母激怒のすえに
ー5歳のころー
小さな私は、どうして自分の傷が治ったのかもわからず、黒子さんに会いに来ていた。
『ココへは、来てはいけない。と、教わりませんでしたか?』
「どうして来てはいけないの?」
黒子さんは少し考えるような仕草をすると、もう一度口を開いた。
『人間には、生まれながらに悪意が備わっているからです』
「悪意?」
私は、言われている意味がわからなかった。
『私へ向かってきた敵意をそのまま人間に返す事になってしまうと危険なんです』
敵意と悪意は同じものなのかな。
「私はアナタに敵意なんて向けたりしないわ。それなら、一緒にいられるの?」
『困りましたね…』
諦めない私に黒子さんがまた空見つめてしまった。
『なにが起こってしまっても責任は取れませんよ?』
小さな私は、アナタとただ一緒にいたくて、アナタの後ろをついてまわっては、黒子さんの仕事の手伝いをしたりしていた。
村の人がやってくると、神社の見えない位置に隠れていなさい。と言われたら、ちゃんと言うことを聞くようにしていた。
その時に知ったんだ。村の人の怪我を治すと、黒子さんが傷つくって事に。
「私の足の傷もあるの?」
『ありますよ。ちゃんと左足に』
黒子さんの袴をめくると左足には、くっきりとした痕が残っていた。
「痛くないの?」
『痛いですよ…もちろん』
「ごめんなさい」
私は、神様だから痛みなんて感じないと思っていて、だから私の傷を肩代わりしてくれたんだと思っていたけれど、神様にも痛みはあるらしい。
ボロボロと泣き出した私の事を抱きしめて、頭を撫でてもらった。
どうやらワーワーと泣いていたら眠ってしまったようで、起きると夕方をすぎてしまっていた。
夕陽が沈みかけていて、私は焦ってしまった。
『送りますよ』
神様が神社の敷地を出てしまって大丈夫かな?と思ったけれど、初めて手を繋がれて何も考えられなくなってしまった。
誰かを好きになるって、こういうことなのかな。なんの温もりも感じない相手の手をギュッと握り返した。
「紗奈!!こんな時間まで、どこにいっていたの!!っ!!!」
私の母が心配していたのか、家の外で待っていて叫ぶように怒鳴った。私の隣にいる人を見るやいなや、すごい形相で近づいてきて私の手を引っ張った。
「いますぐに、その人から離れなさい!!!」
母の黒子さんを見る目が怯えているのか、嫌悪に満ちているような、なんとも言えない顔を向けていて、その刹那。
雨も降っていなかったのに、私の家に雷が落ちて、いきなり火事で家は全焼してしまった。
唖然としている私の隣で母が
「あんたが!あんな人を連れてきたからっっ」
と、神社の黒子さんのせいにしていた。きっと、コレが黒子さんの言っていた敵意だと思った。
黒子さんのせいでも、私のせいでもなく、母が向けた敵意のせいなのに…村に居づらくなってしまった私達は、べつの場所へと引っ越すことになったんだ。
雷を呼んだ黒子さんの心が気になっていたけれど、振り返った時には、黒子さんはもう居なくなってしまっていた。




