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乾燥している唇

 私は、どうやら一人で勝手に昔の頃を思い出して、黙ってしまっていたみたいだ。

『後遺症でも?』

「こういしょう?」

 話しの流れがよく分からず、復唱すると布の下で、黒子さんが少し笑ったような声がしたような気がする。

『今日は痛いところないんですか』

「ない……です」

 5歳の頃の傷に対して、『私が治し損ねている部分でもあるのか』と、聞きたかったんだと思う。べつに私は、どこかを治してほしくてココへ来たわけではない。

『そうでしょうか?』

 黒子さんが私の頬に手を寄せると、そのまま黒子さんの顔が近づいてきた。

 あっけにとられている私の顔に黒子さんの唇が重なる。

「………!なんで、キス?!」

『…ん?』

 黒子さんの唇と私の唇が当たって、ビックリしているのに、黒子さんは何故か首を傾げた。

『キス?とは』

「唇が同士が…あた…あたってました…今」

 黒子さんの手が私の唇をさする。

『ああ、乾燥して唇が切れてしまっていたので、それを治しにやってきたのかと思いまして。キスをするという概念を持ち合わせていなくて申し訳ない』

 人ではないから、これはキスではない。って言われたみたいだけど…それなら手で治せばいい事で、そもそもなんで唇で乾燥を治したのよ!

「私は、アナタに何か治させるために来たわけじゃないのに」

『そうなんですか?』

 私は、またアナタの唇に新しい傷を作ってしまったんだろうか。

 私も自分の指で布の向こう側の黒子さんの唇をなぞった。下唇の右側が少しだけ荒れてしまっていた。

『貴女こそ、不思議な人です。私にとって、人の怪我を治す事は当然のことなのに私からソレを取り上げようとするなんて』

「怪我をしなくちゃ会えないなんて、寂しいじゃないですか。私は、もっとアナタに会いたかった」

 時がとまったように相手が何も喋らなくなり、不安になって顔をうかがうと、空を見つめた黒子さんが口を開いた。

『私が人間に与えるものは、良いことばかりではないからですよ。それは、あの日の貴女が一番よく分かったことでしょう』

 それは、私と私の家族が村を離れることになったあの話のことだ。

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