【番外編2】きみは星4
「あれっ、ステラ先輩? すみません、俺寝ちゃって——」
まだ寝とぼけている可愛い後輩、もとい仇敵同級生に。
ポケットから出した手鏡を、無言で向けると。
「うわっ! 魔法が、とけてる……?」
呆然と呟く氷のプリンス。
「何で弟のフリなんか? すっかり騙されたよ」
すっと緑の目を細めて。
相手を瞬時に凍らせそうな、氷点下の視線でステラは告げた。
「ホントにすまない……!」
逆切れか、言い訳するかと思ったアレクシスが。
意外にも『反省してます』って、真摯な顔で頭を下げるから。
「だったら、何でこんな事を? 『魔法道具開発クラブ』のこと、影で笑ってたの?」
ふーっと深呼吸してから、直球で尋ねると、
「違うっ! 俺は本当に好きなんだ——魔法道具がっ!」
食い気味に否定して来た。
『好き』って言葉の不意打ちが、思いがけずドキリと胸に響く。
「だったら普通に『入会したい』って、言ってくれば良かったのに」
何でこんな面倒なことを?
「好きだけど。『魔法道具に関わる事はやめる』って、約束したから——父と」
苦いため息と一緒に、その理由が告げられた。
「うちの父は昔、工業学校の教師だったんだ」
「えっ、ブロワ伯爵が……!?」
「先代の伯爵が、近しい親族も子供も無いまま亡くなって。
弁護士が家系図を調査したら、曾祖父が従兄弟同士だった父が、一番近い相続人だって」
にぎやかな下町で暮らしていた教師一家が、いきなり伯爵家に。
「おとぎ話なら、ハッピーエンドだけど……現実は違った」
貴族社会から冷たく扱われ。
「父と魔法道具を分解したり、あれこれ改良するのが大好きだったのに」
『伯爵家の当主と子息が、職人の真似なんて』
『下品極まりない!』
そんな陰口にうんざりして、『もうやめよう』って父と決めた。
「うーわっ、ヤなやつ! 『家の父も貴族だけど、職人ですが?』って、そいつらに言ってやりたいっ!」
ぐっとコブシを握って叫んだステラに、目を丸くした氷のプリンスが、ふわっと笑み崩れた。
「さすが——お星さま」
「『お星さま』?」
確かに『ステラ』は古い言葉で、『星』って意味だけど。
「覚えてない? 10歳の時、子供だけのパーティで会ったのを」
「10歳……?」
アレクシスの言葉に首を傾げて、
「そこのガキ——失礼、ご令息が。『弱い物イジメが大好きです』って顔した奴で」
「いるいる。そういうヤツ!」
同意しながら、自分の記憶をさぐって行く。
「何か仕込んだのがバレバレな手を、ニヤニヤ差し出して来たから。
パチパチ草と一緒に、上から握ってやった」
「『パチパチ草』って全然熱くないのに、火花が散るんだよね! そいつ、びっくりした?」
ワクワク聞いたステラに、
「めっちゃした!」
にやりと答えるアレクシス。
「『手が燃えちゃう!』って騒ぐのを放って、とっとと庭に抜け出して。『学園でも授業があるから』って唯一許された趣味の、魔法植物を探してたら。なんと」
「なんと?」
「お星さまが、目の前に降りて来たんだ」
◇◇◇
真っ白でふわふわした、雲みたいなドレス姿の。
金の髪と緑の瞳を、キラキラさせた女の子。
『キレイだなぁ……星の妖精みたいだ』
ぽかんと眺めるアレクシスの手元を見て、
「それって、『エコー・プラント』でしょ?」
にっこり尋ねて来た。
「うん! 前にいた下町だと、『やまびこ草』って呼んでて」
早口で伝えてから、はっと気が付く。
『バカか俺、貴族の令嬢に! 「下品な名前」って思われたら……』
焦っていたら、
「やまびこ草? 可愛い名前! わたしも今度から、そう呼ぶね?』
って、その子は笑ってくれた。
◇◇◇
待って、待って!
「やまびこ草……うんっ、思い出した! あのときの男の子が!?」
ぱっと記憶を擦り合わせたステラに、
「いろいろあって、更に捻くれた俺です!」
氷のプリンスが全開の笑顔で、自分を指さした。
全5話、明日完結します!
ブクマやリアクション☆☆☆☆☆などで、応援いただけると嬉しいです!




