【番外編2】きみは星3
「この録音システムって確か、『やまびこ草』を使ってるんですよね?」
メッセージバードを観察しながら、尋ねて来たケネスに、
「そぉ! やまびこ草のエキスを塗ったワイヤーを、ぐるぐる巻いたコイルに魔力を注いで、録音再生させるシステム」
ステラが、頷きながら説明する。
やまびこ草、別名エコー・プラントはその名の通り、音を反響させて繰り返す魔法植物だ。
「じゃあ、ワイヤーをリセットすれば?」
「どうやって?」
2人揃って『う~む』と、考え込んだ後。
ぱっ!とステラが、若葉色の瞳を輝かせた。
「たとえば―コイルごと、入れ替えたらどうかな?」
「それですっ! 胸か背中に蓋を付けて、交換出来る仕様にすれば」
ケネスも興奮したように、赤い前髪をかきあげる。
「何度でも、メッセージを録音できるよね!?」
楽しい、楽しいっ……!
2人で話していると、新しいアイデアに、ぐんぐん背中を押される。
こんな感覚はきっと、ひとりでは味わえなかった。
「父様にも話してみるね? ケネスのおかげだよ―ありがとっ!」
「いえ、そんなっ……」
全開の笑顔でお礼を言ったら、何故か気まずそうに、そっと目をそらされたけど。
「そうだケネスは、いつ帰省するの?」
「えっと、明後日の予定ですけど」
「わたしも! じゃあ明日、も1度集まらない? 『新メッセージバード』の試作品作りに」
にんまり提案したステラに、
「賛成です……!」
今度はにっこり、嬉しそうに頷いてくれた。
◇◇◇
「やばい! やばいっ……!」
翌日の午後、ステラは猛ダッシュで、温室に向かっていた。
『じゃあ、明日の13時に集合ね!』とケネスに約束した時間は、とっくに過ぎている。
早めの昼食を取りに、親友のベルと出かけたヘイミッシュの街で。
たまたま行き会った、体調が悪そうな老婦人を、街外れの自宅まで送って行くことに。
感謝した家族に引き止められて、お茶とスコーンとうわさ話を山ほどご馳走になり。
やっとおいとましたところに、いきなりの雷雨が。
雨具の用意は無く、馬車も見つからず。
『魔法で乾かせば大丈夫!』と男前に言い切ったベルと、びしょ濡れで学園に駆け戻ったところを、
「ちょっと、どうしたの!」
「2人して、川にでも落ちた!?」
目を丸くした友人たちに囲まれて。
「ベッ、ベルッ! 川に落ちて街外れまで流されたってホントかっ―!?」
ベルの幼なじみ兼彼氏のパーシーが、早とちりして大騒ぎに。
パーシーを宥めて、シャワーと着替えを済ませ、寮母や先生方に事情を説明して。
はっと見た時計の針は、15時半を指していた。
「どうしよ、どうしよっ! 2時間半も待たせて……さすがにもう、帰っちゃったよね?」
そっと温室のドアを開けた、ステラの目に飛び込んで来たのは、
作業机にもたれて眠る、赤毛の後輩。
「待ちくたびれちゃった? ごめんね、ケネス」
鼻の先にずれた丸メガネを、そっと外してあげながら覗き込んだ顔は。
ドキリとするくらい、綺麗に整っていた。
いつも猫背気味の背中は、意外と広く頼りがいがありそうで。
『あれっ、ケネスって―こんな大人っぽかったっけ? イヤミな兄貴に良く似てる。っていうか双子みたい?』
動揺しながら、視線を泳がせた先で。
鮮やかな赤い髪が、ゆらりと光の粒を纏った。
「えっ、これって……?」
魔法が解ける合図の光が、ぱっと散った後には。
赤から一瞬で、アッシュグレーに変わった髪。
「んっ……」
ゆっくり持ち上げた長い指が、まぶたを擦る。
ぼんやり開いた瞳は見慣れた黒ではなく、凍えるようなアイスブルー。
「アレクシス……?」
同級生の『氷のプリンス』が、寝起きのぼんやりした顔で、ステラを見返していた。




