定はしっかりする。

「えっと……僕は男ですけど?」

「あはは、照れ隠しはいいんだ。胸までタオルで覆う男なんていないぜ?」

「あ、これはお姉ちゃんにこうしなきゃダメだって言われて……」

僕は湯船から立ち上がって、手を振り否定する。

「いやいや、そんなに自分の体の事を卑下する必要はないんだ、俺はどんな体型の子も好きだからさ、安心しなよ」

が、まるで信じた様子じゃない。

えっと……何を安心したらいいのかな?よくわからないや。

「いや、本当ですよ。僕はれっきとした男です」

僕は、お姉ちゃんよりも背の高いであろうその人に近づいて、自分の体を指し示すように胸に手を当てた。

「そこまで言うなら、タオルとって、身体見せてよ。本当に男同士なら見せられるだろ?」

「あ、そうですね、わかりました」

言われてから、僕は体に巻いていたタオルに手をかけた。

お姉ちゃんには取るなって言われてたけど、このまま勘違いされるのもあんまり楽しいものじゃないから、今は仕方ないよね。

「えっ?おいおいおいおい、嘘だろ?ちょまっ?!今の冗談、冗談だからっ?!」

そして、手でタオルを解いて取った。

「タオル、取る、なっ……て…………」

僕は自分の体を見せて、少し胸を張るようにしてみせる。

露出狂じゃないから、タオルを取ったのは上半身だけだけどね。

わざわざ同性に全裸をみせる必要ってないと思うし。

「綺麗に均等に鍛えられた筋肉、無駄な脂肪がどこにもない……お前、まさか本当に男、なのか?!」

「だから、そう言ってるじゃないですか!」

あまりに驚愕の目で見られるものだから、僕も少し怒りっぽくなってしまう。

「これは……すまなかった」

はあぁと、溜息をつく男の人。なんだか、安心している様子だ。

「あまりに可愛い顔してるもんだからさ、女かと思っちまって悪かったな」

すると、さっきまでのチャラチャラした感じから態度が豹変した。今度は、凄く真面目に、キリッとした表情になる男の人。

「いえ、いいんです。誤解は解けたみたいですし。それに、勘違いされる事はよくあるので」

「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」

「いえいえ」

僕は再びタオルを胸の位置まで巻き直してから、笑顔を見せた。

この人、最初はチャラチャラしてる人なのかもって思ってたけど……案外真面目な人なのかも。

「あーっと、じゃあ俺は体洗うからさ、せっかくだから話でもしないか?」

「あ、いいですね。さっきまで1人だったので、話し相手ができて良かったです」

僕は再び湯船に戻り、男の人はシャワーを浴びながら話し始めた。

「俺の名前は、アーク・ストリビアって言うんだ。高等学院の一年生だ。気軽に、アークって呼んでくれ」

「僕はアリエル・ナーキシードと言います。それなら、僕の事もアリエルって呼んでください、アークさん」

「わかった、アリエル。って、あれ?ナーキシード?それにさっき、お姉ちゃんがどうのこうのって……もしかして、アリエルのお姉さんって」

ここで一息飲むような間を溜めるアークさん。

「学院内では有名らしいんですけど。僕のお姉ちゃんは、セレーナ・ナーキシードって言います」

「あぁ、やっぱりか!なるほどな、セレーナが弟の事を可愛い可愛い言うはずだ」

「あれっ、話した事があるって事は、お姉ちゃんと知り合いなんですか?」

シャワーの流れる音が大浴場に小さく響くのを聞きながら、僕はゆったりと温まりながら話す。

広々とした空間に、僕の声も木霊した。

「知り合いっていうか、クラスメイトだな」

「へぇ、そうだったんですね!なら、知り合いじゃなくて、友達だったりするんですか?」

「………」

何気なく質問すると、だまってしまうアークさん。

シャワーで体を流す音が響く。

「えっと、アークさん?」

僕がアークさんの方を見ると、彼はこちらの湯船に向かってきていた。

どうやら、頭と体を洗い終わったらしい。

ちゃぽんっ、という音を立てて僕の隣に座るアークさん。

「俺さ、セレーナには毛嫌いされてるんだよな」

僕を見て笑ってはいるが、眉は寂しそうにハの字に歪んでいた。

「え?」

お姉ちゃん、誰にでも平等に接する人なんだけど……そんな事、あるのかな?

