第十五章 破滅的な敵
ピアスの本能が鋭く反応した。
何かが、速すぎる速さで迫ってくる。
一瞬の閃光、バム!――攻撃が命中した。
武藤の装甲体は吹き飛ばされ、きれいに分解された――魔法の施された鎧の破片が地面を転がる。
彼の炎は、魂が抜け出たように低く漂っていた。
ピアーズの血の気が引いた。「武藤!」
「私は…大丈夫です、若様」武藤の声は苦しげだった。
ピアーズは今起きたことを理解しようともがいた――攻撃は彼が認識する前に来ては去っていた。目が追いつかない。
くそっ!見えなきゃ役立たずだ!考えろ。考えろ。時間はない
その時――パキッ。
彼は両手を上げた。
マナタンク。彼は叫んだ。
オレンジ色の光が爆発的に広がった。半透明の殻が形を成す――ドーム状で角張った、厚い、タンク型の障壁。それはスティクス、子供たち、ギュンユウ、そして武藤を包み込み――安全に封じ込めた。
だが今なお、彼の目は攻撃者を捉えられない。幻影を追うようだった――音も影もなく、ただ衝撃だけ。
こいつは何だ?
速すぎる… まだ目が追いつかない!
彼は歯を食いしばった。だめだ。慌てるな。考えろ。
周囲の者たちは凍りついたように立ち尽くし、青ざめた表情で口を開けたまま呆然としていた
一人を除いて。
スティクス。
彼女はタンク内でつま先立ちで跳ねているかのように、目を輝かせていた。
「わあ!また!もう一度やって!」彼女はくすくす笑った。
武藤はわずかに苛立ったため息をつきながら、四肢の再接続を終えた。
ピアーズは拳を握りしめた。見なければ。
考える…待て――違う、集中じゃない。感覚だ。見えない…でも感じられるかもしれない。
息を整え、彼は集中した。再び魔力を外へ押し出し、今度は薄く広げる――タンク周囲の空気に、頑丈で広い網を張るように。
「アウター・ビジョン・バリア」と彼は呟いた。
空気が揺らめいた――第二層の魔力が広がり、空間に微かな波紋を走らせた。「密度が薄く…範囲が広い」
目で追えなくても…魔力で辿れるかもしれない。
ドスン。何かが外縁に激突した。障壁が光を脈打たせた。
あそこだ。
ピアーズの目が大きく見開かれた。「鑑定」
大量のデータが彼の脳内に流れ込んだ。
『雷狼』
ランク:S アペックス
脅威レベル:壊滅的
説明:黒き稲妻に包まれた獣。その体は捕食者の動きと生々しい元素エネルギーの渦となり、視覚の限界を超えた速度で、肉となった稲妻のように移動する。その爪は最強の防御をも引き裂き、その存在自体が魔力を乱す。
背筋を冷気が這うのを感じた。
「予想外の相手だ…」彼は息を殺して呟いた。
Sランク――いや、それ以上かもしれない。これは…自分の手に余る。
向かい側で、武藤が剣を構えた――刃が光を反射する。不死の騎士の声は低く、厳しい。
「若様。通してください。私が相手を」
「黙れ、武藤!集中させてくれ!」ピアーズは障壁の外で動く影に視線を釘付けにしたまま、鋭く言い放った。
息を吸う――深く、集中して。そしてゆっくりと手を上げ、黒と黄色の稲妻のような光を指し示した。
「ソウルパペット」
彼は飛びかかった――狼男の不可能な速さに合わせようと――しかし投影はかすんだ。ほんのわずかに遅かった。
遅すぎる。
まただ。
もっと強く押せ。
ピアースは歯を食いしばり、顎が張り裂けそうなほど緊張した。危険なほどに魔力が渦巻き、核心から溢れ出そうになりながら、彼は再び詠唱を強いた。
それはぼやけた――近づいた。それでもまだ足りない。彼は狼男の後ろを、稲妻を追う幽霊のように漂っていた。
くそっ!
