異世界トリップして勇者になったんですけど、相棒の騎士も変態でした
主人公がぶっ飛んでいます
ご了承の上お読み下さい
「…っく」
筋骨隆々とした悪魔の腕が、わたしの胸に埋まる。
真っ黒でぬるりとした肌に、能の般若面みたいな顔。身体こそ人型だが額に角が背中に翼が生えて、とても人には見えない。
肉を割るめりめりと言う音と共に、胸の中で蠢いた悪魔の手が、脈打つ心臓を捕らえた。
「く…ふ、」
肺を傷付けたのだろう。喉を血が競り上がって来て、口から溢れた。
身体を蹂躙する異物が気持ち悪い。
傷付けられた箇所が、焼けるように痛む。
悪魔の手が、捕まえた心臓を、握り潰、
「ふ…ふふふふふふふ」
「は?」
ざしゅ
突然笑い出したわたしに気を取られた悪魔の首を、持っていた剣で切り飛ばした。
悪魔が倒れるのに合わせて腕が抜け、異物が抜けた身体は、すぐさまなにごともなかったように元通りになった。穿たれ血に濡れたはずの服すら戻っているので、今ここに来たひとがいたならば、わたしが悪魔に攻撃を受けたなんて信じて貰えないかもしれない。
「くはっ、ふははははははっ」
倒れた悪魔を足蹴にして、わたしは高笑いを上げる。
「良いわ良いわ最高だわ。鋭い爪、強靭な皮膚、一撃で殺さずに心臓潰しに来る悪質さ!」
魔法の本から取り出した剥ぎ取りナイフを突き立てれば、今までそこにいた悪魔の死体が消える。
後ろで苦虫を噛み潰した顔をしている相棒の騎士を振り返って、笑いかける。
「やっぱり悪魔こそ至高!アナタもそう思うでしょ、トーニョ!」
「ああ、そうだろうとも…君にとってはね!」
「何よ、悪魔討伐は報酬も評価ポイントも高くて落とすアイテムもレアなわりに、危険で競争率低いからほかの勇者の邪魔も心配なくて、悪いとこなしでしょうよう」
大いに不満がありそうな相棒へ、魔法の本のアイテムページを開いてゲットしたアイテムを示した。
「ほら、今だって、見てこれ!赤の剣…!って、剣持ってたなら使えよばかあ!」
もうすでに消えた相手に怒りを叫ぶと、白けた目のトーニョに見返された。
「…攻撃方法に文句とか、贅沢な願いだよね。ほんと、おれ、悪魔嫌い。なんで勇者しか狙わないわけ?」
「え、それが合理的だからに決まってるじゃん。勇者殺さないと勇者の仲間は延々復活し続けるんだからさー」
どんな魔法か知らないが、勇者と契約した仲間は死んでも復活するようになるのだ。
だから、契約を破棄させるか、契約相手、すなわち勇者を殺さない限り、勇者の仲間を殺すことは出来ない。
RPGだってまず回復役から殺すのが定石だろうから、知恵ある敵である悪魔が同じ手を使うのは、なんらおかしくない。
勇者の仲間と違って、勇者は殺すことが可能なのだから。
「勇者さえ殺せば勇者パーティなんて壊滅したも同然だもん、勇者から殺そうとするのは当然じゃん」
「勇者が死んだら駄目だってわかってて、なんで君は騎士の前に出るの」
じとーっとした目で見られても、それは仕方のない話だ。
「だってそうしないと、アナタが全部攻撃防いじゃうでしょう?」
「それがおれの役目だからね」
「悪魔に寄って集って攻撃されるのが、勇者の役得なのに?」
「普通はそれを役得とは、うわっ」
予感に従ってなんとなく、トーニョを突き飛ばした。
相棒の顔がちょっと嬉しそうに見えたとか、気のせいだ。
わたしの腹から、槍が生える。
「よくも…ご主人さまを!」
悪魔の年齢なんてわかりゃしないけど、たぶんまだ幼い顔立ちの悪魔が、槍を握り締めてわたしを睨んでいた。
「先に襲って来たのは、キミのご主人さまだけど?わたしはほかの勇者たちと違って、攻撃されないと攻撃を返さないよ」
「そんなこと、」
「だってそうしないと、楽しくないからね!」
「は?」
おお。
ペットはご主人さまに似るって言うけど、部下もご主人さまに似るんだろうか。
わたしの発言を聞き返した悪魔くんの表情は、さっきの悪魔とそっくりだった。
腹から突き出た槍を掴んで、ずるりと引き抜く。
「その点、キミは完璧だね!この槍は手入ればっちりで、刺す動きも迷いなくて的確だし、骨すら断ち切る切れ味だ。良いよ。凄く好い!やっぱり刺傷は好いね!中でも刃物で刺されるのは、最っ高だよ!!」
微笑んだまま振り向いて、悪魔くんを血まみれの槍で貫いた。
「お前…なんなんだ…」
さっきみたいに首を飛ばさなかったからか、悪魔くんは槍で貫かれても生きていた。
すでに治ったわたしの腹を見て、顔をしかめる。
「なにって、勇者だよ?心が折れない限りは永遠に復活し続ける、ひとが造り上げたさいあくの化け物」
