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「ではこちらに、ハートリー」

 机や椅子が全て取り除かれた、上級魔法学の教室。

 初めて入る部屋の真ん中に、ぽつりと、古びた木の扉が立つ。

 タルボット先生にいざなわれて、メイベルはその前に足を進めた。


 何の変哲もない、どこの屋敷でも見かけるような、古びたチョコレート色の扉。

 珍しいのはその中央に、星型の五芒星を配した『魔法陣』が貼られていること。

 「先生、この魔法陣は?」

 「行先の場所と時間、その座標を示す、いわば『切符』のような物だ。では、始めよう!」

 メイベルの質問に答えてから、人差し指を立てた先生が合図を送った。


 周囲を囲んだ4名の助手が、いっせいに杖を向け、扉に魔力を注ぎ始める。

 ちかちかと稲妻のように跳ね踊りながら、魔法陣に吸い込まれていく金色の光。

 思わずそれに見とれていると、タルボット先生が声を上げた。

「行くぞ——キャリントン、カウント!」

 パーシーが左手に持った、懐中時計に視線を向ける。

「10、9、8」

「ハートリー、手を」

「あっ、はい!」

 急いで右手を先生、左手をパーシーと繋ぐ。

「2,1、0!」

 の合図と共に、先生の右手がドアノブを、がちゃりと回した。


「レディーレ——!」

『向こうに』の呪文に合わせて、ギイッ……と押し開かれた扉の奥に、3人は足を踏み入れる。

「わっ……!」

 暗がりの中、広がっている部屋の様子が、おぼろげに見えた。


「ルクス(光)!」

 先生とパーシーが唱える声に、急いでメイベルも合わせる。

 3人の左手のひらに、ふわりと浮かぶ輝く光。

 それが照らし出したのは、


 両サイドの壁にぐるりと、天井まで並んだ、ぎっしりと本の詰まった棚。

 床には分厚い絨毯、ふっくら座り心地のよさそうな椅子に書き物机。

 天井からは、いくつものシャンデリアが、(きら)びやかに下がる。

 白と金で統一された、まるで舞踏室のように豪奢(ごうしゃ)な部屋。


「ここが……?」

 恐る恐る尋ねたメイベルに、

「フルメン帝国。フォルトゥナ離宮内の図書室だ」

 落ち着いた声で、先生が答えた。


「やった、大成功……! それにしても広いなぁ!」

「うん。凄い!」

 呆然と辺りを見回す生徒2人に、タルボット先生がびしりと告げる。

「あと9分40秒——!」

「はいっ!」


 慌てて書棚にかけより、ずらりと並ぶ本の背表紙を目で追う。

「違う、違う……どこにあるの!?」

「探してる本、何てタイトルだ?」

 焦るメイベルの横から、パーシーが声をかけて来た。


「『フェーヤ・ルミニス』」

「ふぇーや?」

「フルメン語で、『光の妖精』って意味!」

 思わず小声で叫んだメイベルに、パーシーが(なだ)めるように伝えた。

「タイトルが分かってるなら、呼べばいい」

 

「呼ぶ? ……そっか!」

 首を傾げた後、ぱっと(ひらめ)いた。

 小走りで部屋の中央に行ったメイベルが、ぐっと右手を掲げて、呪文を唱える。

「『フェーヤ・ルミニス』、ヴェナイリ(来い)……!」

 ぱんっ——!

 部屋の隅にあった書き物机の、一番下の引き出しが勢いよく開いた。

 そこから飛び出した、1冊の本。

 ぴゅんっと部屋を横切り、吸い込まれるように、パシッと手の中に飛び込んで来た。

「本棚じゃなくて、そんなとこにいたのっ!?」

 

「やったな、ベル!」

 ぐっと親指を上げて来たパーシーに、自然と笑顔がこぼれる。

「パーシーのヒントのおかげだよ——ありがとっ!」

「……不意打ち、ヤバいだろ」

 何かブツブツ言いながら、すぐに目をそらされたけど。

 

 手のひらに収まるくらい。小さな金色の表紙。

 花冠を付けた妖精が、じっとこちらを見詰めて来る。

 ドキドキしながら目次を開いて、短編集であることを確認。

 少し震える手でページを、パラパラめくって行くと、

「あった……!」

 文章の所々に目立たないよう、うっすらと引かれたアンダーライン。


 順番に繋げると、『あなたは、ゆるぎない、友達。叔父の、オルロフ(鷲)が、繰り返し、言ってました』と、まるで会話文のようなフレーズが浮かび上がって来た。

 短編のタイトルも、例えば『花の旅』(フロース・イテル)は、……フロース国の『イテル商会』と読め解ける。


 5つの短編に隠された、5つの秘密。

「間違いない、これだ!」

 メイベルはギュッと、小さな本を胸に抱きしめた。


 それからすぐに顔を上げて、タルボット先生に告げる。

「先生、皇女の寝室に移動します! 残り時間は!?」

「あと7分弱だ——急ぎなさい」

「はいっ!」

「俺も行く!」

 と右手を上げるパーシー。


「過去の人からは姿が見えないよう、『幻影魔法』がかけてあるが。充分気を付るように!」

 先生の声に(うなず)いた2人は、開いたままの扉から廊下に飛び出した。


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