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幼き日の出会い


 神社の階段を上ると、振り返った黒子さんと目が合ったような気がする。

 実際は、向こうに布1枚をへだてているから、目が合ったかどうかは分からないのだけれど、私の足音に気づいて声をかける前に向こうが振り返ったのだから、そういうことなのだと思う。

「あ、あの」

『これは、これは懐かしいお客様ですね』

 私が話しかける前に向こうが話かけてきた。

「私のこと、覚えているの?」

 黒子さんは、掃き掃除をしていた手をとめた。

「(そうだ!そうそう、この声も懐かしい……」

 低音の落ち着いた優しい声………。小さな頃は、この声を聞くだけでドキドキしてきたっけ。いまもそれは変わらないんだけど。

『覚えているも何も、この場所に一番やってきた人の事を忘れることなんてできないでしょう』

 それもそうか、用事がないのに来たら本当はダメだって言われている場所なんだもんね。私は、小さな頃からココに来すぎてしまっていて、来てはいけない場所という感覚がないんだ。

『大きくなりましたね』

「アナタは…何もわからない」

 私が5歳の頃から、何一つとして変わっていない。背丈も見た目も声も雰囲気も…。

『人ではありませんからね』

 その言葉が、私とアナタとの間に壁を作る。アナタの見た目は、こんなにも人なのに。

『日陰にどうぞ?』

 神社の屋根のある部分へと案内される。それは、小さな私がよく座っていた場所だ。

 35年がたって、それまでにいろんな人がココへやってきただろうに、黒子さんは私の定位置を覚えていてくれた。

 私が神社の縁側のような部分に腰掛けると、その隣に黒子さんが座る。

「いまも変わらない生活をしているの?」

『そうですね。村人は減ってしまいましたけどね』

 アナタの苦労は減ったって言うことなのかしら。

 黒子さんは、人間の傷を自身へ請け負う貰い神様なのである。

 私が、小さな頃に草刈りをしていて、その鎌で足をザックリと切ってしまい、血がたくさん流れて出血が止まらなかった時、おばあちゃんとおじいちゃんがココへ連れてきてくれた。

 それはそれは、大慌てでやってきたんだけれど、当の本人である私はもう死ぬのかもしれないと思ってしまっていて、痛さで泣いていたのは始めのうちだけで、神社に着く頃には死を覚悟してしまっていた。そのせいか、慌てに慌てる祖母達とは対照的に、私は妙に冷静だった。

「神様や!!孫をお助けください!」

 祖父の腕から、黒子さんの腕に渡され黒子さんが私の足を触ると、血は止まり傷も綺麗さっぱりなくなってしまった。

 安心する祖母と祖父の腕に戻される前に、私は黒子さんの布の下の素顔を見てしまったんだ。

 その整った顔に私はずっと恋をしている。

 黒子さんの声を知ったのは、その後に一人で神社にやってきた時だった。


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