9 暗殺者ルシアの襲撃
その日の夜。
決闘でカロルドに勝利し、騒ぎが一段落した後は、また定時まで自主訓練を行い――今、俺は宿舎のベッドで横になっていた。
「うーん、今日も一日がんばったな」
サラリーマン時代なら家に帰るとヘトヘトで後は寝るだけだったんだけど、今は違う。
目標が定まっていることや、自分の成長を実感できる人生は楽しく充実している。
そのおかげか、疲労感はあっても、何もやる気力がなくて寝てしまう、という生活にはなっていない。
今もこうして横になっていても、次はこういう訓練をしようとか、こういう戦法を試せないか、など……自分が成長するためにどうすればいいのかを考え続けていた。
それが、楽しい。
前世ではこういう感覚を味わったことは一度もなかった。
どうやら明確な目標があると、人生はまったく違う色どりを持つらしい。
とりあえず最強の姫騎士レナ、魔法学院の天才マルグリットの二人に勝ち、その他にも多くの騎士や魔術師を【カウンタ―】で完封してきた。
えっ、カロルド?
「あいつはまあ……はい」
思わず口に出してつぶやく俺。
それはそれとして――、
「明日からどうしようかな」
剣士とも魔術師とも、もっともっと実戦経験を積むべきか。
あるいは騎士じゃなく、たとえば冒険者みたいな生活も経験しておくべきか。
うん、いいかもしれないな、冒険者――。
と、そのときだった。
「……?」
ふいに空気が揺らぐような感覚があった。
単なる自然現象ではなく、攻撃的な気配――いや殺気が近づいてくるような肌感覚。
俺の中の何かが『危険に備えろ』と警告してくる。
すぐにベッドから降り、かたわらの剣を手に取った。
油断なく警戒しながら、剣を鞘から抜く。
ほぼ同時に、
ばきいっ!
窓枠を破壊しながら黒い影が部屋の中に飛び込んできた。
暗闇の中から何かが迫ってくる――見えないけど、本能がそう察知する。
ばしんっ!
次の瞬間、俺の【カウンタ―】が発動して、相手を吹っ飛ばしていた。
「きゃあっ」
短い悲鳴は若い女の声だった。
「な、なぜ――あたしの攻撃を察知できた……!?」
月明かりがその姿を照らす。
短めの銀髪に猫耳。
可愛らしい猫の獣人だ。
手にしたナイフは黒く塗られていて、闇の中ではまず視認が不可能だろう。
そして、忍者を思わせる黒装束は明らかに――、
「暗殺者……?」
と、そこで彼女の顔をあらためて見つめ、ゲームのメインキャラクターの一人であるルシアだと気づいた。
「どうして俺を狙ってきたんだ?」
俺は彼女に剣を突きつけた。
「くっ……」
「答えてくれ、暗殺者ルシア」
「……!」
猫のような縦長の瞳が大きく見開かれた。
なぜ、あたしの名前を知っている――そう言わんばかりに。
「まあ、暗殺者が依頼主のことを話せるわけもないか」
と、苦笑する俺。
その態度の変化を『隙あり』と見たのか、いきなりルシアの体が跳ね上がった。
一体いかなる体術なのか、完全に倒れた姿勢から体のばねだけを使って異常な速度で起き上がり、俺の背後に回り込みながら、黒いナイフで攻撃を仕掛けてくる。
普通の人間ならもちろん、たぶん一流の剣士や騎士でも反応不可能であろうトリッキー極まりない体術、そして攻撃。
ばしーんっ!
「だけど、関係ないんだよな。反応できなくても勝手に対応できるから」
俺はまた苦笑した。
その視線の先には、先ほどのように【カウンタ―】で床に叩きつけられ、ひっくり返ったルシアの姿がある。
「な、なぜ……あたしの必殺の攻撃が――」
「暗殺者って、騎士たちとは全然違う攻撃スタイルなんだな。勉強になったよ」
と、ルシアに一礼する俺。
「……なぜ、あたしを殺さない。お前の力なら簡単だろう」
「降りかかる火の粉は払うけど、殺すつもりはない。俺は自分の身を守ることができれば、それでいいんだ」
俺は淡々と説明した。
「ただ、どうして俺を狙ったのかは気になるな。教えてくれ、お前は――」
「ぐっ、この屈辱は必ず晴らす――」
ルシアは一瞬にして十メートルほど後方まで移動していた。
さっきと同じく予備動作ゼロの移動体術だ。
モーションがないので、動きがまったく読めない。
レナやマルグリットとはまた違うベクトルでの強者だった。
「次こそは、必ず殺す……待っていろ、【カウンタ―】使い……!」
「ジルダだ。俺はジルダ・リアクト」
「……!」
ルシアは燃えるような目で俺をにらむと、そのまま姿を消した。
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