第十四章 奴隷の子どもたち
裏庭は夕暮れの温かな光に包まれていた。
スティクスは砲弾のようにドアを蹴破り、抑えきれないエネルギーを爆発させた。私は本を抱えたまま、はるかにゆっくりとした足取りで後を追った。
彼女はすぐに開けた空間を自分の舞台と宣言した。クスクス笑いながら、大げさな蹴りやポーズを次々と繰り出し、見えない相手と戦っているかのように腕を空中で切り裂いた。
「見て、見て、ピアース!」彼女は叫んだ。「パパが教えてくれたの!」
その動きは乱雑で、バランスも危なっかしかったが、誇りは紛れもないものだった。
私は本を少し下ろし、小さな笑みを浮かべて彼女を見つめた。「気をつけて、お姉ちゃん」と、半分だけ注意を払いながら言った。
その時、感じた。
耳がぴくっと動いた。空気が変わった。かすかな振動が地面を伝わり、背筋を駆け上がった。温かな瞬間は冷たい明晰さに取って代わられた。
「…待て」と私は呟いた。
スティクスは回転の途中で凍りついた。「え?どうしたの?」
すぐには答えなかった。魔力感知を外へ伸ばす――庭を越え、村の境界を越えて。
そこにあった。
悪意のエネルギーの脈動。暗く、野性的で 最悪の意味で、見覚えのあるものだった。
森を彷徨っているだけではない。
狩りをしている。
子供たちを。
顎が固まった。「厄介だ」と私は言った。「村に近すぎる」
躊躇している時間はない。あの子たちは危険に晒されている――そして、すぐに駆けつけられるのは私だけだ。
そして、ある考えが頭をよぎった。
ここで——スティクスの目の前で——全力を出せば、全てが変わってしまう。
終わりだ。おしまいだ。
彼女は私が強いことは知っていた。隠していなかった。だが彼女にとって「強い」とは普通の強さ——ジムで鍛えた程度の強さ——を意味していた。
こんなものではない。
もし彼女が私の本当の速さ——私が実際にできること——を見たら、きっと延々と文句を言われ続けるだろう……
彼女は見つかる限りの魔法のトラブルに私を引きずり込むだろう。古代の予言に対処し、闇の支配者と戦い、終わりのない評議会の会議に付き合わされる羽目になる。本を読みながら平和に過ごし、庭で静かな午後を楽しむ日々?永遠に消え去る。
私はほんの一瞬ためらった。遠くで叫び声が頭の奥で反響する。
そして心の中でため息をついた。
うっ。明日の問題は明日の私が考えればいい。
魔力が体中を駆け巡った。足が地面から浮いた。
エアウォーク。
強く地面を蹴った。
加速するにつれ空気が波打ち、私の体はぼやけた。
「お姉ちゃん、待って!」振り返って叫んだ。「後で説明するから!お母さんには絶対言わないで!」
瞬く間に庭の端に到達した。
そして村。
そして地面そのものが消えた。
スティクスは動かなかった。
彼女は凍りついたように立ち尽くし、私が残した空虚な空間を見つめていた。危険を察知していなかった。悲鳴も聞こえていなかった。彼女が見たのは、想像もつかない力に包まれ、空をまるで固い地面のように駆け抜ける弟の姿だけだった。
彼女の口が開いたままだった。
私が動くにつれ、格式高い共鳴が私の心に響いた――距離にもかかわらず明瞭で落ち着いた声だ。
武藤だった。
若様。援軍が向かっております。急ぎ到着いたします。
了解、と私は返答した。少なくとも一人ではない。
瞬く間に、私は到着した。
私の注意は、恐怖に震えながら寄り添う四人の子供たちには向かなかった。
いや――まず脅威に釘付けになったのだ。
三匹の巨大な赤い狼が彼らを取り囲み、筋肉を張り詰め、野生の飢えに輝く眼差しを向けた。
私は宙中で停止し、何もない場所を固い地面のように踏みしめた。息を詰めるほどの一瞬、その場に浮かび、表面は平静を装いながら集中力を研ぎ澄ました。
一言も発さず、私は手に純粋な魔力の刃を形成した。それは抑えられたタンジェリン色の輝きを放ち、かすかに唸りを上げていた。
突進はしなかった。
叫びも上げなかった。
