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出会い

勢いで書き始めました。

勇者とは、魔なるものを討ち亡ぼす者。そして、女神騎士と呼ばれる女神の恩恵を受けた者、即ち女神騎士が勇者を助ける。

この国、グロリア王国では昔からその伝説が伝えられて来た。約200年ほど前に起きた、魔王による支配から世界を救った英雄である勇者と女神騎士の話。

その名残として、二百年経った今も王直属の役職という形で、勇者と女神騎士が存在する。

勇者は誰よりも強く、女神騎士の認めた人物というのが勇者になる条件。

そして、女神騎士は占いによって出た、女神に愛されている女性だと決まっている。

人々は皆、子供の頃からその話に憧れと尊敬の念を持ち、多くの男達が勇者を目指した。

しかし、女神騎士は誰も認めようとはしなかった。

占いによって次の女神騎士がわかるまでは、女神騎士は永遠に女神騎士のままで、勇者は彼女が誰かを認めない限り現れない。

そんな状況で、これまで100年間、勇者は存在していない。

しかし、そんな状況だからこそ、男の子は必ず将来の夢に勇者を選ぶのだった。

自分こそが、100年ぶりの勇者になるぞ、と。

そしてそれは僕、アリエル・ナーキシードにも同じことが言えた。

「僕、勇者になりたいんだ!」

「バーカ!お前みたいなナヨナヨした女みてぇな奴になれるわけねーだろ!」

僕のことを何人かで囲みながら石を投げてくる。

当時、5歳の僕はいじめられていた。理由は、行動が女の子みたいだったり、女の子でいうショートヘアーと言ってもいいほど、男の子としては髪が長かったからだ。たくさんの人間に、それこそ何人も何人もの人々から、お前なんかでは勇者になれないと言われた。

子供ながらに、僕はその言葉に酷く傷ついた。

自分が夢を見ることさえいけないと言われたかのようだったからだ。

「お父さん、お母さん、僕じゃ、勇者になれないのかなぁ?ぐすっ……」

家に帰った後、泣きながら石をぶつけられた後を見せる僕に、両親はこう言ってくれた。

「頑張れば、努力をすれば、必ず勇者になれるよ。」

「そうよ、アリエルが頑張れば必ずね。」

掲げた夢を壊されそうな僕を前にした2人からすれば、そう答える他なかったのだろう。

でも、優しかった2人の言葉は、傷ついた僕の心に染みわたり、勇者になりたいという夢を加速させた。

その日から、僕は木の棒を持って村の近くの森で剣の練習を始めるようになった。

勇者は強くなくてはいけないと思ったから、強くなるために、森でひたすら木の棒を振るった。頑張れば、勇者になれると信じていたから。

それからは、毎日毎日、雨の日も、風の日も。ずっと、朝から晩まで棒を振り続けた。

ある時は動物が襲って来たこともあった。でも、勇者だったらどうするか考えて、泣きながら戦った。そして、そんな事を繰り返してしばらく経つと、大きな動物とも木の棒だけで渡り合えるようになる。

と、いうよりも、落ちている木の棒以外に武器みたいな武器がなかったのだ。

そして、月日は流れて僕が10歳になった時。僕は、前世の記憶、つまり地球にいた時のことを思い出した。

「おばあちゃぁーーーーん!!」

「ど、どどどどうしたんじゃアリエル?!」

泣きながらおばあちゃんのいる、森の中にある家へと踏み入った。それからしばらくはおばあちゃんの胸で泣いた。

そして、自分に起きたことを話す。誰だかわからない人の記憶があること、地球のこと。全ておばあちゃんに話した。きっと、おばあちゃんならなんとかしてくれると思ったから。

「なるほどのう……アリエルは、転生者じゃったか」

「ぐすっ、どうかしたの?おばあちゃん?」

僕の頭を撫でて、優しい顔をするおばあちゃん。

「いいかい?アリエル、心配することは何もないよ。それはお前さんの前世の記憶じゃ」

落ち着いて話してくれるおばあちゃんにしがみついたまま、僕は自分の中野疑問を全て解消するまでおばあちゃんに質問攻めをした。

自分が転生者という別の世界の前世を持っている人間だということ。それでも、おばあちゃんは僕のおばあちゃんだという事。おばあちゃんは、落ち着いて、優しい顔で1つ1つ丁寧に答えてくれた。

