第二章 始まり
大樹の目がぱっと開いた。眩い光が視界を焼き、彼は荒い息を漏らしながらぐらりと体を起こした。
「リノ!」
しかし彼の声は虚空に響き渡るだけだった。
「彼は自分がどこにいるのか理解できていなかった。思考はまだ混乱していた」
血、廃墟、両親の遺体——それらは消えていた。彼はもはや自宅にいなかった。
代わりに、果てしない白の空間に立っていた。光は温かくなく、無機質で、あらゆる方向から彼を圧迫し、影すら許さなかった。沈黙は息が詰まるほどだった。
「またか」と、ガラスの破片のように鋭く、疲れ切った声が呟いた。
一つの影が、輝きも慈悲もなく、ただ歪んだ形で現れた。その輪郭は絶えず変化し、一瞬人間、次に怪物、そして形のない光へと移り変わる。ダイキはその姿を見ただけで胃がむかついた。
「ダイキは後ずさりしようとしたが、足が言うことを聞かない。まるで自分のものではないかのように」
彼は拳を握りしめ、よろめきながら後退した。「お前は誰だ? 妹はどこだ?!」
答えられないと分かっていながら、彼は彼女が何か答えてくれることを願い続けた。
その姿は空気を冷たく凍らせる無関心の眼差しで彼を見据えた。「死んだ。少なくともお前は。お前の肉体は終わった。残っているのは意志の断片、私の前に立つこの存在だ」
「違う…」声は途切れた。震えながら彼はよろめき前に出た。「違う、彼女は生きていた…俺が手を握っていた…彼女を置いて行けない…」
その笑い声は空虚だった。墓の中で骨が軋むような音だった。
「人間は必死にしがみつく。取り返しのつかないことを私に懇願する者がお前が初めてだと思うか? 時はお前のために巻き戻らない。死は奪ったものを取り戻さない」
「そんなの認めない!」声は途切れたが、彼は無理やりその者の目を見据えた。
『わずかな可能性さえあれば、地獄を這ってでも掴み取る』
沈黙が長く続いた。
初めて、その存在の姿が揺らめいた。大樹の反抗が、それさえも動揺させたかのようだった。
「…反抗か。虚無の中でも、お前はそれにしがみつく。よし。それほどまでに二度目の機会を渇望するなら、与えてやろう。だが理解しておけ、小僧よ――神々の贈り物に、ただのものなどない」
その手が上がった。白い広がりが震えた。
「汝に与えよう…無限の魔力。天井知らずの力。祝福であると同時に呪いでもある。躊躇えば汝を空っぽに焼き尽くす。だがこれさえあれば、失ったものの影を追える」
虚無が震え、光のなかにガラスのひび割れのように亀裂が広がった。
大樹の息は荒かったが、彼は顔を上げた。「それしか道がないのなら…受け入れる。死のうが構わぬ」
言いたいことはあったが、言葉はうまく出なかった。
影が近づく。
無数の変幻する顔が同時に囁いた:
「よろしい。お前が溺れるか…昇るか、見てやろう」
足元の地面が崩れ落ちた。闇が彼を丸ごと飲み込んだ。
「走れ、蟻のような人間よ」声が響く。魂が砕けるまで走れ、血と廃墟を駆け抜けろ、もし彼女に再び会うことがあれば」
彼は叫びながら虚空へ落下した――悲嘆と怒りと決意が一つに燃え上がるままに。
「うっ…冷たい」
動こうとした。押し寄せるぬめった表面を押しのけようとしたが、手足は痺れて反応しない。まるで自分のものではないかのようだった。胸に焦燥が燃え上がる。
待て…動けない?一体全体…?!
視界が揺らめき、ゆっくりとクリアになる。小さく繊細な指が目の前に浮かんでいる。
自分のじゃない。
「まさか…ありえない」
吐き気が込み上げた。悟りが閃いた。神。転生。これは私の体じゃない。
私は水のチューブに吊るされ、水族館のグロテスクな標本のように展示されていた。冷たく無表情な目がガラス越しに私を観察している。
子供の映りがこちらを見つめ返す。五歳。脆く。無力。
叫びたかったが、未発達な肺からはかすかな呻きしか漏れない。闇が再び私を飲み込んだ。
だが目覚めは決して安らぎをもたらさなかった。
ただ地獄へと引き戻すだけだった。
白衣を着た者たちが現れた。目は虚ろで、手つきは正確だった。医者ではない。人間でもない。屠殺者だ。
彼らにとって私は子供ではなかった―材料だった。生きた標本。
拘束されたまま、私の血で満たされる試験管を見つめた。針が血管を刺し貫き、生々しくなるまで。彼らは突いたり、切ったり、注射したり、観察したりした。彼らの声は臨床的で冷たく、時に嘲笑を含んでいた。
私の痛みはデータ。私の叫びは娯楽。
彼らの残酷さは際限がなかった。
好奇心が残虐へと変わった時、真の実験が始まった。
毒が私の血管を焼いた——殺すためではなく、治癒速度を測るため。皮膚は水ぶくれを起こし、裂け、彼らの魅入られた視線の下で自ら縫合した。
指は小枝のように折れ、関節は靭帯が断裂するまで捻じ曲げられた。計算された力で骨は砕け散った。そして待ち時間——彼らの目は再生のグロテスクな舞踏に釘付けだった。
爪は剥がされ
髪は一掴みずつ引き抜かれた。再生の仕方が変わるか確かめるためだ。
歯は雑草のように引き抜かれた。掴み、引きちぎられた。真っ直ぐに生え変わるか確かめるためだ。
そして一度、金属のスプーンが私の眼瞼の下に押し付けられた。圧迫。裂ける。世界が赤く染まった。
その度に死を祈った。その度に這うような感覚が、グロテスクな奇跡が訪れた。肉が蠢き、再び縫い合わされる。骨が不気味な音を立てて再形成される。
慈悲ではない。嘲笑だ。
最初は喉が擦り切れるまで叫んだ。血まみれの唇で懇願した。お願い…誰か。止めてくれ。
誰も来なかった。
やがて叫びは消え、涙は乾いた。私の顔は痛みを表すことを忘れた。
恐怖は鈍り、痛みは鈍り、希望さえも鈍った。
私は反応しなくなった。
私の顔はひるむことを覚えなかった。体は殻となった。
切り裂くためのもの。注射するためのもの。壊すためのもの。修復するためのもの。
終わり。
そしてまた終わり。
繰り返す。
ただ沈黙だけが残るまで。
———
七年間が一つに溶け合い、終わりのない悪夢となった。
毎朝が同じように感じられた…機械の唸り声、光を反射する金属工具、どこにも温もりなどなかった。
最も胸を打ったのは記憶だった…。
深夜の勉強中に母親が食事を持ってこっそり部屋に入ってくる姿、その瞳に浮かぶ不安を隠そうとする様子。父親がどうでもいいことを延々と話し続ける姿、ただ不器用な方法で繋がろうとする姿…。
そして毎朝、学校へ向かう道でリノの小さな手が彼の手を握りしめ、疑いもなく彼を信じていた。
それらの記憶は慰めにならなかった——鋭く容赦なく食い込み、引き裂かれた全てを思い出させた。
憎しみが膨らんだ。彼を呪った神へ。彼を切り刻んだ白衣の男たちへ。死を懇願しても決して壊れないこの肉体へ。
再生という「贈り物」は、贈り物などではなかった。次の切り傷、次の骨折、次の悲鳴に耐えられる程度にしか癒さなかった。彼は沈黙を学んだ。静止を学んだ。痛みを受け止める器となった。
十歳の誕生日を迎えるまで…
彼の内側で何かが壊れた。あるいは目覚めたのかもしれない。
長年の苦痛、完全に癒えぬ痛み、消えぬ怒り――全てが一気に彼を襲った。
全てが一点に集約され、止めようのない奔流となって燃え上がった。膨大で不安定な魔力が、束縛を断ち切った。
それは流れなかった。
噴出したのだ。
外部では生存不可能な存在を封じ込めるための強化室でさえ、その爆風を遅らせることはできなかった。金属は内側に折り曲がり、ガラスは一斉に外へ吹き飛び、床は部屋を貫いた衝撃波で割れた。天井の照明が飛び散り、すべてが薄暗く壊れた光に包まれた。
大樹はその中心にいた。制御不能な爆風に投げ出された。その衝撃で身体は引き裂かれ、そして同じ速さで再び癒え、逃れられない痛みのループに閉じ込められた。
それは力とは感じられなかった。内側から引き裂かれ、その全てを自覚させられ続ける感覚だった。
彼は制御できていなかった――ただ耐え忍んでいるだけだった。
痛みが力を生み、力が痛みを生む。
それは嵐だった。
そして彼はその目だった。
爆発が隠された施設を貫いた。大樹の部屋を越え、他の檻に閉じ込められた子供たちが動き出した。壁がひび割れ、煙が廊下を埋め尽くす。
小さな手が錆びた鉄格子を握りしめる。薄暗い中で大きく見開かれた瞳が光る。人間のものもあれば、そうでないものも。
切り傷で顔を傷つけられたエルフの少女は、震えごとに身をすくめた。
口輪が顎を食い込む獣人の少年は、虚ろな目で凝視していた。
翼を折られ血まみれの妖精の子供は、無言で揺れながら独り言をつぶやいていた。
片耳が半分切断された狼人の少女は隅で丸まり、残った耳があらゆる音にぴくぴく震えていた。
鱗の少年は動かない。鱗はくすんでひび割れ、瞬きもせずに見つめていた。
あまりにも多い。多すぎる。
皆、傷つき、皆、死を待っている――それ以上のものを。
何年も、彼らが知っていたのは沈黙と注射針と医者の残酷な微笑みだけだった。今、その沈黙は破壊によって破られた。
そして廊下の奥で、医者は凍りついて立っていた。その唇は今回は喜びではなく、怒りと、もっと稀な何かの一瞬の揺らぎで歪んでいた。
恐怖
爆風は山を真っ二つに貫いた。施設を隠す偽の洞窟が裂け、初めて本物の日光が差し込んだ。新鮮な空気が廃墟を駆け抜け、化学物質や金属の代わりに土と松の香りを運んだ。
大樹はその中心に、小さく震えながら立っていた。彼から漏れ出るエネルギーが周囲を不規則な波で照らし出す。武器でも奇跡でもなく、かろうじて自分を保っている少年にしか見えなかった。
かつて冷酷に響いていた医者の声は、今や震えていた。
「ありえない…これは…これは――」
大樹が顔を上げた。七年間の憎しみに煽られた炭のように燃える瞳で。
嵐は始まったばかりだった。
初めて、脱出の道が開けた。
自由への道が。
子供たちは恐怖に震えながら、裂け目を大きく見開いた目で凝視した。胸の奥で、長く忘れ去られていた希望が揺らめいた。
「出口を封鎖しろ!」主任医が叫ぶ。声にはパニックが滲んでいた。「あのガキどもを逃がすな!お前は――被験体07を拘束しろ!拘束し、鎮静剤を投与しろ――今すぐだ!」
魔法の鎧をまとった騎士たちがガチャンと動き出し、剣を抜いて子供たちと後方の裂け目の間に防御壁を形成した。
廊下には魔術師たちが並び、呪文を唱えながら紋章を輝かせていた。
遅すぎた。
ダイキが瓦礫の中から現れた。小さな体は燃えるようなオレンジのオーラに包まれている。周囲の空気は歪み、重く電気に満ちていた。少年というより、嵐が肉体を得たかのような輝きを放っていた。
彼が動く前から、彼らはそれを感じ取った。