ただ放った。
三発の正確な閃光――貫通する刃へと形作られた魔力が、鍛え抜かれた制御で解き放たれた。狙いを定める際、無意識の集中癖で一瞬、舌が唇の端に触れた。
三つの光の閃き。
三つの鈍い衝撃音。
三つの頭が落ちた。
赤狼たちは息絶え、崩れ落ちた。
私は静かに着地し、息を吐いた。
危険は去った。
そして周囲を見渡すと…予想外の光景が目に飛び込んだ。
七歳か八歳ほどの若いエルフの少年が、他の者たちの前に立ち、震えながらも反抗的な姿勢を崩さなかった。銀髪が薄れゆく光を反射している。尖った耳は後ろに引っ張り、青緑色の瞳は無理に勇気を振り絞って細められていた。
小さな手には、剣のように粗末な棒を握りしめ——まるで私が本当に襲いかかるとでも思っているかのように、それを構えていた。
その背後で、二人の少女が寄り添い震えていた。一人は明らかに別のエルフ――銀髪に尖った耳、少年より少し年下か。もう一人はさらに幼く、黒髪に深紅の瞳、唇からは小さな牙が二本覗いていた。
吸血鬼の子供…珍しい。
影にほとんど隠れるように、最後の一人がいた――小さなオークの少年で、おそらくこの中で最年少だった。
私の表情が曇った。彼らの服は破れ、汚れており、小さな体に辛うじてまとわりついているだけだった。
それぞれの首には金属の首輪が嵌められていた――奴隷の首輪だ。
紛れもない。決して忘れられない類の刻印。
彼らは疲れ果て、恐怖に震え、そして何よりも……傷ついていた。
エルフの少年が先に口を開いた。見知らぬ言語で、高く震える声だ。言葉は早口で溢れ出た――必死で、守りたがるように――恐怖に歪んだ音楽のようだった。
足音が近づく。
光。
武藤が小走りに現れた。首の切断面から青白い炎がかすかに噴いている。肩にはギュンユウが乗っており、相変わらず得意げな様子で、小さな体から自信がにじんでいた。
私は眉をひそめて武藤の方を向いた。
なぜそんなに怯えている?
狼は死んだ。私の魔力は安定している。声を荒げたことすらない。
エルフの少年は杖を下ろさない。手が震えている。他の者たちは互いに寄り添い、私が今にも動き出すかのように私を凝視していた。
空気が張り詰める。
すると武藤の落ち着いた声が私の心に響いた。
若様…あなたの魔力が外へ滲んでいます。彼らには圧倒的なものとして映るのです。
ギュンユウは首をかしげ、子供たちを見つめた。
「ご主人様、もし魔気を鎮めずに戦われていたら」と彼女は軽く付け加えた。「狼が追いつく前に、彼らは逃げ出していたでしょう」
「…マジかよ」呟いた。全く気づいていなかった。
子供たちの方へ目を向けると、誰も緊張を解いていなかった。エルフの少年は依然として前に立ち、棒を掲げ、指の関節が白くなっていた。
私はゆっくりと息を吐き、魔力を内へ引き戻した。ほんの少しだけ。
その時、地面が震えた。
脈動。暗い意思の波紋。洞窟で感じたあの感覚が、再び湧き上がってくる。圧力の波――今回は一つの源ではなく、複数。数十。数十以上。
またか…
私は怪物のような犬たちに群がられる呪いを受けているのか?
黒狼のような巨大な群れ——数百匹——その黒い毛並みは影のようにうねり、目は悪意に燃えていた。
武藤と牛雄は即座に姿を変えた。本能が働いたのだ。姿勢が鋭くなり、戦闘態勢に入った。
よし、胸の奥で閃きがパチパチと火花を散らす。さあ、ちょっとした…実験的応用を試す時だ。
呼吸を整え、固有スキル「鑑定」を発動する。
鑑定対象:
シャドウウルフ — ランクB。
群れで狩る。速度強化と闇エネルギー操作能力。光に弱点あり。
アルファシャドウウルフ — ランクA。
高度な制御能力。固有能力:シャドウステップ。
目を見開いた。
よし…ランクBなら、何とかできる。多分な。
だがランクAのアルファ?それにシャドウステップ?素晴らしい。本当に素晴らしい。
武藤とギュンユウに目をやった。強力な味方だ――だが数百匹も相手にするのか?
これは楽じゃない。
「ギュンユウ、武藤」声は低く落ち着いた調子で、「新しいことを試す。援護してくれ」
二人はためらうことなく声を重ねて応えた。
「承知いたしました、若様」
私は腕を上げ、深く息を吸い込んだ。マナが集まるのを感じながら、ある…特殊な技に集中する。
ソウルパペット。
繋がりが瞬時に燃え上がった。
彼らを感じた。
単に感知しただけでなく――触れた。一匹の狼も、一つの心も、見えない糸で繋がれた。
私が引く糸。
一秒が過ぎた。
そして静寂。
唸り声が止んだ。光る瞳は瞬きもせず、固定されたまま。全ての狼が動きの途中で凍りつき、静水に浮かぶ墨のように宙に浮いた。
それは…不気味だった。戦場全体が、その場で停止したのだ。
武藤、牛雄、そして子供たちは、畏敬と不信の間で固まったまま見つめていた。
気づかぬうちに息を詰めていた。成功した。本当に成功したのだ。
制御は繊細だった――恐ろしいほどに。片手で土砂崩れを食い止めようとするようなものだ。彼らの意志が抵抗した。強弱はあれど。だが私は耐えた。
左手がぴくっと動いた。ゆっくりと掲げる。
真の試練はこれからだ。
掌に魔力が渦巻き、凝縮し、空気がパチパチと音を立て始めた。素早く元素の調和を切り替える。風――違う。水――遅すぎる。土――鈍すぎる。
火。
そうだ。
掌に炎が咲き、熱が渦巻く破壊の球へと凝縮した。
球体は脈打つ。その鼓動ごとに、影に凍りついた狼たちにオレンジ色の閃光が走った。
背後で、彼らが注視しているのを感じた――武藤は厳かな覚悟を、牛雄は静かな驚嘆を、そして子供たちは…目を大きく見開き、震え、言葉を失っていた。
彼らはこんなものを見たことがなかった。
正直なところ?
俺もだ。
さて、動かない軍勢に視線を固定する。
巨大な牛ほどの火球を、狼どもがどう思うか見てやろう。
私は手を突き出した。
それは群れに激突し、爆発した。炎と圧力が、拘束された身体を引き裂いた。
吠え声も。
動きも。
魂の操り人形に縛られた狼たちは消滅した――肉体は焼け焦げ、影すら存在から消し去られた。
これは戦いではなかった。粛清だった。
炎が消えた時、残っていたのはただ一匹。
アルファだ。
焼け焦げた空き地に、群れの焼け残った遺骸に囲まれて、それは独り立っていた。かすかに揺らめく障壁が、歪みながらも無傷でその体にまとわりついている。
輝くその目が私を捉えた。
生き延びていた。
なおも魂の操り人形に縛られたまま。
林間は静寂に包まれた。平穏ではなく――ただ燻る炭の微かなパチパチという音と、焼け焦げた大地の匂いだけが漂う。
アルファが唸った。低く。抑制された。怒りに満ちた唸り。
背後で、武藤が口を開いた。
「驚異的です、若様」
牛雄は彼の肩の近くを浮遊し、両手を固く組み、目を大きく見開いていた。
「素晴らしかった、ご主人様」
再び沈黙が訪れた。
ざわめきがそれを断ち切った。
背後の茂みが揺れた。
そして──
スティクスが草木から飛び出した。
一瞬で空き地を横切り、拳をアルファの顎に叩き込んだ。
バム。
技もなければ、前振りもない。ただの一撃。
結界は粉砕された。
アルファは地面に倒れ、動かない。
沈黙。
私は瞬きをした。
一度だけ。
「…ああ」と私は言った。「なるほど」
母の受け継いだ力。しばらくして付け加えた。「熱心に受け継がれてたんだな」
私は気絶したアルファを見つめた。
父のバリア。
スティクスを見た。
…ああ。今はその考えには触れないでおこう。
私は喉を鳴らした。
「自己紹介だ」
彼女を指さした。「こっちが姉貴のスティクス」
彼女は誇らしげに胸を張った。
「姉さん」と私は少し向きを変えながら続けた。「こちらは武藤。そして浮いてるミルク娘はギュンギュウ。二人とも…友達だ」
武藤が一歩前に出てお辞儀をした。
「お嬢様、なんとも見事な力の見せつけでした。私は武藤。若様がお与えくださった名です」
