【番外編2】きみは星2
「何あの態度!? むーかーつーくーっ!」
氷のプリンスことアレクシスから、雑に教室を追い出され。
ぷんすか廊下を進みながら、ステラが声を上げる。
「あの人いっつも、必要最小限しか喋らないんだよね——クールっていうか、威圧的っていうか?」
隣に並んだメイベルも、くっと眉を寄せた。
「公爵令嬢のベルはともかく、うちは一代男爵家だからね。
次代ブロワ伯爵様から見たら、『言葉をかける価値も無い』って感じ?」
ぽろりと口から零れた、珍しく自虐的なステラの言葉。
「はっ——? ステラのお父様は、魔法道具開発の功績で、爵位を賜った方でしょ?
皆の生活を楽しく快適にして。会社と工場に、たくさんの失業者を雇用して!
そんな立派なひとを家族を、下に見る方が絶対おかしいからっ!」
『胸張って!』とベルが勢いよく、親友の背中を叩く。
「……だよね? ありがと。さっすがヘイミッシュのプリンス!」
てへっと嬉しそうに、ステラが笑顔を返した。
ベルと別れたステラが、足取りも軽く向かったのは、広い校舎の端っこに建つ温室。
少しきしむドアに『魔法道具開発クラブ』の札を下げてから、ガラス張りの室内に足を踏み入れると。
棚に並ぶ魔法植物の間から、ぴょこぴょこ動く赤毛が見えた。
「ごめんっ、ケネス! ちょっと遅くなっちゃった!」
ステラの声に、くるりと振り向いたのは、
「ステラ先輩、お疲れ様です! 全然遅くないですよーっ!」
長めの赤い前髪と丸メガネの奥から、にこにこと笑いかけてくる、仔犬みたいな男子。
「はーっ、癒されるぅ……ほんっとお兄さんに、性格似なくて良かったね?」
「あっと——すみません! また兄が、失礼なことを?」
ステラのつぶやきを拾って、肩をすくめて頭を下げる、1学年下の後輩。
仇敵アレクシスの弟、ケネス・ブロワ。
元々は、魔法植物学の担当教師から、許可を貰った温室で。
放課後にひとりちまちま、趣味の魔法道具開発に、勤しんでいたステラの元に、
『あのっ……お邪魔してすみません、ケネス・ブロワと言います。リード先輩、ですよね?』
1年前、ひょっこり訪ねて来た後輩。
『僕も魔法道具に、すっごく興味があって——お願いします! 先輩の傍で、勉強させてください!』
と、捨てられた仔犬みたいな瞳で訴えられて。
「ん? 「ブロワ」って……まさか?」と気付いたのは、
『ようこそ、「魔法道具開発クラブ』に!」
笑顔で両手を広げて、歓迎した後だった。
それから毎週水曜日の放課後に、二人で活動しているワケだが。
「ステラ先輩、この『メッセージバード』、先輩のお父上が開発したんですよね!?
皆使ってますよ! 凄いなぁ」
青い小鳥のぬいぐるみを、大切そうに両手で掲げて、ケネスが黒い目を輝かせる。
「うん。ただこの子……メッセージを1回しか、録音再生できないんだよね。
それをずっと残して、何度も聞き返したい人には合ってるけど」
例えばパーシー先輩とか、パーシー先輩とか?
「確かに、メッセージの上書きが出来たら、繰り返し使えるし。お得感もあって、喜ばれそうですね?」
後輩の鋭い指摘に、
「そうっ! その通り!」
ステラは大きく頷いた。




