第一話 始まり
千光の都、シンバラリア。
その名は「遠い夢」という花言葉を持つ花に由来する。都全体が天空に近い高台に築かれ、太陽の光を浴びて宝石のように輝いていた。
故郷のロージア村から都へ向かう馬車の揺れは、パライバにとって、現実と夢を繋ぐ境界線のようだった。煌めく髪に瑪瑙のような瞳を持つ彼女は、粗末な木箱に収められた合格通知を何度も確認した。
「宮廷使い舞姫選抜試験、一位合格」
パライバがこの試験を受けた動機は、ひたすらに単純だった。一位の賞金は、祖母もパライバも10年は幸せに暮らせる金額だ。しかも宮廷使いとなれば、給料も今の倍以上になる。
「おばあちゃんは、今日も畑仕事してるのかな...」
幼い頃に両親を亡くしたパライバにとって、祖母の優しさだけが全てだった。彼女が舞を覚えたのは、村の広場で見た、大地に感謝を捧げる素朴な踊り。華やかな宮廷舞踏の技法など何も知らない。ただ、祖母はいつもパライバの拙い舞にも満たない踊りを見てこう言った。
「パライバの踊りは、見ているだけで心が太陽みたいにあったかくなるね」
その言葉が、彼女の全てだった。
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シンバラリアは、「完璧な技術力」と「格式」が全てを支配する都だ。
だが、パライバの舞には、それらを凌駕する「純粋な愛」と「幸福のオーラ」が宿っていた。それが、彼女が宮廷のプロたちを圧倒した理由だ。
馬車が、都の巨大な石造りの門をくぐる。宮廷へと続く道の両脇には、豪華な装飾が施された建物が並び、全てがパライバの村の常識を超えていた。
「シンバラリア…本当に、夢みたいな場所。素敵」
馬車を降りたパライバは、宮廷の門の前で足を止めた。
「ここで踊れば...おばあちゃんを幸せにできる」
しかし、そんな夢がやがて、この光輝く都全体の運命と結びつき、「愛する人を守る使命」へと変わっていくことをパライバはまだ知る由もなかった。
彼女の踏み出す一歩が、三光の舞という壮大な物語の幕開けとなる。