マナの圧力が崩れ落ちる山のように襲いかかる。騎士たちはよろめき、膝をつき、息を詰まらせた。
「抑えろ!」医師が叫びながら後方の廊下へ退却する。「マナ抑制を使え!あらゆる手段を……とにかく彼を止めろ!」
だが騎士たちは躊躇した――命令ではなく恐怖に凍りついて。
大樹が手を上げると、世界が歪んだ。
金属が悲鳴を上げ、鎧は紙のように折り畳まれた。盾は内破し、守るべき胸を貫いた。胸当ては内側に潰れ、肋骨が肺を突き破り、湿った破裂音と共に血が喘ぐ口から泡立った。
ある騎士の腕は弓弦のように腱が切れるまで後ろに捻じ曲がり、背骨は足元の枝が折れるような音と共に真っ二つに砕けた。別の騎士の兜は圧縮され、金属が内側に押し潰されるにつれ目つぼしが狭まり、眼球が破裂してフェイスプレートの継ぎ目から滲み出た。関節や継ぎ目から血が噴き出した。
ある騎士は腹這いで前進し、砕けた背甲から腸を引きずりながら、石床を必死に爪でかきむしった。
大樹がわずかに手首をひねるだけで、残る者たちは壁に叩きつけられ、武器は破片となって自らの肉体を貫いた。沈黙がようやく訪れた時、天井から滴り落ちる血の音だけが秒刻みを刻んでいた。
大樹は瞬きもしなかった。
息さえも。
もはや獲物ではない。裁きそのものだった。
子供たちは散り散りになった。恐怖が瞳に燃え上がり、胸には脆い蝋燭のように希望が揺らめく。何が起きたのか理解していない――ただ衛兵の叫びが止み、扉が彼らを阻まず、かつて子供が跪いていた場所に怪物のような存在が立っていることだけを理解していた。
彼らは走った。走れるから。走らねばならなかったから。
大半は振り返らず駆け出した。裸足が金属や石を叩く音が、崩れかけた廊下に反響する。だが数人——三、四人ほど——は畏怖と恐怖で凍りつき、救い主であり破壊者であるダイキを凝視していた。
狼族の少女もその一人だった。耳を低く伏せ、黄金の瞳を脈打つ魔力と抑えきれない復讐心に包まれた少年に釘付けにしている。
別の子供――鱗を持つアルゴニアン――が彼女の腕を引っ張り、動くよう、逃げるよう促した。彼女は安全が許すよりも一瞬長く躊躇したが、ついに他の者たちを追って駆け出した。足元で葉が軋む音が響いた。
大樹は彼らを一瞥もしなかったが、なぜかその視線の重みを感じた。無言の警告だ——これは英雄などではない>>>彼らが目撃しているのは、嵐と化した彼の姿だった。
「誰一人として口を開かなかった」
廊下は血で染まった。研究者たちがタイルと鋼鉄の上に散らばり、血は壁に塗りたくられ、最後の叫びはすでに消えかけていた。男も女も、老いも若きも——大樹は誰一人として容赦しなかった。嘲り、傷つけ、黙って見守った者たちは容赦なく切り刻まれた。
彼は止まることなく動き続ける。そのオーラは、炎と憎悪でできた鼓動のように脈打っている。
主任医師は後ずさりした。かつて得意げだった顔に恐怖の皺が刻まれた。子供の苦痛に笑みを浮かべていたサディストは消え去っていた。
その代わりに立っていたのは、言い訳を探してもがく震える臆病者だった。
「待って!何とかできる!私が協力するから、お願いだ…!これは全て大義のためだったんだ!」
彼は若い研究者の一人を掴み、人間の盾のように前に押し出した。「彼女を捕まえろ!奴らを捕まえろ!俺だけじゃないんだ!」
他の者たちは混乱と恐怖の叫びを上げたが、時すでに遅し。
大樹の瞳は微動だにしなかった。
灼熱のマナが両手から双剣のように燃え上がり、煙の中に光の弧がパチパチと音を立てて走った。一閃、彼はそれを前へ振り払った。研究者の悲鳴は途切れ、焦げた二つの半身となって地面に落ちた。
医者の叫びはより高く、より鋭く、純粋な恐怖へと変わった。彼は死体につまずき、後ずさりした。
