//7th Stage_チート結託と運営の商魂
カウンタースツールから振り向いた木立が苦笑を浮かべ、ぎゃいぎゃいと騒ぎ続ける梅雨と双樹の二人を眺める。天井にくっつきそうなほど、最大サイズまで広げられた画面に、次々と武器が増えていく。
「ていうかこれ、まさかの展開なんだけど、結託されたらされたでたち悪そうだなぁ」
「お兄ちゃんがけしかけたんじゃーん」
「……大福」
ぼそりと呟く木立の言葉に、ぴっと口をつぐむ花梨。
木立は高い天井を見上げ、ゆっくりと息を吸う。
「……よし。新規で企画書つくろう」
「転んでもただじゃ起きない商魂だな」
作業の合間に振り向いて皮肉げに言う双樹に、あっさりとうなずく木立。
「そりゃこんな機会、使わない手はないよね。――双樹、お前が使わなくなったやつとか失敗作とかでいいから、一般に出していい武器データ全部くれ。たくさんあるだろ?」
「……あるけど。なんであげなきゃいけねんだよ」
「それ、ウチのデザイナーでバラして再構築して、色から部品からエフェクトから動作音まで、細かく選んで自由に組み合わせられる仕様にする。もちろん、お前の要望も聞けるものは聞く。で、お前が気に入った組み合わせは、一般には組み合わせできないように制限かけてやる。あ、権利上問題になるから、実在するやつは抜いてね」
「……まじで?」
にわかに顔色を変える双樹。
双樹は所詮ただの横好きの素人だ、欲しいものは好き勝手作ってはいるのだが、細かい造形デザインも配色もエフェクトも音声も、デザイナープログラマーその他本業が複数人がかりで手がけた完成品の出来には到底及ばない。一人作業なので数も限られている。
「例えば弾倉回すとか。ちゃんと一発ごとに回るやつな」
と言う双樹に、うなずく木立。
「ああうん、お前の動かないもんな」
「うっせぇ」
「ここ回せばいいの? こう?」
と梅雨の声に顔を向ければ、そこにはくるくると弾倉の回る、ソージュ製の何丁かの拳銃。
すぐさま双樹が画面に飛びつく。
「うわー、はえーよ仕事! ちげーよ縦方向! 外側は固定! そう!」
やべぇやべぇと笑う双樹。
想像以上だなぁと苦笑いして、木立が頭を掻く。
「なんだかなぁ、いちいちウチの会社挟まないで、ここのメンツで一作つくったほうが儲かるような気がしてきた」
「いや、デザイナーはくれよ。プログラマーはこいつでいいけど。おい、梅雨だっけ、そっから俺の武器庫、今開ける?」
「ここ? こっちじゃなくていーの?」
「ばっかこんなとこでローカル大公開すんじゃねーよプライバシーの欠片もねー奴だな!」
「……悪い」
江西が諦めきった声音で謝罪の一言。
「まぁ開けるならそっちのがいいや、ちょっと貸せ」
ソファから立ち上がった双樹が近くの椅子を引き寄せ、少女がかざす手の前に自身の手を割り込ませる。
「210……いや、おい木立、250個くらいでいいか?」
「あっははは、双樹作りすぎー!」
花梨がけらけら笑う。
「うっせ。で、一個いくらだ?」
「ええーお金とるの? それ使ってないやつでしょ?」
「労力かかってんだよ」
「あ、私これ欲しい!」
嬉々として梅雨が指さす。
「いーよ、持ってけ」
「ん!」
礼を言った梅雨が、自身の武器庫にそれをぽいっと格納する。
花梨が近寄ってきて、
「あたしこっちの!」
「重い花梨乗っかんな! つーか引っ付いてこなくてもあっちから見えるだろがってオイ、聞け!」
頭の上で自由にはしゃぐ花梨を、双樹が両手で押しのける。花梨は気にせず画面にかじりついて、
「ああでも、もうちょっとこのへん短くなったらいいかもー」
「こう?」
梅雨がすぐさま改造して、
「そうそう! わーい!」
喜ぶ花梨の武器庫にそれをぽいっと格納する。双樹がカウンターの二人に顔を向ける。
「……おい、今一個増えたぞ」
「ああうん、あとで選ぶから好きなだけ増やしていーよ。買値は、ちょっと会社と相談させて」
こめかみの辺りを押さえつつ苦笑する木立が、ひらひらと手を振る。
少女二人が好き勝手にどんどん改造して、どんどん増えていく武器の数々をひょいとのぞき込んで、双樹が顔をしかめる。
「おい、ちょっとリッチにしすきじゃないのか。こんなの200個以上もあって、それの組み合わせがどんだけあるんだか知らないが、サーバー落ちるぞ」
「そこは、もちろん手伝ってくださいますよね江西さん?」と木立。
「ええ、そんなことで良いのでしたら」
横目で梅雨の挙動を眺めつつ、江西が申し訳なさそうに快諾する。
「うっわー脅迫」
「人聞き悪いこと言わないでよ双樹」
なにやら揉め始めた男性陣をぼけっと見守っていた花梨の服が、きゅっと引っぱられる。
「ん?」
花梨が振り向いた先には、ぐぐっと唇を引き結んだ梅雨がいて。
「あのね」
「うん?」
「ききき今日、来てくれて、ありがとっ」
ぱあっと笑顔になった花梨が体ごと振り返り、
「ん!」
ぎゅうっと梅雨を抱きしめる。
あわあわする真っ赤な顔の梅雨の両手が、宛もなく宙を泳いだ。