「大丈夫じゃよ、アリエル」

その言葉を聞いて、僕は安心しきった。

時は経ち、現在。僕は13歳になった。

「「アリエル、お誕生日おめでとう〜!!」」

机の上に用意されたケーキとプレゼントを見て、僕は顔を綻ばせた。

「ありがとう!お父さん、お母さん!!大好き!!」

「うんうん、お父さんも好きだぞ〜」

「お母さんもよ!」

僕は笑顔で誕生日を迎えた。おばあちゃんは、訳があって森の中の家から出られないそうなので後で僕の方から出向くつもりだ。

僕はケーキを食べ終え、外に遊びに行くと言って森へ向かった。勿論、それは建前で、本当は日課の修行をしに行くのだ。

「うーん、誕生日プレゼント、服なのは嬉しいんだけど……この服なんだかすごく女の子っぽいなぁ〜〜」

森へ向かう途中で、僕は自分が来ているこの服を見ながら、少し嫌だと思った。

「これから森へ行くのに、汚れちゃったらもったいないよ〜せっかく可愛いのに〜〜!」

僕は幸せな悩みだな、と思いながら森へ向かうのだった。

すると、前から男子5人組が歩いてくる。

「あははは!おいお前ら見てみろよ!アリエルちゃんだぞ!」

リーダーらしき人物が、バカにするような口調で言ってくる。

「本当だ、アリエルちゃんだよ」

「うわっ、本当だよ!女みたいな格好しやがって!」

口々に僕の悪口を言ってくる5人。彼らは、小さい頃から僕に突っかかってきていたのだ。

「僕に何か用?」

慣れてはいるが、僕は少し眉間にしわを寄せて喋った。

「おお怖い怖い、アリエルちゃんが怒ると何が起きるかわかりません〜親にでもいいつけるんですかー?」

「……」

こうやって、まるで僕を女の子みたいに言ってくる。本当に嫌な奴らだ。

今まで、僕は彼らに手を出した事はない。でもそれは、彼らが怖いからじゃない

本当は、僕の敵じゃない。僕はこれまで8年間毎日欠かさず森で木の棒を振るい、時には大きな動物も倒していたんだ。下手に戦うと怪我をさせてしまう。そう思った故の行動だった。