彼はこれまで以上に深いところから魔力を引き出し、チャネルに叩き込んだ。溶けた針が刺さるような痛みが走った――それでも彼は手を緩めなかった。
頼む!こんなことしてる暇はない!追いつけなければ――止められない――止められなければ――
タンクの後ろに身を寄せ合う子供たちを見た。震えるルシエンヌの姿を見た。獲物に飛びかかる捕食者のように低く構えたスティクスを見た。
失敗は許されない。
決意の沈黙の中、ピアーズは深淵へ手を伸ばした。より深く、より不安定な力の源へ。
ソウルパペットが再びきらめいた――そして今回は、何かがはまった。動きが滑らかになった。鋭くなった。ほぼ同期している。
そして最後の集中力を振り絞って、彼は意識を移した――狼男の身体ではなく、その周囲の空間の歪みに同調した。
あらゆる変化。その不可能な速度で押し流された空気の波紋一つ一つ。
彼は打った。
そして初めて、狼男の動きが止まった。
凍りついた。
世界そのものが一瞬で止まったかのように、その場に釘付けにされた。
その稲妻さえも鈍り——毛皮の上を鈍重に弧を描いて走った。
誰もが信じられないという表情で凝視した。
そこにいた。
獣の全貌が。
巨大な、原始的な狼――黄と黒の稲妻がパチパチと走り、静電気で逆立った毛の一本一本が。その存在感は息が詰まるほどだった。
筋肉は残忍な精度で巻きつき。牙を剥き出し。目は溶けた太陽のように輝いている。
頂点。
生き残るためではなく――支配するために設計された捕食者。
ピアーズは喉を鳴らした。
そして俺は、それを怒らせてしまった。
彼は歯を食いしばった。
片手で獣を外側のネット障壁の縁近くで宙に浮かせたまま、もう一方の手でタンクガンを照準に合わせ、ロックオンした。
凍りついた生物。彼の感覚は限界まで張り詰めていた——タンクのシールドを維持し、ネットの障壁を制御し、獣の位置を保持する。全てが刃の先に懸かっている。
だがこれだけでは足りない、と彼は厳しく呟いた。
彼は集中し直した。より深いエネルギー源を引き出し、自身の魔力をはるかに危険な何かに導いた。
空気の急変が次の段階を告げた――風が吹き荒れ、タンクの周囲を不自然に渦巻く。
彼はそれを形作った。
名を呟きながら――
HF、COCl₂、ClF₃、HCl、SO₂… 毒性のある不自然な混合物
危険なガスが彼の意思の下に具現化する。暗緑がかった黄色い霧が形成され、白い酸性の煙が濃密に漂う。それは化学的混沌の渦巻く密な球体へと凝縮し、精密な魔力制御によって封じ込められ安定化される――戦車の砲身前に位置した。
ピアーズは笑った――疲れたが、邪悪な笑みだ。
「これでどうだ」
彼は発砲した。
戦車の砲身が跳ね上がる。
腐食性の球体が唸りを上げて飛翔する。
狼男は空中でもがきながら危険を察知した。
だが遅すぎた。
衝撃。
勝利の唸り声が甲高い悲鳴へと歪んだ。霧が全身を覆い尽くし――貪り食った。
黄と黒の輝きを放つエネルギーが泡立ち、剥がれ落ち始めた。酸と毒素が作用するにつれ、毛皮と筋肉と肉塊が部分的に液化し、塊となって剥がれ落ちていった。かつては恐怖の化身だったその速さと力は、今や溶け崩れ、形のない光へと消え去ろうとしていた。
瞬く間に…
消えた。
稲妻狼は、消えゆく静電気の漂う火花へと解け、その存在は無へと溶けていった。
静寂が続いた。
安堵ではない。
勝利でもない。
ただ、静寂だけ。
ピアーズは立ち尽くした。腕はまだ伸ばしたまま、指は固まったように動かない。まるで身体がまだその事実を受け入れていないかのようだった。空気は異臭を放っていた――酸っぱい、焦げた、金属的な匂い。胃がむかついた。
