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崩壊の始まり


半隠居状態だった当主と、代理をこれまでこなしてきた次期当主の対立。


それに城内は慌ただしくなる。


現当主に付くべきか、次期当主に付けばいいか。家臣同士、それぞれの家の内部でも対立は起きていた。


父、武田義統はすぐに家臣、一族集を評定に招集した。

集まったのは数十人ほど。


俺も嫡男だからか参加をさせられた。


「それで、状況はどうなっておる」

「はっ、治部少輔様に付かれましたのは、一族衆では武田三郎様、武田宮内少輔(みやうちしょうふ)(俺の大叔父で祖父の弟、信高)様。逸見家、三方郡の山県、畑田、粟屋。

熊谷伝左衛門(くまがやでんざえもん)殿はまだ動かれていないかと」

「親父は叔父上のところか?」

「はっ、新保山城に寄られたそうですが、その後白屋北山城に入られたとのこと」

「熊谷の監視か」


その後それぞれの反応が詳細に話される。


まず三方郡(若狭北部)では、有力家臣の粟屋勝長を筆頭に入江氏、久村氏、三方城熊谷氏、山県氏。

ここ後瀬山城を含めた遠方郡は、新保山城武田信高を筆頭に、山県氏、香川氏、畑田氏、内藤佐渡氏、白井氏。

大飯郡は、逸見氏と大草氏が反乱を起こしている。


そこに祖父信豊が白屋北山城、叔父元康が天原日城に手勢を連れて入ったとのことだ。


父義統には、遠方郡の守護代内藤筑前氏を筆頭に、大塩氏、寺井氏、木村城粟屋氏、松宮氏、沼田氏。

大飯郡は、武藤氏、白石山城粟屋氏が味方となっている。


中立の立場に、本郷氏、熊谷直之(伝左衛門)がいる。


同じ名字でも城ごとでどちらに付くか分かれており、とにかくややこしい。


大事なのは国を二分する大きな内乱であること。


兵数の詳細は分からないが、恐らく父が不利。特に、逸見氏の逸見昌経と粟屋氏の粟屋勝長が敵方にいるのが一番の痛手だ。


どちらも国境沿いで勢力を張る家のため、万が一に隣国に援軍を求めたら付け入られる理由を作ってしまう。


父陣営の幸いなことは、遠方郡の後瀬山城周辺の有力家臣を味方に付けたこと。

囲まれる状況になっているとは言え、味方が周りにいるのは心強い。


後はどれだけ裏切らせるかが重要だ。



「た、大変でございます!」


状況の把握をしていた広間に、一人の武士が入ってくる。


「何事だ?!」

「はっ、湯岡城城主、井上下総守殿が籠城の支度をしているとのこと!」

「何、湯岡城の井上が!」


広場が騒然とする。


おいおい、これはまずいぞ。


湯岡城はこの後瀬山城から東に一キロしか無い場所にある城。後瀬山城の東を守る城で、同じ尾根続きの山にある。


敵の拠点がど真ん中に出来たということだ。


これはまず―――ん?何だか眠く、



「ふぁ〜〜〜」



思わず大きなあくびが出てしまう。何とか抑え込もうとしたが失敗し、緊迫した雰囲気のこの部屋の全員が俺に目を向ける。


「孫犬丸、この場を何だと思っている!」


静かにどすの聞いた声で父が睨みつけてくる。俺は言い訳など出来ないと思い、黙り込むしか無かった。


「この場に子供はいらん。重政、連れていけ」

「はっ、はい!」


俺はそのまま立ち上がり、重政に抱えてもらって退出した。


退室間際、父の近くを通った時深いため息の声が聞こえた。



「少しは期待していたが失敗か。やはり当主は・・・」



最後まで言葉は聞こえなかった。だが、何を言おうとしていたかは察しが付く。


俺にどんな期待をしようが勝手だ。この家に未練も、当主になる器もない。内乱が起ころうが知ったこっちゃない。関係のないことだ。


何ならこの混乱に乗じて京に行くのもありだな。

俺には白虎さえいれば十分だ。



その後、重政の説教を聞きながら自室へと戻った。



重政はそのあと、評定に戻っていた。


一人残された俺は部屋でぼーっとしていた。





その日の夜頃。


自室で読書をしていた俺の所に評定を終えた重政が帰ってくる。その表情は険しく、なかなか話を切り出さない。


「おい、重政。評定はどうなった」

「・・・方針は決まりました」


ゆっくり話し始める。その態度から察するに、納得のできないことがあったのだろう。


「方針としては、朝倉軍を頼るそうです」

「・・・はっ!?!?!おい、それ本当なのか」

「ええ、そうです」


おいおいおいおい、まじかよ。自滅に向かうだけじゃないか。


「朝倉氏に援軍を要請して、三方郡を牽制してもらう。そのうちに湯岡城の攻略と西の逸見氏を対処する。そしてそれが終わったら朝倉軍と共に挟撃するそうで、6月頃に出陣をするとのこと」


重政の態度に納得は行く。他国の軍をあてにするなど、自国の家臣に取ったら屈辱的なことでしかない。自分たちでは何もできないと周囲に言っているようなものだ。


「全員納得したのか?」

「いえ、父上や武藤上野介様、他数人の方々が反対されました。が、」

「が?」

「この意見を提案したのが、龍水丸様でして」


なるほど、反対したくても後ろに六角家がいる龍水丸を刺激したくない家臣が多かったのか。父も元々朝倉に援軍を頼むつもりだったから龍水丸の提案は渡りに船だった。


「朝倉への交渉は?」

「3月より使者を送るそうです。条件の提示としては、おそらく官位の口利きや最悪領地割譲になるかもです」


そこまで考えているのか?いや、おそらくそれほど切羽詰まっているのだろう。早く鎮めて当主につきたい、求心力を落としたくない、そう考えたからこその行動だろう。


「分かった、重政。伝えてくれてありがとう」

「いえ、それで、孫犬丸様」

「何だ?」

「どのように動かれるおつもりですか?」

「動く?」

「はい」


こいつは何を言っているんだ?五歳児に変な期待をしないでくれ。


「特に何もしない」

「そう・・ですか」


寂しそうな表情を浮かべる。


この件は俺が動く理由が無い。動くメリットがない。



重政が部屋を去っていくと、俺は白虎に話しかける。


「あいつ、何を五歳児に期待しているんだろうな。体力も、名声も、指揮も何も期待できないというのに」

『・・・・・』


俺にとったら来たくもない世界だった。誰かと代わりたいぐらいだ。もう、前前世の両親の顔が思い出せない。引き止めてくれた前世のみんなに申し訳なく思ってしまう。


「ほんと、どうでもいいんだよ」


俺は読みかけの検地帳に目を落とす。


「白虎もそう思うだろ?」


返事が帰ってこない。俺は不思議の思い短刀へと体を向ける。


「おい、返事をしろよ」


しばらくして、返ってくる。




『本当に主はそれでいいのですか?』






城郭放浪記『若狭国の城郭分布図』

https://www.hb.pei.jp/shiro/wakasa/map/


なるたけ分かりやすく書きましたが、もし分かりにくければ、参考にした上記のサイトを見てみてください。

見比べながら読むと、より分かりやすいと思います!



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