「いつもいつも女みてぇにやり返さないでよ?かっこいいとでも思ってんのか?アリエルちゃんよ?」

僕を囲むように詰め寄ってくる姿は、まさに不良だった。

「仕方ねえな、こうなったらどんなのが男なのか教えてやるよ!」

僕が黙っていると、リーダーと思わしき人物が石を投げてくる。

「避けてみろよ、アリエル、お前勇者になるんだろ?」

笑いながら話して来る。

普通、13歳にもなれば、勇者になるのは無理だと気づきはじめる歳だ。でも、僕はその夢を諦めた事はない。彼らはそれを馬鹿にしてきているのだ。

「そうだよ。何か問題ある?」

僕はその石に当たるそぶりを見せて綺麗に避ける。

「あはは、こんな石も避けられないようじゃ勇者なんて無理だ!勇者になりたきゃこれを全部避けてみろ、お前ら、アリエルのためだぞ、やっちまえ!!」

彼らは僕に四方八方から石を投げて来る。

僕は痛くもかゆくもない石を、あたるそぶりをして避けきる。中には顔に当たりそうな物もある。

心の中で、危ない事するなぁ……と呟いていた。

すると、気が良くなったのか、彼らは次第に調子に乗り始めて、さらに石を投げ始めた。

避けるのは簡単だけど、当たってるフリまではできないかもしれないな……僕がそう思い始めた時だった。

「あなた達、寄ってたかって、か弱い少女に石を投げるなんて、男として正気?!」

綺麗な女の人が僕の前に立っていた。

投げられた石も僕と女の人に当たる前に全て空中で止まる。

「そんな暴挙、この私が許さないわよ!!」

僕が状況をつかめずにいると、5人の男のうち1人が叫んだ。

「やべえ、魔法だ!魔法使いだ、おまえら、逃げろ!」

魔法使い、その言葉を聞いた4人は、みるみるうちに顔を青くしていく。

瞬きもしないうちに、彼らは一目散に逃げていった。すると、大人達が少しずつ騒ぎを聞きつけてこちらに寄って来たのが見えた。

綺麗な女の人は、フードを被ると、マントを翻して僕の方を見た。

「まずいわね……さっきの事で、あなたにもいいたいことがあるの。でも私なるべく人に見つかりたくないのよ、どこか隠れられそうな場所はあるかしら?」

「それなら森に……」

僕はすぐ近くまで来ていた森を指差した。

「この森は……最近魔物が大幅に減少しているというテグサの森ね。貴女の護衛は私がするから、人に見られないところに案内して」

命令口調ではあったが、とても優しそうな声をしていて、高圧的に聞こえない。そして何より、見ず知らずの僕を気にかけてくれている様子が見て取れた。

だから僕は、彼女を森に案内した。

「私はティア・ラベンダーよ。たまたま、人を探しにここへ来たの。貴方は?」

微笑むように話しかけてくれるその人が、とても綺麗だと思った。

「僕の名前は、アリエル・ナーキシードです。」

「僕?貴方女の子じゃないの?それとも、そういう口調なだけなのかしら?」

頭から爪先まで、僕の体を見るティナさん。

「僕は男ですよ?」

「え?じゃあ、その服は……」

「お父さんとお母さんが、13歳の誕生日に、今日くれたんです!可愛いですよね?!」

この服を貰ったばかりで、まだ気分が高揚していたため、誇らしげに話してみる。

「え、ええ可愛いけど……」

すると、ティアさんはなんだか微妙な顔をしてから、ご両親も大変ねと呟いていた。

僕にはその意味がよくわからなかった。

「あなた、今日誕生日なの?災難ね、こんな日にもいじめられるなんて……」

「いえ、大丈夫ですよ。問題ないです」

可哀想だと言わんばかりに僕を見てくるので、否定する。

「問題あるわよ!彼らは酷いことをしているけど、あなたも男の子ならもう少ししっかり言い返すべきだと私は思うわ」

人差し指を立てて注意してくるティアさん。

あれ?僕今叱られてるの?

「で、でも、本当に悪口以外は平気なんですよ?」

石は全部避けてるし。

「それだけでも問題よ!って……へ?さっき、たくさん石を投げられてたわよね?」

「はい。それはもうたくさん」

キョトンとするティアさん。

「なら大丈夫なわけないんじゃ……?!」

そこで初めて、彼女は僕にかすり傷1つないことに気がついた。

「僕、勇者になりたいんですっ!小さい頃、お父さんとお母さんが、頑張ればなれるって言ってくれて、5歳の時から森で毎日鍛錬してたんです!だから、あの程度の石なら簡単に避けられますよ」

少し自慢げに言ってみる。すると、本当に驚いた様子のティアさん。そんな様子に僕はそこまで驚くことかと思ってええと、と口ごもった。

自慢しておいて今更だが、自分ではそこまで驚く事ではないと思っていたのでティアさんが驚いたのは意外だった。

「凄いのね、あなた。でも、ダメよ。嫌なら嫌って言い返さなきゃ。石はともかく、悪口は嫌なんでしょ?」

ポンポンと頭を撫でられる。僕は自分よりも結構背の高いティアさんを見上げた。

「でも、言い返すのはあんまり好きじゃなくて……それに、石くらいは避けられるんですけど、僕、森で鍛錬してるだけで、弱いですから。お父さんとお母さんは勇者になれるって言ってくれたけど、本当は僕を慰めるための言葉だったんじゃないかと思って……いまいち強く出れないんです」

しゅんとする僕に、少し慌てるティアさん。

「な、なに言ってるの?あなたなら、きっと勇者になれるわよ!ええなれますとも!」

なぜか慌てた様子で、僕を慰めてくれるティアさん。しゃがんで僕と目線を合わせてくれる。

「でも最近、もしかしたらみんなの言うことが正しいような気がして来ちゃって……」

それでも、僕は俯いて後ろ向きな考え方をしてしまう。すると、ティアさんは僕の目を見つめて言った。

「あなたの勇者になりたい気持ちはそんなものなの?違うでしょ!今まで頑張って来たんでしょう?そんなことだと、あなたに体術を教えてくれた先生もがっかりしちゃうわよ?」

「僕に先生はいませんが……そうですよね。まだ、諦めるのは、早いですよね。はい、僕、頑張ります!ティアさん、ありがとうございました!」

「え?!あんな動きができるのに先生いないの?!ええっ?!」

僕は元気になって、ティアさんに背中を向けた。

今日はまだ鍛錬してないからね。1日でもサボると勇者になれなくなっちゃうかもしれないし。よーしっ!頑張ろうっ!

