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//11th Stage_轟断の重斧遣い

「呼んだー?」

少し離れたところにいたVAIUが顔を上げて言う。

なんでもないと答えたソージュが追い払うように手を振るが、少女はぴょこぴょこ近づいてきて。

「うえ。なんでそこ二人、お揃いなの」

眉を下げてエニシとコダチを指さす。その物言いにエニシが顔をしかめて、身につけている青い腕章を指さす。

「違う。妙な言い回しをするな。運営の装備だ」

「ええ。やーだ!!」

VAIUがそうわめいた直後、エニシの白いコートが一瞬でグレーの甲冑に変わる。VAIU扮するフィリア姫の護衛NPC、ローウェルの装備だ。顔だけは元のまま。

明らかなハッキングに会場中が騒然となる。一斉に焚かれるフラッシュ。

「馬鹿やめろ、運営にクレームが行くだろうが」

エニシが少女の頭を掴んでたしなめる。その後ろで、

「いけいけ、こらしめてやれ」

あくどい笑みを浮かべて呟くソージュに、

「それ、お前の首も締まるって気付いてる?」

苦笑したコダチの横槍が入る。

「つーか、あんな顔のパーツあったっけ?」

ふと真顔に戻ったソージュが、甲冑の男をじろじろ見つつコダチに聞く。

「ああ、運営はほかの一般プレーヤーと区別できるように、運営の中でも誰か識別できるように、顔のどこかにオリジナルパーツを使用するようにって義務付けられてるんだよ。で、江西さん、前に別のゲームで使ってたアバターデータがあるっていうから、てっとり早くそれ丸ごとスキャンして実装してみた」

「ふーん」

うなずくソージュの、ちょうど真後ろあたりの群集で、人混みを掻き分け最前列まで出てきた一人のプレーヤーが、

「げ?!」

ぎょっとなって叫ぶ大声に、何事かと周囲が振り向く。

AZN(プレーヤーネーム)の上にある称号とレペルとその他ステータスから、古参のプレーヤーと分かる。その彼が凝視しているのは渦中の白い少女ではなく、その隣の甲冑の――

「《轟断の重斧遣い(ディヴグロウル・アクサー)》、コン?!」

その名に。

エニシの半径1メートルほどの距離にいた全員が一斉に飛び退って、彼から距離をとった。

舞い上がった砂塵が、ゆっくりと収まる。

カリンが首をかしげる。

「エニシさん、コンっていうの? てゆーか、みんなそんなドン引かなくても」

「ば、馬鹿……」

まともなツッコミもできずに呆然としたままのソージュの前で、エニシが息を吐いて肩をすくめる。

「お恥ずかしい。若い頃、一時期ハマってましてね。当時プレイしてたゲームはどこも廃業したから、さすがに誰も覚えてないだろうと思ったんですが」

「んなわけあるかーーー!!!」

ソージュの盛大なツッコミに、VAIUの肩がびくっとなる。


HN:コン。使用武器は回転式の重量系小型片刃斧。柄が唸りを上げるほどの重い一撃を繰り出すことから、付いた名は《轟断の重斧遣い(ディヴグロウル・アクサー)》。FSRMMORPG黎明期の有名プレーヤーで、初代斧遣い(イニシャルハッカー)の一人。

FSRMMORPG黎明期の中でも特に老舗の画素凝結方式の視覚主体FSRMMORPGばかりを渡り歩いていたとされ、完全にデファクトスタンダードの切り替わった今、プレイデータが極端に少ないプレイヤーの一人だ。

「嘘だろおい……」

呆然と呟くソージュを不思議そうに見たVAIUが、笑顔で片手を挙げる。

「ふぅん。じゃあエニシ、勝負しよう!」

「いやお前この人の戦績知らないだろ!」

アリーナの中央に向かおうとするVAIUにつかみかかるようにして止めるソージュ。少女はちょっと中空に目をやり、

「んー、今調べた。私なら最小手数を演算してから攻略戦に挑むね!」

「はあ? そんなもんあったわけないだろが」

やいのやいのと揉める二人を眺め、ひとつうなずいたエニシが、ぱっと自身の武器庫(アーセナル)を開いて迷いなく手を伸ばす。

がしゃ、と金属音がして、騒いでいた二人が振り向く。エニシの手に握られているのは、青い柄の回転斧。

「なかなか使いやすそうだな」

武器を眺めて呟くエニシに、ソージュの目が興奮気味に泳ぐ。

「そ、そりゃ、小型の片刃斧なんか、コンか隻竜神ファウスのオリジナルデザイン踏襲すんのが、今の常識みたいな感じだし……」

ぶん、と風を切る音がして、エニシの手が斧を一度振り下ろし。

「よし。一戦お相手願えるかな、ソージュくん」

「ええーなんで?!」

わめくVAIUにエニシは呆れた目を向け、

「お前はその、今作ってるシステム拡張ガジェットと自動制御コマンドを全部外してから、申し込みに来い」

全部ってなんだ。ぼそりとソージュが呟く。

「じゃーエニシもすればいいじゃん!」

「お前は、FSRMMORPGチートの何たるかを、全く分かってない」

きっぱりと言い切ってから、

「なあ?」

とソージュに同意を求める。

「えーと、まぁそうっすね」

視線は自然とカリンに向く。

「ああ……」

高枝切り鋏を振り回しワープを繰り返す、よく分からない楽しみ方をしているチートプレーヤーがここにも一人。

「んじゃー梅雨ちゃん、あたしとやろう!」

高枝切り鋏を武器庫(アーセナル)に放り込んだカリンが白い少女に駆け寄って、びしりと勇ましく人差し指を突きつける。

「ん!」

謎の抱擁を交わした少女二人が、きゃーきゃー言いながら奇っ怪な戦闘を繰り広げ始める。戸惑いを盛大に含んだざわめきとともに、大量のフラッシュが焚かれる。

それを白けた目でしばらく眺めていたソージュが、隣に立つ白いコートを小突く。

「これどう間違ってもDozen (ディ)Fable()の仕様じゃありませんって、もっぺん念押ししといたほうがいいぞ」

笛をくわえたままのコダチから、「うん、今テロップ用意してるとこ」という穏やかな言葉が返ってきた。


***


数日ぶりに通信のつながったコダチに、ソージュがふと聞く。

「そういや、あの新作はまだなのかよ。あれだけ大々的に宣伝しておいて、会議でボツ食らったってこともないだろ?」

『ああうん、来月に延期になったよ。今Dozen (ディ)Fable()が大忙しだから。あの世界的ハッカーだけじゃなく、伝説のプレーヤーまで現れたっていうんで、各国から新規ユーザーが詰めかけてて』

「…………………………それ、お前、わざと公表したろ」

画面越しに、にっこり微笑むいつものコダチ。

ソージュはけっと唾を吐き捨てた。



<了>

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