第一章 運命
「朝の光が頬を温め、眠りから引きずり出す。
何もかもが普段通りに見える…でも何かがおかしい。まるでその日が息を詰めて、私が気づくのを待っているかのようだ」
ドスン!
「お兄ちゃん!起きてよ!!」
驚くほど重いものが胸に降りかかる。
「うっ…」彼は喉を鳴らし、妹の得意げな笑顔を見上げた。
八歳のリノは、もうリボンから抜け出そうとしているツインテールを揺らしながら、まるで富士山を制したかのように彼の上で跳ねていた。
「リノ…マジで」ダイキはうめいた。
まだ6時ちょっとだぞ。
彼女は頬を膨らませた。「そんなの関係ない!学校行く前に型を練習するんだもん。今日はあの回転蹴りを完璧にマスターする!」
乱暴な目覚めにもかかわらず、彼の唇に優しい笑みが浮かんだ。
「わかった、わかったよ」彼は彼女をそっと降ろし、地面に下ろした。「10分だけだぞ」
「偉大なる道において十分は永遠よ!」彼女は宣言すると、危うく転びそうなポーズを決めた。
「朝は誰も待たない。真の武士の修行も待たない!」
大樹はくすくす笑い、彼女の髪をくしゃくしゃに撫でた。
「ああ、朝も武士もな。十分待って、それから我らの内なる侍を解き放つんだ」
—
彼が階下に降りる頃には、明美の料理の心地よい香りが家中に満ちていた。
制服に着替えたリノは父の腹の上に腰掛け、半ば興味なさそうに朝のニュースを見ていた。その下で武は床板が揺れるほどの大音量で「いびき」をかいている。
「おはよう、寝坊助」明美は温かく言いながらコンロとテーブルの間を行き来した。「よく眠れた?」
「小さな小鬼にトランポリンにされた後としてはね」と彼は言い、リノをくすくす笑わせるような目配せをした。
武は片目だけ開けた。「こいつの忍び足は親父譲りだ」
明美は軽く彼の腕を叩いた。
「まあ、いいじゃない」と彼女は鼻で笑った。
元気さ、頑固さ、ドラマチックさ…それらは二人から受け継いだものよ。さあ、みんなテーブルへ。今日は忙しい日になるから。
朝食はいつもの賑やかな混乱となった:リノが学校の劇を再現し、タケシが物理学を馬鹿げた比喩で説明し、アケミが器を補充し続ける。
近所では、ダイキは礼儀正しく真面目な子だった。
だがここでは、彼はただ「お兄ちゃん」だった。この温かい小さな嵐を繋ぎ止める錨として。
「お兄ちゃん、学校まで送ってくれるよね?」リノが惑星のように大きな瞳で期待を込めて尋ねた。
「もちろんさ」彼はまた彼女の髪をくしゃくしゃに撫でた。
妹の熱意が家ごと燃え尽きないよう、誰かが監視しなきゃな。
彼女はにっこり笑い、二人の笑い声が静かな大阪の街に響き渡った…その夜までに世界が認識不能になることなど、まったく気づかずに。
—
学校の一日はいつもと変わらぬ始まりだった。
特別なことも、奇妙なことも何もない。
大樹が席に着くと、ノートを準備している最中に、机の真前から明るい声が飛び込んできた。
「よっ、津和野くん!」
顔を上げると、そこにいた――愛子だった。
乱れた茶色の髪、輝く笑顔、まるで電気がついたようなエネルギー。
「ああ、おはよう、愛子さん」ダイキが応えた。
「何やってるの?」彼女はノートに異様に近づきながら尋ねた。
「田中先生の歴史講義の復習だよ」
「あの壮大な戦いとドラマチックな恋愛模様…まさに現実版アニメじゃない!」彼女は意味すら分かっていないような、ふざけた手振りで言った。
大樹はくすりと笑った。
「田中先生は…もう少し学術的なアプローチを望まれると思うよ」
「言うは易し、クラス一の優等生さん!」彼女は指を振ってからかった。
彼は首をこすり、少し照れくさそうに言った。
「まあ…俺はスポーツがダメだから、何か一つはまともじゃないとね」