「えっ?!ちょ、1人で納得して私のこと置いてけぼり?!」

「え?まだ何かありました?」

僕がそう言うと、ティアさんは1つだけお願いがあると言った。

「応援のエールを込めて、あなたをハグさせて欲しいの」

にっこりと笑って手を広げるティアさんに、僕は少し照れながらも笑顔で抱きついた。

「あのう、これ、意味あるんですか?」

「少なくとも、私にはあるわよ?あー、可愛いアリエルちゃん、癒される〜〜」

「え?ちょっと言ってることがよくわからないですっ?!っていうか、少し痛いです……」

抱きしめられたのはいいが、一方的すぎて僕は身動きが取れない。

「あ、ごめんなさいね」

少し緩まる手。

が、僕はティアさんの胸に顔を埋めて窒息しそうになっていた。

「あ、あの、胸、当たってます!」

なんとか顔を出して喋ると、ティアさんは笑って言った。

「え?あー、あなたならいいわ。可愛いから、万事オッケー!」

「僕はオッケーじゃないです〜!」

僕が離れようとすると、ティアさんは僕の肩を持って、ヒョイっと持ち上げた。

「軽いわね、あなた。それで13歳?しかも男の子?その慎重で?そんなんだと、勇者にはなれないわよ?ご飯、たくさん食べ他方がいいわよ?!あーでも、そのままでも、いえ、むしろこのままの方が女神騎士は落とせるかもしれない、わね?」

「あの、さっきからなんのことを……というか、高いです、おろしてください!」

僕が少し暴れると、ティアさんは僕をおろしてくれた。

「アリエル・ナーシシードちゃんね。覚えておいたわ。ていうか、忘れられないわね。あなたが勇者を目指していれば、いつか、また会えるかもね。」

フフッと笑ったティアさん。

「あの、それってどういうことですか?それと、さっきからちゃんって呼んでますよね?僕男なんですが……」

「その時になればわかるわよ。あ、アリエルちゃん(・・・)っていうは私が呼びたいだけ。だから、とりあえずあなたは修行を頑張ってね!」

ウィンクをして僕を応援してくれるティアさん。

ポンポンと背中を押されたので、今度こそさようなら、ってことなんだろう。

「ありがとうございました!では、僕は修行に行って来ますね。さようなら」

僕が森の先に行こうとした時だった。

「待って!」

彼女の手が僕を引き止めた。その声色は真面目なもので、何かあったであろうことを思わせた。

ティアさんはしばらく黙り込むとこう言った。

「まずいわね、魔物が来たわ……」

「ええっ?!ま、魔物ですか?!」

僕は一度も見たことないが、魔物、その恐ろしさは知っている。普通の人では太刀打ちできず、数々の悲惨な出来事を巻き起こしてきた原因な。

「わたしの後ろに隠れて!くっ、なんでここにこんなに魔物が集まって来てるの?!」

「あの、魔物どころか、動物だってどこにも……僕には何も見えませんが?」

「私は魔力を感知できるの。今、四方からたくさんの魔物に囲まれているわ。それも、かなり強い魔物に!これは……A級はあるわね」

「え、A級?!」

驚いた。よくわからないけど、この人には魔物が来たことがわかるらしい。しかも、A級。それは、とても強い魔物。詳しいことはよくわからないけど、村や町の一つや二つくらいなら簡単に滅ぼせる力を持っているという話を聞いたことがある。

