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8/21

 フルメン帝国は、大陸の北側に位置する大国。

 周りの国々とは侵略と争い、つかの間の和平を繰り返していた。

 長い年月まるでチェスの駒のように、使い捨てにされて来た国民達が、怒りを(つの)らせている事に、皇帝や貴族たちは全く気付かずに。

 ただ1人、『いざという時』を予測した側妃を除いて。


「側妃アデリーナ、曾祖母(ひいおばあ)さまの実家は、皇室御用達の商会長だったんですって」

「だから他国の商会にも、コネがあったのか!

 それにしても、おばあ様——皇女は何で、大事な本をあんな所にしまってたんだ? 5ヵ国分の符丁(ふちょう)を、全部暗記するのは難しくても。

 せめて肌身離さず持っていれば、役に立ったのに」

 納得のいかない顔で、パーシーが首を傾げる。

「あのね……おばあ様には、あの本『光の妖精』が、とても恐ろしい物に見えたんだと思う。

 隠された符丁を覚えたら、きっと『有事』が、悪い事が起きる——それを封じなきゃって。

 だから机の引き出しの、奥深くに」

 

「まぁ——その気持ちも、分からなくはないけどな?」

「でも……やっぱり有事が、革命が起こって。

『後で追いかける』と言った母上の言葉を信じて、護衛と侍女と3人で逃げたおばあ様は。

 フロース国の港から、この国に亡命しようとしたけど」

「協力者のいる商会に、たどり着けなかった?」

 パーシーの問いかけに、こくりとメイベルが(うなず)いた。


「どんどん手持ちのお金も少なくなって、裏町のさびれた宿に身を潜めて。

 若くて腕の立つ護衛が、港の荷運びの仕事で、生活費を稼いでたらしいけど。

 運悪く、重い荷箱の下敷きになって」

「亡くなったのか?」

「うん。護衛と恋仲だった優しい侍女は、皇帝の姉君が嫁いでいたこの国に、おばあ様を何とか送り届けたけど。

 心を病んで、後を追う様に……」


 大陸の北にぽつんとある島国が、我がイグニス王国。

 中世の魔女狩りなどで、大陸では消えて行った魔法を武器に、和平と中立を守って来た。

 フロース国の港から船に乗れば、わずか一日でたどり着く。

 でも——おばあ様たちにとっては、夜空に光る星と同じくらい、遥かに遠かったこの国。

 

「おばあ様は、護衛と侍女に起きた不幸が、全部自分のせいだって。

『符丁を覚えてさえいれば、最後の味方——2人だけでも助けられたのに』って、何度も悔やんでいたの」

「そっか、他の家族は皆、母上も亡くなったんだよな?」

「……うん」

 革命軍に、処刑されて。


「こんどの時間旅行で少しでも良い方向に、変わってるといいな?」

 パーシーの言葉に、

「そうだね……!」

 沈んだ顔をしていたメイベルが、こくりと大きく(うなす)いた。


「あーっ……もうすぐ卒業かぁ!」

 重くなった空気を変えるように、両手を組んだパーシーが、ぐんっと伸びをする。

「卒業したら——春から大学部に、行っちゃうんだね?」

 少ししょんぼりすると、

「同じ学園の敷地内だし、すぐ会えるよ! 遊びに来たら、案内するし。

『魔法攻撃クラブ』とか興味ある?」

「うん、あるある!」

 ぽんっと頭を叩いて、慰めてくれる……優しいパーシー兄様。


「攻撃っていえば——あの護衛と闘ったとき、(すご)かったね! 

 どこであんな技、覚えたの!? 『魔力も攻撃力も学年一』って、先生も褒めてたし!」

「俺の兄貴、キャリントン家の後継ぎが、大学部にいるの知ってるだろ?」

「えっと——うちの兄様と同級で、仲のいい?」

 ぼんやりと、『俺の兄貴』を思い返したメイベルに、

「そう、さっき話したクラブの部長で。攻撃に特化した練習に、時々参加させてもらってたんだ。

 その——いざという時、ベルを守れるように」

 少し照れた顔で、パーシーが告白した。


毎日2話ずつ更新、明日の10話で完結です。


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