彼は唾を飲み込んだ。
足が震えた。
今になってようやく痛みが襲ってきた――鋭く、遅れて、背筋を這い上がるように。視界が揺れた。汗が顎から滴り落ち、石に跳ね返った。
「…あれを使うべきじゃなかった」彼はかすれた声で呟いた。
返事はない。
背後で誰かが震える息を吸った。
そしてまた。
スティクスが静寂を破った。
「やったぞ、ピアーズ!」彼女はかかとで跳ねながら叫んだ。「あれは――!!」
彼が振り返らないので、彼女の声は途切れた。
子供たちは目を大きく見開いて彼を見つめていた――まだ歓声を上げず、笑わず。今にも崩れ落ちそうな彼を、ただ見守っていた。
彼の膝ががくんと折れた瞬間、ようやく歓声が戻ってきた。
スティクスが駆け寄る。子供たちも怖れを押し殺した興奮で、危険が完全に去った今、彼に群がった。
「めっちゃカッコよかった!」スティクスは再び叫んだ。今度はもっと大きな声で――この瞬間を安全な場所へ引き戻そうと。
ピアーズにはかすかにしか聞こえなかった。
世界が傾いた。
奇妙な圧力が意識の端をかすめた――何かが移り変わり、解き放たれ、ささやく――
集中できなかった。
闇が彼を丸ごと飲み込んだ。
壮麗な稲妻狼男は消えゆくエネルギーへと溶け、最後の雑音と共にその存在は消えた。
沈黙。
ピアーズは凍りついたまま、ただ見つめていた。
額に汗がにじんだ。自らの攻撃の余韻に、彼は驚いた。
「…手加減すべきだったか」
背後から歓声が沸き起こった。
スティクスは跳ねながら拍手し、抑えきれない興奮で叫んでいた。さっきまで呆然としていた子供たちは、今や目を輝かせ、明るい笑顔を浮かべていた。ギュンギュンでさえ空中でくるくると回りながら、熱狂的な「モーッ!」と鳴いた。
アドレナリンが引いた。めまいが押し寄せる。
彼はよろめいた。視界がぼやけた。
騒音の向こうから、スティクスの声が聞こえた――高く誇らしげに。
「やったぞ、ピアース! めっちゃカッコよかったぜ!」
子供たちが畏敬の眼差しで彼を取り囲んだ。
だが、別の何かが彼を引き寄せた。
理解の閃き…
心の奥底でささやく声…
啓示。
スキル? 特別なスキル?
彼はそれを見極めるほど長く集中できなかった。
世界が傾いた。
そして――
闇。
かすかな物音に、ピアーズは眠りから覚めた。自分の部屋に戻っていた。閉ざされたドアの向こうからは、激しい家族の議論かと思うような、こもった声が聞こえてくる。
「まさかそんなことをするなんて、スティックス!」
普段は温かく優しいキシリアの声に、怒りがにじんでいた。
ピアーズは顔をしかめた。
いや、待て。これは明らかに友好的な会話じゃない。
母は完全なるマザージラモードだ。
彼は毛布を顎まで引き上げた……そしてため息をつき、また下ろした。
嗚咽が漏れた。
スティクス。
最悪だ。こんな騒ぎを寝過ごした自分が、世界一の怠け者みたいに思えてきた。
「母さん、お願いだ――」スティクスが言いかけたが、新たな怒りの大波に遮られた。
「お願い?お前がやったことの後で?!」
キシリアの声は感情で震え、ひび割れていた。
「私たちがどんな想像をしたか分かる?誘拐!ゴブリン市場!それで君は—!」
リガスの深く落ち着いた声が、ようやく騒ぎを遮った。
「キシリア、愛しい人、お願いだ。落ち着こう。魔法使いが言ったことを覚えてるか…君の気性用のあの薬について?」
ピアーズは鼻で笑いをこらえた。