にこにこと笑ったまま、悪魔くんから槍を抜いて、また刺す。
「怪我が治るならさ、いくら刺されても切られても貫かれても良いよね。死なないんだから。せっかく怪我し放題の身体にして貰えたんだから、謳歌しなきゃ損じゃない。こんな世界で赤の他人救っても、わたしにはなんの得もないんだし、これくらいの楽しみは必要よね」
ふふっと、笑いが漏れる。
ざくざくと悪魔くんを刺す。槍が肉を穿つ感触も、なかなか乙なものだ。
刺しても刺されても良い。やはり武器は刃物こそ至高だ。
「異物に肉を割かれる感触ってさ、好いよね。特に刃物が肉を穿つ感触は最高。堪らない。怪我の後始末が面倒だったし、治らなくても嫌だったから今までは我慢してたけど、すぐ治るなら話は別だよね。いくらでも刺されて良いなら、」
「エリカ」
不意にトーニョが、わたしの腕を掴んで止めた。
「ん?」
「もう、死んでるよ」
「あえ?あ、ごめん」
刺し過ぎてぐちゃぐちゃになってしまった悪魔くんを見下ろして、呟きを落とす。
死者に鞭打つつもりはなかった。
悪いことをしてしまった。
剥ぎ取りナイフを突き刺せば、そんな惨状もなかったみたいに消えてしまうけど。
怪我の治りと言い、剥ぎ取りナイフと言い、魔法の本と言い、まるでゲームみたいな世界だ。
血の跡すら遺さず消えた悪魔くんのいた場所を見下ろして、トーニョが口惜しげに呟く。
「君や悪魔ばっかり良い思いして、ずるいよね。滅多刺ししたいなら、おれの腹にすれば良いのに」
「全力で断るわ」
真顔で吐いて溜め息を吐く。
「トーニョ…その性癖さえなければ引く手あまただっただろうに。黙ってればイケメンだし、剣の腕も一流なのに魔法まで使えて、敵の攻撃から身を呈して庇ってくれるし、乙女の夢みたいな騎士さまなのに…」
「エリカは庇われてくれないけどね」
「なんでせっかく敵が攻撃してくれようとしてるのに、大人しく庇われなきゃいけないの」
わたしに向けられた刃物はわたしのもの、トーニョに向けられた刃物もわたしのものと、方向性を大いに間違ったジャイアニズムを振りかざす。異論は認めない。
トーニョが苦悶の表情で、額を押さえた。
イケメンだとそんなポーズもさまになって良いね。口を開かなければだけど。
「くっ…エリカはほかの勇者と違って弱そうだったしもの知らずだし仲間もいなかったし、ちょうど良いと思ったのに、まさか同じ性癖だったなんて…」
「アンタと一緒にすんな。わたしに、痛め付けられて悦ぶ性癖はない」
そこを一緒にされては困ると、勢い込んで否定した。
わたしはトーニョと違って被虐趣味はない。
ただちょっと、自傷願望があるだけだ。
「どこが違うの」
「ぜんぜん違う!わたし、痛いの嫌いだもん」
マゾヒストと一緒にしないで欲しい。心外だ。
「剣に貫かれるのが好きとか言ってるのに!?」
「ああ好きさ、大好きさ!でも、わたしが好むのは肉を抉られる感触であって、痛みじゃないの。だからアナタみたいに、傷が治るのが残念とか言ってないじゃない。痛みを愉しむ変態と、一緒にしないで!」
「大して変わりないじゃないか」
変わりない?恐ろしいことを言わないで欲しい。
目の前の男はいたぶられるのが大好きなドM野郎で、わたしはちょっと肉を切るのと切られるのが好きなだけの、ごく普通の乙女だ。
いや、うん。多少?アブノーマルな思想なのは、自分でも認めるけどさ。
「大違いだから!囲碁とオセロ並の違いだから!一緒にするなこの変態ドM野郎!!」
「あ、うん。罵るなら、もっと激しくお願い」
「くたばれ変態…!」
思わず手が出る気持ち悪さ…!
あ゛、しまった。
「あっ、もっと…」
「うぜええええええええ!!」
現実から逃避するように、わたしはしゃがみ込んで頭を抱えた。
異世界トリップして勇者になって、これ幸いと長年の夢を叶えているのですが、相棒の騎士も変態でした。もう、どうすれば良いんでしょう…orz
数百年語の未来に、エリカとトーニョが世界を救った勇者として、伝説になることは、このときのふたりもふたり以外の誰も、知る由もなかった。
心が折れない限り復活し続ける勇者。
どんなに猛き者も強き者も繰り返す敗北に痛みに心を折られ敗退する中、弱小の底辺勇者と馬鹿にされたエリカが生き残ったのが、勇気でも愛でもなく、ひとえに性癖によるものであることは民衆たちにはひた隠しにされ、絶対に漏らされることはなかった。
人生なにが幸いするか、わからない。
そして、世の中には知らない方が幸せなこともあるのだ。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです




