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//10th Stage_世界有数の天才の、片手作業の反則負け


熱狂冷めやらぬ観客席を、ふとソージュが見上げる。

「おい、あれ硝子越し(ビジター)が撮ってね?」

本来ならバグだと慌てるはずのコダチはだが、ソージュの予想に反してすんなりうなずいた。

「うん、このエリアだけ全存在方式(モード)で限定解除したから、取り締まらないでね」

「は? いいのかよ」

「うん。ちゃんと会社の承認は取ってきたよ」

「はぁ? どうやって」

「試しに一枚撮ってみ」

不可解そうな顔をしつつ、ソージュが適当な方角に向けて画面録画を開始して、

「ん? なにこれ」

できたばかりの取得データを引き寄せるなり、見覚えのないリンクが付いていることに気づく。指先でつつき、

「別のゲームの……なんだこれ、事前登録ページ?」

「そ。あのあと企画書作って、今、役員会議に回してるとこ。俺ほんと特別手当もらえると思う……」

断片的に見覚えのある銃やら剣やらが洗練されたレイアウトで配置され、中央にはサンセリフ体の「Coming Soon」。斬新さと自由度の高さをウリにした、思わせぶりな宣伝文句がやたらと期待を高める。

いわゆる、ティーザーサイトだ。

「……昨日色々聞いてきたのは、このためか」

「うんそう。ぎりぎり間に合ったよ」

ふと気づいて、ソージュの指が検索窓に伸びる。日付を今日、場所を円形闘技場(ここ)に指定して検索。

案の定、今しがたの対戦の様子が――つまり、そこかしこに見たこともない武器が写っている無数の画像が既にネット中に拡散され、ゲーマーたちの間で熱心に情報のやり取りが行われている。

「この人数で情報ばらまきゃ、そりゃ人も集まるだろうよ」

「とある研究機関の調査データによるとね、口コミの拡散ほど経済効果の高い商法はないらしいよ」

満足そうに言うコダチを「この社蓄が」とソージュが罵るが、コダチは誇らしげに胸を張る。

「さて、砂地の整備も終わったし――そろそろ第二戦といこうか」

審判の手招きに呼ばれ、待機席で立ち上がったのは、

「待ってましたぁ!」

AZN(プレーヤーネーム)欄にカリンと記された少女のアバター。その初心者同然の低いLV値と装備を見た観客から、ざわざわと不安そうな声が漏れ聞こえる。

「心配御無用、あたしが仇とるからね!」

意気揚々とアリーナに飛び込んだカリンが、なぐさめるようにぽんと肩を叩いてVAIUとすれ違い、ソージュの前に立つ。

「いっくよー、たーかーえーだー……」

謎の呪文を唱え始めたカリンに、群衆が期待してざわめく。

「じゃんじゃじゃーん、高枝切り鋏ー!!!」

槍の柄の先にぞんざいにくっつけられた拳銃が、当てずっぽうに火を吹いた。

「いつそんなん作った?!」

盾を取り出し頭上に掲げてそれを避けつつ、ソージュのキレ気味のツッコミ。

会場の隅に肩を落として突っ立っていたVAIUがちょこんと首をかしげ、即座に「高枝切り鋏」を検索したらしく「ほほう」と嬉しそうに呟き、

「あげる!」

と両手を広げて言うなり、カリンの武器がぱっと切り替わる。

……とても精巧な、見事な刃紋の、最高級高枝切り鋏に。

「それは武器じゃねぇ! バトルゲームに変なもん実装すんな馬鹿二人!!」

乱射される銃弾を避けつつ、ソージュがまなじりを吊り上げて怒鳴る。付き合ってられないと乱暴に履き捨てると右手の銃剣の撃鉄を上げ、その銃口をカリンに向ける。

矢継ぎ早の反撃の発砲に、

「うわわわ」

驚いたような顔をしたカリンがちょいと指を振り、

「ちょっと! カリン! 消えるのナシ!」

途端、隠れる場所のないアリーナ中央で、少女の姿がぱっと消えた。

「……………………え?」

コダチが慌てて笛を鳴らす。

一瞬の静寂のあと、会場がわっとどよめく。

ちなみにDozen(この) Fable(ゲーム)には、エリア間の瞬間移動はあるが、戦闘中に使えるワープ系の能力はない。

自身の頭上にまたも《WINNER》の文字が躍るのを、ため息混じりに見上げたソージュが呟く。

「なんだよこの奇天烈な集団……」

「筆頭がなにを言う」

いつの間にか近くに居た見知らぬ男が楽しげに笑う。ソージュはちらと男の、エニシと書かれたAZN(プレーヤーネーム)欄に目を向ける。

「仕事大丈夫だったんすか」

「ああ、「早く来い」と大砲作る片手間に片付けられた」

「……は?」

嘆息混じりにエニシが指さす先には、浮かれた様子でガーデニンググッズを次々と実装し始めた白いアバター。

「……化物……」

ソージュが掠れた声で呟く。

マルチタスク得意か。聖徳太子か。

はぁ、とため息をつくソージュ。

「世界有数の天才の、片手作業の反則負けに勝ったって、勝ちは勝ちだけど――ちっとも嬉しくないす」

ソージュの愚痴に、エニシは黙って肩をすくめる。

肩をいからせ、ずかずかと砂地を踏み荒らすように進んだソージュが、

「おいそこの! あー、ディザスタ!」

園芸用スコップを振り回す少女に、特に深い考えもなくそう呼びかけた。

その言葉に――会場中がしんと静まった。

次の瞬間、爆発的に騒ぎ出す。

「まさかと思ってたが本物か!」

「すげえ! 撮れ!」

身を乗り出してはしゃぐ群衆たちに、ソージュが露骨に嫌そうな顔をして、そうっと右を向く。カリンを叱り終え、審判用の笛をカスタマイズしていたコダチが顔を上げて、

「あ、同じ組み合わせの再戦は午後からにして欲しいんだけど」

この騒動を予期していたかのように、しれっと言うのに。

「……そうかよ」

とだけ返して、更に顔をしかめた。

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