表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の扉を開けて~初恋をこじらせた魔法学園のプリンス令嬢と早とちり令息の時間旅行~  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/23

10

「えっ、お客様って……!?」

  慌ててぱっとパーシーの顔を押しのけて、テラスの外に顔を向けたメイベルの目に、飛び込んで来たのは。


「メイベル! 『黄金のグリフィン賞』おめでとう!」

  ステラの隣で明るく手を振る——繊細なレースとブローチで胸元を飾った、灰色がかったラベンダー色のドレスに、羽飾りの付いた帽子が良く似合う——グレーの髪を綺麗に結い上げた老貴婦人。

「えっ……おばあ様!?」


 いつも喪服の様な飾り気のない、暗い色のドレスしか身に着けず。

 白髪の目立つ髪も、そのままに。

 過去を悔やんで自分を責めて。

 どんより重い漆黒の闇に、じっと沈んでいたような人が。

 180度生まれ変わった祖母の姿に、メイベルは目を丸くして見とれた。


 軽やかな足取りで、テラスに上がって来た祖母に駆け寄って、

「おばあ様、とっても素敵! でも、お身体の具合は? こんなに遠出して大丈夫なの!?」

 慌てた声で(たず)ねる孫娘。

「大丈夫よ。ほら、ちゃんとお供もいるし」

 後方にいた男女を、祖母がにっこりと、嬉しそうに見やった。


 おばあ様より少し年上の老夫婦。

 背をしゃんと伸ばした、ステッキを持つ紳士と、にっこり腕を組む優しそうな奥方。

「メイベルは、会うの初めてよね? ユーリとアンナのヴァルコフ夫妻。

 2人共、わたしの大親友よ。

 フロース国で、昔お世話になったイテル商会に、長年勤めていたの」

 ユーリ・ヴァルコフって確か——おばあ様と一緒に逃げて、途中で亡くなった元護衛!?

 笑顔がステキな奥様、アンナさんは、彼と恋仲だった元侍女だ!


「えっと……はじめまして。お会い出来て光栄です」 

「こちらこそ光栄です、メイベル嬢」

「まぁっ、昔のシア様にそっくり! お会い出来て嬉しいわ」 

 動揺を隠してメイベルは、にこやかに夫妻と挨拶をかわした。


「あのっ『イテル商会』って——そのっ、こちらに来たときに?」

 恐る恐る、アンナ夫人に尋ねると、

「シア様に聞いたのね? そうですよ。フロース国経由で逃げて来たときに、とってもお世話になったの」

 革命時に思いを馳せたような目で、しみじみと答えてくれた。

 やっぱり! 

『光の妖精』の短編タイトル、『花の旅』(フロース・イテル)の符丁(ふちょう)が、役に立ったんだ!


 パーシーにも伝えたくて駆け寄ると、まるで軍人のように姿勢がいい老紳士を、じっと見つめている。

「どうしたの?」

 きょとんと聞くと、こっそり耳元でささやいて来た。

「なぁ、あのヴァルコフ氏……似てないか? この前、サーベルで向かって来た」

「えっ、あの離宮にいた衛兵さん!?  そんな偶然……また早とちりじゃないの?」

 

 こそこそ交わしていた2人の会話。

 それを漏れ聞いた老紳士が、

「『サーベル』? 懐かしいですな。これでも若い頃、ちょっとばかり得意だったんですよ」

 にこりと笑いながら、癖のある白髪をかき上げて、さっと杖を構える。

 その姿が50年前の、勘の鋭い衛兵と、ぴったり重なった。


『過去を()するな』が決まりの時間旅行。

 揺すったのはわたしでも、パーシーでもない。


 枕元に置かれた、自分がこっそり隠したはずの本を見つけて、何事かを悟り。

 得体の知れない恐怖に打ち勝って、5ヵ国分の符丁を必死に覚えて。

 その小さな手で未来を変えた、11歳の皇女様だ。


「「知ってます……!」」

 メイベルとパーシーは、声を揃えてヴァルコフ氏に答えてから。

 藍色の波間に反射する琥珀色の光のように、目と目を合わせて。

 弾けるように笑った。


本編完結しました。

拙いお話ですが、最後まで読んでくださってありがとうございます!

魔法学園の卒業パーティ(プロム)番外編を、次回更新予定です。


ブクマやリアクション、☆☆☆☆☆評価、感想等頂けると、とても励みになります!

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読み返してみて、ステラさんの魅力に改めて気づけました✨️ 素敵すぎるストーリーメーカー!!早とちりベル様もやっぱり可愛いです(о´∀`о)♡ 今度はどんな早とちりがあるのか、卒業パーティー編も楽しみ…
完結おめでとうございます! やはりなんて素敵なお話なんだろうう、としみじみしてしまいました。 可愛いヒーローとかっこいいヒロインのやり取りも微笑ましいし、 なんといっても主人公の頑張る理由がおばあさま…
恋の行方もおばあさまの件も本当に良かったです! ワクワク楽しませていただきました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