【番外編】プロムの夜に4
プロムの会場は数週間前、『黄金のグリフィン賞』が発表された時と同じ講堂。
でも一歩足を踏み入れれば、まるで違う建物のように、すっかり変わっていた。
貴婦人とユニコーンの、タペストリーの代わりに。
薄暗い広間の壁際にはぐるりと、枝に魔道ランタンを下げた大木が連なり。
見上げた天井には、ちかちかと瞬く、星空が広がっている。
「まるで森の中にいるみたい!」
「うん、キレイだなぁ……」
他のペアと同じように、メイベルとパーシヴァルが見とれていると、
「それではこれより、ヘイミッシュ魔法学園のプロムナード・パーティを開催します!」
実行委員長ステラの声が、高らかに宣言した。
その合図を受けて、会場の奥手にいた楽団が、弦楽器やピアノを軽やかに奏で始める。
「最初はワルツ! 卒業生の皆さん、フロアにどうぞっ!」
進み出た中央のフロアは、まるで大きな湖のよう。
暗い水面を進む足元に、さっと小さく白波が走る。
つい目で追いたくなるのを我慢して、すっと顔を上げ。
パーシーの左手に右手を預けて、左手は肩に。
しんっと音が消えた次の瞬間、鳴り響く三拍子に合わせて、ベルはステップを踏みだした。
ワルツの軌跡に合わせて次々と、小さな波紋が湖面に、生まれては広がる。
「ワン・ツー・スリー……よしよし、出来てる! 出来てるよベル! そう、胸を張って!」
こっそり愛弟子を見守る、ステラの横で。
「あれっ——パーシーと踊ってる子、誰?」
「めっちゃ可愛い! 美人さん!」
「あんな子いたっけ? 俺も踊って欲しーっ!」
「ダンスカードに、空きあるかな!?」
モブ卒業生男子の間で、『謎の美少女争奪戦』が巻き起こっていた。
「可愛いに決まってます! このわたしの孫、ですから!」
「ふふ、シア様ったら!」
「ドレスも、実にお似合いですな!」
会場と寮の面会室に一対ずつ設置され、お互いを覗けるよう魔法で繋がれた『鏡』越しに。
他の保護者や先生方と一緒に、祖母とヴァルコフ夫妻が見守る中。
「おっとぉ……」
「こほんっ! リードは俺にお任せてください、レディ?」
いつもの癖でベルが、ついリードしかけると。
悪戯っぽくパーシーに、ささやかれる。
「了解……!」
くすりと笑ってドレスの裾を、さざ波のように広げながら。
くるりと、一際大きくターンした。
「はいっ、素敵なファーストダンスでしたね。
保護者の皆様に先生方、お楽しみ頂けたでしょうか?」
『魔法の鏡』に向かって、会場のステラが、にっこり話しかける。
「残念ながら、鏡の魔法効果は10分がリミット、ここで時間切れです。ご子息ご令嬢、ご令孫様のご卒業、誠におめでとうございました。それでは失礼いたします」
制服姿で流れるように一礼し、三秒後に顔をぱっと上げて、にやり。
「卒業生の皆さーん! ここからもっと、盛り上がって行きますよーっ!」
こぶしを振り上げた実行委員長の合図で、七色のライトがパパッと煌めき、
色とりどりのバルーンが、ポンッと弾けて飛ぶ。
楽団のメンバーも、笑顔でダンダンッ!
足を踏み鳴らし、アップテンポの曲を演奏し始めた。
「わっ……!」
歓声を上げて、フロアに飛び出す卒業生たち。
「行こう、ベルッ!」
「うんっ!」
二人手に手を取って、駆け出そうとしたとき。
「おっと、その前に——ダンスカード貸して?」
「えっ、これ?」
パーシーが指差したのは。
ベルが手首にリボンで結んでいる、二つ折りの小さなカード。
ダンスパートナーを希望する男子は、そこに自分の名前を書いて予約するシステムだ。
手渡されたカードいっぱいに、自分の名前を思い切り、大きな文字で書きなぐる。
「よしっ……今夜のダンスは最後の一曲まで、全部俺が予約したから」
「最後まで、全部?」
にっかり宣言されて、ぼんっと熱く染まる頬。
それを何とか誤魔化したくて、
「うっ、受けて立つ……!」
きりりと返事を返した、『ヘイミッシュのプリンス』。
『決闘かよ……』
会場のどこかでステラが、特大のため息を吐いた気がした。
番外編、完結しました。
拙いお話ですが、最後まで読んでくださってありがとうございます!
いつもサポート役で頑張るステラの番外編を、次回更新予定です。
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