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「それでは発表します。『黄金のグリフィン賞』、本年度の栄えある受賞者は……5年生、メイベル・ハートリー!」
イグニス王国北部にある、王立ヘイミッシュ魔法学園。
その在校生——13歳から18歳までの、国内でも選りすぐりの魔力を持つ生徒——約30名がひしめく講堂の壇上で。
魔法印章で封じられた羊皮紙を、ぱさりと広げた学園長が、そこに金色で輝く名前を、高らかに読み上げた。
会場中から沸き起こる、どよめきと拍手と喝采の中。
「やった……!」
背の高い黒髪の女子生徒メイベルが、琥珀色の目を見開き、両手をぐっと握りしめる。
「おめでとー、ベルッ!」
隣から金髪の美少女、親友のステラが笑顔で抱き付いて来た。
『黄金のグリフィン』とは、その年1年間の、魔法学や一般教養の成績のみならず。
スポーツや課外活動、寮生活における優秀さや貢献度を採点し、全校生徒による投票を経て。
学年度末に最高得点を獲得した生徒、ただ1名に与えられる、名誉ある称号。
今までは最上級生の6年生が、当然のように独占していたが、今年は違う。
「ぃやっほー!」
「やったな、ハートリー!」
「メイベルお姉様ー!」
「さすがですっ!」
口々に、同級生や下級生たちが盛り上がる影で。
「何で5年生が? 誰がどぉ見たって、今年の受賞はパーシーだろ!?」
「ハートリーって、公爵令嬢か? どーせお父様が、口出ししたんじゃね?」
「うーわっ、権力えぐっ!」
くすぶった暖炉の熾火のように、こそこそと。
6年生男子の間から、イヤな笑い交じりの、負け犬の遠吠えが沸き起こった。
「ちょ、何ですって!」
「酷い言いがかりだぞっ!」
「メイベルお姉様がそんな事、するワケないでしょ!?」
メラッと怒りを着火された下級生たちが、口々に反撃を始めたとき。
へらへら笑って言い返そうとした、負け犬たちの頭に、ゴンゴンゴンッ!
次々とゲンコツが落とされた。
「痛っ!」
「何すんだよ、パーシー!」
「お前ら、まだ式典の最中だぞ。静かにしろ!」
がっしりとこぶしを握り、低く厳しい声で諌めたのは、長身の銀髪男子。
「マジで痛ぇんだけど!」
「俺らはなぁ、お前のために抗議してるんだぞ!」
ぶーぶーと、不平をもらす男子たちに。
「『俺のため』じゃなくて、どうせ『賭けに負けた腹いせ』だろ?」
引き締まった腕を組み、整った顔に苦笑を浮かべる、最上級生の監督生『パーシー』ことパーシヴァル・キャリントン。
「それは去年の話! 俺ら今年は『誰が受賞するかの賭け』抜きで、おまえを応援してたんだぞ!」
「ったく、相変わらず『早とちり』だな!」
まるでベテラン騎士のような、落ち着いた見た目を裏切って。
ついぱぱっと、早合点する癖がある監督生。
得意技の『早とちり』をかましたパーシーに、同級生たちはここぞとばかり、呆れた声を上げる。
「そっか、賭け抜きで……そいつは嬉しい。ありがとな!」
照れたように、銀色の前髪をかきあげて、藍色の目を細め。
早とちり監督生が見せた、にっかり人好きのする笑顔。
「うっ……」
「パーシーお前」
「ほんっと、ずりぃぞ——その顔」
一気に毒気を抜かれた、男子たちの呟きに、
「『ずるい』? 何がだ?」
不思議そうに首を傾げた監督生が、ふと5年生達の方に、凪いだ海のような瞳を向けた。
「パーシー……」
うっかり笑顔に見とれてたら、目と目がかっちり合ってしまった。
椅子から立ち上がりかけた姿勢のまま、まるで石化魔法をかけられたように、かちんっと固まるメイベル。
「出たっ——『笑顔で周りを殺す男』! 相変わらず、人タラシレベルがえっぐいわ、ベルの『元カレ』!」
からかい口調でにんまりと、隣からステラがささやく。
「元カレじゃないってば!」
「そっか、『元カレ未満』だっけ?」
「未満って……もぉ、その話はいいからっ! じゃあ、行ってくるね」
早口で親友の言葉をさえぎって、パーシーの視線を振り切るように、メイベルは足早に壇上に向かった。
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