ああ…お父さんに任せるよ。この爆弾を解除できるかな。
それでもさ、感情爆発の最中に薬の話かよ。マジで。
一瞬の間。
うぐっ、わかった。
彼は布団を蹴飛ばし、胸に罪悪感がこみ上げてきた。
もう隠れてられない。現実と向き合う時だ。
そっとドアまで歩き、息を整えてリビングへ降りた。
足を踏み入れた瞬間、静寂が訪れた。
全ての視線が彼に注がれる。
ザイリアの燃えるような眼差しが――ほんのわずかだが――和らいだ。
スティクスは涙で濡れた顔を上げ、安堵と罪悪感が刻まれた表情を見せた。
リガスは疲れ切った、感謝の笑みを浮かべた。
「ママ」とピアーズは落ち着いた声で切り出した。
彼は一歩踏み出し、キリアとスティクスの間に真っ直ぐに身を置いた。
「スティクスのせいじゃない。俺のせいだ」
キリアの眉が跳ね上がった。「お前の?」
ピアーズはうなずき、彼女の視線を受け止めながら――涙が込み上げてきた。本物の涙もあれば、明らかにそうでないものもあった。
彼は慎重に組み立てた説明を始めた。声には真剣さが滲んでいた。
「姉さんに同行を頼んだんだ。囁きの洞窟を調査したくて。姉さんの方が速く、土地勘もあると知っていた。短時間で終わるし危険もないと言った」
彼はわずかに顔をしかめた。自分がどれほど大げさに言っているか自覚していたが――やむを得ない状況だった。
「もっとよく考えるべきだった。彼女を危険に晒した――ママ、全ては俺の責任だ」
スティクスの方へ向き直り、目つきが和らぐ。
「ごめん、姉さん」
彼はそっと手を伸ばし、目尻を軽く拭った――感情を抑える普遍的な仕草(そしておそらく偽りの涙)だ。
「お前を巻き込むべきじゃなかった」
スティクスは口を少し開けたまま呆然と見つめた。
ザイリアの表情が揺らぐ――怒りが困惑に変わり…やがて読めない何かに。
少し離れた場所に立つリガスは、思索的な表情でこのやり取りを見守っていた――おそらく息子が状況を巧みに操っていることに気づいていたのだろう。
ピアーズは息を止めた。待ち続ける。願い続ける。
すると――予期せず――キシリアの厳しい表情が溶けた。肩の力が抜け、瞳が柔らかくなった。今や怒りではなく、甘やかすような愛情がきらめいている。
「ああ、私の小さな子よ」彼女はため息をつき、声はとろけるように。一歩踏み出し、彼の頬を両手で包み、膝をついて額にキスをした。
「私の脆くて、かけがえのない子。いつも無鉄砲なのに…それでも純粋なのね」
ピアーズは瞬きした。
待て――これ、効いてる? 効きすぎだ。何――
「ママ?」
ザイリアはくすくす笑った――軽やかでメロディのように。
「妹のことが心配だったのね。それは…正直、とても優しいわ」
彼女は彼の頬をつねった。
「あなたは本当に良い兄だわ。それに自分が間違ってたって認めたじゃない! そんなあなたに、どうして怒っていられるもの?」
そして彼女はスティクスに向き直り、声はさらに優しくなった。
「そして君、私の小さな影よ。私たちに言わずにこっそり出かけるなんて、もっと分別を持つべきだったわ。でも…お兄さんの面倒を見ていたのなら、あまり怒るわけにもいかないかしら」
彼女はスティクスを力強く抱きしめた。
「私の勇敢で、無鉄砲な子供たちよ」
言葉を失ったスティクスも、彼女に抱き返した。
リガスは、重々しくも愛情に満ちた眼差しで見守っていた。
そうして、部屋の緊張は解け、家族の温もりと、少し照れくさいながらも共有された理解に取って代わられた。
彼はかすかに、理解したような微笑みを浮かべた。
* * *