「そ、そんなぁっ?!ぼ、僕たち、死んじゃうんですか?」

僕は自分と、家族の顔を思い浮かべて、思わずティアさんの背中にしがみついた。

「大丈夫よ。今は攻撃するための杖がないけど、守るだけなら永続魔法が作動しているから、S級の魔物でもない限りは、私の近くに居る限り安全よ」

「え?そ、それじゃあ僕の家族は?!お父さんとお母さんは?!おばあちゃんは?!」

目から涙が溢れてきて、止まらなくなる。

頭の中には、家族の笑顔が浮かぶ。いつも優しく僕を受け止めてくれた家族。優しいお父さん、お母さん。そして、いつも僕を助けてくれるおばあちゃん。

みんな、この森の近くに住んでいる。家族だけじゃない、この村にいる人みんな、あの五人組も、嫌な子達だけど、死んで欲しいわけじゃない。

「うっ、うっ、えぐっ、みんな、死なないで……」

「ーーっ!大丈夫、みんな私が助けてあげる。だから、あなたは落ち着いていて。」

僕を抱きしめてくれるティアさん。とても心が落ち着いた。

でも、僕は心の片隅で思った。女の人に守られて、家族も村の人も誰1人守れなくて、それは果たして勇者を目指す者のあるべき姿なのか?と。

「勇者だったら、勇者だったら、みんなを、えぐっ、助け、うっ、られるはず!!」

僕はティアさんから離れて、地面に落ちていた木の棒を拾った。

「ダメよ、私から離れないで!近くに居る人にしかこの魔法の効果はないのよ!」

慌てて僕を捕まえに来るティアさん。

でも、もう僕の決心は変わらない。

「僕、戦います!これでも、大きい動物となら何度も戦ったことがあるんです。魔物は初めてですが、みんなを守るのが、勇者だと、僕はそう思うんです!」

僕は彼女の手を振り払うようして言った。

「ダメよ、それは無謀って言うのよ?!魔物は動物とは違うのよ?!」

叫ぶティアさん。僕の方へ走って来る。しかし、僕はそれを制した。

「それでも、それでも僕は……!!」

震える足を叩いて、魔物がいつ来てもいいように構える。

「ダメ!!もうすぐ近くに来てるわ?!」

ティアさんの叫び声が聞こえて、僕も身構える。

「よし、来るなら、来い!」

そして、ドスドスドスッという音とともに、僕とティアさんを中心に広がるように、木々からたくさんのそれらが

顔を出した。

「あぁ、なんてこと?!A級指定のダークウルフの群れじゃない!!これじゃ、いくら私でも、村は、もう……」

無理やり僕を背中から抱きしめて涙声で話すティアさん。

「そ、そんなぁ?!魔物、どこですか?!」

僕はティアさんに構わず、必死で魔物を探す。が、探せど探せどあたりには普通の(・・・)狼しかいない。

「見えないの?!私たち囲まれてるのよ?」

僕が錯乱したのかと心配になって肩を揺さぶって来るティアさん。

「す、すいません、僕には魔物じゃなくて、狼しか見えないです……!どこに、一体どこにいるんですか、魔物は?!」

僕は慌てて探す。が、見渡しても見渡しても、30匹ほどの、ただの狼しかいない。

「え?アリエルちゃん、何を言っているの?!その狼が魔物なのよ?!」

「どの狼ですか?!わからないです!」

僕は魔物を必死に探す。ここで僕が倒さねば、村が壊滅してしまう!

「出て来い魔物!!僕は、家族を、大事な人を守るんだ!!」

必死で叫び棒をどこにいるかわからない魔物に向けて振り回す。

「正気に戻ってアリエル!!落ち着いて!あれが魔物よ?!この狼の群れ!30匹くらいの魔物に私たちは囲まれてるのよ!」

僕をちゃん付けせず、名前だけで呼んでくるティアさん。真面目に言ってくれているのが伝わってきた。でも、それでもやっぱり魔物なんて、僕には見つけられなかった。

「すいません、見えないです……僕には、見えません!」

「やっぱり、錯乱してるのね?!大丈夫よ、今、落ち着く薬をあげるわ!」

ティアさんはそう言うと、僕を後ろから強く抱きしめたまま、薬のようなものを僕の口に無理やり飲ませた。

「どう?魔法薬だからすぐに効くはずよ。見える?あれが魔物の群れよ。ダークウルフの群れ。なんでここにいるのかはわからないわ。最近はこの森の魔物は減少して来たはずなのに!なんで?!何でこんなことに……こんな小さい子を巻き込んで、なんのつもりよ?!」