二人の声は教室の日常的な喧騒に溶け込んでいった――窓辺で叫ぶ運動部員、後方でひそひそ話す噂好き、居眠りする者、まるで明日が期末試験かのように本を読む者。
その喧騒の端で、長い黒髪と銀灰色の瞳を持つ一人の少女が黙って座り、読み取れないほどの強い眼差しをダイキに注いでいた。
すると…突然、
かすかな唸りが雑音に紛れ込んだ。特定できないほど微かだが、肌が粟立つほど奇妙な音だった。
空気がひび割れた。
床に輝く円が焼き付けられ、古代の記号が炎のように目覚めた。
霧が爆発的に広がり、机も声も丸ごと飲み込んだ。
悲鳴が沸き起こった。椅子が倒れ、生徒たちが散り散りになった。
パニックに陥った愛子は大樹の腕を掴み、必死にしがみつき、彼に押し付けた。
大樹は凍りついた。突然、彼女の柔らかさを鋭く意識した。
息が詰まった。
「えっ…?な、何が起きてるの?!」彼女は叫び、さらに強く掴みしめた。
恐怖が彼を締め上げた――しかしその奥底で、奇妙な既視感が脈打っていた。まるで記憶が囁くように…「お前はこれを見たことがある」
霧はさらに濃くなった
大樹は瞬きをした…
そして教室は空っぽだった。
「愛子、生徒たち、田中先生の歴史ノート――消えた。
残ったのは魔法陣だけだ。脈打って、消えかけている。不可能な出来事の最後の痕跡だ」
何…何が起きたんだ?彼は呟いた。
千本の怒れる低音弦が同時に振動するような、深く響き渡る音が空虚な教室を揺らした。
大樹は窓の方へ振り返った。
そしてその時、世界が砕けた。
—
空に無数のきらめく門が裂け開いた。
現実そのものが剥がれ落ち、光と影を滲ませながら。
大樹は瞬きした。もう一度。
いや…まだある。
彼は校門へよろめきながら向かった。神経が必死に説明を探している。
だが外の世界は、すでに「変だ」から「やばい、死ぬ」へと半秒で加速していた。
ポータルから生物が溢れ出す――
昆虫のような巨人、爬虫類の獣、形のない恐怖。一つ一つが前より恐ろしい。
大樹の喉が詰まった。
「まさか…」と呟く。
現実じゃない。まずクラスメイトが消え…今度はこれ? 冗談じゃない…冗談じゃないだろ?!」
校舎上空でポータルが沸騰するように開く。
怪物が飛び出し――舗道に着地し――
何気なくバスを丸呑みにした。
「いや。いや。あれバス食ったぜ。絶対に悪戯じゃない」
彼の声は震えていた。
「新計画——死なないこと。はあ。ああ、俺って計画なんて上手くできたことあるっけ?」
彼は黙示録を眺める暇などなかった。
悲鳴が大阪を裂いた。炎が建物を飲み込んだ。影が生き物のようにうねった。
走る者もいれば、凍りつく者もいた。
大樹は倒れた自動販売機の陰で凍りつき、馬鹿げた考えを巡らせた:
ジュラシック・パークのルールだ。じっとしてろ。気づかれないかも。
瓦礫の塊が彼の数センチ先に叩きつけられ、粉塵となって爆発した。
「くそっ…危ない」彼は喘ぎ、胸が焼けるように痛んだ。壊れたような笑いが漏れた。
「レンガに潰されるなんて。怪物にすらやられず。まあ、当然か」
—
最初のパニックが収まると、恐怖が満ちてくる潮のように忍び寄った。
家に帰らねばならなかった。
「近づくにつれ、空気は重く、息が詰まるほどに濃くなっていった」
「何かがおかしい」彼は息を漏らした。
通りは不気味なほど静まり返っていた。
玄関の門は開いたまま、不吉な前兆のように揺れていた。
不自然な重さが鼓膜を圧迫する。
脈打つ鼓動。彼は喉を鳴らして唾を飲み込み、震える指で門を押した。
家の中は影だけが彼を迎えた。
一歩ごとにきしむ音が異様に響く。空気中に漂うかすかな金属臭が胃を締めつけるが、それでも彼は前に進んだ。
その時——
彼は凍りついた。
息が止まった。
思考が止まった。
母親がグロテスクな姿でぶら下がっていた。頭はぐったりと垂れ、目はガラスのように無機質で、生気はなかった。
