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//5th Stage_ソファと茶菓子

そこに、ぱたぱたと足音を鳴らして、花梨がトイレから戻ってくる。

「あ、江西さんだー、こんにちは!」

「こんにちは。……ええと?」

「すみません、俺の妹です。くっついて来ちゃって」

「わーい、お茶ありがと梅雨ちゃん! あっち座ろ!」

ごく自然な動作で梅雨の手を引いて部屋の中央に向かった花梨が、いつの間にやらオレンジ色のソファの中央に梅雨を座らせ、その隣に腰かけ、美味しそうに茶をすすって、双樹を元気よく手招く。

梅雨の過度な人見知りをすんなりすり抜けた少女を、おや、と江西が物珍しそうに見る。

「てめぇ花梨、仕切んなよ」

ぶつくさ言う双樹が少女二人の向かいにどっかりと腰かけ、

「これこれ、双樹、この赤い袋の食べてみ!」

茶菓子をほおばって歓声を上げた花梨が、いつもどおりのシカトっぷりを発揮してから、小袋をひとつ、双樹に放り投げる。

「聞けよ……ああもう」

吸い殻を近くのリサイクルボックスに放り込んだ双樹が、いつもの流れに諦めのため息をついて、手渡された菓子の包装を開ける。一口かじるなり、ぐっと眉を下げた。

「くそ甘ぇー、なにこの人工甘味料」

「ふふん、こんなの序の口だよ。うちのガッコの自販機で売ってる紅茶のほうが三倍甘い!」

「お前のガッコ、味覚障害で滅ぶんじゃね」

くだらないやり取りに花を咲かせる二人の横で、うつむきがちの小さな少女がそわそわと細い足を揺らす。その様子をちらと見た双樹が、湯飲みを揺らしその水面を見つめながら言う。

「あのさぁ。お前、俺の、全部ひととおり使ったろ」

「……ん」

コクンとうなずく小さな頭。

「で、あのライフルがベスト?」

「……ん」

「ふーん」

あの自信作は、双樹自身もベスト10に入れるほどのお気に入りだったりする。コンマ数秒で持ち替えられるように、専用のショートカットサインも作ったほどだ。

「レトロっつーなら、古式銃は?」

双樹の問いに、ぴくりと薄い肩が揺れる。

「……き、黄色いラインが入った、やつ……」

「ああ、小型短筒銃な」

「ん!」

「ふーん? じゃあさぁ、お前俺のローカル見たんだろ。「古式銃」っつータグ付いてた、すっげぇちっこい銃のラフ、見た?」

「み、みた!!」

少女の白い肌の顔に、じわりと赤みが差す。

「あ、あれも、あれもっ、ちょう待ってる!」

挿絵(By みてみん)

「ふーーーーん」

じたじたと興奮気味に足を揺らす少女から視線を外し、ゆっくりと腕を組んでソファに沈み込む双樹。

「ここで何個か描いてやろっか?」

「ううう、ほんとう?!」

「あー、双樹めっちゃちょーし乗ってる」

「うるせぇ悪いか!!」

けらけら笑う花梨に、反射的に怒鳴り返す双樹。

当たり前だ、誰もが憧れる世界的有名人の最強ハッカー(しかも美人の異性)に褒められて、悪い気はしない。それにこれまでソロプレイ貫いてきて、群集にざわめかれたことはあるけど、面と向かってまともに褒められたことなど、一度だってないのだ。

すいすいと中空を泳ぐように近寄ってきた端末を受け取った双樹は、起動済みの使い慣れた描画ツールが、使い慣れたカスタマイズをされているのに気づく。

「お前これ……」

「あ、あのね、こーすると、こう!」

さらに梅雨が指を滑らせると、双樹がこれまで数十分かけていた操作があっけなく終わり。

「うおお、まじか!! なにこれどーやって設定すんの」

双樹がローテーブルに身を乗り出す。

「うええ、ええっと、これ」

おずおずと差し出された数行のスクリプトに目を丸くする。

「まじで? こんな簡単にできんの? これもらっていいか?」

「ん、これ、オープンソース……」

「まじかよ」

背広を脱いだ江西が隣室から戻ってくる。それに目を向けつつ、

「……にした」

と梅雨が言い終えると、双樹が呆れ顔で呟く。

「ああそ。気前のよろしいことで」

そのソファの後ろを通ってキッチンのほうへ向かおうとした江西が、ふと足を止め、

「またか」

気候調節(クライメットコンディショナー)の設定ゲージがどれも真っ赤に――梅雨好みに染まっているのを嫌そうに見て、軒並み正常値に戻す。

それから、少女二人のソファに近寄ると、

「どうぞ」

さりげない動作で花梨の膝にブランケットをかけ、梅雨の羽織るカーディガンの調整袖(フレクスリーブ)を引き伸ばす。それから、

「お待たせしました」

奥のカウンターテーブルに座っていた木立の、隣のスツールを回し、長い足を組んだ。

一連の動きを見ていた花梨が頬に手を当て、きゃー、と小さな歓声をあげて、隣の梅雨に寄りかかる。

「梅雨ちゃーん、江西さん、まじいけめんだね!」

「ん? んん……」

おざなりな返事をする梅雨の目は、意気揚々と筆を滑らせ始めた双樹の手元にとても熱心に注がれている。武器に特段こだわりのない花梨は不思議そうに首をひねる。

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