すると、そんな僕から察する様に口を開くアークさん。

「いや、別にセレーナは悪くねえんだよ。悪いのは、俺なんだからさ」

なんだか、辛そうな顔をするアークさん。その顔はひどく真面目で、悲しみを感じさせるものだった。

僕も、悲しい事があったときはよくお姉ちゃんに話を聞いてもらったなぁ。

「えっと……僕でよければ、話を聞きますよ?」

恐る恐るそういうと、アークさんは少し目を丸くした後、それじゃあ、と言って話しだした。

「こんな事、自分では言いたくないんだけどさ。俺、モテるんだよ」

「は、はい?」

「いや、自画自賛とか、そいういのじゃなくてさ。昔から、周りには女の子が沢山いたよ。でもさ、ある時に、ストーカーに会ったんだよ」

アークさんの話は、こういうものだった。

なんでも、中等学院に入学するちょっと前、年上の女性に付きまとわれたんだとか。好き、と紙いっぱいに書かれたラブレターが毎日10回は家に投函されたり、私物にメッセージ付きでキスマークをつけられた事もあったんだとか。そして、それ以来アークさんは女性恐怖症になってしまったらしい。

「一時期はさ、女の人を見るだけで震えが止まらなくっなったりしてさ。今でこそだいぶ治ってマシになったんだけど、情けねぇよな」

「えっ?でも、その割には初めて僕を見た時に、なんていうか、随分とこう……」

そこで言い淀んだ僕を見て、アークさんは苦笑する。

「チャラかっただろ。今はともかく、アリエルが男だってわかるまで、俺の第一印象、良かったか?」

「正直なところ、あんまり良くはなかったですね」

「だろ?だからだよ。わざとこうやって女たらしみたいにする事で、女性を遠ざけてきたんだよ」

あぁ、なるほど。だからさっきと今で態度が全然違うんだ。器用な事する人だなぁ。でも、そうでもしないとやっていけないくらい怖い思いをしたんだろうな……。

僕は心の中でストーカー怖い、と思った一方で、疑問を感じた。

「でも、その話とお姉ちゃんがアークさんを毛嫌いするのにはどんな関係があるんですか?」

「いや、それがさ……チャラチャラした風に装うと、大抵の子は俺から遠ざかっていくんだけどさ?ごく稀に、そんな俺でも良いからって、交際を迫ってくる子がいるんだよ」

拳を強く握って、若干震わせている様子のアークさん。

「俺、女性と話す事はなんとかできてるんだけどさ。それでも、触られたり、近くに来られたりすると震えが止まらなくなって、昔の記憶が蘇っちゃうんだよ」

なるほど、なんとなく話がわかってきた気がする。

「つまり、交際を強く迫られると、断れないって事ですね?」

「あぁ、そういう事だよ。付き合う、って言わない限り離れてくれないんだよ、あの子達。お陰で、現在俺には3人も彼女ができちまって……その結果、俺の評判はだだ下がりの一方だ。救いなのは、男友達はみんな俺の事情を知ってるから、味方してくれる事かな」

「それは辛いですね……でも、その事情を女子のみなさんにも話せば良いんじゃないですか?」

僕がそういうと、軽くため息をついて俯くアークさん。

「やってみたんだよ。でも、俺の評判はすでに地に落ちててさ。俺が評判を変える為にでっち上げた嘘だって言われる始末だよ」

「そんな……そんなの、あんまりですよ?!」

僕の拳に思わず力が入って、湯船の水面に、バシャっと音を立てた。

こんな悲惨な事、中々ないと思う。

「ま、俺のために怒ってくれるのは嬉しいんだけどさ。あんまり波風は立てないでくれよ?今までそうしてくれた男友達は、みんな女子からの視線が冷たくなったんだ。女たらしを庇うやつってな。俺は、アリエルにそんな風になって欲しくない」

「……そうですか」

「アリエルは実の姉だから、よく知ってるとは思うけど、セレーナは不正とか、理不尽とかが嫌いな真面目な人だ」

「ええ、そうですね。三股する人とか、そういう人は毛嫌いするでしょうね」

「そういう事だよ。だから、セレーナは俺の事を毛嫌いしてるわけ」

誰かに毛嫌いされて喜ぶ人なんていない。きっと、アークさんは沢山傷ついてきたんだろう。

「そうだったんですか……あの、アークさんの事情、僕からお姉ちゃんにお伝もぎゅっ?!」

そこまで言って、僕はアークさんに頰を両側から両手で挟まれて話せなくなる。

「波風は立てないでくれって言ったろ?俺には、アリエルが俺の味方になってくれただけで充分だって。大浴場は、ただでさえ湿ってる場所なんだ、これ以上湿っぽくなったら困るだろ。話、聞いてくれてありがとうな。少し楽になったよ」

そう言って僕の頰から手を離したアークさんは、ニカッと笑った。

「アークさん……わかりました、あなたがそういうなら、お姉ちゃんには言わないでおきます。この話も、やめにしましょう」

「おう、ありがとうな」

アークさんは、そう言って僕の頭をポンポンと軽く撫でた。

「この学院には、最近来たんだろ?アリエルみたいに可愛い子は、学院に来たらすぐ噂になるからな。まだ俺が聞いてないってことは、そういうことなんだろ?」

「はい、ちょっと訳があって」

もう学院では僕の事が噂になってたりするらしいけど、まぁそこは気にしなくてもいいよね。

「なら、大浴場についてもあんまり知らないだろ?1つ1つの湯船の効能とか教えるよ」

「本当ですか?!」

「おうよ!じゃあとりあえず、他のところにも行ってみるか?」

「はいっ!!」

こうして、僕はアークさんに1つづつ湯船を移動しながら効能を教えてもらうのだった。

そろそろ更新する時間を決めようかなーって思ってます。

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