恨みの視線を魔物に向けている、といった様子のティアさん。すると、急にティアさんが僕を思い切り抱きしめた。

「私に近づいて!」

ドスッ、と言う音がして1匹の狼がこちらに突撃して来た。しかし、ティアさんが言っていた魔法なのだろう、先ほどの石と同様に透明な球体によってこちらには来れない。

「あの、何かあったんですか?」

「嘘、錯乱が解けてないの?最上級の薬なのに……いい?目の前にへばりついているのが魔物よ?!よく見て!あなたの目の前にいるの!」

必死に説明して来るティアさんだが、僕にはわからない。目の前にはただの狼しかいない。

「見えない、見えないです!くっ、狼邪魔!!」

ドゴスッ!僕が木の棒で狼を払いのけると、聞き慣れたえぐい音がして狼が飛んでいく。

「えっ?」

不意に驚いた声を上げるティアさん。

「あの、見えないです!僕には、狼しか見えないです!魔物なんて、本当にいるんですか?!」

僕はだんだんティアさんを疑いたくなって来た。でも、さっきの彼女の顔を見る限り恐らく本当のことなのだろう。そう思ってティアさんを見ると……

「いや、今アリエルちゃんが棒で殴ったのが、魔物、なん、だけど……」

僕を掴む彼女の手が、不意にゆるくなった。ちゃんづけで呼んでる事から、緊張が解けたのだろう。

「え?あの狼が?あれ、動物じゃ、ないんですか?!」

僕の体から、震えがなくなった。

「え、ええ、あれは、魔物よ?よかったわ、見えていた、のね。勘違いしていただけだったの……」

「え?あの、あれ、あの狼が?」

僕は驚いて言葉がうまく発せない。

「ええ。そうよ?」

「……」

「アリエルちゃん?」

僕は一度深呼吸をして、涙を拭った。

そして、頭の中を整理する。

その後、パンパンっと2回頰を叩くと、ティアさんの方を向いてニッコリと笑った。

「僕、魔物倒して来ちゃいますね!」

「え?ちょっと?!アリエルちゃん!ダメよ!危ないんだって!さっきのは、きっと、まぐれ……」

ティアさんがそう言いかけた時、すでに僕は走り出していた。

今までただの狼、動物だと思っていた、魔物、つまりは、ダークウルフに向かって。

まずは、僕の速度にについてこれていない奴を1匹木の棒で殴る。

すると、すごい音を立てて横に飛んでいく。

「よしっ!!これならいつも通りだ!」

僕は木の棒を捨てて、手を握ったり開いたりしてみる。

すると、一気に他の狼、じゃなくてダークウルフが襲って来る。

僕はそれを目で追った。

「右、左、正面、左、左、右。」

僕には、まずどこにどの順でダークウルフが来るかを考えて呟く癖がある。

これは、11歳の時に何も考えずに戦っていた際にフェイントをかけられて痛い目にあった時から行なっていることだ。やっているうちに癖になった。

僕は、さっき口ずさんだ順で、足を使って狼を蹴り飛ばしていく。蹴る場所は頭。これならおおよその狼は死ぬか気絶するか、悪くても脳震盪になって結局は再起不能に出来る。

僕は容赦なくダークウルフをなぎ倒していった。

自分から向かって来るものは大体蹴りで終わらせ、血が新品の服にはねないように気をつけながら1匹1匹確実に殺していく。

躊躇はしない。森で木の棒を振っていた時、初めてダークウルフに襲われた。その時は卑怯な手、例えば目潰しなどを積極的に。少しでも躊躇えば、死んでいただろう。だから、もうそんな経験をしないために僕は躊躇わないことを決めている。

グチャッ、ドスッ、バキバキッ。

あっという間にその数を減らすダークウルフ。

「お前で、最後っ!!」

僕は最後のダークウルフの頭にかかと落としをして踏み潰した。グチャッという音がして、ダークウルフの頭が潰れた。

「ふぅ、これで終わった〜。服は……よしっ!汚れてない〜〜!」

僕はダークウルフの頭からジャンプして、宙でくるっと一回転してティアさんの前に着地した。

控えめにあしらわれたフリルが揺れる。

「怪我は、ありませんか?」

僕は、戦々恐々といった彼女の顔を見て、心配しながら聞いた。

「それは、こっちの、セリフですーーーー!!」

「そうですよね。あんなすごい魔法が使えるなら、あんな狼くらいに怪我を負うことなんてないですよね!すいません、失礼なことをお聞きしちゃって……」

僕は素直に謝る。

「いえ、それはいいです。いえ、あなたには聞きたいことが山ほどあります。ですが、今は1つだけ聞きましょう。あなたはこの森で修行をしているのですか?」

「はい!365日、欠かさず5年前からやってます!」

僕がそういうと、あははと乾いた笑いを漏らすティアさん。なぜだろう、目が笑っていない。

ううん……ちょっと怖いなぁ。

「5年前から、ですか。ちょうどこの森の魔物が減ってきたと報告が入ってきた時と一致しますね……」

その後、彼女は僕に、「あなたならば、勇者になれます」とだけ言ってすぐにいなくなった。なんでも、急用ができたらしい。

そして、僕にもまた、急用ができた。

「王都に行こう!あそこなら勇者になるための道が揃ってるはず!」

僕は、勇者になる事を再び決意した。

そう、これが僕とティアさんの出会いなのだった。

 読んでいただきありがとうございました!三日に一回更新します。これからも、アリエルの活躍をみていただけるとうれしいいです。

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