表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

「それでは発表します。『黄金のグリフィン賞』、本年度の栄えある受賞者は……5年生、メイベル・ハートリー!」

 イグニス王国北部にある、王立ヘイミッシュ魔法学園。

 その在校生——13歳から18歳までの、国内でも選りすぐりの魔力を持つ生徒——約30名がひしめく講堂の壇上で。

 魔法印章で封じられた羊皮紙を、ぱさりと広げた学園長が、そこに金色で輝く名前を、高らかに読み上げた。


 会場中から沸き起こる、どよめきと拍手と喝采の中。

「やった……!」

 背の高い黒髪の女子生徒メイベルが、琥珀(こはく)色の目を見開き、両手をぐっと握りしめる。

「おめでとー、ベルッ!」

 隣から金髪の美少女、親友のステラが笑顔で抱き付いて来た。


『黄金のグリフィン』とは、その年1年間の、魔法学や一般教養の成績のみならず。

 スポーツや課外活動、寮生活における優秀さや貢献度を採点し、全校生徒による投票を()て。

 学年度末に最高得点を獲得した生徒、ただ1名に与えられる、名誉ある称号。

 今までは最上級生の6年生が、当然のように独占していたが、今年は違う。


「ぃやっほー!」

「やったな、ハートリー!」

「メイベルお姉様ー!」

「さすがですっ!」

 口々に、同級生や下級生たちが盛り上がる影で。

「何で5年生が? 誰がどぉ見たって、今年の受賞はパーシーだろ!?」

「ハートリーって、公爵令嬢か? どーせお父様が、口出ししたんじゃね?」

「うーわっ、権力えぐっ!」

 くすぶった暖炉の熾火(おきび)のように、こそこそと。

 6年生男子の間から、イヤな笑い交じりの、負け犬の遠吠えが()き起こった。


「ちょ、何ですって!」

「酷い言いがかりだぞっ!」

「メイベルお姉様がそんな事、するワケないでしょ!?」

 メラッと怒りを着火された下級生たちが、口々に反撃を始めたとき。

 へらへら笑って言い返そうとした、負け犬たちの頭に、ゴンゴンゴンッ!

 次々とゲンコツが落とされた。

「痛っ!」

「何すんだよ、パーシー!」

「お前ら、まだ式典の最中だぞ。静かにしろ!」

 がっしりとこぶしを握り、低く厳しい声で(いさ)めたのは、長身の銀髪男子。


「マジで痛ぇんだけど!」

「俺らはなぁ、お前のために抗議してるんだぞ!」

 ぶーぶーと、不平をもらす男子たちに。

「『俺のため』じゃなくて、どうせ『賭けに負けた腹いせ』だろ?」

 引き締まった腕を組み、整った顔に苦笑を浮かべる、最上級生の監督生『パーシー』ことパーシヴァル・キャリントン。


「それは去年の話! 俺ら今年は『誰が受賞するかの賭け』抜きで、おまえを応援してたんだぞ!」

「ったく、相変わらず『早とちり』だな!」

 まるでベテラン騎士のような、落ち着いた見た目を裏切って。

 ついぱぱっと、早合点する癖がある監督生。

 得意技の『早とちり』をかましたパーシーに、同級生たちはここぞとばかり、呆れた声を上げる。

「そっか、賭け抜きで……そいつは嬉しい。ありがとな!」


 照れたように、銀色の前髪をかきあげて、藍色の目を細め。

 早とちり監督生が見せた、にっかり人好きのする笑顔。

「うっ……」

「パーシーお前」

「ほんっと、ずりぃぞ——その顔」

 一気に毒気を抜かれた、男子たちの(つぶや)きに、

「『ずるい』? 何がだ?」

 不思議そうに首を傾げた監督生が、ふと5年生達の方に、()いだ海のような瞳を向けた。


「パーシー……」

 うっかり笑顔に見とれてたら、目と目がかっちり合ってしまった。

 椅子から立ち上がりかけた姿勢のまま、まるで石化魔法をかけられたように、かちんっと固まるメイベル。

「出たっ——『笑顔で周りを殺す男』!  相変わらず、人タラシレベルがえっぐいわ、ベルの『元カレ』!」

 からかい口調でにんまりと、隣からステラがささやく。


「元カレじゃないってば!」

「そっか、『元カレ未満』だっけ?」

「未満って……もぉ、その話はいいからっ! じゃあ、行ってくるね」

 早口で親友の言葉をさえぎって、パーシーの視線を振り切るように、メイベルは足早に壇上に向かった。


毎日2話ずつ更新します。

ブクマやリアクション、☆☆☆☆☆など、応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