10 暗殺者ルシアがしつこく襲撃してくる
で、その翌日。
宿舎を出て、訓練場に向かう道の途中で、
「――!」
いきなり殺意が出現する。
昨日の今日でまた狙ってきたのか、ルシア。
ばしーん!
が、俺には例の【神速反応】があるから問題なし。
体が自動的に反応し、ルシアを吹っ飛ばした。
「ううう……完璧に気配を消したはずなのに」
「確かに気配は感じなかったけど、『殺気』みたいなものを攻撃直前に感じたぞ?」
俺はルシアに言った。
「な、なんだと……」
「お前、自分で思っているほど気配を消せてないんじゃないか?」
「っ……!」
指摘すると、彼女はギクッとしたように表情をこわばらせた。
「ば、馬鹿な、なぜお前が師匠と同じ助言を!?」
「師匠にも言われたんだ……」
「……そうだ。あたしは完成された暗殺者だが、唯一、対象への殺意を抑えきれない瞬間がある、と。それがいずれ、あたしの命取りになるかもしれない、とも――」
ルシアは悔しげに俺をにらんでいる。
「なぜだ――ただの雑魚にしか見えないお前が、なぜあたしの尊敬する師匠に重なる……うぐぐぐ」
「いや、俺はそんな大層な人物じゃないが……」
「つ、次こそは必ず! 覚えていろ!」
ルシアはまたノーモーションで起き上がり、さらにノーモーションで敗走していった。
「うーん……また明日あたりに来るのかなぁ」
俺はポリポリと頬をかいた。
で、その翌日、またルシアが襲ってきた。
「――!」
殺気がいきなり出現し、ルシアが暗殺を仕掛けてきたことを知る俺。
ちなみに前回とは違い、訓練の休憩中の出来事だ。
周囲には騎士が数名いて、こんなタイミングで襲ってくるとは思わなかった。
まさに『まさか』という心の隙をついた襲撃――敵ながら見事だ。
ばしーん。
「きゃあっ!?」
まあ、なんにしろ全部【カウンタ―】で返すんだけど。
「あ、あっぶなー! 刺さったら死ぬところだった……」
と、ルシアは俺の前方で冷や汗をかいている。
その足元には無数の針が突き刺さっていた。
なんらかの攻撃が来たら、いちおう本人に当てないように跳ね返すよう、意識している。
それが上手くいったみたいだけど――。
「刺さったら死ぬ? もしかして毒針とか?」
「……そうだ。中級ドラゴンでも殺せるほどの希少な毒をたっぷり塗りこんだ。人間なんて、かすっただけで即死だ」
「……当てなくてよかったよ」
「自分の心配より、あたしの心配か?」
ルシアが眉を寄せた。
「【カウンタ―】で人をむやみに殺したくないだけだよ」
「ぐっ、なんて男だ、貴様は……!」
ルシアの全身が震えている。
やっぱり、彼女みたいな暗殺者には、こういう戦い方は屈辱なんだろうか。
でも、俺は殺したくないんだよな。
そして、さらに翌日。
ばしーん!
殺気出現からの【カウンタ―】発動。
もう、お決まりのパターンになりつつある。
「げほげほげほ……」
ルシアはせき込んでいた。
「煙玉もダメか……」
「それ、毒とか入ってないのか? 吸い込んだよな?」
「普通の人間にとっては毒だが、あたしは訓練して耐性ができているから平気だ。お前が吸い込めば、昏倒するはずだったのに……」
煙をも跳ね返す俺の【カウンタ―】。
うん、また一つスキルテストができたぞ。
さらに翌日、俺が大通りを歩いていると屋根の上から急襲してきた。
頭上は人間にとって絶対の死角だ。
そこから不意打ちされたら一たまりもない――。
「かーらーの」
ばしーん!
いつもの通りの自動【カウンタ―】で、あっさりと吹っ飛ばした。
さらに翌日は通行人に変装して襲って来たけど、また自動【カウンタ―】。
そのまた翌日はレストランのシェフに化けて、俺に毒料理を盛ってきたけど、体が勝手に毒を察知して食べる前に皿を処分。
「にゃああああああ……これでも駄目なのぉぉぉぉ……」
どうやら、その作戦には自信があったらしく、シェフの格好をしたルシアがその場に崩れ落ちた。
「なあ、いい加減に諦めたら……」
さすがに可哀そうになってきた。
「う、うるさいうるさーい! 今度こそ殺してやるんだからねっ!」
ツンデレヒロインみたいでちょっと可愛い感じの台詞だけど、中身が物騒すぎる……。
「こ、こうなったら――」
ルシアがキッとした顔で俺をにらんだ。
お、今度は直接攻撃で来るか?
「しばらくお前に張り付いて観察してやる。研究だ!」
「へっ?」
「研究が終わったら殺してあげるんだからねっ!」
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