ギュンギュウがニヤニヤしながら近づいてくる。
「やあ、スティクス!あのパンチすごかった!強いね!」両拳でふざけたパンチの真似をする。
スティクスは目をキラキラさせながらムトウの手を掴み――少し力任せに握手した。
「ひっ!!私、ピアーズの姉ちゃんなの!」
彼女は顔を近づけ、目を細めて見つめる。
「…え?頭ないの?」
彼女はギュンユウの方へ振り向いた。
「なんでミルクが飛んでるの?!ミルクは飛べないでしょ!」
武藤は首をかしげた。
「それは長い話だ」
「魔法の話だよ!」ギュンユウが明るく付け加えた。
スティックスの目が輝いた。
「魔法?!めっちゃカッコいい!」
アルファシャドウウルフとの戦いの緊張は薄れていたが、ピアーズの内に何か深いものが動き出した。最初はかすかだったが、次第に鮮明さを増していく。
見慣れた感覚が視界の端でチクチクと疼いた。
彼は瞬きをした。
ほんの一瞬、かすかな言葉が視界を漂い、消えていった。
[スキル解放:舌の鍵]
森の音が違っていた。
葉のざわめき、草むらに潜む虫たち、遠くで鳴く鳥の声さえも——もはや単なる雑音ではなかった。それぞれが意図と意味を帯びており、まるで世界がずっと語りかけていたのに、今ようやく聞く術を覚えたかのようだった。
別の感覚が続いた。より重く、より深い。
再び、言葉が瞬時に浮かび上がり、消えた。
[固有スキル解放:マナ融合]
名前は消えたが、変化は残った。
ピアーズはゆっくりと息を吐き、子供たちへと注意を向けた。
四つの小さな人影が立ち尽くし、見開いた瞳で彼を凝視している。恐怖が彼らの周囲に張り付き、濃密で頑なな空気となっていた。彼は即座にそれを認識した。
記憶が蘇る――無力感、沈黙、行動不能の重圧。
彼は慎重に息を吸い込み、マナを内へ引き寄せ、かすかな痕跡だけを残すまでその輝きを弱めた。
揺らぎも。
圧力も。
彼らにひるんでほしくなかった。
一歩近づくと、その細部がどんな怪物よりも強く胸を打った。
エルフの少年が他の子らを庇うように立ち、震える腕で妹を抱きしめている。銀髪には泥の筋が走り、尖った耳はあらゆる音にぴくぴく動いている。勇敢であろうとしている――だが恐怖が彼のあらゆる動きに裏切りを露わにしていた。
吸血鬼の少女はうつむいたまま、小さな拳を脇で固く握りしめていた。
オークの少年は他の者より小柄で、彼女の後ろで震える手を抱えていた。
ピアーズは数歩手前で足を止めた。
そして口を開いた――自らの言葉ではなく、先程エルフの少年が叫んでいた言語で。
「こんにちは。私の言葉がわかるか?」
彼らは凍りついた。
「傷つけるために来たんじゃない」彼は静かに言った。「もう安全だ」
エルフの少年は呆然と瞬きした。
吸血鬼の少女は顔を上げ、真紅の瞳を信じられないというように見開いた。
オークの少年は落ち着きなく身じろぎし、ピアーズと他の者たちを見比べた。
するとエルフの少年が、声を震わせて口を開いた。
「君… 私たちの言葉が話せるのか?」
一瞬の沈黙が流れた。
吸血鬼の少女が慎重に一歩踏み出し、両手を脇に固く握りしめた。
「ええ」彼女は囁いた。「理解できます」
ピアーズの胸が締め付けられた――その言葉自体ではなく、彼女がそれを口にするのがどれほど辛そうかに。
「よかった」彼は優しく言った。「怖がらなくていいんだ」
間が空いた。
「君の名前は?」
彼女はためらい、目を仲間たちに向け、そしてうなずいた。
「私…ルシエンです」
「ルシエン」と彼は繰り返した。「君たちの仲間は?」
彼女は袖をいじりながら、指さした。
「こちらはトグ」と、痩せたオークの少年を指さしながら、彼女は静かに言った。「そして双子のイシリアンとイシリエルです」
銀髪のエルフたちは肩を並べて立っていた。警戒したように傾けた顎の角度までそっくりだった。
ピアーズは一度うなずいた。
「会えて嬉しい。僕はピアーズだ」
彼は一人ひとりの視線と向き合った。
「怪我は?」