大樹は追いかけた。オーラはまだ脈打っており、沈黙はどんな叫びよりも響いていた。
「お前が奪った痛みの一滴、涙の一粒、血の一滴まで、全てを返してやる」
男の必死の哀願は、大樹の耳に響く怒号に飲み込まれた――怒りの交響曲は容赦なく頂点へと螺旋を描いていく。
恐怖が空気中に漂い、肺を焼く煙のように濃く、息が詰まるほどだった。そして大樹は…それを飲み込み、長年の苦しみがもたらした苦い癒しを味わった。
それでも、決して足りはしない。足りるはずがない。まだだ。
大樹は手を伸ばした。小さな手が震えている――恐怖からではなく、辛うじて抑えきれないほどの耐え難い力から。
まずは男の手から。きれいに。素早く。ではなく。ゆっくりと。意図的に。一本一本の骨が砕け、腱が裂け、皮膚が彼の握りしめた下で剥がれ落ちる。部屋には悲鳴が響き渡り、肉と骨が濡れた音を立てて引き裂かれる不気味なハーモニーを奏でる。
次に彼は下へ――脚へと移る。見えない重みで骨が軋み、筋肉は紙のように裂ける。体は痙攣し、糸を切られたぼろぼろの人形のように床を叩きつける。高く、途切れた悲鳴が死んだ施設の静寂を切り裂く。
血が彼の足元に溜まる。四肢は機能しない。彼の遺産、支配、傲慢さ——全てが崩れ去った。
大樹は彼を見下ろし、息は整い、目は鈍い。彼は破壊された姿——歪んだ四肢、苦痛に歪んだ顔——を凝視し、決意を固めた。
死は優しすぎる。
冷酷な目的を胸に、
大樹は自らの腕に爪を立て、骨まで裂き開いた。熱い血が勢いよく噴き出す。その中に濃い魔力が渦巻いている。一瞬、片腕とぐちゃぐちゃの切断面だけになったが、傷口は呪われた速さで閉じ、握りしめた切断片が痙攣する。彼は再生した手を掲げると、魔力が渦巻き、きらめくエネルギーのギザギザの爪へと形を変える——憎悪そのものから鍛えられた捕食者の鉤爪のように。
その爪を医者の胸に突き立てる。
肉は張り詰めて、
不揃いな血まみれの断片へと裂け、
骨は脆い木のように砕ける。
胸郭は外科的な悪意で割れ、ぬめりとした脈打つ心臓を露わにする。医者の生々しい苦悶の叫びは、大樹の耳に響く肉を引き裂く湿った飢えた音に飲み込まれた。
そして残酷さが訪れた。
ダイキは切断された手を傷口に押し当てた。呪われた血が男の体内に滴り落ち、心臓を再び鼓動させ、肋骨と肉を縫い合わせた。体は修復される。
医者は生き延びた。
生きて、苦しみ続ける。
絶望的で果てしない悲鳴が空気を裂く。
だがダイキは動じない。
彼は語らない。
彼は得意げにもならない。
憎しみすら抱かない。
血に染まった髪に半分隠れたその顔は、平静で、無関心だった。
彼は苦痛の中で鍛えられた機械のように動き、苦しみを手術刀のように操る。
何度も何度も、自らの肉を引き裂く。
何度も何度も、爪が形成される。
何度も何度も、医者の胸を裂き開く。
幾度となく、彼は治癒を強いる。
繰り返しが次へと繋がる。悲鳴は嗚咽へ、嗚咽は喘ぎへ、喘ぎは沈黙へ。正気が崩れる。男はもはや死を恐れない――懇願する。
だがダイキは決してそれを許さない。
生き続けさせる。感じ続けさせる。耐え続けさせる。
ついに心臓が止まるのは傷のためではなく、恐怖のためだ。
痛みからではなく、大樹――自らの創造物が別の何かに変貌した事実を知ったからである。
怪物に壊された子供が、自らも怪物となったのだ。
ついに身体が静止すると、大樹は死体を見下ろした。両腕は自らの血にまみれ、胸は静かに上下していた。
怒りは過ぎ去った。
残ったのは虚無だけ。
復讐は果たした。
だがその味は灰のようだった。
* * *