「彼女の肩…なくなっていた。
大きく裂けた傷口からは砕けた骨と引き裂かれた筋肉が露わになり、血が壊れた時計の針のように滴り落ちていた」
大樹は首を振った。違う。違う。
視線がゆっくりと、嫌々ながら上がった。
心臓が轟くように鳴った。
奴の一匹だ。
昆虫のような化物が彼女の上に聳え立っていた——背が高く、不気味なほど細く、二本の蟻のような脚が、ぬめり光るキチン質の胴体を支えている。
顎は規則正しくカチカチと音を立て、まるで彼女がただの肉塊であるかのように切り刻み、貪り食っていた。
吐き気が喉を掻きむしった。
近くには父親が横たわっていた。血と砕けた骨の残骸だ。
頭と肩は、ただ……なかった。
片腕は硬直して外へ伸びていた——守るための最後の、無意味な試みが凍りついたまま。
そして隅に——
「リノ…」
壊れた人形のように丸まり、両腕で膝を抱えていた。
その瞳は前方を見つめたまま——大きく、虚ろに、瞬きもせず。
涙が頬を静かに伝う。
嗚咽も。
息遣いも。
何も。
まるで彼女の声さえも、無垢さとともに奪われたかのように。
大樹の内に何かが砕けた。
冷たく空虚な感覚が胸を貫いた。思考はほとんど働かず、全てがただ騒音に過ぎなかった。
混乱の中、ただ一つの考えが押し寄せた:
彼女まで失うわけにはいかない。
彼はそれを見た――散弾銃を。父親の伸ばした手の、わずか数センチ先に。
足は震えたが、彼は振り返った――リノがまだ息をしているから。だから止まるわけにはいかない。
思考よりも速く、彼は前へ飛び出した。散弾銃に爪を立てるように手を伸ばす。冷たい金属が掌を噛みしめながら、彼は銃を奪い取り、リノの手を掴んだ。
「リノ、動け!」声はひび割れ、荒く、必死だった。
彼女の手は氷のようだった。死んだような重さ。彼女は答えず、まばたきすらせず――ただ彼を通り抜けるように見つめ、衝撃で空洞化した瞳で。
彼は彼女を引き起こし、散弾銃を肩に担ぎ、歩くことをほとんど忘れてしまった足で彼女を直立させた。
「今すぐ、ここを離れろ!」
返事はない。ただ沈黙だけ。
二人は家からよろめき出た。両親の引き裂かれた遺体の光景が、決して洗い流せない染みのように彼にまとわりついてついてくる。
背後で、虫の顎がカチカチと音を立てた。湿った飢えた音が、骨から削り取られた笑い声のように響く。
二人は走った。
リノは彼に寄りかかり、声も立てずに嗚咽した。足が言うことを聞かない。彼は彼女を半ば抱え、半ば引きずった。逃げるよう叫ぶ神経、思考が追いつかないほどの速さで体が動く。
振り返らなかった。できなかった。怪物も、ポータルも、故郷の廃墟も——人生の全てが——今や背後にあった。
残されたのは生存だけだ。
荒い息遣いが空気を裂いた。
そして――
それは現れた。
背後ではなく、前方から。
その生物は現実そのものをすり抜けたかのように、不可能な速さで動いた。
瞬間移動? いや――疑問を挟む余裕などなかった。
リノは彼の背後に縮こまり、小さな体が震え、恐怖で目を見開いていた。
ここで彼女を死なせるわけにはいかない。その思いが彼を駆け抜け、アドレナリンが恐怖を焼き払った。
彼は彼女を押し戻し、ショットガンを構えて発砲した。
爆音が空気を裂いた。化物は後ずさり、甲羅から火花が散った>>> だが傷一つない。瞬時に回復した。早すぎる。
化物が襲いかかる。
大樹の体を激痛が貫いた――稲妻が体を裂くような灼熱の痛み。視界が回転し、世界が横倒しになり、上と下が逆転した。
全てが霞んだ。
まぶたが震える。灰色の霞が濃くなる。
どこかで、かすかに震えるリノの声が届いた。
「お兄ちゃん…?」
思考が断片化し、闇へと滑り落ちていく。
ごめん…ママ…パパ…
そして――何もなくなった。
虚無が彼を飲み込んだ。
* * *




